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兄は天使を飛ばせない
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湯船の中。白く滑らかな肌を隆起させる、細いけどしっかりと浮き出た肩甲骨をなぞる。俺の胸を背もたれにしてまどろみ、うとうとしかけていた弟は、「なに……っ」勢いよく振り返る。その目に驚きと、怯えと、微かな期待を見て取って、自分の唇がいつもと違う角度で上がるのが分かった。
「羽根、生えてないね」
イオのショーに行くのは、久しぶりだった。招待はしてもらっても、シーズン中で遠征もあるとなるとなかなか予定が合わなくて、気が付けば最後に観に行ったのは――。
「……前シーズンじゃん、ありえない……」
呟きながら、俺はチケットとスマホを見比べる。今日のは毎シーズンイオが出てる大きなコレクションほどの規模はない。イオ曰く「若手中心の、いくつかのメゾンが集まる中規模のショー」だからなのか、お客さんも若い人が多い。表参道にあるホールの入り口は個性的なファッションに身を包んだ人で溢れていて、ちらほら「IOが」って声も聞こえた。
アメリカの大手出版社が出してるファッション誌の日本版の表紙を飾り始めて、それまで大き目のショーは海外が中心だったけど東京コレクションに出演した頃から、イオはファッションフリークだけじゃない層にも認知され始めた。容姿がずば抜けてキレイなのは一目瞭然だけど、SNSなんかで見るイオは結構くだけた喋り方をしてるし、クールな見た目に反して芯の部分が根っからかわいくていい子だから、ファンが増えるのも当然だよな、と思う。今日もぱっと見最先端のファッションに身を包んだ人が目立つけど、普通の会社員っぽい人や、ファッション系ではなさそうな大学生っぽい子たちもいるし。
列に並んで会場を待ってると、背が高いから「これ見た?」「見た、やばい。顔面国宝過ぎ」ってスマホを覗き込んでる子達の画面が見えちゃうんだけど、それがイオのことであることはたとえ見なくても分かる。あ、その写真いいよね、俺も好き。
そんなイオを間近で見れるんだから、そりゃうれしいよね、ってほっこりすると同時に、彼らが持ってるスマホや頭の中にいるイオが、俺の知ってるイオとは違うっていう当たり前の事実に、なんだかくすぐったいような、お腹の辺りがぐるぐると渦巻くような変な感じがする。
ポケットで振動したスマホを見ると、【なに並んでんの】ってイオからメッセージがあった。え、どこで見てんの。きょろきょろとするとまた振動して、【裏。関係者入り口あるよ】と追撃が来る。【あ、そうなの?でももう開きそうだし】【裏回って。楽屋三階】会いに来て、ってことね。思わず頬が緩んでしまう。OK、と打ちながら、俺は列を抜けた。
「ごう~」
顔見知りのメイクさんとかスタイリストさんに挨拶しながら楽屋に入ると、バッチリメイクも終えたイオがハグしてきた。いつもよりテンション高いのは、きっと本番前で昂っているんだろう。周囲の視線を感じつつ、はいはい、って軽くハグを返して「準備は?」と訊くと「ばっちり」と返ってくる。
首元が大きなリボンタイになった、ふわりとしたスリーブのブラウスとタイトなブラックパンツのモード系のイオ。黒く染められた髪は衣装に合わせて耳と額を出したタイトなスタイルにまとめられて、アイラインに合わせてパープルのルージュが引かれている。文句なしにキレイだ。
「見惚れた?」
「うん」
「はは、素直」
顔をくしゃっとさせて笑うイオは、ふだんのイオと変わらない。これがランウェイに立つとガラッと変わることを知ってるから、今のイオを目に焼き付けておきたくなる。
「どこから見てたの?」
「廊下の窓から。ごう、身バレ寸前なのに呑気につっ立ってるから」
「え?そう?全然声掛けられなかったよ?」
「周りの女の子みんなソワソワしながらごう見てました~……ショー前にやきもきさせるのやめてよ」
おれだけに聴こえる声で言ったイオの思わぬ言葉に、目を丸くする。
「え、やきもち?」
「……声でかい、ばかごう」
都会的に洗練されたメイクをしたイオの顔がほんのり赤くなって、思わずもう一度ハグをしそうになるのをぐっと堪える。俺たちが喋ってる間も、複数のモデルやスタッフさんが出入りする楽屋は忙しない。流石にそろそろ出ないと邪魔だな、と思って、抱き締める代わりにイオの肩を軽く叩いた。
「そろそろ行くね」
イオはリラックスした空気を纏いながら「何着か着るから、最後まで見てってね」と手を振った。その頬がもう赤くないことを、ほんの少し残念に思いながら、俺も手を振り返す。
宣言通りイオは最初のリボンブラウスのルック以外にも各ブランドのコンセプトに合わせていろいろな姿を見せてくれた。無駄なく洗練されていたり、オトナっぽくキまっていたり、街中で見るにはちょっと奇抜すぎない?って衣装でもイオが着ると何故かしっくりくる。イオが出てくるたびに女性客の抑えきれないような歓声が会場に響いて、場の空気が高揚する。
モデルさんは基本無表情なんだけど、仲良いメゾン同士のカジュアルなショーだからか、他のモデルさんのウォーキングやポージングもどこか自然体な雰囲気があった。
