するとき音楽かけるよね

しち

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するとき音楽かけるよね

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 ふたりでシーツとシーツの間に裸で包まって過ごす少し気だるくて、だけど幸福な時間。イオはスピーカーから流れる洋楽をちいさく口ずさんで、「ごうってするときよく音楽かけるよね、前から?」とちょっとかわいくない顔で笑って見せる。

「イオの声、聞かせたくないからね、誰にも。万が一でも」

 俺の部屋は角部屋で、隣に住んでいるのは夜のお仕事をしているっぽいお姉さんとお兄さん(引っ越したときに挨拶をしに行ったので分かる)だからこの時間帯に彼らは不在のことが多くて。防音性はふたりが一緒にいるであろう昼間に立証されてるから、その可能性は低いと分かっててもやっぱり、俺に身体を暴かれて甘い声を上げるイオを誰かに知られるのはイヤだった。たとえそれが窓の外を飛ぶ川鳥でも。って言ったらイオは引くかもしれないけど。
 俺の返事を聞いたイオは耳たぶを、ついで頬を赤くして、それをごまかすように俺の腕に擦りつける。くすぐったい。けどそれは、ずっと味わっていたいような心地よい感触でもあった。

「……ごう」
「ん?」
 俺を呼ぶ艶やかな唇。腕に触れる滑らかな肌。ほっておくとまた簡単に下腹部に熱が籠りそうで、俺は手持無沙汰にイオの柔らかなシルバーヘアを撫でる。仕事の関係で明るくなったり暗くなったり、コロコロ髪色を変えるのに何故か、いつまでも子どもの頃と同じ手触りのそれを。
 前髪をぐしゃぐしゃにされたイオは俺の下心なんて知らずに子ども扱いされた、とばかりにほんのちょっと不服そうに桃色の唇を尖らせて、それでも切り替わった音楽に耳をピンとそばだてるようにしてから俺を見上げて言った。

「コンビニ行かない?おれおなかすいちゃった」

 23時、7月。驚くほど早く開けた梅雨の湿気をまだ存分に孕んだような空気を吸いながら、イオと並んで橋の上を歩く。暑いは暑いけど、焼き付けるような日光のない分昼間よりは随分マシな空気の中、夏が苦手なはずのイオはご機嫌にさっきかかっていた曲を口ずさむ。その歌声を運ぶみたいに川から湿った風が吹いて、あんまり見れないイオのかわいいおでこが見えるのを頬を緩めて見つめていると、イオが「時計の針が止まって見えることってある?」と俺に訊く。
「あるよ」
「あるんだ。チョトツモーシン!のごうでも。どんなとき?」
「誰かさんがデザイナーさんと二人きりのフィッティングからぜんぜん帰ってこないときとか」
「あ~ごうって結構根に持つタイプだよね」
「イオは?」
「……ごうがキレイなお姉さんもいるであろうスポンサーとの飲み会からなかなか帰ってこないとき」
「あんまりないよ?そういうこと」

 わ、即マジレスしてきたあやし、なんてかわいくないことを言ってかわいい顔で笑うイオは、ふとうっとりするような目をして「あ、あとアレだ」と俺のTシャツの裾を掴んで俺の表情を伺うみたいに見上げる。こういうこと普通にしてくるからずるいよね、って思いながら「なに?」って訊く自分の声がずいぶん甘い自覚はあって。

「ごうがシュートするとき」
「タイマーはたしかに動いてるのにね、なんか時間が止まったような感覚、する」

 世界の秘密を打ち明けるようなひそやかな声と、川から吹く夏の風と、ふわりと笑う、車のライトに照らされた、イオの透き通った肌と。
 俺の時間は今止まったよ、なんてさすがに恥ずかしくて言えないけど、思わず少しひんやりしたその手を握ってしまった。


