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最終章 砂漠の薔薇
〇一七 聖者キック
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陛下とその側近たちが去ってしまうと室内には俺とエリアスだけが残された。
「ナナセ、抱き締めさせてくれ」
頷くと少し強引に抱き寄せられる。
ぐっと距離が近くなり、俺もおっかなびっくりエリアスの背中に手を回した。
そうするとエリアスの良い匂いがして凄く安心する。
それに、抱き合っているだけなのにこんなに気持ちが良い。
知らず、ほっと息を吐くと、エリアスが俺の頭に頬を擦り付けてきて、俺たちは暫くそうしていた。
「……一時も目を離すべきではなかった。全身全霊を傾けて護ると誓ったのに私は少しも護れていない。最愛の人すら護り切ることも出来ず勇者などと名ばかりだな。最早言い訳もできない。こんな男が結婚相手と分かってがっかりしたか?」
エリアスの言い様に俺は驚いて顔を上げた。
「どうして! がっかりなんかするもんか! エリアスは俺をちゃんと助けに来てくれただろ! 俺はあそこで惨めに死ぬんだと思ってた! けどエリアスが俺を見付けてくれた! 救い出してくれた! エリアスは俺の英雄だ! 俺の英雄を辱めるようなことを言ったら例えエリアスでも許さないからな!」
感情のまま一息に捲し立てると、エリアスは呆気にとられたように瞠目していたが、ややあって俺を抱き締めていた腕を解くと今度は俺の両頬を包み込んだ。
「……ナナセ、口付けてもいいか? 今とてもナナセを愛したい」
そう言ったエリアスの淡褐色と淡緑色の混ざり合う榛色の瞳には情熱の炎が点っている。
「エリアス、あのちょっと待って!」
だって俺、キスしたことねーし!
してたのかも知らないけど、覚えてねーし!
初めてと変わんねーんだよ!
「エリーだ。ナナセは私のことをエリーと呼んでいた。エリーと呼んでくれ」
「エ、エリー、エリーあの、あのな……実は俺、こういうことしたことなくて……あ、いや、前はエリーとしてたのかも知れないけど、俺いま記憶がないからその、な……」
何やら気恥ずかしくてしどろもどろになってしまったが、エリアスなら察してくれるだろ?
察してくれ頼むから!
「知っている。ナナセのファーストキスの相手は私だからな」
「そーなのか!?」
「今度もまたナナセの初めてを私にくれないか」
淡褐色と淡緑色の混ざり合う榛色の瞳が俺だけを映している。
「も、貰ってくれ……」
こういうこと言わせんなよ恥ずかしい!
恥ずかしくってもう目を合わせられなかったからぎゅっと瞼を閉じた。
俺いまきっと顔真っ赤だ。
だって頬も耳もこんなに熱い。
心臓だって物凄くドキドキしてる。
自分の心臓の音に気を取られている間に密やかな息遣いが間近に迫り、柔らかいものが俺の唇に押し当てられた。
それから唇を食まれたと思ったら歯列を割って侵入してきた舌に口腔内を蹂躙されて腰が砕ける。
絡め取られた舌の根元を軽く吸われてはもう立ってなどいられない。
危なげなく腰を支えてくれるエリアスの首に俺は夢中でしがみついた。
キスってこんなに気持ち良いものなのか……。
口腔内を犯されながらうっとりと薄目を開ければ、同じタイミングで目を開けたエリアスの榛色と視線が絡んだ。
そうして不図、エリアスの肩越しに視界に飛び込んできた光景に俺はぎょっとしてキスを中断した。
否、せざるを得なかったのである。
エリアスを恐れてか部屋の中にこそ入ってこないものの、廊下には物凄く沢山の人が集まって来ていたのだ。
身形もいいし、王宮内にいるからには貴族や騎士なのだろう。
突然キスを中断した俺にエリアスは不満そうだったが、それどころではない。
「な、なに……?」
俺のその言葉を問いかけと取ったのか、そのうちの一人の中年貴族がエリアスの様子を窺いながら恐る恐る進み出て、言う。
「……あのう、こちらで『聖者キック』を受けられると聞いたのですが、まだ間に合いますか?」
OK!