俺はイオが用意してくれた関係者席に座って、ああやっぱりランウェイを歩くイオは格好いいなぁとしみじみする。レッスン始めた最初の頃は「ただ歩くだけなのに難しすぎる!」とか「顔をキメすぎるな、主役は服なんだから、とか言われるけどおれ普通の顔してるつもりなんだけど……」とか愚痴ったり戸惑ったりしてたのに、今や今日一番人気のメゾンのラストルックを飾るくらいのモデルさんになって。遠くに行っちゃった、なんてことは思わないけど、誇らしいようなほんのちょっと淋しいような……こういうの親心っていうのかな、兄だけど。と思ったりはする。
そろそろかな、と腕時計を見ると、示し合わせたように音楽が変わって、会場が暗くなった。それまでのポップな雰囲気から、一気に重厚な空気に変わる。闇の中に一筋の光が差して、まるで光を辿るように黒が、歩いてくる。ブランドはケイキムラ。歩いてくるのは――。
「わ、すご」
誰からの感嘆混じりの声が、やけに大きく聴こえた。
何枚もの素材の違う黒が重なった、ゆったりとした薄手のコート。中のハイネックブラウスは襟元から鎖骨までが透けていて、まるで夜の海に月が浮かんでるみたいに、水面に反射した月明かりみたいに、イオの肌の白さが見えた。それを見せる範囲を限定するかのような、首元に巻かれたチェーン。光を集めて、放つ、計算尽くされたシルエット。デザイナーのあの人の、得意げな顔が浮かぶ。
どこからか風が吹いたように、コートの裾が、冒頭と打って変わってラフにスタイリングされたプラチナホワイトの髪が、ふわりと揺れた。イオが、歩いてくる。長い睫毛をわずかに伏せて、重力を感じさせない足取りで。長い足の動きに合わせて揺れる裾が、まるで。
「え、天使……?」
「黒いのに?」
「だってこれ……」
客席のざわめきに、唾を呑む。天井からひらひらと落ちてきたのは、黒い羽根だ。乾いた喉が引き攣って、軽く痛みを覚えた。でも、ペットボトルに手を伸ばすことができない。目が離せない。動くことも。
ステージの中央で、軽く目が合った気がした。でもイオの視線は俺を貫いてどこかもっと遠いところにあった。
(あ、これ――)
(俺の、じゃない)
勝手に湧いてくる自分本位な焦燥を、抑えることができない。血色を抑えた唇を軽く上げて踵を返すイオを引き留めてしまわないように、立ち上がらないように、ただの観客に徹することで精いっぱいだった。
それから、どんな顔をして楽屋に迎えに行って、イオを連れて帰ったのか。もちろん覚えてなわけじゃないけど、記憶にあんまり自信がない。廊下で鉢合わせたケイさんが俺の顔を見て眉を上げて、「飛びそうだったろ?」と訊かれたのは覚えてるけど。
「打ち上げとか大丈夫だった?今更だけど」
「いいんじゃない?今日人数多いし。おれ前から行ったり行かなかったりだし」
俺に連れ帰られたイオは、クッションを抱えてご機嫌にテレビを見ている。服は普段着(ショーの日特有の、脱ぎ着の楽なデニムのセットアップ)だし、メイクも落としてる。「どうしたのごう?」振り返って不思議そうに訊く顔はやけに幼い。
「ううん。お風呂できたから、入っといで」
「わ、ありがと」
パタパタとご機嫌な音を立てて廊下を進む歩き方は、当たり前だけどショーのそれじゃない。そんなことを一々確かめてる自分が、余裕なくてちょっと笑えた。
「入っていい?」
「それ、服脱いでから言うセリフじゃないよね……」
イオがぶくぶくと鼻の下まで沈みながら言う。「疲れたでしょ。久々に髪洗ったげるよ」警戒されないように和やかな笑顔で言いながら、追い出される前にお湯を被って「おじゃましま~す」イオを抱えるような形で湯に浸かる。
「なんか……やけに入浴剤濃いなとはおもった……」
「イオが恥ずかしがるからでしょ。恥ずかしいことなんて一つもないのに」
真顔で呟くと、「そういうこと言うのが恥ずかしいの」と指摘される。だけどやっぱりショーで疲れてるのか、頭を揉んであげるとおとなしくされるがままになった。
「わ……きもち……」
「最初の黒髪はスプレー?キレイに染まってたね」
「ん……あ……そこ」
「ここ?」
「ん……寝ちゃいそ……」
「こら、寝ちゃダメ。シャンプーしたげるから頭こっちにして」
バスタブに後頭部を乗せさせて、自分は湯船から出てイオの髪をシャンプーする。ハイトーンで何度も染めているのに、イオの髪は柔らかくてふわふわだ。
思い出すのは、もっと小さい、まだ欲とかそんなものの存在を知らなった時、時々こんな風に洗ってあげた記憶だ。小さな頭が泡でモコモコになるのがかわいくて好きだった。今も愛おしさは変わらないけど、もう絶対あの頃の気持ちだけではイオのことを見れないんだろうな、と思うと微かに喪失感をおぼえて、裸の胸を締め付ける小さな痛みを洗い流すように、イオの髪にそっとシャワーをかけた。
「うわー極楽すぎた……」
俺もパパッと全身洗って、またさっきの体勢でふたりで湯船に浸かり直すと、イオが上を向いて呟く。
「イオ、口開いてたよ」
「うそ。ブスだった?」
「かわいかった」
「うそつけ」
笑うイオを後ろから抱き締める。軽くビクっとしながらも、イオが力を抜いてしなだれかってくれる。
「今日、かっこよかった?」
「うん。めちゃくちゃ」
