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1・顕現できない!? 上
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「ミアー? ミア、どこにいるの?」
木立の向こうから、私を探す声がする。知らんぷりしてそのまま座っていると、茂みをガサガサとかき分ける音がして、隙間からひょこっとオレンジ色の頭が覗いた。彼女の名前はエリン。
「いた! もう、やっぱりここだったー。ルカ様が呼んでるよ」
「ええ? 何で?」
私は慌てて立ち上がった。
「あたしが知るわけないじゃん、ほら、早く行った方がいいよ!」
エリンは私を押すようにして、自分もついて歩きだした。
ルカ様というのは、ここクルム村の魔導師様で、魔法の先生をしている方。もちろん私やエリンもルカ様に教えていただいている。今はこんな田舎のクルム村にいるけど、以前は国王様の側近をされていたこともある、けっこうすごいお方なのだ。
「そう言えば、リタの魔力が顕現したって」
「ええ? リタまで? ああー、もうどうしよう…」
この世界では、ほとんどが魔力をもって生まれてくる。でも子供のうちはその魔力をつかうことはできない。
だいたい15歳くらいになると、その子の魔力や属性などが成長してくる。そして、自分の魔力をチャージする方法を見いだせたとき、初めて魔力が使えるようになる。これを『魔力が顕現する』という。
みな魔力の大きさも使える魔法もバラバラで、顕現するまで分からないんだけど、さらに一番分からないのが魔力のチャージ方法。これがほんとに千差万別、眠れば魔力満タンな羨ましい奴もいれば、オーソドックスに回復呪文、太陽の光を浴びるものや、特定の食べ物を摂ればいいとかもある。
困るのは、それを実際にやってみて初めて『これだ!』って分かるということ。逆にいうと、やらないうちは絶対に分からないのだ。
「リタの魔力は何だったの?」
私はエリンに聞いたけど、どうしても沈んだ声になってしまうのは隠せない。
「炎らしいよ。チャージは『歌う』だってさ」
「あー、リタらしいね。『歌う』かぁ……」
私は思わずため息をついてしまった。
「なんで私は分からないんだろ……」
そうなのだ。皆15か16のうちにだいたいチャージ法を見つけて魔力を顕現させる。さっきのリタなんて14歳だ。この国では魔力を顕現させたら成人として扱われるから、なかなか顕現できない者はいつまでも子供で、まともな仕事につくことも、さらには結婚もできないのだ。
この私のように。
私は来月で19歳になってしまう。魔力の成長自体はすごく早かったし、ルカ様の見立てによれば複数の属性の気配を持っているそうなのに。何故か、どうしてもチャージ法を見つけられないのだ。
この4年、もちろん私だって努力はした。朝日や夕日、水やお湯、雨に雪だって浴びてみた。食べ物の好き嫌いもなくしたし、森の木の実だって口にしてみた。リタじゃないけど歌ったし、踊ってもみた。ルカ様に調べていただいて、知りうる限りの、過去に存在したチャージ法を試してもみた。
それでもダメだった。
子供たちは魔力が育ち始めるとルカ様のもとへ来て生活し、魔力を伸ばし、顕現を待つ。魔力が顕現した後もしばらくはルカ様について、自分の魔法を使いこなすことを学ぶ。そしてそれぞれ道を定めて巣だってゆく。
だから、後から来る子達が次々に魔力を顕現させて巣立っていくなか、顕現できない私は子供のまま、ルカ様のお手伝いをして暮らしているのだ。
「ミア、落ち込んじゃダメ! あたしだってついこの間まで分からなかったけど、やっと顕現できたもん。ミアもきっと見つけられるよ!」
エリンは属性は風、チャージは……、確かに特殊だった。
「もーほんとにさ、どうして裸で月光浴びなきゃいけないのかなぁ!? 町に暮らしたら一生チャージなんか出来ないよぉ?」
そう、おかげでエリンも18歳になるまで顕現できなかったのだ。ちなみにどうして分かったか? お風呂に大きな蛇がいて、裸で逃げ出した結果です……。
「ルカ様、ミアです」
するとルカ様が封の術を解いて入れて下さった。
ルカ様の部屋は、魔法の結界に守られていてとても静かだ。
「ミア、座りなさい」
私はルカ様の前の椅子に掛けた。
ルカ様は私の父より少し歳上の筈だけど、見た目はそれより若く見える。魔力が高いと寿命がのびて、その分若くいられるのだと聞いた。長い銀色の髪を首の後ろで結んだいつものスタイルで、何か書き物をしていたけれど、羽ペンを置いて私に向き直った。
「リタのことは聞いたか?」
「はい、聞きました」
私はうつむいて答えた。
「やはり気になるか?」
「それは……もちろん、気になります」
「おまえは私の教えた中でも指折りの魔力を秘めている。それは私が保証する。それでも気になるか?」
ルカ様は静かな声で、諭すように言って下さる。
「ルカ様、私は来月で19歳になるんです。このまま顕現できなかったらと思うと……」
するとルカ様は静かな瞳で私を見つめた。
「そうか……。では、私の話をよく聞きなさい」
ルカ様は静かに話し始めた。
「おまえが今まで、ありとあらゆるチャージ法を試みてきていることは知っている。だから私も、古い文献をもう一度読み返してみた。するとひとつだけ、可能性をみつけたのだが……」
「可能性?」
ほんのわずかな希望を感じて私が顔を上げると、ルカ様は複雑そうな顔をしていた。
「若い娘のおまえには辛い話になるだろうが……」
ルカ様は私から視線を外し、窓の外を見ながら聞いた。
「ミア、好きな男はいるのか?」
好きな……? 男?
