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第一章 聖者降臨
〇四一 転移門②
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「俺も楽しかった! 学校の授業で習うダンスとは全然違うし」
宮廷舞踏会のダンスは、体育の授業中にやるヒップホップのストリートダンスとは対極だよな。
「ナナセの通っていた学校ではどんなダンスを習うんだ?」
「どんなって……口で説明するのは難しいな、えっと……」
授業で班に分かれて自分たちで振付して発表したダンスのサビの部分だけをその場で実演して見せた。
曲についてはJASRAC対策で詳しくは書けないが。
ステップが早くて複雑で大変だったけど凄く格好良く出来たからまだ覚えてた。
「……こういう感じかな」
刹那、周囲で拍手が起こって何事かと思って振り返れば、パヴァーヌの列に参加したときに崩壊していたはずの囲みがまた形成されていて、俺がエリアスにダンスを披露するところをしっかり見られていた。
壁側に立っているエリアスに向かって話していたから俺からはエリアスしか見えなかったんだ。
こっぱずかしいなオイッ!
「……エリー、どっかで休もう」
この場から逃げたいという意志を伝えれば、エリアスは即座に俺の願いを叶えてくれた。
てっきり控室へ戻るのかと思ったら、エリアスについていくと階段を上がって円形のバルコニーのようなところへ出る。
外なので火照った顔に夜風が気持ち良い。
途中に警備兵がいて、俺たちは目礼しただけで通れたが、後についてきただけの他の人たちはそこで止められていた。
白いタイル張りのバルコニーは庭へ下りる階段も付いていて、目の前に広がる植木で造られた幾何学模様の広大な迷路園を一望できる。
「すっげー! エリー、あそこに行こう! 俺ああいう迷路に一度挑戦してみたかったんだよ!」
「迷路に入るなら日中の方がいい」
「えー? あんなにたくさん灯りついてるし大丈夫だろー?」
上から見ると迷路園の要所要所にはすべて灯りが点っているのが分かる。
「ああいう場所は夜は密会の場になっていることが多いんだよ」
エリアスが最近よくする可愛い喋り方で教えてくれた内容は、俺の冒険を断念させるのに十分だった。
「そ、そっか。そいつはまずいな。今は諦めるよ。でもここ凄いな。俺ずっと部屋に引き籠ってたから城内にこんなとこがあるなんて知らなかったぜ」
「ナナセはこういうの好きそうだと思ったんだ。やはり連れてきてよかった」
「バレバレかよ。なあエリー、向かいの、あそこで青く光ってる塔、あれなんだ?」
迷路園の向こうに他の建物からぽつんと離れて建つ塔の中ほどに青白い光がフワフワ浮いているのが見える。
「ああ、あれは転移門だよ」
転移門!
「方角からするとエルフ領への転移門だと思う」
「み、見たいっ! どんなものか見るだけ見たい!」
「それなら……」
俺は思わずエリアスににじり寄ったが、続く返事は俺たちの背後から齎された。
「見るだけであれば、其方が立っているそこも転移門の一部だぞ?」
振り向くと、フリードリヒ陛下がルートヴィヒ殿下と供に従者や近衛騎士を引き連れてぞろぞろとバルコニーへ出てくるところで、視線に促されるように見上げれば、円形のバルコニーの丁度中央辺りの上空に、向かいの塔と同様の青白い光がフワフワと浮いていた。
「え……これが転移門……? 転移門てこういうのなの?」
「如何にも」
「ああ、転移門というからには『門』があると思っていたのか?」
「ならば意想外な形状であっただろうな」
フリードリヒ陛下とルートヴィヒ殿下が何か言っていたが、俺の頭にはまるで入ってこなかった。
――俺はこれと同じものを前にも見ている。
あれは約一年前。
この世界に来る直前、自宅の物置でこれを見ていたんだ。
否、来る前だけじゃない。
来た「後」にも、見た。
刹那、俺の中ですべての歯車がカチリと噛み合って動き出した。
「……あの、俺、多分これ動かせる。てか、自分でこれ動かしてこっちに来た……」
宮廷舞踏会のダンスは、体育の授業中にやるヒップホップのストリートダンスとは対極だよな。
「ナナセの通っていた学校ではどんなダンスを習うんだ?」
「どんなって……口で説明するのは難しいな、えっと……」
授業で班に分かれて自分たちで振付して発表したダンスのサビの部分だけをその場で実演して見せた。
曲についてはJASRAC対策で詳しくは書けないが。
ステップが早くて複雑で大変だったけど凄く格好良く出来たからまだ覚えてた。
「……こういう感じかな」
刹那、周囲で拍手が起こって何事かと思って振り返れば、パヴァーヌの列に参加したときに崩壊していたはずの囲みがまた形成されていて、俺がエリアスにダンスを披露するところをしっかり見られていた。
壁側に立っているエリアスに向かって話していたから俺からはエリアスしか見えなかったんだ。
こっぱずかしいなオイッ!
