104 / 104
最終話・騎士たちと大魔導師
しおりを挟む良かった、喜んでもらえた。そう思って笑顔で仲間たちを振り返った私が見たものは―――私の足元に跪く、カインとエリスとグリフ。
その作法の意味するところを見間違う者などいない。
「え……!?」
慌てて見回すも、陛下はおろかウェインまでもが見えなくなっていた。思いがけない事態に、足元から地鳴りのような歓声と騒めきが立ち昇ってくるけれど、私はどうしていいか分からない。
「ミア、俺達と結婚してくれ」
カインの言葉に、私は頭が真っ白になった。だって、この国では結婚は……。
「心配しなくていい、陛下の許可もいただいた」
「きょ、許可……?」
「その通りだ」
そう言ってまたバルコニーへ出て来た陛下は、なんとルカ様と一緒だった。
ルカ様は前へ進み出ると、魔法で声を風に乗せ、町の人たちに届くようにして話し出した。
「私はこれなる大魔導師ミアの師、ルカ。少し話を聞いてほしい」
称号こそ受けていないが、伝説の魔導師として有名なルカ様の声に、人々はまた静まり返った。
「我が弟子ミアは稀なる4属性と、私を超える高い魔力を得て魔導師になった。だが知るものもいるだろうが、彼女の魔力顕現は遅かった。―――理由は」
そこでルカ様は一度言葉を切って私を見た。その時私は、ルカ様が何を言おうとしているのか分かった気がした。さすがに身体が強張ったけれど、ただ黙ってルカ様を見つめる。
「理由は、彼女のチャージ法にあった。それは『愛される』というものだったから」
周囲のどよめきが広がる。陛下の後ろからウェインの
「なるほど、考えたな」
という小さなつぶやきが聞こえたけれど、私は理解が追い付かず、呆然と立っていた。
「詳しいことは言わない。だが、ようやく顕現を果たし、王都へ来て、ミアは彼らと出会った。彼女の膨大な魔力を維持するには、常に傍らにいて愛を注ぐものが必要なのだ」
そこで陛下が言葉を発した。ルカ様は一歩下がりつつ陛下の言葉を風にのせる。
「ここで皆に告げる。ルカおよびカインらと話し合った結果、今回のこと、国王セレスの名において、すべての法に優先して差し許す。すべて大魔導師ミアと、勇者カイン、そして騎士エリス、グリフ、ウェインのこれまでの殊勲によるものであり、さらなる功績を期待してのことである」
陛下が話し終えると、ルカ様はバルコニーの後ろ、ウェインの隣まで下がった。もう町の人には聞こえない声で、陛下が囁く。
「さあ、ここまでしてやったのだ、魔導師ミア。もう諦めよ」
「諦めるとは何ですか、陛下」
未だ動けない私を置いて、エリスが呆れた声を出した。そして私に向きなおる。
「大丈夫、ミア。何も変わらないよ。ただ、僕らが堂々と君を抱いて歩きたいだけだから」
「おい、陛下の前でそこまで……」
グリフが気恥ずかしそうに止めたけれど、そのグリフも結局、
「こうすれば役を退く歳になっても、ずっと一緒にいられるからな」
と言って微笑んでいる。
「ミア、頼む。もうあの時のように、失うことを恐れたくないんだ。……俺達の手を取ってくれ」
そして3人の手が伸ばされ、ひとつに重ね合わされた。
―――いいの? 本当に、この手を取ってもいいの?