ルカ様に言われたことがすぐには分からず、次の瞬間赤くなった私に、
「言いにくいだろうが、真面目な話なんだ」
ルカ様は少し気の毒そうに、でも妥協のない顔で私を見据えた。
「頼むから、聞くことに答えてくれ」
「はい……」
ルカ様にそうまで言われては、頷くよりほかはない。
「好きな男は、今はいません」
「そうか……。ではミア、口づけをしたことはあるか?」
「ええ? そんな」
でもルカ様はひたと私を見据え、返答を待つ。仕方ないので、下を向いて答える。たぶん真っ赤になっていると思う。
「……あります……」
「それは、大人の口づけ……と言って分かるな、それか?」
「うぅ……、は、はい」
「そのときは何も起きなかったのか?」
「……はい」
「ふむ。それならば、ミア。……男に抱かれたことはあるのか?」
「……ルカ様」
「なんだ?」
「お願いですから、ご質問の意図を先に教えてください……」
穏やかで真面目で、威厳に満ちたルカ様。なのにこの会話は……たとえ必要と言われても、恥ずかしすぎる。
ルカ様はひとつ頷いて、話しはじめた。
木立の向こうから、私を探す声がする。知らんぷりしてそのまま座っていると、茂みをガサガサとかき分ける音がして、隙間からひょこっとオレンジ色の頭が覗いた。彼女の名前はエリン。
「いた! もう、やっぱりここだったー。ルカ様が呼んでるよ」
「ええ? 何で?」
私は慌てて立ち上がった。
「あたしが知るわけないじゃん、ほら、早く行った方がいいよ!」
エリンは私を押すようにして、自分もついて歩きだした。
ルカ様というのは、ここクルム村の魔導師様で、魔法の先生をしている方。もちろん私やエリンもルカ様に教えていただいている。今はこんな田舎のクルム村にいるけど、以前は国王様の側近をされていたこともある、けっこうすごいお方なのだ。
「そう言えば、リタの魔力が顕現したって」
「ええ? リタまで? ああー、もうどうしよう…」
この世界では、ほとんどが魔力をもって生まれてくる。でも子供のうちはその魔力をつかうことはできない。
だいたい15歳くらいになると、その子の魔力や属性などが成長してくる。そして、自分の魔力をチャージする方法を見いだせたとき、初めて魔力が使えるようになる。これを『魔力が顕現する』という。
みな魔力の大きさも使える魔法もバラバラで、顕現するまで分からないんだけど、さらに一番分からないのが魔力のチャージ方法。これがほんとに千差万別、眠れば魔力満タンな羨ましい奴もいれば、オーソドックスに回復呪文、太陽の光を浴びるものや、特定の食べ物を摂ればいいとかもある。
困るのは、それを実際にやってみて初めて『これだ!』って分かるということ。逆にいうと、やらないうちは絶対に分からないのだ。
「リタの魔力は何だったの?」
私はエリンに聞いたけど、どうしても沈んだ声になってしまうのは隠せない。
「炎らしいよ。チャージは『歌う』だってさ」
「あー、リタらしいね。『歌う』かぁ……」
私は思わずため息をついてしまった。
「なんで私は分からないんだろ……」
そうなのだ。皆15か16のうちにだいたいチャージ法を見つけて魔力を顕現させる。さっきのリタなんて14歳だ。この国では魔力を顕現させたら成人として扱われるから、なかなか顕現できない者はいつまでも子供で、まともな仕事につくことも、さらには結婚もできないのだ。
この私のように。
私は来月で19歳になってしまう。魔力の成長自体はすごく早かったし、ルカ様の見立てによれば複数の属性の気配を持っているそうなのに。何故か、どうしてもチャージ法を見つけられないのだ。