あの時の、どこか遠くを見るようなイオを思い出すと、忘れかけていた焦燥がお腹の奥で燻った。
『飛んで行きそうだっただろ?』
「そか。よかったぁ……」
俺は衝動的に確かめたくなる。ホッとしたように言うイオの肩を掴み、少し身体を離してから、白く滑らかな肌を隆起させる、細いけどしっかりと浮き出た肩甲骨をなぞる。「なに……っ」イオが勢いよく振り返る。その目に驚きと、怯えと、微かな期待を見て取って。
「羽根、生えてないね」
よかった。心から思う。だけどまだ安心するのは早い気がした。もっと触れて、下ろして、……閉じ込めたい。
「ねぇ、身体も洗ってあげる」
労わりの体を成しながらどこか切羽詰まった声に、イオの瞳が揺れる。
掌にたっぷりとボディソープの泡をつけて、繊細なイオの皮膚を撫でていく。椅子に座らされたイオは、俺の手が動く度肩をちいさく跳ねさせて。俺の手を制御しようかどうか迷う手は中途半端に空を舞う。
「ご……もういい……」
「なんで。まだ全然洗えてないよ?」
そう言って首を洗い、胸元まで下ろしていく。目的は愛撫じゃなくて、汚れを落とすことだから。不埒な動きは見せずに、手で摩擦しないように気を付けてやさしくやさしく身体を撫でる。
「なんか、はずかし……っ」
「恥ずかしいことなんて何もしてないよ」
やけに低く熱心に響いた声に、イオがやっと手を下ろしてくれた。それは嘘じゃなくて、いやらしい気持ちよりも、こっちに戻したい、キレイにしたい、って気持ちが勝っている。だけど洗うなら全身キレイにしたいから。ちいさな胸の飾りも、泡越しにそっと撫でる。
「ん……っ」
抑えた声は聞こえないふりをして胸とおなかと背中、上半身をひとしきり洗ってしまうと、手の動きに一々身を捩るイオが駄々を捏ねる前に、ソープを足してイオの下腹部に手を伸ばした。
「そこ……っやぁ……っ」
「ココもキレイにしないと」
イオが汚れてるなんてまったく思わないけど。薄い陰毛を撫でると、大袈裟なほど腰が跳ねて、椅子から落ちないように身体を支えてまた洗っていく。「く……っぁ……」密やかな声とともに前は柔く芯を持って上向き始めてるけど、そのことには触れないで泡のついた手で先端の窪みや、付け根のところをやさしく擦る。
「やっ、あっ、んぅ……っ!!」
「声、出しても良いよ。ココはしょうがないから、出しな」
「ゃ、だぁ……っ、あぁ……っ」
かぶりを振るイオは、どうしたって反響する声に耳を押さえる。「あ、ここも洗わないとだね」脇を撫でると、「ひ……ッ、ぁ!!」息を詰めて身を捩る。「汗かいたでしょ」濡れた窪みをぐるぐるなぞりながら視線を落とすと、泡の付いたイオ自身が完全に上を向いてフルフルと震えるのが見えた。敏感でかわいいな、と唇が上がる。そういうつもりでしてるワケじゃないけど(と言いながら俺のも凄いことになってるけど、これは不可抗力だと思う)、イオのだって見るからに辛そうだし、イかせてあげたくなる。
「出しちゃおうか」
「や……だっ、こすっちゃ……っ!!」
「後ろも洗うから、ここに手突いて立てる?」
前かがみになるイオを立たせて、前を扱きながら臀部に泡をつける。直接的な刺激でそれどころじゃないイオのお尻を開くようにして、奥まったところまでくるくると泡を撫でつけながら扱く手を早めると、「……うっぁ?!イ……っやめ、いっちゃ……っ」「いいよ、ホラ出して」「あっ、んあっ、ゃ……っーー!!」何往復もしないうちにイオはビクビクと腰を震わせて達してしまった。
「はぁ……っぁ………っ」
肩甲骨が、呼吸に合わせて喘ぐように動く。まだだ、と思う。まだ安心できない。羽根がなくたって、裸だって、どろりとした雄の欲望を吐き出したって、イオの神々しいまでの綺麗さは変わらなくて。
キレイにしたい、汚したい。相反する感情を同じ重さで抱えながら、俺は労わるように架空の付け根を撫でる。
「いっぱい出たね」
「や……も……」
「ホラ力抜いて。お湯入れるよ?」
「え……ご、う……っ!?」
ヘッドを替えて、指で拓いたイオの桃色の穴に温くしたお湯をそっと入れる。何をされているのか分かってないんだろう。イオは一瞬バスタブに手を突いたまま固まって、縋るように俺を見た。その視線から目を逸らして、イオの腹部に手を回す。
「や……っ、な……っ、で……?これ……っ」
「おなか溜まった?力入れられる?」
「やだ、おさな……っ!!ぅ~~ッ!!」
「あれ、あんま出ないね?ちょっと指入れるね」
抵抗しようとする手を片手で封じて、お湯を掻き出すようにしても、イオの中は、中まで、キレイだった。
「やめ……っ、やだ、ってば……っ!」
「危ない。じっとして」
暴れるイオを押さえつけて、もう一度お湯を入れる。少し張った感じはあるものの薄いお腹を押すと無色のお湯は出てくるけど、イオが嫌がるようなものは何も出てこない。
「もしかしてもう洗っちゃった?」
自分の声が残念そうに響くのが分かる。ホントに最低だと思うけど、イオが嫌がる汚れたところも、心底見たかったのだ。
「……っ、や、はな、せばか……っやだ、きらい……っ!」
振り向いたイオの目と鼻は真っ赤だった。力を抜くと振り回した手で思い切り叩かれた。イったばかりのせいか、無理矢理洗われた衝撃からか力が抜けてたから痛くはなかったけど、正気に戻ると今更ながらに胸が痛くて、「ごめん……部屋で、待ってる、ね……?」俺はすごすごとバスルームを後にした。