 ふたりともそんな飲めないくせにイオが口ずさんでた曲に影響されて350mLの缶ビールとふたつと、酔い覚ましのミネラルウォーター、イオがいちご味と塩キャラメル味でギリギリまで迷ってたからどっちも買って半分こしよ、ってイオ曰く「悪魔のささやき」を俺がしたアイスと、イオが明日の朝食べたい!って主張した塩バターパンとサンドイッチとヨーグルトと100%りんごジュース、店員さん外国の人っぽいから大丈夫だよね、ってよくわからない理屈で一応イオを自動ドアの前まで移動させて(シたばかりのイオを誰にも見せたくないってのもあって)買ってしまったさっき切らしたばかりのコンドームと(店員さんはイヤホンで音楽を聴きながら肩を揺らして商品を袋に詰めて、俺の顔もたぶん三秒も見なくてありがたかった)。
 結構重くなった袋を俺が持ってふたり並んでさっき歩いた道をブラブラ戻る。しばらく歩くとイオが思い立ったみたいに身を屈め袋の中をごそごそして、「飲んじゃう?」ってビールを取り出しいたずらっぽく笑うから、イオの分もプルタブを開けてあげて歩きながら一口飲んだ。喉を通る刺激にくぅ、と同じ声をあげて。

「苦い」
「ね」
「でもこの苦さもおいしいような気がするよね。暑いからかな」
「そうだね」

 外でお酒を飲んだせいか、俺のちょっと前を歩いたり、俺に並んだり、俺が貸したちょっと大きめの白いTシャツを着てふわふわと髪を揺らして笑うイオが本当に透き通るようにキレイに見えて、ちょっと怖いくらいで。『ごうがシュートするとき』脳内でさっきの言葉を反芻したら、なんだかたまらなくなって、ほっそりした手首を掴んで振り向いた、ちょっと驚いたように半開きの唇を塞いでいた。視界の端で、イオの長い睫毛が震えるのが、車のライトに照らされて。その柔らかな舌を吸いながら、ああキレイだ、と思う。キレイだ。このまま時間を止めたいなんて、ガラにもなく思うくらいに。

「……外だよ?」
 ようやく離した唇から零れたひそやかな声に、ちいさな怯えが孕む。
「ん、外だね」
 誰かに見られたら、知られたら、きっと俺たちは終わる。
「でも大丈夫だよ」
 無責任な言葉に、イオがまばたきをする。俺はその無垢な動作に、さっき飲み込んだよりもっと恥ずかしい言葉を口にしていた。

「そのときは、俺が時計を止めるから」
 え、なにもう酔ったの?って訝し気に眉を寄せて俺を見るイオに「そうかもね」って苦笑する。確かに俺は酔ってるのかもしれない、イオに明確な欲望を抱いて触れた、その日からずっと。



 帰って、靴を脱いだ瞬間、完全にふたりきりになった世界で俺はもう一度イオの唇に触れた。ドサ、とコンビニの袋が落ちる重い音がして、だけど止まれない。少し苦い薄い舌を吸って、絡めて、カクンと落ちかけた腰を抱く。
 “さっきもしたのに”、ってイオが言ったのか、俺の頭の中の言葉かわからないまま、無防備なTシャツの裾から手を入れて、二人分の唾液で濡れた舌で滑らかな首筋を辿りながら小粒の飾りをきゅ、と指で摘まむとイオの腰が完全に落ちた。そのままお姫様抱っこでベッドに運んで、そっと横たわらせる。
「ご、ぉ……」
 あ、コンドーム。袋の中に入ったままだ。頭の端っこで思いながら、まるでケモノみたいにイオの下着ごとハーフパンツを脱がす。俺たちがいない間も流れっぱなしだった音楽は、ちょっと前流行ったK-POPグループのバラードに変わっている。


 イオの中はさっきより熱かった。しっとり湿って、狭くて、そのクセ柔らかい。

「く、ぁ……ご……っ」
「熱いね、ココ。お酒飲んだからかな」
 そう言ってコツ、と突くと「ぁあっん……わか、んな……」それだけの動きでもう雀の涙くらいになった蜜をとぷりと吐き出して、イオが細い腰をビクビク震わせる。
 にかいめはホントに……、最初からきもちよすぎておれすぐダメになるの。
 イオが前に恥ずかしそうに教えてくれた記憶がよみがえって、それだけで埋め込んだモノがぐ、と硬さを増すのが分かった。

