カエル王子と闇落ち聖女

涼暮 月

文字の大きさ
3 / 13

3.聖女は知らされる

「ねえ、今日のお昼はエドワードは来ないのかなあ?」
 
 私は部屋でひとり、昼食を取っていた。プレートに載せられた野菜とお肉のようなもの。それにパンとスープ。
 ここの食事、実はあまりおいしくない。見た目は元の世界と同じようなものなのに、口に入れると思ったような味がしないの。ポテトだと思って口にすると甘い味がしたり、お肉だと思って食べると何も味がしない。食べるたびに予想を裏切られるのって地味につらいことなんだと気づかされたわ。
 せめて誰かとお喋りしながらだったら。味なんてわからないくらい楽しく過ごせたら。
 だから今日はエドワードは来ないのかなって思って侍女に質問した。

 侍女は微笑みを浮かべながら、申し訳なさそうに頭を下げる。
 エドワードがいなくても、この人が私とお喋りしてくれたらいいんだけど、身分の差とかで全然相手してくれないの。
  
「あーあ」
 食欲がなくなり、私はフォークをお皿に戻す。
 あれ、これってマナー違反だったかな?よく分からない。だって食事はだいたいいつも一人だし、エドワードはできる限り昼食を一緒にと言ってくれたけど最近は部屋に来る間隔が空いている。

 それはもしかしたら、私の聖女の能力が一向に現れないことと関係しているかもしれない。

 ここに来てもう3か月以上過ぎているけど、私には何も変化がなかった。

「次に来てくれた時にはちょっとでもいい報告ができるといいんだけどなあ」
 そしたらエドワードは喜んでくれるよね。
 新しい訓練を考えてくれるかもしれない。
 そしたら前みたいにまたずっと一緒にいてくれるかな。
 そのためにはもっと頑張らなきゃ。前回エドワードが教えてくれた精神集中のための訓練、もっとやってみよう。でもあれ中庭じゃないとできないからなあ。
 
 私がこの部屋から出るにはエドワードが一緒でなければならないと言われている。一人じゃ危ないんだって。そうかな。でもじゃあ他の誰かと一緒でもいいんじゃない?例えば、いつもドアの外にいてくれる警護の騎士の人とか。

 思い立ったらすぐに中庭に行きたくなって、私はガチャリと部屋のドアを開けた。
 ドアの左右に立っている護衛騎士はギョッとした顔をしているがかまわず、近い方にいる人に話しかける。

「ねえ、今日はエドワードは来ないのかしら」
 もし来ないのなら、私は中庭に行きたいの。訓練がしたいのよ。あなた、よかったら一緒に行ってくれないかしら。

 そう続けようと思ったのだけれど、それはできなかった。

 護衛騎士は私が初めに言った言葉を聞いて、嫌悪の表情を浮かべて忌々しそうに答えた。
「王太子はお忙しい方だ。貴女には分からないだろうが、無理してここへいらっしゃっているんだ」

 私は思いもよらなかった反応に動揺し狼狽えた。
「あ、あの、だからエドワードが」
 来ないなら、わたし、なかにわにいきたくて、あなたがもしよければ、

 「いい加減にしてくれ!王太子様はお優しい方だが、貴方の我が儘は度を越えている。わきまえろ!皆、貴方には我慢しているんだ!」

 私の言葉を遮って、護衛騎士は大声で吐き捨てるように言った。

 え。
 いま何て言ったの?
 ガマン?
 ワガママ?

 急に怒鳴りつけられて混乱した頭で、護衛騎士の言うことがよく分からなかった。
 
 こわい。
 
 私は怯え、逃げ出したくなった。
 この人は私のこと嫌いみたい。
 じゃあ私、ひとりでいい。

 そう思って、私は中庭へ向かって駆け出した。

「あっ!おい!待て!外出は許されていない!!!」

 怖い!追いかけてこないで!

 「うわっ」
 ドスンと大きな音がして、振り向くと騎士があおむけになって転んでいた。

 今のうちだ!
 私は全力で廊下を走り抜け、中庭へ通じる道に出た。
 でも中庭にいたらすぐに追いつかれて捕まえられちゃうかもしれない。あの怖い人にまた酷いことを言われて、暴力なんて振るわれちゃうかもしれない。
 そう思うと、私は中庭へ続く道とは反対方向に向かって駆けた。

 エドワード!エドワード助けて!

 私がこんな時頼れる人はエドワードしかいない。他に誰も知り合いはいないのだ。
 あの護衛騎士が何か言っていたけれど、よく考えることができない。
 
 こわいよ、だれかたすけて。

 エドワードに会いたい!!!

