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第七話 『ウシ達を飼う!』
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「牛?」
ある晴れ渡る空の下。
アオイの父「ルーファン」さんは、家に来るなり「ウシが欲しくないか?」と聞いてきた。
「ああ。知り合いの牧場主が年で、飼っているウシやヒツジ、鶏を手放す事にしたらしくてな。欲しい奴に渡すって言っているんだ」
「引き取り手が居なかったら、飼ってるウシ達はどうなるんですか?」
「普通なら売り出すか処分だが、愛情いっぱいに育てたウシ達に値段はつけたくないし、処分するのも嫌らしくてな、出来れば欲しい奴に飼って欲しいって言ってるんだ」
正直、ウシは物凄く欲しい。
ウシ小屋は建ててはいるけど、まだ一頭も飼えていない。今までウシは鶏より高くて、飼いたくても飼えずにいた。そのせいもあって、暫くウシを飼うのは諦めていたけど、ルーファンさんの話しに僕は心が揺らぐ。
「あの……本当にタダで譲ってもらえるんですか?」
「ああ、本人の話ではな。まぁ、直接会って話してみないと分からんが……」
ルーファンさんが言うのも一理ある。交渉次第で多少の出費があっても文句は言えない。きっと、普通に買うよりも安いはずだし、話しをしてお互い納得がいかなければ話を見送る事だって出来る。そんな考えで、僕はルーファンさんの話しにのり、その知り合いだという「牧場主」に会うことにした。
数日後。
僕は、ルーファンさんが手綱を引く馬車に乗って、例の牧場主の家に向かっている。
「コルタおじさんに会いに行くの楽しみだなぁ~」
「アオイ。今回は遊びに行くんじゃないんだぞ?」
「分かってるよ。でも、久しぶりに会うんだから仕方ないじゃん」
ルーファンさんが知り合いの牧場主は「コルタ」さんというらしく、アオイも何度か会ったことがあって気さくで優しい人だいう。
「そう言えば、そのコルタさんの家ってどこにあるの? 大分街から離れたけど……」
「言ってなかったか? 隣村の「フノス」だ」
フノス村は、農場や牧場が盛んな村で、あちこちに広い畑や牧場がある。この村は、小さい村だけどここで作られている野菜や畜産物は「高級品」とも言われるくらい品質が高い。特に生乳を加工した「チーズ」は王宮も取り寄せているくらい有名だ。とはいえ、僕はこの村のチーズを一度も口にしたことがない。チーズ自体、値段が高く前の僕には手が届かない食材なのに有名なチーズって言われているからには、相当値段も高いだろう。なんせ、王宮が取り寄せるくらいだし。
「フノスって、農場とか牧場が盛んな村ですよね? コルタさんは、周りの人に譲ろうとはしなかったんですか?」
「俺もそれが気になって聞いてみたが、何でも今の牧場主は若者達が多く力はあるが、知識が全くなってないみたいでな。自分の育てたウシ達を渡したくないらしいんだ」
「な、なるほど……僕、コルタさんに会って直ぐに追い出されたりしません、よね?」
「さぁな。気持ちが優しく男気ある奴だが、少し気難しい所もあるからな。気に入られなかったら、そん時はそん時だ」
何処か嬉しそうに笑うルーファンさん。それを見て「やれやれ」と呆れるアオイ。本当に、無事にウシを手に入れることが出来るのか不安に思い始めた僕を乗せ、二頭の馬は止まることなく村に向かって走る。
草原を抜け、小道を走り二時間弱。
目的地、フノス村にあるコルタさんの家の前に僕達は着いた。
「ここが、フノス村……少しあの村に似てる」
「リット? どうかした?」
「あ、いや、何でもないよ」
フノス村は、僕の生まれ故郷に似ている。
田舎だからなのかそう感じてしまう。でも、あの村と違うところが一つだけある。それは、大人達は皆働き者で子供達には自由に遊ばせているということ。僕の生まれ故郷のあの村は、物静かで暗い村だった。大人も子供も「自由」がなく、周囲から見放された「貧しい村」だって僕は記憶している。
「コルタァ! いるかぁ?」
辺りを見渡しながらそんな事を思っていると、家の前でルーファンさんが声をかけた。すると、少しして扉が開き、中からエプロンを着たおばさんが顔を出した。
「あら、ルーファン。早かったわね」
「早めに出たからな。それでユンネちゃん、コルタはいるか?」
「あの人なら、裏の牧場にいるわ」
「そうか。裏にお邪魔してもいいか? 例の小僧を連れてきたんだ」
そう言うと、ルーファンさんは後ろにいる僕に目を向けた。
「は、初めまして! リットと言います」
「まぁ、アナタが……私は、コルタの妻でユンネと言います……」
「あ、あの~」
ユンネさんは、僕の顔をジッと見つめてくる。何か失礼な事をしたのかと緊張していると、ルーファンさんの方に視線を戻して言った。
「ルーファン。アナタが言っていた様な子には、私は思えないけど?」
「うっ……それは、み、見た目で判断しないようにだな……」
(一体、僕の事を何て話したんだろう……)
ユンネさんに言われ、顔をひきつるルーファンさんに、僕は苦笑いを浮かべた。
「そ、それじゃあ、裏にお邪魔するぞ?」
「どうぞ。リットくん、コルタは人見知りな部分もあるから、最初は素っ気なく思うだろうけど、悪い人じゃないからね……」
「ウシ達を我が子の様に大切にしている人だって、ルーファンさんから聞いているので、何を言われても僕は平気です。それに、話がなかった事になってもこれからの勉強にもなると思っているので」
僕は心配するユンネさんに笑みを浮かべて答えた。
僕にとっては、ウシを手に入れる為だけが目的じゃない。本物の牧場主と話をしたり、世話の仕方や僕が知らない事が学べる数少ない機会。だからか、話がダメになっても僕は牧場に関する知識が少しでも学べるならそれだけでも、大きな収穫だと思ってここに来ている。
ユンネさんと一旦別れ、家の裏にあるという牧場に、僕達は足を踏み入れる。
「コルタァ! いるかぁ?」
家の裏にある牧場は僕の家の土地よりも広く、ウシ小屋も広くて大きい、いわゆる「牛舎」と呼ばれるものだった。その牛舎が幾つもあり、その中からウシの声が聞こえてきている。その他にも「鶏舎」もあり、広い放牧地もある。自分の所とは比べ物にならない立派な牧場に僕は圧倒された。
「誰かと思えば、ルーファンか。それにアオイちゃんと……見慣れない奴もいるな」
「例の話をしに来たんだ。こいつが、前に話したリットだ」
「初めてまして、リットと……」
「ふん、本当に若造なんだな。村にいる若造に比べて軟弱に見えるが、それで牧場主が勤まっているのか、わしは疑問だがな……ついて来い」
顔を会わすなり、コルタさんはそう小言を言う。
気難しい人だって聞いていたし、村の若い牧場主の事も良く思っていない人だから、そう思われても仕方がないのかも知れないけど……だけど、初対面で言われて何とも思わない人もいない。少しだけ腹が立ちながらも僕はグッと我慢して、コルタさんの後をついて行く。
先に案内されたのは牛舎。
何十頭も飼育するこの牛舎の光景に言葉が出ない。
これが本気でやっている人との違いなんだと、僕は改めて自覚する。僕のはあくまでも「働きたくないから」とやり始めたことで、立派な牧場にしたいなんて思っていない。だけど、本物の牧場を目にすると自分がしていることは、牧場主に失礼な事なのかもと思えてしまう。コルタさんの小言は、牧場主だからこその言葉だったんだと牛舎を見て思った。腹が立つのは僕の方じゃなく、真剣に向き合っているコルタさんの様な人達が思う事だと心の奥で反省した。
「このウシ達は、わしが子ウシの頃から育てた我が子同然の存在だ。そんな可愛い存在を渡すんだ、それなりの知識がない奴には任せられない」
「……はい」
「お前には、ウシやヒツジ、鶏を飼育する上での基本的な知識はあるのか?」
コルタさんの言葉に、僕は少し考え込んだ。
「なんだ、自信がないのか? 牧場をやっている奴だと言われたが、見た目同様の奴だったか……だったら」
「……僕は、牧場のぼの字も知らないまま、牧場をやろうと考えてやっています。知識なんて全くないド素人です……」
「ほう。そんな正直に話すのか? 嘘をついても良かったんじゃないのか? ウシが欲しいんだろ?」
「ウシは確かに欲しいです。でも、嘘をついても、コルタさんには直ぐに気付かれてしまう。何年も続けてきたベテランの牧場主なら誰でも見抜けると思うので、嘘をつくよりハッキリ無知なド素人だって言った方が良いと思ったんです」
コルタさんの目を見てそう答えると、コルタさんは「フッ」と息を漏らし、笑い声を上げた。その声は牛舎中に響き木霊する。
「はははは。そんな糞真面目な顔で、正直に言うとはな。それも、無知のド素人と自分の事を言う奴は、若造の中で初めて聞く」
「そ、そうなんですか? 嘘を付いても、自分が不利になるだけだから言っただけなんですが……」
「不利?」
「はい。飼育の仕方とか牧場に関する話しとか聞かれて、答えられる自信がないので、嘘をついてそれがバレる方がなんかカッコ悪いと思って……」
「はははは。確かに知ったかぶりは、カッコ悪いな。見ていて腹も立つし、知らんのに知ったように言うなってな。まぁ、お前はちと素直すぎかもしれんが……わしはお前みたいな素直な奴は嫌いじゃない」
笑いながらコルタさんは言った。
さっきまで、怖いと思うくらい冷たい態度だったけど、それは僕の事を知ろうとしていたからなのかもしれない。ユンネさんも「人見知りな所もある」って言っていたし、そういうのもあってあんな態度だったのかもしれない。
「それで、リットと言ったか? 改めて、わしがここの牧場主のコルタだ。ド素人のお前さんは、本当にウシを飼う気があるのか?」
「長年牧場主をしているコルタさんには、恥ずかしい話ですが……ウシはとても飼いたいです!」
「ははは、良いな。ハッキリしている奴はもっと嫌いじゃない。だが、知識がない奴に我が子を預けるのは心配だ。お前さんがどこまで本気なのか、見極めてから判断するとしよう……ほら、二人は家にでも行ってろ。ここから先は、リットと二人で話がしたい」
コルタさんがそう言うと、ルーファンさんとアオイは「分かった」と答えて牛舎から出て行った。それを見送った後、僕はコルタさんから様々な事を教わった。
「……さて、何も知らんお前さんに、わしが知っている事を全て教えていく。最後に、わしが出す質問に答えられたら、ウシを引き渡す事にするが、お前さんは良いか?」
「はい。判断するのは、ウシを飼っているコルタさんだと思うので、それで良いです。それに、もしダメでもコルタさんの話は勉強になるので」
「ははは、そうか。なら、始めていくぞ? 先ずはだな……」
それから、コルタさんからウシの飼育の仕方や餌の事、良い乳にする為に心がけることなど色々な事を教えてもらった。コルタさんの話は分かりやすくて、記憶力だけは良い僕には、直ぐに覚えられた。それと同時に、コルタさんの話を聞きながら牧場を案内してもらい、目についた物を教えてもらったりしながら、気付けば日が傾き始めていた。
「……こりゃ、驚いたな。わしが話した事をちゃんと覚えてるとはな……」
「記憶力だけは良い方なので。それに、分かりやすく教えてくれたコルタさんのお陰です」
「いや、記憶力が良いにも程があるでしょ……一回聞いただけで全部覚えるなんて」
「リットくんと近い子達も村にはいるけど、ここまで覚えられる子は見たことがないね」
「紙に書かずに覚えるとは……やるな、小僧」
コルタさんを始め、ユンネさんもアオイも、それに何故か悔しそうに言うルーファンさんも、僕の記憶力に驚いていた。
僕の記憶力は物心付いた時には、人よりも良かった。でも、この記憶力が良い事で得したと思えたのはたったの二回だけ。一回目は、城で働いていた時。皆が探せずにいた資料の場所を僕はハッキリ覚えていて、その資料を渡して感謝された時。そして、二回目は今。
きっとこの記憶力がなかったら、何一つコルタさんの質問に答えられなかった。とはいえ、記憶力が良くてもそれをものにしなければ話にならない 。話を聞いているだけなら簡単に思えても、実際にやるのは難しい。それは、コルタさんの牧場を見て痛感したことだ。手を抜けば良いものは作れないし、何よりウシ達の生死を左右する事になる。一番しちゃいけないのは、ウシ達を「道具」として扱うことだと、コルタさんの話の中で、一番この言葉が胸に響いた。
「それで、コルタおじさん。リットにウシを任せそうなの?」
アオイがそう聞くと、コルタさんは「そうだなぁ~」と目を閉じた。少しして、目をゆっくりと開けて答える。
「わしが言ったことも理解して覚えているが、実際に世話をさせるとなれば不安な部分もある……」
「それじゃあ……」
「だが、リットは村の若造よりも頼れる奴だと思う。危なっかしい所はあると思うが、任せても良いだろう」
「え?」
「ほう、コルタをここまで言わせる若者がいるとはな」
「良かったね、リット!」
アオイはそう言って、僕に抱きついてきた。
「ア、アオイ!?」
「リットも喜びなよ! コルタおじさんが、リットにウシ達を譲ってくれるんだよ?」
「そ、そうなの?」
僕がコルタさんの方に目を向けると、コルタさんは笑って頷いていた。
「ほ、本当に良いんですか?」
「ああ。ウシの他に、ヒツジも鶏もいるがどうする?」
「え、え~と。取り敢えず、ウシは二頭、ヒツジは一頭、鶏は三羽、譲って欲しいです。今の僕には、それくらいが飼育するのに無理がない数だと思うので……」
沢山譲り受けても、飼育できなきゃ意味がない。家には五羽の鶏が既にいるし、クロハもトリエもいる。それに畑仕事もあるし、何より餌代が今以上に必要になる。
「確かに、十頭を急に世話をしろと言っても無理があるからな。世話に慣れた頃に一頭ずつ増やしていくのが妥当だろ。分かった、リットが必要とする数を用意する」
「ありがとうございます!」
「なに、礼を言うのはわしの方だ。ウシ達をよろしく頼む」
「はい!」
コルタさんとの話に区切りがついた時、小さく震えているルーファンさんに僕は気付いた。
「ルーファンさん、どうしたんですか?」
「話は済んだか? 小僧…… 」
「は、はい……」
「なら……いつまで俺の娘とくっついてるんだ!! 離れろ!!」
ルーファンさんの言葉に、僕はまだアオイに抱き付かれていた事に気付き、慌ててアオイを体から離した。
「ル、ルーファンさん! こ、これは、タダのハグですよ。話に夢中になって……」
「言い訳か! 人の前で、それも父親である俺の前で堂々と……良い度胸だな」
「ル、ルーファンさん! 話を聞いてください!」
「お前の話なんか聞けるか! 覚悟しろ!」
「うわぁぁぁぁ!」
こうして僕は、体格が良いルーファンさんにしごかれ、クタクタの状態で家に帰ることになった。この程度で済んだのは、コルタさんとユンネさんのお陰だ。
娘のアオイがどんなに言ってもルーファンさんは止まらなかったのに、コルタさんとユンネさんの言葉にルーファンさんは止まった。
「やれやれ。ルーファン、年頃の娘にあまり干渉しないの。嫌われるわよ?」
「そうだぞ? 今時の娘は何でも口を挟む親を嫌がるらしいからな」
そんな事を聞いたルーファンさんは、アオイの顔を見て焦りだし僕から離れた。アオイがルーファンさんに向けていた顔は、僕も見たことがない物凄く冷たい目をしていたというより、ルーファンさんの行動に引いていたんだと思う。その甲斐もあって、僕はこうして生きて帰ることは出来たんだけど……前よりもルーファンさんに敵意を向けられそうで凄く怖い。また同じ様な事があったら、果たして僕は生きているのだろうかと命の危機を感じた瞬間だった。
「それじゃあ、また来るからな……次、娘に手を出したら……」
「父さん?」
「な、何でもないぞ、アオイ! ま、またな小僧!」
「あははは。また明日ぁ~」
僕を家まで送ると、二人は家に帰って行く。
それを見送った後、僕は畑と鶏の様子を確認してから家の中に入り、温かい湯に浸かった。
「今日は、物凄く疲れたなぁ~」
「クウ~ン」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ、トリエ。 お前のお陰でこれ以上に疲れなかったんだから。ありがとう」
犬嫌いだった僕はトリエと過ごしていく中で、気付けば「犬」というより「家族」と思うようになって普通に触れる様になった。近づいてきても、驚かなくなったし、今となってはトリエが居てくれることに感謝すらしている。トリエは僕に言われなくても、時間になると鶏を外に出したり、外に出している鶏を小屋に誘導してくれるし、時間も教えてくれるから物凄く助けられている。
「そうだ、トリエ。明日、新しい仲間が増えるんだ。トリエの力を貸してくれる?」
「ワン!」
「ありがとう。頼りにしてるぞ、相棒!」
「ワン!」
僕は尻尾を振るトリエの頬をわしゃわしゃと両手で撫でた。
それから二日後の朝。
ウシ達を乗せた馬車に乗って、コルタさんとユンネさんが家に来た。その馬車には、ルーファンさんも道案内役で乗っていた。
「小僧、ちゃんと起きていたな」
「畑仕事もあるので……」
「ほう、リットは畑もやっているのか」
「はい。今は、それが主な収入源なんです」
そう話すとコルタさんは聞いてくる。
「鶏を数羽飼っているんだろ? 卵も売り出しているのか?」
「はい。卵は数が野菜に比べて少ないから、あまり売りに出せていないんです……」
「なるほどな。リット、鶏の種類で値段も変わるのは知っているか?」
そう言われ僕は「知ってる」と答えた。
鶏は三種類いて、白い卵、茶色い卵、そして小さい卵を生む。どの鶏も見た目が違うから見分けはつくけど、飼育の仕方や育てる環境が全く違う。だから、一緒に育てるのは難しいとされていて、中でも、小さい卵を生む体の小さな鶏は少しの環境の変化で体調を崩したり、最悪死んでしまう。だから扱いが一番難しい鶏とも言われている。
「なら、話は早い。採れる数が少ないなら、種類で補えば良い」
「それって、他の二種類も一緒に飼育するって事ですよね?」
「そうだ」
「でも話だと、同時に飼うのは難しいって……」
そう言うと、コルタさんは笑った。
「ははは。確かにそうは言われているな。だが、同じ場所で育てなければそれぞれの生態に合わせて、飼育が出来るんだ。わしのところにも、白以外の鶏が数十羽いるんだが……見せなかったか?」
「み、見てません!」
「おう、そうか。なら、飼う気になったら言え。小屋の相談から乗ってやる」
「あ、ありがとうございます! その時はよろしくお願いします!」
そんな話をしていると、アオイが「二人とももう良い?」と聞いてきた。
「え?」
「ウシ達を小屋に連れていかないの?」
「あ! 今、やる!」
「おう、話に夢中で忘れていたな」
それから僕達は、コルタさんが連れて来た、ウシ達を急いで小屋に誘導する。ウシ達の新しい棲みかになる小屋を見て、コルタさんは意外にも感心していた。
「狭いが……造りは文句ないな。腕の良い職人が建てたのか見て分かる。この広さだと、大体五頭前後だな」
「流石ですね。小屋を建てる時にそのくらいの数を想定して設計してもらったんです」
「建てたのはその大工か?」
「はい。僕も一応作業はしたんですけど、殆どその人達が」
コルタさんは小屋を再度見渡しながら言った。
「そうか……これなら、別の小屋を建てるにしても安心して任せられるな」
「別の小屋?」
「当たり前だろ? 将来は、この倍のウシやヒツジを飼うことになるんだ。それなりの腕の大工じゃないと任せられんだろ」
「この倍って……僕にそんなに飼育できませんよ」
きっと今の数で精一杯だと思うのに、例え数頭増やしたとしてもコルタさんが言うような数を飼うなんて考えられないし、僕には無理だと思う。だけど、コルタさんは当然のように言う。
「なに言ってるんだ。一頭も二頭も同じだ。それが十頭、二十頭になった所でやることも同じで何も変わらん」
「そ、それは、コルタさんは長年やっているから出来ることだと思いますけど……」
「牧場主に年数は関係ないわい。慣れれば、お前さんも分かるさ」
コルタさんみたいに思えるようになるには、相当時間がかかると思う。でも、もしそんな風に思える日が来るなら、その頃の生活がどう変わっているのか知りたい気もするけど……やっぱり、今の僕じゃ無理だと思う。
「今は、目の前の事に慣れるのが目標なので。でも、いつかは、そうなりたいです」
「はは。お前さんなら直ぐにそう思う気もするが。まぁ、困ったら何時でも相談しろ」
そうコルタさんが言った時、ルーファンさんがコルタさんに声をかけた。
「コルタ。これは何だ?」
「ん? ああ、忘れるところだった。リット、お前さんに渡すものがある」
「なんですか?」
ルーファンさんがいる場所に、コルタさんが歩いていく。僕もその後を追って行くと、荷台から器具を下ろしているルーファンさんと、アオイがいた。
「これは……乳搾り器とブラシ?」
「ああ、あとはチーズを造る器具だな。チーズは普通の調理器具でも作れるが、時間と手間がかなりかかる。そこで、それを少しでも楽にするのがこの器具だ」
「昔と違って、便利な世の中になったよな」
「だな。わし達が若い頃は、全て手作業だったからな。乳搾りをするにしろ、チーズを作るにしろ。」
「だが、楽しかったよな。手間はかかるが、それも含めてやりがいを今よりも感じていたもんさ」
ルーファンさんとコルタさんは、自分達の若い頃を思い出しながら染々と話す。それを見ていたユンネさんが「全く、あの二人は……」と僕の傍に来て言う。
「あの二人、昔の話になると長いのよ。作業が進まなくて、ごめんなさいね」
「あ、いえ。やっぱり、昔と今は違うんですね。僕は牧場を始めてから日が浅いし、殆ど何も分からないでやって来たから、昔のやり方と今のやり方がどう違うのか全く知らないので……」
「そうね。昔は、どの仕事でも使う道具が単純な作りをしている物が多くてね。殆どが手作業だったの……」
例えば、一般家庭には必ず一本はあるスコップ。今は鉄で造られていて頑丈だけど、昔は木製が主流だった。だから、直ぐに壊れやすく木の板から手作業で形を作っていた事もあり、当時は高級品だった。だけど今は、同じ手作業でも型に鉄を流し込み固めるだけの簡単作業に変わったことで値段は安くなり、壊れにくくなったことで買う頻度も少なくなった。こんな風に道具が便利で長持ちするモノに変わった事で、働く人も昔よりは楽になったとユンネさんは話してくれた。だけど、ユンネさんの顔は楽になったというわりには浮かない顔をしている。
「でもね、昔ながらのやり方をしてきた人にとっては寂しくも思うんだよ。便利になるのは悪くないけど、ずっとしてきたやり方を否定されているみたいでね」
「もしかして、コルタさんが村の若者を良く思わないのって……」
「若い子は何も悪くないだけどね。お金になるからってだけで動物を道具の一部見たいに扱うのが許せないみたいなの。そんな風に考えているかも分からないのに……でも、私も時折見ていて思うの。人の欲で生き物を扱って良いのかって……」
村の若者達の事をコルタさんから少し聞いたけど、牧場主の若者達の殆どは僕みたいなド素人で、跡継ぎだったとしてもろくに手伝いもしなかった人もいて見様見真似で仕事を適当にやっていると呆れたように言っていた。だからコルタさんはウシ達を飼育する村の若者達を良く思っていないのかもしれない。
「だけどね。リットくんと知り合えて、私もあの人も同じ若い子でも、ちゃんと知ろうとしてくれる真っ直ぐな子がいるんだって安心したの」
「長年していた人の話を聞くのは当たり前ですよ。それに、僕は何も知らないから、知りたかったんだけですよ……」
「そんな事はないわ。村の若い子が困っているから助言をしたりもした時があったんだけど、煙たがられてね。話を聞き流すように聞いていたみたいなの。それで余計に、ね」
「そうだったんですね……タダで話が聞けるのに勿体ない……」
話を聞いて本音を小さくこぼす僕に、ユンネさんは「ふふふ」と笑みを浮かべて言う。
「きっと、そういう所をあの人は気に入ったのかもね。私も、リットくんの事は素直で優しい子だって思っているわ」
親にも言われたことがない言葉を聞いて、僕は照れてしまった。そんな僕を見て、ユンネさんはまた微笑んだ。
その後、僕達はウシや鶏をそれぞれの小屋に入れ、乳搾り器やブラシ等は取り敢えず小屋にしまい、一休みすることにした。
「……こんなモノしかないんですが」
「いや、十分だ。リットは料理も出来るんだな。大したもんだ」
「ただのおにぎりですけど……」
昼時ということもあって、僕は皆を家に入れ簡単に作れるおにぎりとお茶を出した。
「私も握ったんだけど……ま、いっか。これで、作業は終わりなの?」
「そうだな。ウシ達も小屋に誘導したし、譲った道具も小屋にしまったからな……そうだ、リットに聞こうとしていた事があったのを忘れていた」
「何ですか?」
何かを思い出したコルタさんは言う。
「リット。ウシ達の餌の話なんだが、もし金的に厳しい様なら当面の間、わしが世話してやろうか?」
コルタさんの申し出は物凄く有難い。
鶏の餌代だけなら何とかなるけど、ウシ二頭にヒツジ一頭分の餌代もとなると少し厳しいなと少し思っていた 。売り上げがもう少し増えればそんなこともないのかもしれないけど、畑の事も考えれば「余裕」なんて嘘でも言えないのが現実。
「本当に良いんですか? 僕は凄く有難いんですが」
「なら、決まりだ。一ヶ月に一回、餌を持ってくるから覚えておけよ。用意してきた餌は大体一週間分だからな……明日にでも追加で餌を持ってくるか……」
「い、良いんですか?」
「良いも何も、ウシ達の為だ。お前の為じゃないからな? 勘違いするなよ、若造」
そう良いながらご機嫌な表情を浮かべるコルタさんに、ユンネさんは「素直じゃないね」と微笑み、ルーファンさんとアオイも笑みを浮かべていた。
それから暫く世間話をして、コルタさんは帰る前に、もう一度、ウシ達の様子を見てからユンネさんと帰って行き、それを僕と一緒に見送ったアオイとルーファンさんも帰って行った。
「それじゃあ、また明日!」
「うん、また明日」
アオイとルーファンさんを見送った後、僕は家に戻り一息吐く。
朝から慌ただしくてずっと話をしていたからなのか疲れを感じる。だけど、嫌な疲れじゃない。楽しい時間だったとも思えるから不思議だ。
それから僕は、畑の様子や小屋の戸締まりを再確認をして、何時もより少し遅めに眠りについた。
それから月に一度、コルタさんからウシ達の餌が届くようになり、新たな仲間が増えたことやルーファンさんがコルタさんを紹介してくれたことに感謝し、夏の青空を僕は見上げる。
これで、一段と牧場らしくなったとは思うけど、本番はこれから。ウシ達の世話に畑仕事、そして孤児院と路上での商売……やることは沢山ある。全てをこなせるか不安にもなるけど、何とかなると前向きに考える事にした。
『これは全て、働かないために必要なことだから!』
僕は、そう思いたい……。
ある晴れ渡る空の下。
アオイの父「ルーファン」さんは、家に来るなり「ウシが欲しくないか?」と聞いてきた。
「ああ。知り合いの牧場主が年で、飼っているウシやヒツジ、鶏を手放す事にしたらしくてな。欲しい奴に渡すって言っているんだ」
「引き取り手が居なかったら、飼ってるウシ達はどうなるんですか?」
「普通なら売り出すか処分だが、愛情いっぱいに育てたウシ達に値段はつけたくないし、処分するのも嫌らしくてな、出来れば欲しい奴に飼って欲しいって言ってるんだ」
正直、ウシは物凄く欲しい。
ウシ小屋は建ててはいるけど、まだ一頭も飼えていない。今までウシは鶏より高くて、飼いたくても飼えずにいた。そのせいもあって、暫くウシを飼うのは諦めていたけど、ルーファンさんの話しに僕は心が揺らぐ。
「あの……本当にタダで譲ってもらえるんですか?」
「ああ、本人の話ではな。まぁ、直接会って話してみないと分からんが……」
ルーファンさんが言うのも一理ある。交渉次第で多少の出費があっても文句は言えない。きっと、普通に買うよりも安いはずだし、話しをしてお互い納得がいかなければ話を見送る事だって出来る。そんな考えで、僕はルーファンさんの話しにのり、その知り合いだという「牧場主」に会うことにした。
数日後。
僕は、ルーファンさんが手綱を引く馬車に乗って、例の牧場主の家に向かっている。
「コルタおじさんに会いに行くの楽しみだなぁ~」
「アオイ。今回は遊びに行くんじゃないんだぞ?」
「分かってるよ。でも、久しぶりに会うんだから仕方ないじゃん」
ルーファンさんが知り合いの牧場主は「コルタ」さんというらしく、アオイも何度か会ったことがあって気さくで優しい人だいう。
「そう言えば、そのコルタさんの家ってどこにあるの? 大分街から離れたけど……」
「言ってなかったか? 隣村の「フノス」だ」
フノス村は、農場や牧場が盛んな村で、あちこちに広い畑や牧場がある。この村は、小さい村だけどここで作られている野菜や畜産物は「高級品」とも言われるくらい品質が高い。特に生乳を加工した「チーズ」は王宮も取り寄せているくらい有名だ。とはいえ、僕はこの村のチーズを一度も口にしたことがない。チーズ自体、値段が高く前の僕には手が届かない食材なのに有名なチーズって言われているからには、相当値段も高いだろう。なんせ、王宮が取り寄せるくらいだし。
「フノスって、農場とか牧場が盛んな村ですよね? コルタさんは、周りの人に譲ろうとはしなかったんですか?」
「俺もそれが気になって聞いてみたが、何でも今の牧場主は若者達が多く力はあるが、知識が全くなってないみたいでな。自分の育てたウシ達を渡したくないらしいんだ」
「な、なるほど……僕、コルタさんに会って直ぐに追い出されたりしません、よね?」
「さぁな。気持ちが優しく男気ある奴だが、少し気難しい所もあるからな。気に入られなかったら、そん時はそん時だ」
何処か嬉しそうに笑うルーファンさん。それを見て「やれやれ」と呆れるアオイ。本当に、無事にウシを手に入れることが出来るのか不安に思い始めた僕を乗せ、二頭の馬は止まることなく村に向かって走る。
草原を抜け、小道を走り二時間弱。
目的地、フノス村にあるコルタさんの家の前に僕達は着いた。
「ここが、フノス村……少しあの村に似てる」
「リット? どうかした?」
「あ、いや、何でもないよ」
フノス村は、僕の生まれ故郷に似ている。
田舎だからなのかそう感じてしまう。でも、あの村と違うところが一つだけある。それは、大人達は皆働き者で子供達には自由に遊ばせているということ。僕の生まれ故郷のあの村は、物静かで暗い村だった。大人も子供も「自由」がなく、周囲から見放された「貧しい村」だって僕は記憶している。
「コルタァ! いるかぁ?」
辺りを見渡しながらそんな事を思っていると、家の前でルーファンさんが声をかけた。すると、少しして扉が開き、中からエプロンを着たおばさんが顔を出した。
「あら、ルーファン。早かったわね」
「早めに出たからな。それでユンネちゃん、コルタはいるか?」
「あの人なら、裏の牧場にいるわ」
「そうか。裏にお邪魔してもいいか? 例の小僧を連れてきたんだ」
そう言うと、ルーファンさんは後ろにいる僕に目を向けた。
「は、初めまして! リットと言います」
「まぁ、アナタが……私は、コルタの妻でユンネと言います……」
「あ、あの~」
ユンネさんは、僕の顔をジッと見つめてくる。何か失礼な事をしたのかと緊張していると、ルーファンさんの方に視線を戻して言った。
「ルーファン。アナタが言っていた様な子には、私は思えないけど?」
「うっ……それは、み、見た目で判断しないようにだな……」
(一体、僕の事を何て話したんだろう……)
ユンネさんに言われ、顔をひきつるルーファンさんに、僕は苦笑いを浮かべた。
「そ、それじゃあ、裏にお邪魔するぞ?」
「どうぞ。リットくん、コルタは人見知りな部分もあるから、最初は素っ気なく思うだろうけど、悪い人じゃないからね……」
「ウシ達を我が子の様に大切にしている人だって、ルーファンさんから聞いているので、何を言われても僕は平気です。それに、話がなかった事になってもこれからの勉強にもなると思っているので」
僕は心配するユンネさんに笑みを浮かべて答えた。
僕にとっては、ウシを手に入れる為だけが目的じゃない。本物の牧場主と話をしたり、世話の仕方や僕が知らない事が学べる数少ない機会。だからか、話がダメになっても僕は牧場に関する知識が少しでも学べるならそれだけでも、大きな収穫だと思ってここに来ている。
ユンネさんと一旦別れ、家の裏にあるという牧場に、僕達は足を踏み入れる。
「コルタァ! いるかぁ?」
家の裏にある牧場は僕の家の土地よりも広く、ウシ小屋も広くて大きい、いわゆる「牛舎」と呼ばれるものだった。その牛舎が幾つもあり、その中からウシの声が聞こえてきている。その他にも「鶏舎」もあり、広い放牧地もある。自分の所とは比べ物にならない立派な牧場に僕は圧倒された。
「誰かと思えば、ルーファンか。それにアオイちゃんと……見慣れない奴もいるな」
「例の話をしに来たんだ。こいつが、前に話したリットだ」
「初めてまして、リットと……」
「ふん、本当に若造なんだな。村にいる若造に比べて軟弱に見えるが、それで牧場主が勤まっているのか、わしは疑問だがな……ついて来い」
顔を会わすなり、コルタさんはそう小言を言う。
気難しい人だって聞いていたし、村の若い牧場主の事も良く思っていない人だから、そう思われても仕方がないのかも知れないけど……だけど、初対面で言われて何とも思わない人もいない。少しだけ腹が立ちながらも僕はグッと我慢して、コルタさんの後をついて行く。
先に案内されたのは牛舎。
何十頭も飼育するこの牛舎の光景に言葉が出ない。
これが本気でやっている人との違いなんだと、僕は改めて自覚する。僕のはあくまでも「働きたくないから」とやり始めたことで、立派な牧場にしたいなんて思っていない。だけど、本物の牧場を目にすると自分がしていることは、牧場主に失礼な事なのかもと思えてしまう。コルタさんの小言は、牧場主だからこその言葉だったんだと牛舎を見て思った。腹が立つのは僕の方じゃなく、真剣に向き合っているコルタさんの様な人達が思う事だと心の奥で反省した。
「このウシ達は、わしが子ウシの頃から育てた我が子同然の存在だ。そんな可愛い存在を渡すんだ、それなりの知識がない奴には任せられない」
「……はい」
「お前には、ウシやヒツジ、鶏を飼育する上での基本的な知識はあるのか?」
コルタさんの言葉に、僕は少し考え込んだ。
「なんだ、自信がないのか? 牧場をやっている奴だと言われたが、見た目同様の奴だったか……だったら」
「……僕は、牧場のぼの字も知らないまま、牧場をやろうと考えてやっています。知識なんて全くないド素人です……」
「ほう。そんな正直に話すのか? 嘘をついても良かったんじゃないのか? ウシが欲しいんだろ?」
「ウシは確かに欲しいです。でも、嘘をついても、コルタさんには直ぐに気付かれてしまう。何年も続けてきたベテランの牧場主なら誰でも見抜けると思うので、嘘をつくよりハッキリ無知なド素人だって言った方が良いと思ったんです」
コルタさんの目を見てそう答えると、コルタさんは「フッ」と息を漏らし、笑い声を上げた。その声は牛舎中に響き木霊する。
「はははは。そんな糞真面目な顔で、正直に言うとはな。それも、無知のド素人と自分の事を言う奴は、若造の中で初めて聞く」
「そ、そうなんですか? 嘘を付いても、自分が不利になるだけだから言っただけなんですが……」
「不利?」
「はい。飼育の仕方とか牧場に関する話しとか聞かれて、答えられる自信がないので、嘘をついてそれがバレる方がなんかカッコ悪いと思って……」
「はははは。確かに知ったかぶりは、カッコ悪いな。見ていて腹も立つし、知らんのに知ったように言うなってな。まぁ、お前はちと素直すぎかもしれんが……わしはお前みたいな素直な奴は嫌いじゃない」
笑いながらコルタさんは言った。
さっきまで、怖いと思うくらい冷たい態度だったけど、それは僕の事を知ろうとしていたからなのかもしれない。ユンネさんも「人見知りな所もある」って言っていたし、そういうのもあってあんな態度だったのかもしれない。
「それで、リットと言ったか? 改めて、わしがここの牧場主のコルタだ。ド素人のお前さんは、本当にウシを飼う気があるのか?」
「長年牧場主をしているコルタさんには、恥ずかしい話ですが……ウシはとても飼いたいです!」
「ははは、良いな。ハッキリしている奴はもっと嫌いじゃない。だが、知識がない奴に我が子を預けるのは心配だ。お前さんがどこまで本気なのか、見極めてから判断するとしよう……ほら、二人は家にでも行ってろ。ここから先は、リットと二人で話がしたい」
コルタさんがそう言うと、ルーファンさんとアオイは「分かった」と答えて牛舎から出て行った。それを見送った後、僕はコルタさんから様々な事を教わった。
「……さて、何も知らんお前さんに、わしが知っている事を全て教えていく。最後に、わしが出す質問に答えられたら、ウシを引き渡す事にするが、お前さんは良いか?」
「はい。判断するのは、ウシを飼っているコルタさんだと思うので、それで良いです。それに、もしダメでもコルタさんの話は勉強になるので」
「ははは、そうか。なら、始めていくぞ? 先ずはだな……」
それから、コルタさんからウシの飼育の仕方や餌の事、良い乳にする為に心がけることなど色々な事を教えてもらった。コルタさんの話は分かりやすくて、記憶力だけは良い僕には、直ぐに覚えられた。それと同時に、コルタさんの話を聞きながら牧場を案内してもらい、目についた物を教えてもらったりしながら、気付けば日が傾き始めていた。
「……こりゃ、驚いたな。わしが話した事をちゃんと覚えてるとはな……」
「記憶力だけは良い方なので。それに、分かりやすく教えてくれたコルタさんのお陰です」
「いや、記憶力が良いにも程があるでしょ……一回聞いただけで全部覚えるなんて」
「リットくんと近い子達も村にはいるけど、ここまで覚えられる子は見たことがないね」
「紙に書かずに覚えるとは……やるな、小僧」
コルタさんを始め、ユンネさんもアオイも、それに何故か悔しそうに言うルーファンさんも、僕の記憶力に驚いていた。
僕の記憶力は物心付いた時には、人よりも良かった。でも、この記憶力が良い事で得したと思えたのはたったの二回だけ。一回目は、城で働いていた時。皆が探せずにいた資料の場所を僕はハッキリ覚えていて、その資料を渡して感謝された時。そして、二回目は今。
きっとこの記憶力がなかったら、何一つコルタさんの質問に答えられなかった。とはいえ、記憶力が良くてもそれをものにしなければ話にならない 。話を聞いているだけなら簡単に思えても、実際にやるのは難しい。それは、コルタさんの牧場を見て痛感したことだ。手を抜けば良いものは作れないし、何よりウシ達の生死を左右する事になる。一番しちゃいけないのは、ウシ達を「道具」として扱うことだと、コルタさんの話の中で、一番この言葉が胸に響いた。
「それで、コルタおじさん。リットにウシを任せそうなの?」
アオイがそう聞くと、コルタさんは「そうだなぁ~」と目を閉じた。少しして、目をゆっくりと開けて答える。
「わしが言ったことも理解して覚えているが、実際に世話をさせるとなれば不安な部分もある……」
「それじゃあ……」
「だが、リットは村の若造よりも頼れる奴だと思う。危なっかしい所はあると思うが、任せても良いだろう」
「え?」
「ほう、コルタをここまで言わせる若者がいるとはな」
「良かったね、リット!」
アオイはそう言って、僕に抱きついてきた。
「ア、アオイ!?」
「リットも喜びなよ! コルタおじさんが、リットにウシ達を譲ってくれるんだよ?」
「そ、そうなの?」
僕がコルタさんの方に目を向けると、コルタさんは笑って頷いていた。
「ほ、本当に良いんですか?」
「ああ。ウシの他に、ヒツジも鶏もいるがどうする?」
「え、え~と。取り敢えず、ウシは二頭、ヒツジは一頭、鶏は三羽、譲って欲しいです。今の僕には、それくらいが飼育するのに無理がない数だと思うので……」
沢山譲り受けても、飼育できなきゃ意味がない。家には五羽の鶏が既にいるし、クロハもトリエもいる。それに畑仕事もあるし、何より餌代が今以上に必要になる。
「確かに、十頭を急に世話をしろと言っても無理があるからな。世話に慣れた頃に一頭ずつ増やしていくのが妥当だろ。分かった、リットが必要とする数を用意する」
「ありがとうございます!」
「なに、礼を言うのはわしの方だ。ウシ達をよろしく頼む」
「はい!」
コルタさんとの話に区切りがついた時、小さく震えているルーファンさんに僕は気付いた。
「ルーファンさん、どうしたんですか?」
「話は済んだか? 小僧…… 」
「は、はい……」
「なら……いつまで俺の娘とくっついてるんだ!! 離れろ!!」
ルーファンさんの言葉に、僕はまだアオイに抱き付かれていた事に気付き、慌ててアオイを体から離した。
「ル、ルーファンさん! こ、これは、タダのハグですよ。話に夢中になって……」
「言い訳か! 人の前で、それも父親である俺の前で堂々と……良い度胸だな」
「ル、ルーファンさん! 話を聞いてください!」
「お前の話なんか聞けるか! 覚悟しろ!」
「うわぁぁぁぁ!」
こうして僕は、体格が良いルーファンさんにしごかれ、クタクタの状態で家に帰ることになった。この程度で済んだのは、コルタさんとユンネさんのお陰だ。
娘のアオイがどんなに言ってもルーファンさんは止まらなかったのに、コルタさんとユンネさんの言葉にルーファンさんは止まった。
「やれやれ。ルーファン、年頃の娘にあまり干渉しないの。嫌われるわよ?」
「そうだぞ? 今時の娘は何でも口を挟む親を嫌がるらしいからな」
そんな事を聞いたルーファンさんは、アオイの顔を見て焦りだし僕から離れた。アオイがルーファンさんに向けていた顔は、僕も見たことがない物凄く冷たい目をしていたというより、ルーファンさんの行動に引いていたんだと思う。その甲斐もあって、僕はこうして生きて帰ることは出来たんだけど……前よりもルーファンさんに敵意を向けられそうで凄く怖い。また同じ様な事があったら、果たして僕は生きているのだろうかと命の危機を感じた瞬間だった。
「それじゃあ、また来るからな……次、娘に手を出したら……」
「父さん?」
「な、何でもないぞ、アオイ! ま、またな小僧!」
「あははは。また明日ぁ~」
僕を家まで送ると、二人は家に帰って行く。
それを見送った後、僕は畑と鶏の様子を確認してから家の中に入り、温かい湯に浸かった。
「今日は、物凄く疲れたなぁ~」
「クウ~ン」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ、トリエ。 お前のお陰でこれ以上に疲れなかったんだから。ありがとう」
犬嫌いだった僕はトリエと過ごしていく中で、気付けば「犬」というより「家族」と思うようになって普通に触れる様になった。近づいてきても、驚かなくなったし、今となってはトリエが居てくれることに感謝すらしている。トリエは僕に言われなくても、時間になると鶏を外に出したり、外に出している鶏を小屋に誘導してくれるし、時間も教えてくれるから物凄く助けられている。
「そうだ、トリエ。明日、新しい仲間が増えるんだ。トリエの力を貸してくれる?」
「ワン!」
「ありがとう。頼りにしてるぞ、相棒!」
「ワン!」
僕は尻尾を振るトリエの頬をわしゃわしゃと両手で撫でた。
それから二日後の朝。
ウシ達を乗せた馬車に乗って、コルタさんとユンネさんが家に来た。その馬車には、ルーファンさんも道案内役で乗っていた。
「小僧、ちゃんと起きていたな」
「畑仕事もあるので……」
「ほう、リットは畑もやっているのか」
「はい。今は、それが主な収入源なんです」
そう話すとコルタさんは聞いてくる。
「鶏を数羽飼っているんだろ? 卵も売り出しているのか?」
「はい。卵は数が野菜に比べて少ないから、あまり売りに出せていないんです……」
「なるほどな。リット、鶏の種類で値段も変わるのは知っているか?」
そう言われ僕は「知ってる」と答えた。
鶏は三種類いて、白い卵、茶色い卵、そして小さい卵を生む。どの鶏も見た目が違うから見分けはつくけど、飼育の仕方や育てる環境が全く違う。だから、一緒に育てるのは難しいとされていて、中でも、小さい卵を生む体の小さな鶏は少しの環境の変化で体調を崩したり、最悪死んでしまう。だから扱いが一番難しい鶏とも言われている。
「なら、話は早い。採れる数が少ないなら、種類で補えば良い」
「それって、他の二種類も一緒に飼育するって事ですよね?」
「そうだ」
「でも話だと、同時に飼うのは難しいって……」
そう言うと、コルタさんは笑った。
「ははは。確かにそうは言われているな。だが、同じ場所で育てなければそれぞれの生態に合わせて、飼育が出来るんだ。わしのところにも、白以外の鶏が数十羽いるんだが……見せなかったか?」
「み、見てません!」
「おう、そうか。なら、飼う気になったら言え。小屋の相談から乗ってやる」
「あ、ありがとうございます! その時はよろしくお願いします!」
そんな話をしていると、アオイが「二人とももう良い?」と聞いてきた。
「え?」
「ウシ達を小屋に連れていかないの?」
「あ! 今、やる!」
「おう、話に夢中で忘れていたな」
それから僕達は、コルタさんが連れて来た、ウシ達を急いで小屋に誘導する。ウシ達の新しい棲みかになる小屋を見て、コルタさんは意外にも感心していた。
「狭いが……造りは文句ないな。腕の良い職人が建てたのか見て分かる。この広さだと、大体五頭前後だな」
「流石ですね。小屋を建てる時にそのくらいの数を想定して設計してもらったんです」
「建てたのはその大工か?」
「はい。僕も一応作業はしたんですけど、殆どその人達が」
コルタさんは小屋を再度見渡しながら言った。
「そうか……これなら、別の小屋を建てるにしても安心して任せられるな」
「別の小屋?」
「当たり前だろ? 将来は、この倍のウシやヒツジを飼うことになるんだ。それなりの腕の大工じゃないと任せられんだろ」
「この倍って……僕にそんなに飼育できませんよ」
きっと今の数で精一杯だと思うのに、例え数頭増やしたとしてもコルタさんが言うような数を飼うなんて考えられないし、僕には無理だと思う。だけど、コルタさんは当然のように言う。
「なに言ってるんだ。一頭も二頭も同じだ。それが十頭、二十頭になった所でやることも同じで何も変わらん」
「そ、それは、コルタさんは長年やっているから出来ることだと思いますけど……」
「牧場主に年数は関係ないわい。慣れれば、お前さんも分かるさ」
コルタさんみたいに思えるようになるには、相当時間がかかると思う。でも、もしそんな風に思える日が来るなら、その頃の生活がどう変わっているのか知りたい気もするけど……やっぱり、今の僕じゃ無理だと思う。
「今は、目の前の事に慣れるのが目標なので。でも、いつかは、そうなりたいです」
「はは。お前さんなら直ぐにそう思う気もするが。まぁ、困ったら何時でも相談しろ」
そうコルタさんが言った時、ルーファンさんがコルタさんに声をかけた。
「コルタ。これは何だ?」