「……エリー、どっかで休もう」
この場から逃げたいという意志を伝えれば、エリアスは即座に俺の願いを叶えてくれた。
てっきり控室へ戻るのかと思ったら、エリアスについていくと階段を上がって円形のバルコニーのようなところへ出る。
外なので火照った顔に夜風が気持ち良い。
途中に警備兵がいて、俺たちは目礼しただけで通れたが、後についてきただけの他の人たちはそこで止められていた。
白いタイル張りのバルコニーは庭へ下りる階段も付いていて、目の前に広がる植木で造られた幾何学模様の広大な迷路園を一望できる。
「すっげー! エリー、あそこに行こう! 俺ああいう迷路に一度挑戦してみたかったんだよ!」
「迷路に入るなら日中の方がいい」
「えー? あんなにたくさん灯りついてるし大丈夫だろー?」
上から見ると迷路園の要所要所にはすべて灯りが点っているのが分かる。
「ああいう場所は夜は密会の場になっていることが多いんだよ」
エリアスが最近よくする可愛い喋り方で教えてくれた内容は、俺の冒険を断念させるのに十分だった。
「そ、そっか。そいつはまずいな。今は諦めるよ。でもここ凄いな。俺ずっと部屋に引き籠ってたから城内にこんなとこがあるなんて知らなかったぜ」
「ナナセはこういうの好きそうだと思ったんだ。やはり連れてきてよかった」
「バレバレかよ。なあエリー、向かいの、あそこで青く光ってる塔、あれなんだ?」
迷路園の向こうに他の建物からぽつんと離れて建つ塔の中ほどに青白い光がフワフワ浮いているのが見える。
「ああ、あれは転移門だよ」
転移門!
「方角からするとエルフ領への転移門だと思う」
「み、見たいっ! どんなものか見るだけ見たい!」
「それなら……」
俺は思わずエリアスににじり寄ったが、続く返事は俺たちの背後から齎された。
「見るだけであれば、其方が立っているそこも転移門の一部だぞ?」
振り向くと、フリードリヒ陛下がルートヴィヒ殿下と供に従者や近衛騎士を引き連れてぞろぞろとバルコニーへ出てくるところで、視線に促されるように見上げれば、円形のバルコニーの丁度中央辺りの上空に、向かいの塔と同様の青白い光がフワフワと浮いていた。
「え……これが転移門……? 転移門てこういうのなの?」
「如何にも」
「ああ、転移門というからには『門』があると思っていたのか?」
「ならば意想外な形状であっただろうな」
フリードリヒ陛下とルートヴィヒ殿下が何か言っていたが、俺の頭にはまるで入ってこなかった。
――俺はこれと同じものを前にも見ている。
あれは約一年前。
この世界に来る直前、自宅の物置でこれを見ていたんだ。
否、来る前だけじゃない。
来た「後」にも、見た。
刹那、俺の中ですべての歯車がカチリと噛み合って動き出した。
「……あの、俺、多分これ動かせる。てか、自分でこれ動かしてこっちに来た……」
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