 すると突然視界が開け、私は少し大きな庭園に出た。
 レンガの小道を挟んで色とりどりの薔薇が咲き誇り、奥には薔薇に覆われたガゼボがあってとても優美だ。その向こうには小さな池が見える。私の知っている中庭と全然違う。

「エドワード、あなた大丈夫なの?少し痩せたみたい」
 
 ぼんやりしていると、ガゼボの方から女性の声がしてハッとした。今エドワードと聞こえたわ。

 その声に導かれるようにそっとガゼボに近寄った。

「マーガレット、君には本当に済まないことをした。僕を許してくれるだろうか」
「いいのよ。仕方がないことだって分かっているわ。あなたこそ、しっかり休めているの?」
「ああ、最近ようやく落ち着いてきたよ」
「聖女様のご様子はどう?」
「特に進展はないよ」

 ドキッとした。私のことを話している!
 私は薔薇のツタの隙間からそっとガゼボの中を伺った。
 中にはエドワードが見知らぬ女性と一緒にいた。エドワードも美しい人だがその女性も同じくらい美しい人だった。
 波打つ銀髪に淡い紫色の瞳、肌は抜けるように白く唇は濡れたように赤い。
 私とは全然違っていた。
 
「古文書には『聖女を大切にし誠心誠意努めれば願いが叶う』とある。僕はこの国の王太子としての役目を果たすつもりだ」
「エドワード……」
「聖女には長くこの国にいてもらいたいし、聖女に望まれれば僕の一生を捧げようと思っている」
「……私達、婚約は解消したけれど、私はあなたの良き友人としてずっと傍で支えていきたいと思っているわ」
「マーガレット……!」
「私の人生はエドワードと共に在りたいの」
「……ありがとう、マーガレット」

 そうして二人は抱擁しゆっくりと唇を重ねた。

 
 私は何を見ているのだろう。

 なんだかとてもいたたまれない。

 ああ、私ってみっともないな。はずかしいな。

 体から力が抜け、ずぶずぶと土の中に沈んでいくようだった。
 
 ああ、嫌だな。
 早くここから立ち去りたい。

 あの部屋に戻りたい……!!!



 気が付くと、私は自分の部屋の中に戻っていた。
 続きの間から侍女たちの声が聞こえる。

「聖女様どこいっちゃったのかしら」
「さあね。今探してるみたいだからどこかで捕まって戻されるんじゃない」
「あ~もう、今日は仕事終わるの遅くなるのかな。ホント迷惑」
「ね、聖女様ってまだ何も力を使えないんでしょ?本当に聖女様なの?」
「ええ?偽物ってこと?」
「やめなさいよ。でももしそうなら大問題よね」
「あの人すっごい図々しいじゃない?王太子様にもベタベタくっついてさ。迷惑だって分からないのかな」
「本当に偽物かもよ」
「そうだったら磔にされて首切り?アハハ!」


そこで私は力尽き、意識を手放した。
感想 0

あなたにおすすめの小説

隠された第四皇女

山田ランチ
恋愛
 ギルベアト帝国。  帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。  皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。 ヒュー娼館の人々 ウィノラ(娼館で育った第四皇女) アデリータ(女将、ウィノラの育ての親) マイノ(アデリータの弟で護衛長) ディアンヌ、ロラ(娼婦) デルマ、イリーゼ(高級娼婦) 皇宮の人々 ライナー・フックス(公爵家嫡男) バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人) ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝) ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長) リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属) オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟) エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟) セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃) ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡) 幻の皇女(第四皇女、死産?) アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補) ロタリオ(ライナーの従者) ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長) レナード・ハーン(子爵令息) リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女) ローザ(リナの侍女、魔女) ※フェッチ   力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。  ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

必要とされなくても、私はここにいます

あう
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスのもとへ嫁ぐことになったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、理想の妻になろうとも、誰かの上に立とうともしなかった。 口出ししない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 ただ静かに、そこにいるだけ。 そんな彼女の在り方は、少しずつ屋敷の空気を変えていく。 張りつめていた人々の距離はやわらぎ、日々の営みは穏やかに整いはじめる。 何かを勝ち取る物語ではない。 誰かを打ち負かす物語でもない。 それでも確かに、彼女がいることで守られていくものがある。 これは、 声高に愛を叫ばなくても伝わる想いと、 何も奪わないからこそ育っていく信頼を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

やり直しの王太子、全力で逃げる

雨野千潤
恋愛
婚約者が男爵令嬢を酷く苛めたという理由で婚約破棄宣言の途中だった。 僕は、気が付けば十歳に戻っていた。 婚約前に全力で逃げるアルフレッドと全力で追いかけるグレン嬢。 果たしてその結末は…

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。

ストップ!おっさん化~伯爵夫人はときめきたい~

緋田鞠
恋愛
【完結】「貴方の存在を、利用させて頂きたいのです。勿論、相応のお礼は致します」。一人で参加していた夜会で、謎の美青年貴族コンラートに、そう声を掛けられた伯爵夫人ヴィヴィアン。ヴィヴィアンは、恋愛結婚が主流の国で、絵に描いたような政略結婚をして以来、夫に五年間、放置されていた。このままでは、女として最も輝く時期を捨てる事になり、将来的には身も心も枯れ果て、性別不明おっさん風味になってしまう。心の潤いを取り戻す為に、『ドキドキして』、『ときめいて』、『きゅんっとする』事を探していたヴィヴィアンは、コンラートと互いの目的の為に手を組む事に。果たして、コンラートの目的とは?ヴィヴィアンは、おっさん化回避出来るのか?

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。