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最終章 砂漠の薔薇

〇〇一 「能う限り」③ ※エリアス視点

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「彼奴ならお前を逆恨みして唯一の弱点であるナナセを狙ったとしてもおかしくはないな。至急、幽閉先へ連絡を取らせ、結果は追って知らせる。お前はお前で動け」

あの事件の後マキシミリアンは失脚し、今は王位継承権を放棄する魔法契約書に署名させられ修道院に幽閉されているはずであるが、土の精霊の加護を持つ呪術士の協力があれば抜け出すことは容易いだろう。
何しろ土の精霊は土の中であれば空間移動が出来るのだ。
勿論、修道院にも魔法防壁はあるが、相手が呪術士となると話は変わってくる。
呪術の歴史は魔法よりずっと古く多岐に亘るため、未だによく分かっていないものも多い。
北の宇宙ウルソナの呪術士の扱う呪詛であれば、恐らく一般的な呪詛防壁程度ではすり抜けられてしまうだろう。
実際に、修道院より遥かに強固な呪詛防壁が張られているヴェルスパ宮殿さえも突破されたのだ。
尤もその呪詛防壁は件の呪術士が張った可能性もあるのだが。

しかし、またあいつか。マキシミリアン。
四大精霊の加護を持つ私には手出し出来ないから加護のないナナセを狙ったか。
何と卑劣なやり口だ。

「来賓中の各国首脳に捜索協力の通達は出しておく。転移門でも何でも好きに使え。国外活動も許可する。ただし定時連絡だけは怠るな。それと……」

ルートヴィヒ陛下はそこで一旦言葉を切り、僅かな逡巡の後、続ける。

「マキシミリアンと呪術士は、あたう限り生きて捕らえよ」

私はその言葉の意味を正確に受け取った。
あたう限り――即ち、それが叶わないときは、うっかり殺してしまっても私を罪には問わないという命だ。
半分とはいえ血の繋がった兄の処刑命令は出すわけにはいかない陛下が私に対して現在出来る最大限の配慮だと言える。
私は陛下の気持ちを汲んで謹んで拝命した。

「……しかし、どうしてお前たちはここぞという時に必ずと言っていいほど横槍が入るんだ。いっそ感心するな」

どうしてと理由を問われたら、その回答は私がナナセを愛したからに他ならない。
私の行いに対する恨みつらみが私に向けられているうちはいいが、そう出来ないと知るや、それらが全て私の唯一の弱点であるナナセに向く。
きっと私などに愛されなければ、ナナセは誰に恨まれることもなく、皆に愛されて平穏に暮らしていられたのだ。
けれど、そうと分かっていても私にはナナセを離してやることなど出来ない。

ナナセなら、愛することは罪ではない、良からぬことを企てる方が悪いのだと言ってくれるだろう。
私はそんなナナセに甘えていた。

――ナナセに会いたい。

ナナセは今頃どこでどうしているのだろう。
酷い目に遭わされていないだろうか。
私を必要としていないだろうか。
寂しがってはいないだろうか。
また悪夢に魘されていないだろうか。
腹を空かせてはいないだろうか。
ナナセは然して量は食べないくせに妙に食べ物に執着するところがある。
それに大胆かと思えば、とても臆病で怖がりだ。
なのに何故か虚勢を張る。
きっとどこかで怯えて泣きながら私の助けを待っているに違いない。

だがしかし考え得る限り最も恐ろしいのは、私の居ないところで致命傷を負い、已む無く治癒術を使わざるを得なくなって贄を捧げられずに苦しんでいないかということだった。
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