上がって来たイオは、下着一枚でバスタオルを頭から被って、俺をじとりと睨みながら、それでもベッドに上がってきた。今日は帰るって言われるかも、って恐れていた俺は、半裸のイオと、その行動に目を丸くする。イオのしなやかな手が振り上げられ、一瞬目を閉じた俺の頬をやさしく包む。
「どうしたの」
「……イオ?」
「何が、こわいの」
イオの視線はまっすぐ、俺に向かって、瞳の中には、俺だけがいる。通り抜けない。揺れることもない。
「イオを抱きたい」
キレイにしたい、汚したい。相反する二つの感情はつまり。
「俺だけのイオにしたい」
何がこわいか、答えにもなっていない俺の答えに、薄桃色の唇が僅かに開いた。
「そんなの……」
唇を押し当てたのは、どちらからだっただろう。震える薄い舌を絡め取って喘ぎも唾液も呑み込んで小さな咥内のすべてに触れてからようやく唇を離すと、小さな声でイオが言った。そんなの、ずっとそうじゃん。
ベッドに手を突かせて腰だけを上げるような格好をとらせて後ろから挿入する。ぐぷ、と空気が洩れるような音がしてイオがは、っと息を呑む。絡みつくような、押し入るような、生々しい肉の感触。今夜はどうしても直接感じたくて、感じさせたくて、何も着けていない状態の性器で、イオの中を進んでいく。
「あ……っ、だめ……っ」
余裕がなくて、気持ち良くするというよりは、受け入れさせるための、拡げるためだけのような前戯しかできなかった。お風呂で出したきりイってないイオは、自分の中を欲望が埋め尽くしていく感覚に濡れた声を上げたかと思えば身体を硬直させて息を詰め、ナカのものすごいうねりと共に短く息を吐き、やがて弛緩した。
「ぁ……んっ、ぅあ……っ」
「イっちゃった……?いれた、だけで」
切羽詰まった俺の声に、イオはガクガクと太腿を震わせる。
「……っぅ………くぁ……っま、だ……」
出さないで迎えるオーガズムは、まだ完全に引いていないらしい。腰を撫でられただけで堪らないみたいで、後ろ手で俺の手首を弱々しく握りながら快楽を逸らすように腰をくねらせる。でもそれはずっぽり埋まった俺自身にまだ痙攣の治まらない肉の轟きをより鮮明に伝えただけで、気を逸らす効果は全くなかった。むしろ。
「逆効果だよ、イオ」
「んあ゛ぁぁぁ……っ!!」
待ってあげたい気持ちと、追い打ちをかけたい気持ちと。どっちもが綯い交ぜになって、自家中毒になったように思い切り腰を打ち付けてしまう。イオのナカで一度強烈な快楽を得ると、どんどん鈍くなる思考が獣の本能を追い越すことはない。泣き声を上げるイオの腰を指が食い込むほど掴んで、一度目よりも二度目、二度目よりも三度目、と深く、強く、打ち付けていく。
「やぁ……っ!!ぁあっ!!ひゃ……ンぁッ!!ヒ、ぁ……っ!!」
「あ……すご……締まっ、って……いくッッ!!」
とろとろと熱く蕩けるのに、突けば突くほど搾り取るようにキツくなるナカに、思い切り欲を吐き出す。ドク、ドク、と血液を送り出すような感覚に歯を食い縛りながら、俺ので白く汚れるイオのナカを夢想してまた血が集まってくる。
「ぁ……でて、る……ィくっ、~~ッ!!」
出し切るための動きと胎内を侵される感覚で、腕の力を無くしたイオがガクンと落ちた。視線を落とすと、欲を咥え込んだ、唇と同じ色の蕾がヒクヒクとわななき、出されることで甘くて浅い、でも断続的な絶頂を味わっていることが分かる。イオが短く呼吸するたび、ピンと伸びた襞に白い欲が滲む。
今動いたらきっとつらいだろうな。僅かに残った理性で負担の大きいイオを慮る思考能力は、今にも羽ばたきそうにぴくぴくと震える肩甲骨を見ているとキレイに霧散された。
「まだだよ、イオ」
「や……っなんれ……ぇ?ごぉの……また、かたく……ぐっ、ぁ゛っ!!」
「まだ……綺麗すぎる」
落とさないと。まるで自分のものでないような、低い声が頭蓋を揺らす。
崩れた身体をシーツに磔にするように、寝バックの体勢で奥を抉じ開ける。ぐぽ、っとさっきよりも派手な音がして、捻じ込んだモノが物凄いうねりに嬲られるような感触に歯を食い縛る。
「~~ッ!!ーー、~~ッ、……っ!!」
もうイオは声もなく、磔にされたまま長く烈しい硬直と短い弛緩を繰り返している。顔を見たくなって顎に手を添えてこっちを向かせると、キレイな顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃで、長いまつ毛の下の透き通った瞳は焦点を失って蕩けていた。なのに唇は、「ごぉ」と動く。
たまらなくなって、俺は赤くなった目尻に舌を這わせながら楔を打ち下ろす。
時折、シーツを濡らす湿った音が聴こえて、そのたびにうねりが激しくなる。噴きながらイきっぱなし状態なんだろうな、と思う。自分もイオのナカに何回出したのか、分からない。突くのをやめても蠕動に誘われるように勝手にイってしまう。なのに治まる気配がまるでない。終わりのない、あまりの快楽に自分でも怖くなりながら、震える肩甲骨に思い切り歯を立てると、シーツを握り締めていたイオの手から完璧に力が抜けた。
