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第二章 魔王復活
〇〇一 ナナセハ チユ チョットデキル②
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今の俺の髪型は毛先だけ整えてハーフアップにしているんだが、エリアス的にこれはアリみたいで、髪飾りだのリボンだのを矢鱈と寄越すようになった。
自分で付けるとどうしても不格好になるし、TPOに合うかどうか俺には判断しかねるから、エリアスに選んで付けて貰っている。
こういうのって俺の感覚からするとチャラいんだけど、この世界では男が髪を伸ばすのもリボンを付けるのも普通のことだし、そういう文化なんだと受け入れて、生花をケツの穴に活けられるんでなければ好きにさせることにした。
人前での過度な接触に俺が焦って仕立て屋の方をちらりと見ると、エリアスは「なんだまだいたのか」という顔をして、仕立て屋に心付けを渡してさっさと追い返した。
これは早速ヤる流れか。
エリアスにしてみれば、脱がせるために着せたようなものだからな。
この隊舎の俺とエリアスの部屋は、貴族階級の隊員が王宮内で待機するよう命じられた時に使用されていた三階にある二部屋で、風呂もついている。
三階にはこの二部屋だけで、四階は六部屋ほどあるが、同様に貴族用なので通常は全て空き部屋、五階は侍従や従僕など使用人たちの住まうフロアで、二階以下が平民の隊員と談話室や武器庫などの共有スペースだった。
つまり、治癒する度にセックスする俺たちにはお誂え向きというか、好都合というか、持ってこいの条件を兼ね備えた物件なのである。
ここまでくれば、いくらなんでももうお分かりだろう。
――そう、俺はこの度、なんと白騎士隊に入隊したのである。
どういう経緯でそうなったのか――。
それは、獣人領からヴェイラ王国へ戻り、エリアスの実家であるブルーメンタール辺境伯領のギュンター城に滞在して間もなくのことだった。
「白騎士隊に入らないか?」
かつて診療所で暮らしていたときのように、城内の救護院で治癒を日課にし始めた俺に、エリアスが突然そんなことを言ってきたのだ。
エリアスは時々こういうハーブかなにかやっておられるような発言をしてくることがある。
「……あのな、ここでエリーに残念なお知らせがあるんだが、親父と違って俺は攻撃魔法が使えない」
卑屈になってるわけじゃなく、勇者であるエリアスから見れば俺なんて戦闘力5のゴミだ。
精鋭部隊である白騎士隊の足手纏いにしかならないだろう。
治癒魔法なら、ナナセハ チユ チョットデキルが。
「知っている。救護要員としての勧誘だ」
「衛生兵かよ。それこそ白騎士隊には必要ないだろ」
超強い精鋭部隊で制服も汚れる暇もなく倒しちまうから、血の色が目立たない暗色である必要がなくて、寧ろ警戒色として暗闇でも目立つ白が採用されてるって聞いたぞ。
ソースは吟遊詩人だ。
「主な業務内容は隊員の救護ではない。勿論、隊員が怪我をしたらそのときは世話になるが、基本的には現地の人々の救護に当たって欲しい」
詳しく話を聞いてみると、白騎士隊の出動命令が下るのは、他の部署で捌き切れなかった案件が多いのだという。
そのため、白騎士隊が現地へ到着する頃には、すでに甚大な被害が出た後で、とりあえず敵を片付ける任務だけに徹して帰投するしかなく、重傷者などがいても何もできず、苦い思いをしているのだとか。
「隊の人事は、隊長の私に一任されている。ナナセがいてくれたら、そういった憂いも取り除けると思うんだ。考えておいてくれ」
――そういうことか。
この手の言葉を額面通りに受け取ってはいけない。
つまりエリアスは、俺に居場所を作ってくれようとしているんだ。
診療所での生活にはもう戻れないだろうことは薄々気付いていた。
辺境伯領での生活も気に入っていたし、エリアスの実家の人たちや領民も、俺とエリアスがこの地に留まることを望んでいるだろうけど、ここは俺の居場所ではない。
かといって、獣人領のアルブム城やヴェイラ王国のヴェルスパ宮殿でのような実質幽閉生活には戻りたくない。
なんてこった。
こうして考えてみると、この世界に俺の居場所って、本当にエリアスの隣しかなくね?
