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第二章 魔王復活
〇二〇 「神でも悪魔でもいい」① ※エリアス視点
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暦は気付けば七月に入り、七日のナナセの誕生日が目前に迫っていた。
数日間とはいえ、魔王に呪いを掛けられ、選りに選ってナナセのことを忘れてしまうという失態を犯していたタイムロスが手痛い。
いや、あれはあれで、ナナセの違う一面が見られたり、結果的に二人の距離が縮まったりして、良かったこともあるのだが――。
ともかく、ナナセの生まれた国では、ニ十歳を成人と定めていて、その日を境に飲酒も解禁になるらしい。
ということは、ナナセにとって二十歳の誕生日はとても大事な行事なのだ。
それならば、盛大に祝いたいところだが、私とナナセの間にはどうも価値観の相違がある。
異世界人なのでそれも当然だろう。
しかし、どう祝っていいものか分からないし、一生に一度しかない二十歳の誕生日に失敗は許されない。
そこで私は素直にナナセに訊ねることにしたのだ。
するとナナセは、暫し考えた後で、「一緒に酒を飲みたい」と言う。
そんなことでいいのかと訊き返すと、「エリーと一緒にってところが重要なんだ」と言われてしまい、これには参った。いや、本当に参った。
アルビオンでは結婚を申し込む際に、給料の三か月分相当の婚約指輪なるものを渡す風習があるという。
以前、私はそれを知らずに手ぶらでナナセに求婚してしまった。
その結果、ナナセには逃げられてしまったし、あれは失敗だったと今更ながらに思う訳で、ナナセの誕生日当日は、密かに求婚のやり直しを計画している。
来るべき日のために北の宇宙ウルソナの鍛冶師に注文した、合金好きなナナセの一番好きな合金だというチタン合金製の婚約指輪はなかなかの仕上がりだ。
特殊な表面加工が施され虹色に輝く指輪は、デザインはシンプルだが見た目も美しく、また妙な魔法を踏まされて拉致されたりしないよう魔法抵抗も付与してあり、ナナセもきっと気に入ってくれることだろう。
ナナセが魔王に勾引かされたり、私が魔王に呪いに掛けられたりで、何かと慌ただしい日々が続いたが、やっと落ち着いた生活に戻れるだろうと思われた矢先に、私にはひとつだけ懸念事項があった。
その懸念事項とは即ち、魔王城からナナセが連れ帰ったヒューとかいう男だ。
あいつは元々、私たちが魔物討伐に向かった農村で、魔族に脅されていたとはいえナナセを罠に掛けて拉致させた張本人である。
私としては、そんな怪しい者をナナセの側に置くことなど、断じて許せるわけがない。
だが、魔王城でどのような交流があったか定かではないが、ナナセはヒューのことを気に入っていて、彼が孤児になってしまったことを知るや、自分の従僕にしたいと言い出した。
絆されている。悪い傾向だ。
私に言わせればナナセは、飼えもしないのに可哀想だという理由で滅多矢鱈に生き物を拾ってくる子供のようなものだ。
そういった偽善とは、時に優しさと呼ばれるものの別名でもある。
だからナナセの本性は、思い付きで行動する甘えた偽善者でしかない。
どう見ても体調が優れない者や、怪我人に向かって「大丈夫?」などと無責任な声を掛けたことが過去に一度もない者ならば、ナナセの偽善を責める資格を持つだろうが、つまりそんな者は存在しないのだ。
自ら出撃を決めたにも拘らず、初めて人が魔獣に襲われている場面を見たとき、ナナセは一人では立てないほどに震えていた。
その後、勝手に私の側から離れて、まんまと魔族の罠にかかった時も然りだ。
だが、如何に偽善的であっても動ける者はそれだけで他の者とは一線を画して稀少である。
現実を知らないからこその甘えであっても、これから知って行けばいい。
それに、そういった甘えたところや、偽善的なところも含めて、私はナナセを愛している。
寧ろそこが良い。
きっと、ナナセがそういう性格でなかったら、私など見向きもされていないだろう。
だから私は、ナナセを決して責めないし、見捨てはしないし、手放すつもりもない。
ナナセはもっと思い付きで行動して、もっと私を頼ればいいとさえ思う。
