転生魔王は逃げ出したい〜元カレが勇者になってやってきた〜

砂月美乃

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10・玉座の対面 上

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「これは……どういうこと」

 私はかつてないほどの怒りに震えていた。自慢の黒髪は舞い上がっては蛇のようにうねり、毛先から小さな火花が散っている。

 アードンは巨大な角を、床に擦りつけるようにして頭を下げる。

「弁解の余地もございません。これほどまでとは……!」

 昨日、魔王城の手前で悠々と野営の準備を整えていた、勇者ケント一行。翌朝出発して魔王城に挑むのだろう、さあお手並み拝見……、と思っていたら。
 未明のうちにおそらく聖女が、いつかのような目くらましをかけたのだろう。気付かぬうちに侵入され、監視役が気付いて慌てて報告して来たころには、一行は第3階層を進んでいるというありさまだった。
ケントたちの実力が並ではないことは分かっていた。だからと言って、ここまで無様に侵入を許すなんて。

私は苛立ちと、誰にも言えない不安を隠すために、いったん部屋へ戻らなくてはならなかった。


 そして夕方になった今、彼らはあろうことか第6階層へ上がる階段の横で、テントを張っているではないか。しかも癪に障るほど悠然として、何やら手の込んだ食事まで作っている。

 私は舌打ちをした。

「なるほど、なかなか喰えない奴らね」

 魔王城の将軍たちも目を剥く速さ、なかなか凄い腕前だ。そして、もう感心している場合ではない。

「1日で5階層進んだってこと? ……いったい何なの、こいつら?」

 私の呟きは、将軍たち全員の心の叫びと同じだっただろう。

「第1階層から第4階層までの配下は、決して全滅しているわけではないそうです。どういうわけか、通過の邪魔になるものだけを器用に狙って倒しているようで……」
「いったい、どういう手を使ったの? まったく憎たらしい」

 今日1日で第5階層までくるということは、この先魔物のレベルが上がったとしても、1日1階層というペースはありえない。下手をすると明後日には、10階層に到達してしまう可能性がある。

「とりあえず、使えるだけの手を割いて迎え撃ちなさい。それと……王宮に入れた配下に連絡を取って。今回の勇者について、もう少し情報を集めさせるのよ」

 どう考えても、何かおかしい。あまりにもレベルが違いすぎる。召喚勇者のケントは仕方がないとしても、他のメンバーだってそうだ。何か根本的な差があるような気がするのだ。

「時間がないわ。とにかく情報を急がせて」

 このまま進んで来られたら、いくら足の速い魔物を使っても、情報の前にケントに会うことになってしまう。将軍たちが負けるとは思わないけれど、手遅れになるのは避けたかった。


 翌日、勇者一行は第8階層をクリアした。昨日と同じく階段を塞ぐようにテントを張り、報告によると、またしてもテントで女を抱いたらしい。おそらくそれが魔導師なり勇者なりの回復手段でもあるのだろう。よくある話だ。
 ちなみにその報告をしたのはギエルム将軍で、終始いやらしく目を細めて、私の反応を窺っていた。謙斗への苛立ちもあったけど、そっちのほうがよほど癇に障って、私はギエルムを睨みつけてしまった。それを見てギエルムが嬉しそうににたりと笑ったのが腹が立って、私は気持ちのやり場に困るくらいだった。
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