86 / 132
09.疑心と信頼
1
しおりを挟む
いつのまにか梅雨は終盤に差し掛かり、夏休みも目前に迫っていた。
あれから澪梨とも良好な関係を築いていて、彰が呼ぶ「みおりん」という愛称も漸く受け入れられて(諦めにも近いが…)きたようだった。
「もう夏休みやなあ」
「彰、夏休み貰えて良かったね」
彰のボヤきに澪梨がクスクス笑いながら水を差す。
「みおりんまで、そんなこと言わんといてよ…」
はは、と乾いた笑いで恥ずかしさを誤魔化す彰。
ギリギリでもなく、平均以上の点数は取っていたのだが、彼の自信のなさからくる自虐発言なのか、予防線を張っている言葉なのか。
恐らくそのどちらかが原因で、人物像が実力より下回って見える事が多い。
そんな彰の内心とは裏腹に、初夏の空は澄み渡って、遠くまで見える。
「…暑いねえ」
少し前に夏服に衣替えした瑞稀は、爽やかな風を肌で感じた。
学園にいると疎かになってしまっていた、WGでの雑務や、読んでいない図書館の文献を読破する事など、やりたい事が山積みなのだ。
忙しい夏になりそうだと、笑いながら息を吐いた。
「…慎也」
廊下で瑞稀は慎也を呼び止めた。
彰と澪梨は気付いていないようで、話しながら教室に向かう足を止めない。
昼休みがもうすぐ終わるという、昼下がりの事だった。
「どうした?」
「週末、予定空いてるか? …行きたい所があるんだけど」
慎也の眉がピクッと動いた。
いつになく真剣な表情の瑞稀を見て、何か察したのだろう。
「ああ、空いてる。付き合うよ」
「ありがとう。…ちょっと遠くまで行くから、そのつもりで」
瑞稀は詳しくは言わないし、慎也もそれ以上は聞かなかった。
その日になればわかる事だ。
あの日、瑞稀はリュストルのヒカリと戦って、何を得たのか。
瑞稀は全てを話すつもりなのかーー。
新しく知る事柄に対する期待もあれば、不安や畏れも少なからずある。
ただ、モヤモヤと渦巻く胸の引っ掛かりのようなものを、早く取り払いたい気持ちの方が大きい。
2人は視線を交わした後、澪梨と彰を追いかけて小走りで教室に向かった。
あれから澪梨とも良好な関係を築いていて、彰が呼ぶ「みおりん」という愛称も漸く受け入れられて(諦めにも近いが…)きたようだった。
「もう夏休みやなあ」
「彰、夏休み貰えて良かったね」
彰のボヤきに澪梨がクスクス笑いながら水を差す。
「みおりんまで、そんなこと言わんといてよ…」
はは、と乾いた笑いで恥ずかしさを誤魔化す彰。
ギリギリでもなく、平均以上の点数は取っていたのだが、彼の自信のなさからくる自虐発言なのか、予防線を張っている言葉なのか。
恐らくそのどちらかが原因で、人物像が実力より下回って見える事が多い。
そんな彰の内心とは裏腹に、初夏の空は澄み渡って、遠くまで見える。
「…暑いねえ」
少し前に夏服に衣替えした瑞稀は、爽やかな風を肌で感じた。
学園にいると疎かになってしまっていた、WGでの雑務や、読んでいない図書館の文献を読破する事など、やりたい事が山積みなのだ。
忙しい夏になりそうだと、笑いながら息を吐いた。
「…慎也」
廊下で瑞稀は慎也を呼び止めた。
彰と澪梨は気付いていないようで、話しながら教室に向かう足を止めない。
昼休みがもうすぐ終わるという、昼下がりの事だった。
「どうした?」
「週末、予定空いてるか? …行きたい所があるんだけど」
慎也の眉がピクッと動いた。
いつになく真剣な表情の瑞稀を見て、何か察したのだろう。
「ああ、空いてる。付き合うよ」
「ありがとう。…ちょっと遠くまで行くから、そのつもりで」
瑞稀は詳しくは言わないし、慎也もそれ以上は聞かなかった。
その日になればわかる事だ。
あの日、瑞稀はリュストルのヒカリと戦って、何を得たのか。
瑞稀は全てを話すつもりなのかーー。
新しく知る事柄に対する期待もあれば、不安や畏れも少なからずある。
ただ、モヤモヤと渦巻く胸の引っ掛かりのようなものを、早く取り払いたい気持ちの方が大きい。
2人は視線を交わした後、澪梨と彰を追いかけて小走りで教室に向かった。
0
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
経済的令嬢活動~金遣いの荒い女だという理由で婚約破棄して金も出してくれって、そんなの知りませんよ~
キョウキョウ
恋愛
ロアリルダ王国の民から徴収した税金を無駄遣いしていると指摘されたミントン伯爵家の令嬢クリスティーナ。浪費する癖を持つお前は、王妃にふさわしくないという理由でアーヴァイン王子に婚約を破棄される。