世界中を敵に回しても、私には何時如何なる時もナナセに手を差し伸べる用意がある。
ナナセのことは私だけが知っていればいいのだ。
数日間とはいえ、魔王に呪いを掛けられ、選りに選ってナナセのことを忘れてしまうという失態を犯していたタイムロスが手痛い。
いや、あれはあれで、ナナセの違う一面が見られたり、結果的に二人の距離が縮まったりして、良かったこともあるのだが――。
ともかく、ナナセの生まれた国では、ニ十歳を成人と定めていて、その日を境に飲酒も解禁になるらしい。
ということは、ナナセにとって二十歳の誕生日はとても大事な行事なのだ。
それならば、盛大に祝いたいところだが、私とナナセの間にはどうも価値観の相違がある。
異世界人なのでそれも当然だろう。
しかし、どう祝っていいものか分からないし、一生に一度しかない二十歳の誕生日に失敗は許されない。
そこで私は素直にナナセに訊ねることにしたのだ。
するとナナセは、暫し考えた後で、「一緒に酒を飲みたい」と言う。
そんなことでいいのかと訊き返すと、「エリーと一緒にってところが重要なんだ」と言われてしまい、これには参った。いや、本当に参った。
アルビオンでは結婚を申し込む際に、給料の三か月分相当の婚約指輪なるものを渡す風習があるという。
以前、私はそれを知らずに手ぶらでナナセに求婚してしまった。
その結果、ナナセには逃げられてしまったし、あれは失敗だったと今更ながらに思う訳で、ナナセの誕生日当日は、密かに求婚のやり直しを計画している。
来るべき日のために北の宇宙ウルソナの鍛冶師に注文した、合金好きなナナセの一番好きな合金だというチタン合金製の婚約指輪はなかなかの仕上がりだ。
特殊な表面加工が施され虹色に輝く指輪は、デザインはシンプルだが見た目も美しく、また妙な魔法を踏まされて拉致されたりしないよう魔法抵抗も付与してあり、ナナセもきっと気に入ってくれることだろう。
ナナセが魔王に勾引かされたり、私が魔王に呪いに掛けられたりで、何かと慌ただしい日々が続いたが、やっと落ち着いた生活に戻れるだろうと思われた矢先に、私にはひとつだけ懸念事項があった。
その懸念事項とは即ち、魔王城からナナセが連れ帰ったヒューとかいう男だ。
あいつは元々、私たちが魔物討伐に向かった農村で、魔族に脅されていたとはいえナナセを罠に掛けて拉致させた張本人である。
私としては、そんな怪しい者をナナセの側に置くことなど、断じて許せるわけがない。
だが、魔王城でどのような交流があったか定かではないが、ナナセはヒューのことを気に入っていて、彼が孤児になってしまったことを知るや、自分の従僕にしたいと言い出した。
絆されている。悪い傾向だ。
私に言わせればナナセは、飼えもしないのに可哀想だという理由で滅多矢鱈に生き物を拾ってくる子供のようなものだ。
そういった偽善とは、時に優しさと呼ばれるものの別名でもある。
だからナナセの本性は、思い付きで行動する甘えた偽善者でしかない。
どう見ても体調が優れない者や、怪我人に向かって「大丈夫?」などと無責任な声を掛けたことが過去に一度もない者ならば、ナナセの偽善を責める資格を持つだろうが、つまりそんな者は存在しないのだ。
自ら出撃を決めたにも拘らず、初めて人が魔獣に襲われている場面を見たとき、ナナセは一人では立てないほどに震えていた。
その後、勝手に私の側から離れて、まんまと魔族の罠にかかった時も然りだ。
だが、如何に偽善的であっても動ける者はそれだけで他の者とは一線を画して稀少である。
現実を知らないからこその甘えであっても、これから知って行けばいい。
それに、そういった甘えたところや、偽善的なところも含めて、私はナナセを愛している。
寧ろそこが良い。
きっと、ナナセがそういう性格でなかったら、私など見向きもされていないだろう。
だから私は、ナナセを決して責めないし、見捨てはしないし、手放すつもりもない。
ナナセはもっと思い付きで行動して、もっと私を頼ればいいとさえ思う。
世界中を敵に回しても、私には何時如何なる時もナナセに手を差し伸べる用意がある。
ナナセのことは私だけが知っていればいいのだ。
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