最後のためらいを振り切ることが出来ず、思い余った私はルカ様を振り返る。
ルカ様は何も言わず、ひとつ頷いただけだ。するとなぜか、この前エリンと話した言葉が思い出された。
―――私が「魔導師ミア」でいられるのは……この人たちがいるから。
身体の前で組んでいた手にぎゅっと力を込め、私は顔を上げた。そして両手を伸ばし、重ねられた3人の手の上にそっと重ねる。
その瞬間に沸き起こった嵐のような歓呼の声に、3人が口々に言った言葉はかき消されてしまった。それでも飛び上がるように立ち上がった3人に引き寄せられ、かわるがわる抱きしめられる。
そして私を横抱きにしたグリフが、町の人に向かって進み出た。歓声に口笛や拍手も混じって響くなかで、カインとエリスが拳を突き上げると、声がひときわ大きくなった。
◆◇◆
かつてない歓声に包まれたバルコニーで、国王セレスは内心ほっと安堵の息をついていた。
ルカをこの場に立たせる為に、自分がどれだけ骨を折ったか。いつかあの騎士達にも知ってもらいたいものだ。それにしても良かった、何とか納まるところに落ち着きそうだ……。
そんな国王の内心を知ってか知らずか。ルカは抱き合う4人を見ながら、隣のウェインに囁いた。
「ウェイン殿には苦労をかけるな」
「まあ、あいつらに見せつけられるのはもう慣れたよ、ルカ師。それに……」
そこでウェインはにやりと笑った。
「邪魔ものがいるくらいで、ちょうどいいのさ。俺がいなかったら、あの館は纏まらないし。だいいちさすがの嬢ちゃんも抱き潰されちまうだろ」
これにはルカも苦笑するしかなかった。
◆◇◆
「……いつから考えてたの?」
「陛下に言ったのは、称号と褒賞の話が出たときだ。でも本当は、もっと前から考えてた……いい方法が浮かばなかったけど」
バルコニーでの思いがけないプロポーズの一幕で、その後大広間で行われた宴は、騎士達を中心に大変な騒ぎとなった。もちろん好意的な反応ばかりではなく、王宮の官僚や、特に魔導師たちは冷ややかな視線を注いでいたけれど。それでも町へ出ていた騎士たちによると、町の人達の反応はおおむね好意的だったとか。
「やっぱり『さすがエメラルドの乙女』ってのが多いらしいね」
「もともとオレ達の誰とくっつくか、なんて面白がってたくらいだからな」
3人は余裕で笑っているけれど、私はまだ少し恥ずかしい。でもカイン達が今までになく嬉しそうなので、これで良かったんだと思う。
これからの私達の行動で、評価も変わってゆくだろう。
宴には前の勇者モース様やショーン様をはじめ、ウェインの元のお仲間が皆出席し、祝いの言葉をかけてくれた。当然そのまま馴染みの店に繰り出すことになったウェインは、わざわざ「絶対帰らねえから安心しろ」と言い置いて行った……。
もちろんカイン達はそのつもりだ。私はすでに長椅子で、3人に左右と足元を固められている。
「ミア、ありがとう。僕達の妻になると言ってくれて」
「ずっと大切にする」
「あ……ん」
彼らの手が肩を、腰を、膝を抱き、いたるところに口づけが落とされた。
「ね、待って……ここじゃ……」
早くも息が弾んできた私は、流されてしまわないうちにと焦って訴える。
「部屋ならいいのか?」
カインが嬉しそうに笑って、私を抱き上げて立ち上がった。
―――私……。これから毎晩、ちゃんと眠れるのかしら?
一抹の不安が胸をよぎるけれど、口づけひとつでそんなものは吹き飛んでしまう。
「愛してるよ、ミア」
その言葉だけで、どんな魔法よりも、どんな秘薬よりも、私は強くなれるから。
乱れてゆく意識の底で、私も「愛してる」と囁いた。
◆◇◆
この王国には、稀代の大魔導師がいたと伝えられている。
「エメラルドの乙女」の二つ名のもとになった美しい緑の瞳と長い髪をした魔導師は、言い伝えによれば他の追随を許さぬ圧倒的な魔力を誇り、4つの属性を操り、3人の騎士に愛された。
美しい大魔導師と逞しい騎士達の活躍により、王国は一層栄え、どんな魔物や竜にさえも脅かされることはなかったという……。
fin.
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された皇后を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる