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しおりを挟む夜更け。アルディスの寝室の扉を小さくノックした。
「入って」
「…失礼します」
扉の先には書物を片手に椅子に腰掛けているアルディスがいた。
「悪い、疲れてるだろうに」
「いや…そっちこそ、今大変だろう」
「ああ、本当に面倒だよ」
アルディスが眉を潜めて本に目をやる。よく見たら隣国に関する本だ。
「それで…話って?」
アルディスのティーカップにハーブティーを注ぎながら話を切り出す。
香りの良いハーブティーを少し口に含み、俺の方をチラリと見遣った。
その様子にいつもと違う雰囲気を感じる。
なんだ…なんの話だろう。俺、何か粗相をしたのだろうか。まさか…クビ…?
一瞬で冷や汗が背中を伝う。
「何か勘違いしてないか?お前が考えてるようなことじゃないよ」
「ほ…本当?」
「当たり前だろう。その変にネガティブな思考回路はいい加減捨ててくれ」
アルディスには俺の考えがわかるようで、俺の不吉な予感は一蹴された。
呆れた顔を浮かべていたアルディスだが、またすぐに顔を曇らせた。
「レイン…ずっと俺の側に居てくれるよな?」
「…アルディス?」
なんでそんなこと…
アルディスは笑ってるけど、目が…まるで縋るような、自信なさげな瞳を俺に向ける。
なんでそんな目をするんだよ…。何が不安なんだろう。俺に出来ることなら何だってするから。
「ずっといるよ。アルディスが俺を見つけてくれたあの時から、俺はアルディスのものだ。」
そう言った俺を目を見開いて見つめるアルディス。
な、なんだ…そんなおかしいこと言ったか?
でも本当のことだ。あの日手を差し伸べてくれた優しい貴方のおかげで、俺は今こんなにも幸せだ。アルディスの側にいられることが、何よりも幸せだ。
「…じゃあ、誓って。」
「え?」
「ーーーーっ」
気づけばアルディスの瞳が見切れるほど近くて。唇には今まで触れたことないくらいの柔らかい何かが触れていて。頬を包む手は、いつもより熱かった。
「な…に…」
「…誓いだよ。レイン、最上級の誓いを。」
ふわりと笑うアルディスの笑顔はいつも通りのはずなのに、何か違う。
熱を孕んだエメラルドグリーンの瞳が何故か俺を捉えてる。
「最上級の誓い…?」
「王族と結ぶ、1番深い絆だよ。俺と結んでくれるだろう?」
「え…あっ……ん」
上手く言葉を紡げない俺の口に追い討ちをかけるようにまた唇に触れられる。
何言ってるんだよ…誓いとか絆とか、俺はとっくに…っ
「言ってるだろ、俺はアルディスのものだって!」
「うん…嬉しい。だから、俺だけのレインだって証明がほしいんだ。」
「証明?どうやって…」
その言葉に笑みを浮かべるアルディスは、何だか別人みたいでドキドキする。
手を引かれて誘われた場所は寝台。
やばい、王の寝台に上がるなんて不敬罪で首をはねられる!
「ア、アルディス!さすがにだめだ…」
「何、ここまできて引くのか?」
「違う、いくら何でも不敬だろ…!」
「そんなこと…誓いはここでしか成立しない。」
「一体何をするつもりなんだよっ」
「…まだ気づかないのか」
はぁと呆れ顔でこちらをみるアルディス。
しかし本当にわからない。そもそも王族の誓いなんて聞いたことがない。王宮にきてそれなりに勉強をしてきたけど、思い当たる節がない。
するとアルディスはゆっくりとその手を俺のシャツに手掛けた。
ボタンが1つ、また1つ外されていく。
今まで見たこともない様子のアルディスが少し、怖い。
「…アルディス?」
「証明が欲しいって、言っただろ?」
そう言ってアルディスは、顕になった俺の首筋に顔を埋め、唇を這わせた。
チクッとした痛みが走り、身体がビクリと反応する。
ここまできたら、色恋に疎い俺にだってわかった。
首筋には赤い、赤い花が浮き出す。
「証明してレイン。レインの全ては俺だけのものだって」
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