北の王は黒猫!?

蝶夜

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記録一 『黒猫、森を歩く』

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 ここは、北と西の大陸の境にある深い森の中。
 俺は、この森で草木が揺れる音で目が覚めた。
 「ふぁ~。ん?……どこだ、ここ」 
 そこは見覚えがない場所だった。
 見渡す限り、木、木、草、木……。
 人の気配すらしない森の中で、俺は何故か眠っていた。
 「どうして、こんな場所で……というか、俺は誰だ?」 
 俺は、自分自身の事を何も覚えていなかった。
 何処から来たのか、どうしてここにいるのか。家族や仕事、年や名前……以前の記憶を全く思い出せない。
 「……人じゃないよな、これは」
 俺の手は真っ黒で、ぷにぷにとした肉球があり、手も足も地面についている。
 これらを踏まえれば人間ではないのは確実だが、どんな生き物なのかは自力で確かめるには限界がある。
 「水溜まり……鏡の代わりにはなるか」
 目に映った小さな水溜まりに、俺は近付く。
 天気も良いし、水には濁りもない。少し風で水面は揺れてはいるが、姿を映す分には問題はない。俺は、その水溜まりに顔を近付けた。
 「おお! クリクリした瞳に、モフモフした毛並み、愛らしい顔付き! 何て可愛らしいんだ!……って、黒い猫!?」
 水溜まりに映った俺の顔は、どう見ても真っ黒い猫。
 前足を動かしても、軽く顔を振ってみても、愛らしい黒猫のまま。
 「え、何。俺は、猫なのか?」
 自分が猫だと知るも、俺はそれを受け入れられなかった。
 もし以前から猫だったのなら、自分の姿に違和感を感じる事はないはずだが、俺は「人間じゃない」事に驚く程、この姿に違和感を感じている。
 とはいえ、何時までも驚き困惑していても仕方ない。
 この姿をを受け止めようが、そうじゃなかろうが、これが現実だ。よって俺は、考える事を放棄した。というより、ただ単に考えるのが面倒になっただけだが、ウダウダ悩んで出ない答えを探し続けて時間を無駄にするより、これからどうすべきか考える方が現実的だと判断した。
 となれば、まず先に考えるべきは「水」と「食料」だ。
 幸いにもここは森の中だ。歩いていれば川や食べられる草や木の実くらいはあるはず。そうと決まれば、行動あるのみ。
 「大分、歩いた気がするが……」
 森の中を歩き始めてから大分経つが、一向に食べられそうなモノや水場が見付からない。
 「自然の中にいるのに、毒キノコすら生えてない……本当に森か?」
 自分のことは何も覚えていない割に、俺は常識的な知識は覚えていた。
 植物の知識もそれなりにあり、食べられる物とそうじゃない物の見分けは付くはずだが、結果はこの現状が物語っている。
 「そこら辺の草が食べられたり……いや、動物にも害がある植物だったらマズい。はぁ~、どうしたものか」
 疲れを感じた俺は、その場に腰を下ろし、そんな独り言を言っていた。
 体を動かしていれば、喉は渇くし、腹も減ってくる。
 「地震? いや、違うな……なんだ、この振動」
 腰を下ろしてから数分、地面が不自然に揺れ始めた。
 それは自然が起こす地震ではなく、意図的に起きている様な振動で、まるで、何かが歩いているかのような振動。
 「止んだ?」
 振動は、俺に近付いている様に次第に強まり、体が弾んでしまう程の衝撃を最後に揺れは収まった。
 「ウゥゥゥゥ……」
 振動が止むと同時に、頭上から唸り声の様なものが聞こえ、恐る恐る見上げる。するとそこには、俺の何十倍もある巨大な生き物が、ヨダレを垂らし俺を凝視していた。
 「魔、物?」
 俺に備わっている情報によれば、目の前に佇む二足歩行の豚は「魔物」と呼ばれる生き物で、人は勿論、動物や別の種族の魔物を主食としている。そして、目の前にいるこの魔物は「オーク」といい、力が強いという事らしい。
 「!」
 突然、オークは持っていた太い棍棒を振り下ろしてきた。
 俺は咄嗟に、右に跳び攻撃を何と避けたが、さっきまでいた地面は凹んでいた。あんなのを食らったら、今の俺は確実に天に召されている。
 地面を凹ませる程の威力を持つ相手とどう戦うべきか。そもそも戦える力が俺にはあるのか。
 「俺を食っても美味しくないって!」
