魔導師ミアの憂鬱

砂月美乃

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43・ゴーレムキャット 上

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「行ってらっしゃい、皆様! 気を付けるんですよ」

 朝一番にお弁当を用意して駆けつけてくれたアンナさんに見送られ、私達は出発した。ちなみに今朝は、カイン様の馬に乗っている。
 今日もお休みでいい、と連絡したのだけど、アンナさんはこのまま夕食を用意してから帰ると言ってくれたので、グリフ様はご機嫌だ。

 今日の目的地は、王都モルシェーンから半日もかからない。ただし近くに町がないので、アンナさんのお弁当は嬉しかった。



「ミア、今まで実際に魔物を倒したのは?」
「ルカ様との訓練で、クルム村の近くの森などにいるものを少し……。でもあのあたりは元々、それほど危険な魔物はいないところですし……」
「討伐対象になるようなのは、ギガントベアが初めてか?」
「はい、カイン様」
カイン様は少し考える。

「なら、今日はミアがやってみないか? もちろん必要なところは手を貸すし、注意するところや弱点は教えるから」
 それを聞いてウェイン様も頷く。
「ああ、そりゃいい。実践の経験は多ければ多いほうがいいからな。嬢ちゃん、やってみな」
「はい、お願いします!」


 満足そうに頷いたウェイン様が、もう1つ言い出した。
「それならいい機会だ、嬢ちゃん。これからはこいつら3人と俺の『様』は外せ」
「え?」
「嬢ちゃんは気が引けるかもしれねえが、戦う最中に『様』ひとつつけるかどうかで、指示も伝達も速さが変わってくる。すぐには無理でも、そうしたほうがいい」

 見上げるとカイン様も頷いている。エリス様もグリフ様も、にこにこ笑って頷いてくれた。
「……はい、分かりました」
「それによ、どうせお前らはそのほうが嬉しいんだろうしな」
「ふ、否定はできないね」
苦笑する3人に、言葉が見つかりません……。





「ここが、そうなんですか?」
目の前にそびえる、荒涼とした岩山。下半分ほどは藪や灌木に覆われているが、上のほうは完全に岩が露出している。
「そう、ブラゴ山だ。かなり大きな岩が多いから、魔物の隠れる隙間も沢山ある。注意して進まねえと、鉢合わせになるぜ?」
「はい」

「うん、じゃああとは任せて、僕達は4ヶ月前の異常発生の痕跡を調べよう。……頼むね、隊長殿」
そう言って私の肩を叩くエリス様。
「エリス様、誰が隊長なんですか……?」
「もちろん君だよ、ミア。君が指示を出さないと手を貸せないからね? あと、エリス様、じゃないでしょ」
「あ……」
「早いとこ慣れろよ」
グリフ様、じゃなくてグリフも笑う。

「よし、行こう」
カイン様、じゃなくて……。ああ、なかなか慣れそうにない。カインの一言で、私達はブラゴ山に入りこんだ。


「ここには、異常発生したゴーレムキャットの他にもけっこう出るぞ。大きさはあれが一番だが、マッドホーンと爬虫類系が何種類か」
「う、爬虫類系……」
「やっぱり苦手か?」
「頑張ります……」

 それでも気を取り直して、風で気配を探る。
「……何か来ます、蹄の音……?」
「マッドホーンだね。奴の角と蹄はものすごく鋭い。ジャンプしてくるから気をつけて」
「はい!」

 私が答えるとほぼ同時に、離れた小高い岩の上に巨大な山羊が現れた。頭にあるのは普通の山羊の3倍はありそうな、真っ黒で長い角。もちろんこれがマッドホーンに違いない。
 マッドホーンは私達をみとめると威嚇の声をあげ、蹄を蹴って飛び込んで来ようとした。

 体を伸ばして飛び上がった瞬間を見すまして、風の刃を放つ。喉を裂かれたマッドホーンは、岩の下に落ちて動かなくなった。
「よし、上手いぞミア!」
グリフ様が声をかけてくれるが、私の耳はもう次の足音を捉えていた。

「2頭来ます、グリフ様の後ろ!」
「違う、『グリフ』!」
「もう、そんなの今言わないで下さい!」
言いながら、先に現れた1頭に刃を放つ。2頭目に気をとられ、わずかに狙いが逸れて浅手になってしまった。私は2頭目に狙いをつけながら願う。
「グリフ、とどめを!」
「よっしゃ!」
グリフがマッドホーンの首を落とすのと、私の魔法で2頭目が落ちるのがほぼ同時だった。

「えらいぞミア! よく言えた!」
……そこですか?
「ミア、僕も言って! エリス、って!」
……今ですか?
 ウェイン様がため息をついた。でもそこには触れず、私に言った。
「うん、止めを頼んだのはいい判断だった。なあカイン?」
「ああ、その通りだ」


 その時、後ろから音が聞こえた。四つ足ではあり得ない、地面を這いずってくるあの音が……。
「蛇……!」
顔をひきつらせて振り返る私を見て、皆が一瞬黙る。
 繁みの中から出てきたのは、毒々しい紫の大きな蛇。
「ポイズンスネークだ、毒を吐くから気をつけろ」
カイン様の声が、耳を素通りしていく。

 魔物ではない、普通の蛇すら苦手な私にとって、大蛇とは言えないまでもかなり太いこれは……怖い。けれど、ここで逃げ出すようなことをしたら、私はこの4人と一緒にいる資格はない。
 シャーッ、と音を出しながら、ポイズンスネークが鎌首をもたげた。睨み合いながら、私は両手をかざす。

 カッ、と口を開けて毒を吐こうとした瞬間、私の手からいくつもの風の刃が同時に放たれる。ゴオッ……と風の音が消えると、そこにはポイズンスネークの……輪切りが積み重なっていた。

「…………」
全員、黙ったままそれを見つめる。
「……ぶふっ」
勇者様らしからぬ音をもらし、カイン様が肩を震わせた。そして4人そろって大爆笑になる。

「あははは、ミア、そんなに……はは」
「蛇、嫌いなのは……くっ、分かってたけど……プッ」
「まさか、わ、輪切り……!」
「いやいや、よく頑張った、嬢ちゃん! ハハハ……」
そして肩を叩かれ、腕をつかまれ、頭を撫でられ……。
「だ、だって……夢中で……」
もう本当に、穴があったら入りたいです……。

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