やっと、落ちた。そう思ったとき、最後の欲望が身体の深いところから弾丸のようにせり上がって最奥で烈しく弾けた。紅い歯型を指でなぞると、まるで何かを毟り取ったような窪みがある。それを二度三度撫でて、ホッと息を吐くと、やがて穏やかなまどろみが俺を攫った。
「羽根、生えてないね」
イオのショーに行くのは、久しぶりだった。招待はしてもらっても、シーズン中で遠征もあるとなるとなかなか予定が合わなくて、気が付けば最後に観に行ったのは――。
「……前シーズンじゃん、ありえない……」
呟きながら、俺はチケットとスマホを見比べる。今日のは毎シーズンイオが出てる大きなコレクションほどの規模はない。イオ曰く「若手中心の、いくつかのメゾンが集まる中規模のショー」だからなのか、お客さんも若い人が多い。表参道にあるホールの入り口は個性的なファッションに身を包んだ人で溢れていて、ちらほら「IOが」って声も聞こえた。
アメリカの大手出版社が出してるファッション誌の日本版の表紙を飾り始めて、それまで大き目のショーは海外が中心だったけど東京コレクションに出演した頃から、イオはファッションフリークだけじゃない層にも認知され始めた。容姿がずば抜けてキレイなのは一目瞭然だけど、SNSなんかで見るイオは結構くだけた喋り方をしてるし、クールな見た目に反して芯の部分が根っからかわいくていい子だから、ファンが増えるのも当然だよな、と思う。今日もぱっと見最先端のファッションに身を包んだ人が目立つけど、普通の会社員っぽい人や、ファッション系ではなさそうな大学生っぽい子たちもいるし。
列に並んで会場を待ってると、背が高いから「これ見た?」「見た、やばい。顔面国宝過ぎ」ってスマホを覗き込んでる子達の画面が見えちゃうんだけど、それがイオのことであることはたとえ見なくても分かる。あ、その写真いいよね、俺も好き。
そんなイオを間近で見れるんだから、そりゃうれしいよね、ってほっこりすると同時に、彼らが持ってるスマホや頭の中にいるイオが、俺の知ってるイオとは違うっていう当たり前の事実に、なんだかくすぐったいような、お腹の辺りがぐるぐると渦巻くような変な感じがする。
ポケットで振動したスマホを見ると、【なに並んでんの】ってイオからメッセージがあった。え、どこで見てんの。きょろきょろとするとまた振動して、【裏。関係者入り口あるよ】と追撃が来る。【あ、そうなの?でももう開きそうだし】【裏回って。楽屋三階】会いに来て、ってことね。思わず頬が緩んでしまう。OK、と打ちながら、俺は列を抜けた。
「ごう~」
顔見知りのメイクさんとかスタイリストさんに挨拶しながら楽屋に入ると、バッチリメイクも終えたイオがハグしてきた。いつもよりテンション高いのは、きっと本番前で昂っているんだろう。周囲の視線を感じつつ、はいはい、って軽くハグを返して「準備は?」と訊くと「ばっちり」と返ってくる。
首元が大きなリボンタイになった、ふわりとしたスリーブのブラウスとタイトなブラックパンツのモード系のイオ。黒く染められた髪は衣装に合わせて耳と額を出したタイトなスタイルにまとめられて、アイラインに合わせてパープルのルージュが引かれている。文句なしにキレイだ。
「見惚れた?」
「うん」
「はは、素直」
顔をくしゃっとさせて笑うイオは、ふだんのイオと変わらない。これがランウェイに立つとガラッと変わることを知ってるから、今のイオを目に焼き付けておきたくなる。
「どこから見てたの?」
「廊下の窓から。ごう、身バレ寸前なのに呑気につっ立ってるから」
「え?そう?全然声掛けられなかったよ?」
「周りの女の子みんなソワソワしながらごう見てました~……ショー前にやきもきさせるのやめてよ」
おれだけに聴こえる声で言ったイオの思わぬ言葉に、目を丸くする。
「え、やきもち?」
「……声でかい、ばかごう」
都会的に洗練されたメイクをしたイオの顔がほんのり赤くなって、思わずもう一度ハグをしそうになるのをぐっと堪える。俺たちが喋ってる間も、複数のモデルやスタッフさんが出入りする楽屋は忙しない。流石にそろそろ出ないと邪魔だな、と思って、抱き締める代わりにイオの肩を軽く叩いた。
「そろそろ行くね」
イオはリラックスした空気を纏いながら「何着か着るから、最後まで見てってね」と手を振った。その頬がもう赤くないことを、ほんの少し残念に思いながら、俺も手を振り返す。
宣言通りイオは最初のリボンブラウスのルック以外にも各ブランドのコンセプトに合わせていろいろな姿を見せてくれた。無駄なく洗練されていたり、オトナっぽくキまっていたり、街中で見るにはちょっと奇抜すぎない?って衣装でもイオが着ると何故かしっくりくる。イオが出てくるたびに女性客の抑えきれないような歓声が会場に響いて、場の空気が高揚する。
モデルさんは基本無表情なんだけど、仲良いメゾン同士のカジュアルなショーだからか、他のモデルさんのウォーキングやポージングもどこか自然体な雰囲気があった。
俺はイオが用意してくれた関係者席に座って、ああやっぱりランウェイを歩くイオは格好いいなぁとしみじみする。レッスン始めた最初の頃は「ただ歩くだけなのに難しすぎる!」とか「顔をキメすぎるな、主役は服なんだから、とか言われるけどおれ普通の顔してるつもりなんだけど……」とか愚痴ったり戸惑ったりしてたのに、今や今日一番人気のメゾンのラストルックを飾るくらいのモデルさんになって。遠くに行っちゃった、なんてことは思わないけど、誇らしいようなほんのちょっと淋しいような……こういうの親心っていうのかな、兄だけど。と思ったりはする。