自分で選んだつもりでいたのに、実は俺の居場所はそこしかなかったというのは衝撃的な事実だった。
結局、ここでは俺は異世界人なのだ。
エリアスは「考えておいてくれ」なんて言ったけど、実際は俺には他の選択肢なんて残されていない。
エリアスは四年間の休暇――じゃなくて、俺の警護任務を命じられているのだから、実質遊んでたっていいのに、俺に居場所を作るために通常業務に戻ろうとしてくれている。
翌朝、俺は一晩考えた振りをしてエリアスの勧誘を受けたのだった。
自分で付けるとどうしても不格好になるし、TPOに合うかどうか俺には判断しかねるから、エリアスに選んで付けて貰っている。
こういうのって俺の感覚からするとチャラいんだけど、この世界では男が髪を伸ばすのもリボンを付けるのも普通のことだし、そういう文化なんだと受け入れて、生花をケツの穴に活けられるんでなければ好きにさせることにした。
人前での過度な接触に俺が焦って仕立て屋の方をちらりと見ると、エリアスは「なんだまだいたのか」という顔をして、仕立て屋に心付けを渡してさっさと追い返した。
これは早速ヤる流れか。
エリアスにしてみれば、脱がせるために着せたようなものだからな。
この隊舎の俺とエリアスの部屋は、貴族階級の隊員が王宮内で待機するよう命じられた時に使用されていた三階にある二部屋で、風呂もついている。
三階にはこの二部屋だけで、四階は六部屋ほどあるが、同様に貴族用なので通常は全て空き部屋、五階は侍従や従僕など使用人たちの住まうフロアで、二階以下が平民の隊員と談話室や武器庫などの共有スペースだった。
つまり、治癒する度にセックスする俺たちにはお誂え向きというか、好都合というか、持ってこいの条件を兼ね備えた物件なのである。
ここまでくれば、いくらなんでももうお分かりだろう。
――そう、俺はこの度、なんと白騎士隊に入隊したのである。
どういう経緯でそうなったのか――。
それは、獣人領からヴェイラ王国へ戻り、エリアスの実家であるブルーメンタール辺境伯領のギュンター城に滞在して間もなくのことだった。
「白騎士隊に入らないか?」
かつて診療所で暮らしていたときのように、城内の救護院で治癒を日課にし始めた俺に、エリアスが突然そんなことを言ってきたのだ。
エリアスは時々こういうハーブかなにかやっておられるような発言をしてくることがある。
「……あのな、ここでエリーに残念なお知らせがあるんだが、親父と違って俺は攻撃魔法が使えない」
卑屈になってるわけじゃなく、勇者であるエリアスから見れば俺なんて戦闘力5のゴミだ。
精鋭部隊である白騎士隊の足手纏いにしかならないだろう。
治癒魔法なら、ナナセハ チユ チョットデキルが。
「知っている。救護要員としての勧誘だ」
「衛生兵かよ。それこそ白騎士隊には必要ないだろ」
超強い精鋭部隊で制服も汚れる暇もなく倒しちまうから、血の色が目立たない暗色である必要がなくて、寧ろ警戒色として暗闇でも目立つ白が採用されてるって聞いたぞ。
ソースは吟遊詩人だ。
「主な業務内容は隊員の救護ではない。勿論、隊員が怪我をしたらそのときは世話になるが、基本的には現地の人々の救護に当たって欲しい」
詳しく話を聞いてみると、白騎士隊の出動命令が下るのは、他の部署で捌き切れなかった案件が多いのだという。
そのため、白騎士隊が現地へ到着する頃には、すでに甚大な被害が出た後で、とりあえず敵を片付ける任務だけに徹して帰投するしかなく、重傷者などがいても何もできず、苦い思いをしているのだとか。
「隊の人事は、隊長の私に一任されている。ナナセがいてくれたら、そういった憂いも取り除けると思うんだ。考えておいてくれ」
――そういうことか。
この手の言葉を額面通りに受け取ってはいけない。
つまりエリアスは、俺に居場所を作ってくれようとしているんだ。
診療所での生活にはもう戻れないだろうことは薄々気付いていた。
辺境伯領での生活も気に入っていたし、エリアスの実家の人たちや領民も、俺とエリアスがこの地に留まることを望んでいるだろうけど、ここは俺の居場所ではない。
かといって、獣人領のアルブム城やヴェイラ王国のヴェルスパ宮殿でのような実質幽閉生活には戻りたくない。
なんてこった。
こうして考えてみると、この世界に俺の居場所って、本当にエリアスの隣しかなくね?
自分で選んだつもりでいたのに、実は俺の居場所はそこしかなかったというのは衝撃的な事実だった。
結局、ここでは俺は異世界人なのだ。
エリアスは「考えておいてくれ」なんて言ったけど、実際は俺には他の選択肢なんて残されていない。
エリアスは四年間の休暇――じゃなくて、俺の警護任務を命じられているのだから、実質遊んでたっていいのに、俺に居場所を作るために通常業務に戻ろうとしてくれている。
翌朝、俺は一晩考えた振りをしてエリアスの勧誘を受けたのだった。
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