「やぁ……おっき……、なんでぇ……」
 細い指で唇を覆って、さっきもしたのに、ってうるうるした目を俺に向けながら、でもナカは期待にきゅうきゅう蠢く。ずるいよなぁって思いながら「そんなの……イオがかわいすぎるからでしょ」と舌なめずりして見下ろすと、興奮しすぎて多分ちょっと冷たくもなってる俺の視線に射抜かれたみたいにイオが固まった。その幼気な表情に、護りたい、という気持ちと獲物を前にした肉食獣の心情が同時に発生して、ほどなくしてあっさりと一方に傾く。

「動くよ」
「まって……まだ、」
 かわいい弟の静止も訊けずに、最初からすぐに出すような勢いで腰を使う。「うぁ……っぁあ……っんぁ……っ!!」濡れてどんどん高くなってくイオの声に、たぶん大丈夫だと分かってて、手さぐりでリモコンを手にしてステレオの音量を上げる。俺の無造作な動きに、不意に弱いトコロを抉られたのかイオが背を逸らす。リモコンをシーツに放り、しなったその背に手を入れて、ガツガツと追い込むみたいに奥を突く。
『ごうってするときよく音楽かけるよね、前から?』
「んぁっ、あん……っぁあ……、だめ…ぇ、もぉいっちゃ……ぅ、いっちゃうからぁ……」

 力の入らない手が俺の腰を弱々しく押す。熟れた桃みたいに上気して、とろとろに惚けたイオの顔に俺の汗が落ちる。俺を包むナカが、もっと奥に来て、って言うみたいに甘く引き摺りこむ。

「忘れた……」
 呟いた言葉のそぐわなさにも気付けないでイオは必死で堪えている。「ごぉ……といきた……ぃ、ひとりやだぁ……っ」縋るように俺にしがみ付きながら。短い爪が背中に食い込む痛みすら狂おしいほど甘い。

「ごぉ……っ、ごぉ……」
 俺を呼ぶ、脊髄から男を溶かしてしまうような声が、音量を上げた音楽と混じって。なのにぜんぜん溶けてはしまわないで、俺を煽り続ける。すぐ目の前にあって、何なら腕の中に閉じ込めるようにして楔で貫いて。逃がそうとしても逃がせないほど密着した身体を、欲しい、欲しいとおかしいくらいに思いながら、焦燥感のままに欲望とエゴの塊を奥の留まりに捻じ込む。
「ん゛ぁ――ッ!!?」
 イオの前、なんて全部忘れた。心から思う。自分が何を思ってイオ以外の身体に触れて、抱き寄せて、そのナカに入って、欲を吐き出していたかも。物語の中の他人の、架空の人物の記憶よりも朧気な気がする。
 ごうとイきたい、と半泣きで言っていたイオは、俺が留まりを抉じ開けて、ぐぽ、という音と共に引き抜き、また入る――を繰り返している間に繋がっている部分で感じられるだけでも三回は出さずにイった。四回目、全身を大きく震わした後にぶしゃ、と噴き出した透明の液が、俺とイオの身体を派手に濡らす。だけどもうそのことに恥じらう余裕も、ひとりで連続でイってしまってることを憤る余裕もないみたいに、焦点の合わない目と縺れた舌で必死に俺を呼ぶ。

「ーー~~っ、ぁ、ごぉ……っ、すき……すきぃ……」
「俺も……大好きだよ……っ」

 絶頂に向かう刹那にして永遠みたいな時間の中で、思う。どんなに願っていても、一瞬の錯覚でそう見えたとしても、やっぱりどうしてたってこの世界を刻む時間は止まらないから。袋の中のアイスは多分どろどろに溶けているし、警戒しながら買ったゴムの外箱すら開ける余裕もなく、俺は自分勝手な欲で大事な弟の身体を白く汚している。罪だらけの俺も無垢なイオも、等しく終わりに向かって生きている。
 だけど、いや、だからこそ。祈るように呟く。こんなのちっとも足りてないな、と思いながら、それしかないから、「好きだ」と。

 烈しい痙攣のあとくたりと力の抜けた愛しすぎる身体を掻き抱いて、キツく熱く蠕動する腸壁に残った精全部を塗り込むようにして吐き出す。
 やっと息を吐いて静かに寝息を立てるその唇に触れる頃。まるですべてを見届けたように、音楽は鳴り止んでいた。


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