そろそろかな、と腕時計を見ると、示し合わせたように音楽が変わって、会場が暗くなった。それまでのポップな雰囲気から、一気に重厚な空気に変わる。闇の中に一筋の光が差して、まるで光を辿るように黒が、歩いてくる。ブランドはケイキムラ。歩いてくるのは――。
「わ、すご」
誰からの感嘆混じりの声が、やけに大きく聴こえた。
何枚もの素材の違う黒が重なった、ゆったりとした薄手のコート。中のハイネックブラウスは襟元から鎖骨までが透けていて、まるで夜の海に月が浮かんでるみたいに、水面に反射した月明かりみたいに、イオの肌の白さが見えた。それを見せる範囲を限定するかのような、首元に巻かれたチェーン。光を集めて、放つ、計算尽くされたシルエット。デザイナーのあの人の、得意げな顔が浮かぶ。
どこからか風が吹いたように、コートの裾が、冒頭と打って変わってラフにスタイリングされたプラチナホワイトの髪が、ふわりと揺れた。イオが、歩いてくる。長い睫毛をわずかに伏せて、重力を感じさせない足取りで。長い足の動きに合わせて揺れる裾が、まるで。
「え、天使……?」
「黒いのに?」
「だってこれ……」
客席のざわめきに、唾を呑む。天井からひらひらと落ちてきたのは、黒い羽根だ。乾いた喉が引き攣って、軽く痛みを覚えた。でも、ペットボトルに手を伸ばすことができない。目が離せない。動くことも。
ステージの中央で、軽く目が合った気がした。でもイオの視線は俺を貫いてどこかもっと遠いところにあった。
(あ、これ――)
(俺の、じゃない)
勝手に湧いてくる自分本位な焦燥を、抑えることができない。血色を抑えた唇を軽く上げて踵を返すイオを引き留めてしまわないように、立ち上がらないように、ただの観客に徹することで精いっぱいだった。
それから、どんな顔をして楽屋に迎えに行って、イオを連れて帰ったのか。もちろん覚えてなわけじゃないけど、記憶にあんまり自信がない。廊下で鉢合わせたケイさんが俺の顔を見て眉を上げて、「飛びそうだったろ?」と訊かれたのは覚えてるけど。
「打ち上げとか大丈夫だった?今更だけど」
「いいんじゃない?今日人数多いし。おれ前から行ったり行かなかったりだし」
俺に連れ帰られたイオは、クッションを抱えてご機嫌にテレビを見ている。服は普段着(ショーの日特有の、脱ぎ着の楽なデニムのセットアップ)だし、メイクも落としてる。「どうしたのごう?」振り返って不思議そうに訊く顔はやけに幼い。
「ううん。お風呂できたから、入っといで」
「わ、ありがと」
パタパタとご機嫌な音を立てて廊下を進む歩き方は、当たり前だけどショーのそれじゃない。そんなことを一々確かめてる自分が、余裕なくてちょっと笑えた。
「入っていい?」
「それ、服脱いでから言うセリフじゃないよね……」
イオがぶくぶくと鼻の下まで沈みながら言う。「疲れたでしょ。久々に髪洗ったげるよ」警戒されないように和やかな笑顔で言いながら、追い出される前にお湯を被って「おじゃましま~す」イオを抱えるような形で湯に浸かる。
「なんか……やけに入浴剤濃いなとはおもった……」
「イオが恥ずかしがるからでしょ。恥ずかしいことなんて一つもないのに」
真顔で呟くと、「そういうこと言うのが恥ずかしいの」と指摘される。だけどやっぱりショーで疲れてるのか、頭を揉んであげるとおとなしくされるがままになった。
「わ……きもち……」
「最初の黒髪はスプレー?キレイに染まってたね」
「ん……あ……そこ」
「ここ?」
「ん……寝ちゃいそ……」
「こら、寝ちゃダメ。シャンプーしたげるから頭こっちにして」
バスタブに後頭部を乗せさせて、自分は湯船から出てイオの髪をシャンプーする。ハイトーンで何度も染めているのに、イオの髪は柔らかくてふわふわだ。
思い出すのは、もっと小さい、まだ欲とかそんなものの存在を知らなった時、時々こんな風に洗ってあげた記憶だ。小さな頭が泡でモコモコになるのがかわいくて好きだった。今も愛おしさは変わらないけど、もう絶対あの頃の気持ちだけではイオのことを見れないんだろうな、と思うと微かに喪失感をおぼえて、裸の胸を締め付ける小さな痛みを洗い流すように、イオの髪にそっとシャワーをかけた。
「うわー極楽すぎた……」
俺もパパッと全身洗って、またさっきの体勢でふたりで湯船に浸かり直すと、イオが上を向いて呟く。
「イオ、口開いてたよ」
「うそ。ブスだった?」
「かわいかった」
「うそつけ」
笑うイオを後ろから抱き締める。軽くビクっとしながらも、イオが力を抜いてしなだれかってくれる。
「今日、かっこよかった?」
「うん。めちゃくちゃ」
あの時の、どこか遠くを見るようなイオを思い出すと、忘れかけていた焦燥がお腹の奥で燻った。
『飛んで行きそうだっただろ?』
「そか。よかったぁ……」
俺は衝動的に確かめたくなる。ホッとしたように言うイオの肩を掴み、少し身体を離してから、白く滑らかな肌を隆起させる、細いけどしっかりと浮き出た肩甲骨をなぞる。「なに……っ」イオが勢いよく振り返る。その目に驚きと、怯えと、微かな期待を見て取って。
