* 闇の白虎

jiu

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08.タチの悪い悪戯

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そちらの方へそっと近付く。
表情は読み取れなかったが、瑞稀に気付くと彼女は一瞬眉を顰めた。


「澪梨、まだ帰ってなかったんだ」

「…あんたも、しつこいよね」

澪梨は呆れたように話した。


「いつも一人でいるクラスメイトに優しくしてあげてる。手を差し伸べてあげる。…そんなのただの偽善だよ。自分に酔ってるだけでしょ」

いつになく感情的な澪梨の言葉を、瑞稀は無言で聞いていた。
だがそれさえも、澪梨の苛立ちを増幅させるだけだった。


「あんたは、自分達が目立つって事を自覚したら?
その所為で僕は迷惑してるんだ」

「…俺の所為って? どういう事?」

「…、そんなの知らない」

澪梨の眉間の皺は一層深くなる。何かに苦しんでいるような印象で、最近の澪梨の様子がおかしい事と重なってしまう。


「…じゃあ、帰るから」

「待って」

帰ろうと一歩踏み出した澪梨の腕を、瑞稀が掴んだ。

「澪梨…傘は?」

「…忘れた。分かったら、もう構わないで」


途切れる事のない雨が、二人の沈黙を誤魔化してくれるような気がした。


(今日は朝から雨だったはず…)

「…分かった、もう話しかけない。
だけど、これだけ受け取って」

力なく笑った瑞稀は、自分の傘を差し出す。
じっとその傘を睨みつけるように見た後、ゆっくりとした動作で受け取った。


「俺はもう一本持ってるから。じゃあね」

「お礼は言わないよ」

瑞稀の傘を開いて、静かに離れていく澪梨を、瑞稀はじっと見送った。
そうしながら、何故 自分が澪梨に構うのかを考えた。

多分、澪梨と瑞稀は似ているのだ。

孤独と密接に生きてきたこと、ある事をきっかけに危険に晒されたり、状況がひどく変わりゆくこと。


(俺も澪梨と同じだ。変わっていく日常に混乱して、周りの所為にしたいと思ってる)

ふぅ、と軽いため息を吐いた。
そして、目を瞑る。


『…慎也、今 暇?』

精神感応だ。直接相手の脳に届くから、レスポンスが速くて便利な術である。


『…瑞稀か。暇だけど、どうした?』

『傘なくしたから、昇降口まで迎えに来てください』

夜に向けて、いよいよ雨は強まっていた。
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