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番外編 聖者の取説

聖者の取説④

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つまり四大精霊魔法が一切使えないのに闇魔法や転移魔法が使えるナナセがイレギュラー中のイレギュラーなのだ。
私から見れば、凡庸な四大精霊魔法より、高位の魔法士しか使えない転移魔法や失伝したはずの闇魔法を使える方が遥かに稀少価値が高いのだから何も気に病むことはないと思うのだが、ナナセはどうしても気になって仕方がないようである。

寒さに弱いのは精霊の加護がないせいもあると言われ、面白くなさそうに口を尖らせているのが可愛くて、抱き寄せて暖炉の前に置かれた一人掛けのソファーに座れば、もぞもぞ動いて座りの良い位置を見付け大人しく膝の上に収まってくれた。
しかし、ナナセがこれほど寒さに弱いとなると、結婚式当日のナナセの寒冷対策を早急に考えなければならないだろう。
少し目を離した隙に死んでしまうのではないかと気が気ではない。

「ところでナナセ、グッピーとは何だ?」
「観賞用の熱帯魚だよ。温度差に弱いんだ」

丁度そこで二杯目のグリューワインが運ばれて来て、酒精アルコールの力で饒舌になったナナセと他愛もない話をしているうちに、気付けばナナセはすっかり出来上がっていた。

「だーかーらー、俺はー寒いのはー駄目だけどー、暑いのはー……駄ー目ー!」

ナナセは上機嫌でんふんふ含み笑いをしながら猫みたいにぐにゃぐにゃになってしな垂れかかってくる。

「……ナナセ? それでは寒いのも暑いのもどっちも駄目なのではないか?」

酔っ払いに正論を説いてみたものの、ナナセは喉の奥でんふんふ笑っているだけでやはり分かっていないようだ。
ナナセは二十歳の誕生日に酒を解禁したのだが、ワインやビールは余り好きではないらしく偶にスパークリングワインを舐める程度だった。
だからどの程度飲めるのかは私はも把握していなかったのだ。
それにしてもグリューワインたった二杯でここまでベロベロに酔えるとは、ナナセの行動は何故毎回こんなに予測がつかないんだ。

「ナナセ、酔っているだろう。着いたばかりだが今日のところはもう休んだ方がいい」
「やーだ♡ 酔ってーないっ♡ 俺はー♡ 酔ってーないっ、ぜっ♡」

酔っ払いは皆そう言う。絵に描いたような酔っ払いだ。
酔っ払いに絡まれるのは御免だが、こんなに愛らしい酔っ払いなら私は進んで絡まれにに行く。

「どうやらナナセは酒が弱いようだ」
「ちげえってー♡ 俺がー♡ 弱いんじゃー♡ ねーもーんー♡ さっきのー♡ ベージュ脂肪細胞とおんなじだもーん♡」
「どういうことだ?」
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