「羽根、生えてないね」
よかった。心から思う。だけどまだ安心するのは早い気がした。もっと触れて、下ろして、……閉じ込めたい。
「ねぇ、身体も洗ってあげる」
労わりの体を成しながらどこか切羽詰まった声に、イオの瞳が揺れる。
掌にたっぷりとボディソープの泡をつけて、繊細なイオの皮膚を撫でていく。椅子に座らされたイオは、俺の手が動く度肩をちいさく跳ねさせて。俺の手を制御しようかどうか迷う手は中途半端に空を舞う。
「ご……もういい……」
「なんで。まだ全然洗えてないよ?」
そう言って首を洗い、胸元まで下ろしていく。目的は愛撫じゃなくて、汚れを落とすことだから。不埒な動きは見せずに、手で摩擦しないように気を付けてやさしくやさしく身体を撫でる。
「なんか、はずかし……っ」
「恥ずかしいことなんて何もしてないよ」
やけに低く熱心に響いた声に、イオがやっと手を下ろしてくれた。それは嘘じゃなくて、いやらしい気持ちよりも、こっちに戻したい、キレイにしたい、って気持ちが勝っている。だけど洗うなら全身キレイにしたいから。ちいさな胸の飾りも、泡越しにそっと撫でる。
「ん……っ」
抑えた声は聞こえないふりをして胸とおなかと背中、上半身をひとしきり洗ってしまうと、手の動きに一々身を捩るイオが駄々を捏ねる前に、ソープを足してイオの下腹部に手を伸ばした。
「そこ……っやぁ……っ」
「ココもキレイにしないと」
イオが汚れてるなんてまったく思わないけど。薄い陰毛を撫でると、大袈裟なほど腰が跳ねて、椅子から落ちないように身体を支えてまた洗っていく。「く……っぁ……」密やかな声とともに前は柔く芯を持って上向き始めてるけど、そのことには触れないで泡のついた手で先端の窪みや、付け根のところをやさしく擦る。
「やっ、あっ、んぅ……っ!!」
「声、出しても良いよ。ココはしょうがないから、出しな」
「ゃ、だぁ……っ、あぁ……っ」
かぶりを振るイオは、どうしたって反響する声に耳を押さえる。「あ、ここも洗わないとだね」脇を撫でると、「ひ……ッ、ぁ!!」息を詰めて身を捩る。「汗かいたでしょ」濡れた窪みをぐるぐるなぞりながら視線を落とすと、泡の付いたイオ自身が完全に上を向いてフルフルと震えるのが見えた。敏感でかわいいな、と唇が上がる。そういうつもりでしてるワケじゃないけど(と言いながら俺のも凄いことになってるけど、これは不可抗力だと思う)、イオのだって見るからに辛そうだし、イかせてあげたくなる。
「出しちゃおうか」
「や……だっ、こすっちゃ……っ!!」
「後ろも洗うから、ここに手突いて立てる?」
前かがみになるイオを立たせて、前を扱きながら臀部に泡をつける。直接的な刺激でそれどころじゃないイオのお尻を開くようにして、奥まったところまでくるくると泡を撫でつけながら扱く手を早めると、「……うっぁ?!イ……っやめ、いっちゃ……っ」「いいよ、ホラ出して」「あっ、んあっ、ゃ……っーー!!」何往復もしないうちにイオはビクビクと腰を震わせて達してしまった。
「はぁ……っぁ………っ」
肩甲骨が、呼吸に合わせて喘ぐように動く。まだだ、と思う。まだ安心できない。羽根がなくたって、裸だって、どろりとした雄の欲望を吐き出したって、イオの神々しいまでの綺麗さは変わらなくて。
キレイにしたい、汚したい。相反する感情を同じ重さで抱えながら、俺は労わるように架空の付け根を撫でる。
「いっぱい出たね」
「や……も……」
「ホラ力抜いて。お湯入れるよ?」
「え……ご、う……っ!?」
ヘッドを替えて、指で拓いたイオの桃色の穴に温くしたお湯をそっと入れる。何をされているのか分かってないんだろう。イオは一瞬バスタブに手を突いたまま固まって、縋るように俺を見た。その視線から目を逸らして、イオの腹部に手を回す。
「や……っ、な……っ、で……?これ……っ」
「おなか溜まった?力入れられる?」
「やだ、おさな……っ!!ぅ~~ッ!!」
「あれ、あんま出ないね?ちょっと指入れるね」
抵抗しようとする手を片手で封じて、お湯を掻き出すようにしても、イオの中は、中まで、キレイだった。
「やめ……っ、やだ、ってば……っ!」
「危ない。じっとして」
暴れるイオを押さえつけて、もう一度お湯を入れる。少し張った感じはあるものの薄いお腹を押すと無色のお湯は出てくるけど、イオが嫌がるようなものは何も出てこない。
「もしかしてもう洗っちゃった?」
自分の声が残念そうに響くのが分かる。ホントに最低だと思うけど、イオが嫌がる汚れたところも、心底見たかったのだ。
「……っ、や、はな、せばか……っやだ、きらい……っ!」
振り向いたイオの目と鼻は真っ赤だった。力を抜くと振り回した手で思い切り叩かれた。イったばかりのせいか、無理矢理洗われた衝撃からか力が抜けてたから痛くはなかったけど、正気に戻ると今更ながらに胸が痛くて、「ごめん……部屋で、待ってる、ね……?」俺はすごすごとバスルームを後にした。
上がって来たイオは、下着一枚でバスタオルを頭から被って、俺をじとりと睨みながら、それでもベッドに上がってきた。今日は帰るって言われるかも、って恐れていた俺は、半裸のイオと、その行動に目を丸くする。イオのしなやかな手が振り上げられ、一瞬目を閉じた俺の頬をやさしく包む。