婚約破棄を告げられたクリスティーナは、損得を勘定して婚約破棄を素直に受け入れた。王妃にならない方が、今後は立ち回りやすいと考えて。
アーヴァイン王子は、新たな婚約相手であるエステル嬢と一緒に王国の改革を始める。無駄遣いを無くして、可能な限り税金を引き下げることを新たな目標にする。王国民の負担を無くす、という方針を発表した。
今までとは真逆の方策を立てて、進んでいこうとするロアリルダ王国。彼の立てた新たな方針は、無事に成功するのだろうか。
一方、婚約破棄されたクリスティーナは商人の国と呼ばれているネバントラ共和国に移り住む計画を立て始める。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
【完結】 嘘と後悔、そして愛
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
伯爵令嬢ソニアは15歳。親に勝手に決められて、一度も会ったことのない10歳離れた侯爵リカルドに嫁ぐために辺境の地に一人でやってきた。新婚初夜、ソニアは夫に「夜のお務めが怖いのです」と言って涙をこぼす。その言葉を信じたリカルドは妻の気持ちを尊重し、寝室を別にすることを提案する。しかしソニアのその言葉には「嘘」が隠れていた……
『まて』をやめました【完結】
かみい
恋愛
私、クラウディアという名前らしい。
朧気にある記憶は、ニホンジンという意識だけ。でも名前もな~んにも憶えていない。でもここはニホンじゃないよね。記憶がない私に周りは優しく、なくなった記憶なら新しく作ればいい。なんてポジティブな家族。そ~ねそ~よねと過ごしているうちに見たクラウディアが以前に付けていた日記。
時代錯誤な傲慢な婚約者に我慢ばかりを強いられていた生活。え~っ、そんな最低男のどこがよかったの?顔?顔なの?
超絶美形婚約者からの『まて』はもう嫌!
恋心も忘れてしまった私は、新しい人生を歩みます。
貴方以上の美人と出会って、私の今、充実、幸せです。
だから、もう縋って来ないでね。
本編、番外編含め完結しました。ありがとうございます
※小説になろうさんにも、別名で載せています
事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~
水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」
第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。
彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。
だが、彼女は知っていた。
その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。
追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。
「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」
「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」
戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。
効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。
【完結】金の国 銀の国 蛙の国―ガマ王太子に嫁がされた三女は蓮の花に囲まれ愛する旦那様と幸せに暮らす。
remo
恋愛
かつて文明大国の異名をとったボッチャリ国は、今やすっかり衰退し、廃棄物の処理に困る極貧小国になり果てていた。
窮地に陥った王は3人の娘を嫁がせる代わりに援助してくれる国を募る。
それはそれは美しいと評判の皇女たちに各国王子たちから求婚が殺到し、
気高く美しい長女アマリリスは金の国へ、可憐でたおやかな次女アネモネは銀の国へ嫁ぐことになった。
しかし、働き者でたくましいが器量の悪い三女アヤメは貰い手がなく、唯一引き取りを承諾したのは、巨大なガマガエルの妖怪が統べるという辺境にある蛙国。
ばあや一人を付き人に、沼地ばかりのじめじめした蛙国を訪れたアヤメは、
おどろおどろしいガマ獣人たちと暮らすことになるが、肝心のガマ王太子は決してアヤメに真の姿を見せようとはしないのだった。
【完結】ありがとうございました。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる