陽気な吸血鬼との日々

波根 潤

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出会い

二、

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 「お母さんね、吸血鬼に助けられたことがあるのよ」
「何いきなり突拍子もないこと言い出すの」

 母の作った不格好なホットケーキを食べながら、その話を聞いた。母はお菓子作りが好きなようだけど、美味しければ良いだろうとあまり形を気にしないせいで、ふっくらとした半月のようなものや、なめ茸の蓋のような小さなものなどが山盛りに皿に積み重ねられていた。それを各自、蜂蜜とかジャムとかをつけて食べるのがニ、三か月に一回程の楽しみだった。

 「本当よ!ちょっとおじさんだったけど、とってもかっこよくて、綺麗な青い瞳をしてて、ジェントルマンだったわ」
「お母さん、アイドルのカケルくんのこと好きって言ってなかった?可愛い系の人が好きなんじゃなかったの?」
「妄想の話じゃないっての」

 いちごジャムが塗りたくられたホットケーキを俺の取り皿に置かれる。二枚塗って、一枚だけ食べて飽きたらしい。いちごジャムよりピーナッツバターで食べたかったけど、仕方なく口に運ぶ。

 「お母さんが小学生の時のこと。次の日に音楽の歌のテストがあるのに、喉がイガイガしてちょっと微熱もあったのよ。授業中に先生から褒められて嬉しくなってたくさん練習したから、そのせいでね。あー、やり過ぎた。これじゃ折角練習したのにテスト合格しないよーって夜布団の中に入ってたら急に窓が開いて、知らないおじさんが入ってきたの!」
「不審者じゃん」
「そうよね!それで、悲鳴をあげかけたけど、今悲鳴あげたらもっと喉痛くなる!そうなったら歌のテスト自体受けられなくなる!って思って我慢したの」
「我慢しちゃ駄目でしょ。どんだけ歌のテストに必死だったの」
「あんたも小学生なんだから分かるでしょ!」

 (わからない。給食くらいにしか必死になることがない。)

 いちごジャムホットケーキを牛乳で流し込みながら、母の手元のホットケーキにピーナッツバターが塗られるのを見る。

 「だけどそのおじさんに吃驚はしても怖いとは思わなかった。不思議よね?何か話しかけられたけどよく聞き取れなくて、ぼーっとおじさんを見てたらいきなり手首に噛みつかれて、血を吸われたのよ」
「なんで手首?首じゃないの?」
「さぁね。あ、でも喉治したくて首にタオルぐるぐる巻いてたからかもしれない。流石に助けに来てもらおうかと思ったけど意外と噛まれてる所痛くなかったし、時間も五秒くらいだったからすぐに終わったから、しそびれちゃって。不思議なことにその後のことは曖昧なんだけど、いつの間にかおじさんはいなくなってて、窓が開いたままだった。『窓くらい閉めてよ』って起き上がると驚いたことに身体がすっごく軽かったの。喉のイガイガが無くなってて、微熱もひいてた。あのおじさんは血と一緒に体の悪い所も吸い取っていってくれたって気づいて、吸血鬼じゃなくて吸血神様だわって感謝したわ。おかげで歌のテストは合格したし、その日の抜き打ち漢字テストも満点だった!」
「最後関係無くない?」
「気持ちの問題!家に帰ってきて、吸血鬼に手紙を書いたの。『あなたが治してくれたおかげで歌のテストに合格できました。ありがとう』って。だけどそれ以来一度も吸血鬼には出会ってないわ。手紙もどこかにしまいこんじゃった。それでも、いつかまた会えたら聞いてみたいわ。なんで私を助けてくれたのかって」
「夢だったんじゃない?」
「あんたは本当にロマンがない!」

 そう言ってピーナッツバターが塗られたホットケーキにガブリと噛み付いた。残念なことに母が塗ったことで、瓶の中身は空っぽになってしまった。

(ロマンよりピーナッツバターが欲しい。)

 小学校四年生の俺はそう思った。




 あの時、楽しそうに話す母の姿に呆れながら聞いていたが、作り話にしては本人の熱量が高くて、熱に魘されて見た夢を現実のことと勘違いをしてるんだろうと思った。大人になれば「あれは夢だった」と気づきそうなものだが、そういう夢を母親になっても信じていて、嬉々として息子に言い聞かせるところがあの人らしく、二人での生活は楽しかったなと、ふと懐かしんだ。

 だけどもしかしたら、母の言っていたことは夢ではなかったのかもしれないと、目の前の男の言葉を聞いて思った。
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