「ん? ああ、忘れるところだった。リット、お前さんに渡すものがある」
「なんですか?」
ルーファンさんがいる場所に、コルタさんが歩いていく。僕もその後を追って行くと、荷台から器具を下ろしているルーファンさんと、アオイがいた。
「これは……乳搾り器とブラシ?」
「ああ、あとはチーズを造る器具だな。チーズは普通の調理器具でも作れるが、時間と手間がかなりかかる。そこで、それを少しでも楽にするのがこの器具だ」
「昔と違って、便利な世の中になったよな」
「だな。わし達が若い頃は、全て手作業だったからな。乳搾りをするにしろ、チーズを作るにしろ。」
「だが、楽しかったよな。手間はかかるが、それも含めてやりがいを今よりも感じていたもんさ」
ルーファンさんとコルタさんは、自分達の若い頃を思い出しながら染々と話す。それを見ていたユンネさんが「全く、あの二人は……」と僕の傍に来て言う。
「あの二人、昔の話になると長いのよ。作業が進まなくて、ごめんなさいね」
「あ、いえ。やっぱり、昔と今は違うんですね。僕は牧場を始めてから日が浅いし、殆ど何も分からないでやって来たから、昔のやり方と今のやり方がどう違うのか全く知らないので……」
「そうね。昔は、どの仕事でも使う道具が単純な作りをしている物が多くてね。殆どが手作業だったの……」
例えば、一般家庭には必ず一本はあるスコップ。今は鉄で造られていて頑丈だけど、昔は木製が主流だった。だから、直ぐに壊れやすく木の板から手作業で形を作っていた事もあり、当時は高級品だった。だけど今は、同じ手作業でも型に鉄を流し込み固めるだけの簡単作業に変わったことで値段は安くなり、壊れにくくなったことで買う頻度も少なくなった。こんな風に道具が便利で長持ちするモノに変わった事で、働く人も昔よりは楽になったとユンネさんは話してくれた。だけど、ユンネさんの顔は楽になったというわりには浮かない顔をしている。
「でもね、昔ながらのやり方をしてきた人にとっては寂しくも思うんだよ。便利になるのは悪くないけど、ずっとしてきたやり方を否定されているみたいでね」
「もしかして、コルタさんが村の若者を良く思わないのって……」
「若い子は何も悪くないだけどね。お金になるからってだけで動物を道具の一部見たいに扱うのが許せないみたいなの。そんな風に考えているかも分からないのに……でも、私も時折見ていて思うの。人の欲で生き物を扱って良いのかって……」
村の若者達の事をコルタさんから少し聞いたけど、牧場主の若者達の殆どは僕みたいなド素人で、跡継ぎだったとしてもろくに手伝いもしなかった人もいて見様見真似で仕事を適当にやっていると呆れたように言っていた。だからコルタさんはウシ達を飼育する村の若者達を良く思っていないのかもしれない。
「だけどね。リットくんと知り合えて、私もあの人も同じ若い子でも、ちゃんと知ろうとしてくれる真っ直ぐな子がいるんだって安心したの」
「長年していた人の話を聞くのは当たり前ですよ。それに、僕は何も知らないから、知りたかったんだけですよ……」
「そんな事はないわ。村の若い子が困っているから助言をしたりもした時があったんだけど、煙たがられてね。話を聞き流すように聞いていたみたいなの。それで余計に、ね」
「そうだったんですね……タダで話が聞けるのに勿体ない……」
話を聞いて本音を小さくこぼす僕に、ユンネさんは「ふふふ」と笑みを浮かべて言う。
「きっと、そういう所をあの人は気に入ったのかもね。私も、リットくんの事は素直で優しい子だって思っているわ」
親にも言われたことがない言葉を聞いて、僕は照れてしまった。そんな僕を見て、ユンネさんはまた微笑んだ。
その後、僕達はウシや鶏をそれぞれの小屋に入れ、乳搾り器やブラシ等は取り敢えず小屋にしまい、一休みすることにした。
「……こんなモノしかないんですが」
「いや、十分だ。リットは料理も出来るんだな。大したもんだ」
「ただのおにぎりですけど……」
昼時ということもあって、僕は皆を家に入れ簡単に作れるおにぎりとお茶を出した。
「私も握ったんだけど……ま、いっか。これで、作業は終わりなの?」
「そうだな。ウシ達も小屋に誘導したし、譲った道具も小屋にしまったからな……そうだ、リットに聞こうとしていた事があったのを忘れていた」
「何ですか?」
何かを思い出したコルタさんは言う。
「リット。ウシ達の餌の話なんだが、もし金的に厳しい様なら当面の間、わしが世話してやろうか?」
コルタさんの申し出は物凄く有難い。
鶏の餌代だけなら何とかなるけど、ウシ二頭にヒツジ一頭分の餌代もとなると少し厳しいなと少し思っていた 。売り上げがもう少し増えればそんなこともないのかもしれないけど、畑の事も考えれば「余裕」なんて嘘でも言えないのが現実。
「本当に良いんですか? 僕は凄く有難いんですが」
「なら、決まりだ。一ヶ月に一回、餌を持ってくるから覚えておけよ。用意してきた餌は大体一週間分だからな……明日にでも追加で餌を持ってくるか……」
「い、良いんですか?」
「良いも何も、ウシ達の為だ。お前の為じゃないからな? 勘違いするなよ、若造」
そう良いながらご機嫌な表情を浮かべるコルタさんに、ユンネさんは「素直じゃないね」と微笑み、ルーファンさんとアオイも笑みを浮かべていた。
それから暫く世間話をして、コルタさんは帰る前に、もう一度、ウシ達の様子を見てからユンネさんと帰って行き、それを僕と一緒に見送ったアオイとルーファンさんも帰って行った。
「それじゃあ、また明日!」
「うん、また明日」
アオイとルーファンさんを見送った後、僕は家に戻り一息吐く。
朝から慌ただしくてずっと話をしていたからなのか疲れを感じる。だけど、嫌な疲れじゃない。楽しい時間だったとも思えるから不思議だ。
それから僕は、畑の様子や小屋の戸締まりを再確認をして、何時もより少し遅めに眠りについた。
それから月に一度、コルタさんからウシ達の餌が届くようになり、新たな仲間が増えたことやルーファンさんがコルタさんを紹介してくれたことに感謝し、夏の青空を僕は見上げる。
これで、一段と牧場らしくなったとは思うけど、本番はこれから。ウシ達の世話に畑仕事、そして孤児院と路上での商売……やることは沢山ある。全てをこなせるか不安にもなるけど、何とかなると前向きに考える事にした。
『これは全て、働かないために必要なことだから!』
僕は、そう思いたい……。
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※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
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