全員そこに一列に並べ!
「ナナセ、抱き締めさせてくれ」
頷くと少し強引に抱き寄せられる。
ぐっと距離が近くなり、俺もおっかなびっくりエリアスの背中に手を回した。
そうするとエリアスの良い匂いがして凄く安心する。
それに、抱き合っているだけなのにこんなに気持ちが良い。
知らず、ほっと息を吐くと、エリアスが俺の頭に頬を擦り付けてきて、俺たちは暫くそうしていた。
「……一時も目を離すべきではなかった。全身全霊を傾けて護ると誓ったのに私は少しも護れていない。最愛の人すら護り切ることも出来ず勇者などと名ばかりだな。最早言い訳もできない。こんな男が結婚相手と分かってがっかりしたか?」
エリアスの言い様に俺は驚いて顔を上げた。
「どうして! がっかりなんかするもんか! エリアスは俺をちゃんと助けに来てくれただろ! 俺はあそこで惨めに死ぬんだと思ってた! けどエリアスが俺を見付けてくれた! 救い出してくれた! エリアスは俺の英雄だ! 俺の英雄を辱めるようなことを言ったら例えエリアスでも許さないからな!」
感情のまま一息に捲し立てると、エリアスは呆気にとられたように瞠目していたが、ややあって俺を抱き締めていた腕を解くと今度は俺の両頬を包み込んだ。
「……ナナセ、口付けてもいいか? 今とてもナナセを愛したい」
そう言ったエリアスの淡褐色と淡緑色の混ざり合う榛色の瞳には情熱の炎が点っている。
「エリアス、あのちょっと待って!」
だって俺、キスしたことねーし!
してたのかも知らないけど、覚えてねーし!
初めてと変わんねーんだよ!
「エリーだ。ナナセは私のことをエリーと呼んでいた。エリーと呼んでくれ」
「エ、エリー、エリーあの、あのな……実は俺、こういうことしたことなくて……あ、いや、前はエリーとしてたのかも知れないけど、俺いま記憶がないからその、な……」
何やら気恥ずかしくてしどろもどろになってしまったが、エリアスなら察してくれるだろ?
察してくれ頼むから!
「知っている。ナナセのファーストキスの相手は私だからな」
「そーなのか!?」
「今度もまたナナセの初めてを私にくれないか」
淡褐色と淡緑色の混ざり合う榛色の瞳が俺だけを映している。
「も、貰ってくれ……」
こういうこと言わせんなよ恥ずかしい!
恥ずかしくってもう目を合わせられなかったからぎゅっと瞼を閉じた。
俺いまきっと顔真っ赤だ。
だって頬も耳もこんなに熱い。
心臓だって物凄くドキドキしてる。
自分の心臓の音に気を取られている間に密やかな息遣いが間近に迫り、柔らかいものが俺の唇に押し当てられた。
それから唇を食まれたと思ったら歯列を割って侵入してきた舌に口腔内を蹂躙されて腰が砕ける。
絡め取られた舌の根元を軽く吸われてはもう立ってなどいられない。
危なげなく腰を支えてくれるエリアスの首に俺は夢中でしがみついた。
キスってこんなに気持ち良いものなのか……。
口腔内を犯されながらうっとりと薄目を開ければ、同じタイミングで目を開けたエリアスの榛色と視線が絡んだ。
そうして不図、エリアスの肩越しに視界に飛び込んできた光景に俺はぎょっとしてキスを中断した。
否、せざるを得なかったのである。
エリアスを恐れてか部屋の中にこそ入ってこないものの、廊下には物凄く沢山の人が集まって来ていたのだ。
身形もいいし、王宮内にいるからには貴族や騎士なのだろう。
突然キスを中断した俺にエリアスは不満そうだったが、それどころではない。
「な、なに……?」
俺のその言葉を問いかけと取ったのか、そのうちの一人の中年貴族がエリアスの様子を窺いながら恐る恐る進み出て、言う。
「……あのう、こちらで『聖者キック』を受けられると聞いたのですが、まだ間に合いますか?」
OK!
全員そこに一列に並べ!
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