「どうしたの」
「……イオ?」
「何が、こわいの」
イオの視線はまっすぐ、俺に向かって、瞳の中には、俺だけがいる。通り抜けない。揺れることもない。
「イオを抱きたい」
キレイにしたい、汚したい。相反する二つの感情はつまり。
「俺だけのイオにしたい」
何がこわいか、答えにもなっていない俺の答えに、薄桃色の唇が僅かに開いた。
「そんなの……」
唇を押し当てたのは、どちらからだっただろう。震える薄い舌を絡め取って喘ぎも唾液も呑み込んで小さな咥内のすべてに触れてからようやく唇を離すと、小さな声でイオが言った。そんなの、ずっとそうじゃん。
ベッドに手を突かせて腰だけを上げるような格好をとらせて後ろから挿入する。ぐぷ、と空気が洩れるような音がしてイオがは、っと息を呑む。絡みつくような、押し入るような、生々しい肉の感触。今夜はどうしても直接感じたくて、感じさせたくて、何も着けていない状態の性器で、イオの中を進んでいく。
「あ……っ、だめ……っ」
余裕がなくて、気持ち良くするというよりは、受け入れさせるための、拡げるためだけのような前戯しかできなかった。お風呂で出したきりイってないイオは、自分の中を欲望が埋め尽くしていく感覚に濡れた声を上げたかと思えば身体を硬直させて息を詰め、ナカのものすごいうねりと共に短く息を吐き、やがて弛緩した。
「ぁ……んっ、ぅあ……っ」
「イっちゃった……?いれた、だけで」
切羽詰まった俺の声に、イオはガクガクと太腿を震わせる。
「……っぅ………くぁ……っま、だ……」
出さないで迎えるオーガズムは、まだ完全に引いていないらしい。腰を撫でられただけで堪らないみたいで、後ろ手で俺の手首を弱々しく握りながら快楽を逸らすように腰をくねらせる。でもそれはずっぽり埋まった俺自身にまだ痙攣の治まらない肉の轟きをより鮮明に伝えただけで、気を逸らす効果は全くなかった。むしろ。
「逆効果だよ、イオ」
「んあ゛ぁぁぁ……っ!!」
待ってあげたい気持ちと、追い打ちをかけたい気持ちと。どっちもが綯い交ぜになって、自家中毒になったように思い切り腰を打ち付けてしまう。イオのナカで一度強烈な快楽を得ると、どんどん鈍くなる思考が獣の本能を追い越すことはない。泣き声を上げるイオの腰を指が食い込むほど掴んで、一度目よりも二度目、二度目よりも三度目、と深く、強く、打ち付けていく。
「やぁ……っ!!ぁあっ!!ひゃ……ンぁッ!!ヒ、ぁ……っ!!」
「あ……すご……締まっ、って……いくッッ!!」
とろとろと熱く蕩けるのに、突けば突くほど搾り取るようにキツくなるナカに、思い切り欲を吐き出す。ドク、ドク、と血液を送り出すような感覚に歯を食い縛りながら、俺ので白く汚れるイオのナカを夢想してまた血が集まってくる。
「ぁ……でて、る……ィくっ、~~ッ!!」
出し切るための動きと胎内を侵される感覚で、腕の力を無くしたイオがガクンと落ちた。視線を落とすと、欲を咥え込んだ、唇と同じ色の蕾がヒクヒクとわななき、出されることで甘くて浅い、でも断続的な絶頂を味わっていることが分かる。イオが短く呼吸するたび、ピンと伸びた襞に白い欲が滲む。
今動いたらきっとつらいだろうな。僅かに残った理性で負担の大きいイオを慮る思考能力は、今にも羽ばたきそうにぴくぴくと震える肩甲骨を見ているとキレイに霧散された。
「まだだよ、イオ」
「や……っなんれ……ぇ?ごぉの……また、かたく……ぐっ、ぁ゛っ!!」
「まだ……綺麗すぎる」
落とさないと。まるで自分のものでないような、低い声が頭蓋を揺らす。
崩れた身体をシーツに磔にするように、寝バックの体勢で奥を抉じ開ける。ぐぽ、っとさっきよりも派手な音がして、捻じ込んだモノが物凄いうねりに嬲られるような感触に歯を食い縛る。
「~~ッ!!ーー、~~ッ、……っ!!」
もうイオは声もなく、磔にされたまま長く烈しい硬直と短い弛緩を繰り返している。顔を見たくなって顎に手を添えてこっちを向かせると、キレイな顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃで、長いまつ毛の下の透き通った瞳は焦点を失って蕩けていた。なのに唇は、「ごぉ」と動く。
たまらなくなって、俺は赤くなった目尻に舌を這わせながら楔を打ち下ろす。
時折、シーツを濡らす湿った音が聴こえて、そのたびにうねりが激しくなる。噴きながらイきっぱなし状態なんだろうな、と思う。自分もイオのナカに何回出したのか、分からない。突くのをやめても蠕動に誘われるように勝手にイってしまう。なのに治まる気配がまるでない。終わりのない、あまりの快楽に自分でも怖くなりながら、震える肩甲骨に思い切り歯を立てると、シーツを握り締めていたイオの手から完璧に力が抜けた。
やっと、落ちた。そう思ったとき、最後の欲望が身体の深いところから弾丸のようにせり上がって最奥で烈しく弾けた。紅い歯型を指でなぞると、まるで何かを毟り取ったような窪みがある。それを二度三度撫でて、ホッと息を吐くと、やがて穏やかなまどろみが俺を攫った。
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