この4年、もちろん私だって努力はした。朝日や夕日、水やお湯、雨に雪だって浴びてみた。食べ物の好き嫌いもなくしたし、森の木の実だって口にしてみた。リタじゃないけど歌ったし、踊ってもみた。ルカ様に調べていただいて、知りうる限りの、過去に存在したチャージ法を試してもみた。
それでもダメだった。
子供たちは魔力が育ち始めるとルカ様のもとへ来て生活し、魔力を伸ばし、顕現を待つ。魔力が顕現した後もしばらくはルカ様について、自分の魔法を使いこなすことを学ぶ。そしてそれぞれ道を定めて巣だってゆく。
だから、後から来る子達が次々に魔力を顕現させて巣立っていくなか、顕現できない私は子供のまま、ルカ様のお手伝いをして暮らしているのだ。
「ミア、落ち込んじゃダメ! あたしだってついこの間まで分からなかったけど、やっと顕現できたもん。ミアもきっと見つけられるよ!」
エリンは属性は風、チャージは……、確かに特殊だった。
「もーほんとにさ、どうして裸で月光浴びなきゃいけないのかなぁ!? 町に暮らしたら一生チャージなんか出来ないよぉ?」
そう、おかげでエリンも18歳になるまで顕現できなかったのだ。ちなみにどうして分かったか? お風呂に大きな蛇がいて、裸で逃げ出した結果です……。
「ルカ様、ミアです」
するとルカ様が封の術を解いて入れて下さった。
ルカ様の部屋は、魔法の結界に守られていてとても静かだ。
「ミア、座りなさい」
私はルカ様の前の椅子に掛けた。
ルカ様は私の父より少し歳上の筈だけど、見た目はそれより若く見える。魔力が高いと寿命がのびて、その分若くいられるのだと聞いた。長い銀色の髪を首の後ろで結んだいつものスタイルで、何か書き物をしていたけれど、羽ペンを置いて私に向き直った。
「リタのことは聞いたか?」
「はい、聞きました」
私はうつむいて答えた。
「やはり気になるか?」
「それは……もちろん、気になります」
「おまえは私の教えた中でも指折りの魔力を秘めている。それは私が保証する。それでも気になるか?」
ルカ様は静かな声で、諭すように言って下さる。
「ルカ様、私は来月で19歳になるんです。このまま顕現できなかったらと思うと……」
するとルカ様は静かな瞳で私を見つめた。
「そうか……。では、私の話をよく聞きなさい」
ルカ様は静かに話し始めた。
「おまえが今まで、ありとあらゆるチャージ法を試みてきていることは知っている。だから私も、古い文献をもう一度読み返してみた。するとひとつだけ、可能性をみつけたのだが……」
「可能性?」
ほんのわずかな希望を感じて私が顔を上げると、ルカ様は複雑そうな顔をしていた。
「若い娘のおまえには辛い話になるだろうが……」
ルカ様は私から視線を外し、窓の外を見ながら聞いた。
「ミア、好きな男はいるのか?」
好きな……? 男?
ルカ様に言われたことがすぐには分からず、次の瞬間赤くなった私に、
「言いにくいだろうが、真面目な話なんだ」
ルカ様は少し気の毒そうに、でも妥協のない顔で私を見据えた。
「頼むから、聞くことに答えてくれ」
「はい……」
ルカ様にそうまで言われては、頷くよりほかはない。
「好きな男は、今はいません」
「そうか……。ではミア、口づけをしたことはあるか?」
「ええ? そんな」
でもルカ様はひたと私を見据え、返答を待つ。仕方ないので、下を向いて答える。たぶん真っ赤になっていると思う。
「……あります……」
「それは、大人の口づけ……と言って分かるな、それか?」
「うぅ……、は、はい」
「そのときは何も起きなかったのか?」
「……はい」
「ふむ。それならば、ミア。……男に抱かれたことはあるのか?」
「……ルカ様」
「なんだ?」
「お願いですから、ご質問の意図を先に教えてください……」
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