 そんな事を思っている間も、オークは攻撃を続けてくる。 
 俺はその攻撃を避け続けていたが、終わりが見えない攻防に悪い癖が出る。このオークの動きを封じる策はないか、と。
 (穴……これなら、行けるか?)
 オークの攻撃で、地面のあちこちに凹みが出来ている。
 身軽なこの体なら、地面の凹みを気にせずオークの攻撃を避けることは出来る。だが、俺とは違い体も大きく、重そうな棍棒を片手で振り回しているオークは、恐らく足元は見えていないはず。それに今は、俺を仕留める事に夢中になっているようだし、周りが見えていないだろう。これなら、無力に近い俺でもオークの動きを一瞬だけ封じられる可能性がある。そこで俺は、凹んだ地面にオークの足が上手く入る様に攻撃を避け続けた。オークの足は少しずつ狙っていた凹みに近付き、期待通りに狙っていた凹みに足を滑らせた。そして、バランスを崩し、そのまま体は左に倒れていく。
 「……なんか、可哀想に思えてきた」
 地面に倒れたオークは、上手く立ち上がる事が出来ずもがいている。そんな光景に、少しばかりオークに同情してしまったが、今は逃げる絶好のチャンス。今の内に走れば、オークに追い付かれる心配もなく逃げ切れる。
 「ぐぅ~。あの肉って、食えるのか?」
 盛大に腹が鳴る。
 生き延びる事よりも、「腹を満たしたい」という欲求が勝ってしまった。
 「食べるなら、オークを倒すしかないよなぁ……」
 なかなか立ち上がれず、ジタバタしているオークを見ながら呟く。
 無防備な相手を襲うのは気が引けるが、相手は魔物。悠長に考えている時間はない。だが、俺の武器となりそうな物は、小さな「牙」と「爪」だけ。こんなので、肉厚のオークを倒せるわけがない。息の根を止めるどころか、俺の牙や爪の方が折れかねない。
 「何か良い方法は……肉……焼く……火……あっ!」
 この世には「魔法」がある。
 魔法を発動するには、その源となる「魔力」が必要不可欠だが、これは誰もがその身に宿して生まれ、人だけではなく植物や動物、そして魔物にもある。その魔力を使い魔法を発動するには、「魔力量」と「相性」が重要。魔力量は、魔力の量の事を、相性と発動出来る魔法の事を指し使える魔法に影響する。
 「……どんな魔法が使えるかは知らないが、試してみる価値はあるよな。俺にも魔力はそれなりにあるはずだし……っと、悠長に考えすぎた」
 オークは地面の凹みから抜け出し、その場に立ち上がり、俺を見るなり声を上げ容赦なく襲い掛かってくる。
 「っと! 完全に怒らせたみたいだな」
 見るからにご立腹のオーク様は、あんなにもがいていたのに息も切らさず、俺を必ず仕留めようと棍棒を振り暴れ出す。俺はそれを素早く避けるが、オークが振り回す棍棒は地面だけじゃなく、周りにある木々にも当たり次々に折れていく。
 「馬鹿力……仕方ない、一か八かだ!」
 木々が倒れてきたお陰で、地面の凹みは塞がれたが、今度は俺の足場が悪くなった。この状況は、完全に俺の方が不利だ。逃げ場を遮られてしまった俺には、考える余裕も時間もない。今の俺は、魔法を生まれて初めて使う素人同然だが、この暴れ豚を止めるには魔法を使うしかない。
 魔法は、大きく分けて「火」、「水」、「土」、「光」、「闇」に分けられる。
 この五つの魔法は「基本魔法」といい、魔法が使われる様になった頃から存在している魔法で、この基本魔法から生まれた魔法が「応用魔法」。応用魔法は、使い手によって生み出された魔法の為、その者にしか使えない魔法もあり、誰もが使える魔法ではない。基本、人が発動出来る魔法の区別は基本魔法で把握するが、応用魔法は基本魔法の属性として扱われている。この世で認められている魔法だけなら百程の数が存在しているが、知られていない魔法や、決して触れてはいけない「禁忌の魔法」を含めれば、その数は何千万にもなると言われている。もし、これら全ての魔法が使える存在がいたら、その者は魔物以上の「化け物」だ。
 「つっ!  止まれぇぇぇぇ!!」
 俺はオークの動きを止める事に夢中で、叫んだ。すると、俺の頭上に火の玉が数個現れ、それが勢い良くオークに向かい、火の玉に当たったオークは火だるまになってしまった。
 「……え」
 一体、何が起こったんだ。
 俺は、確かに魔法でオークを倒したいとは思っていたが、魔法自体を発動した覚えはない。
 (もしや、俺以外の誰かが!?)
 辺りを見渡したが、誰もいない。
 「……まさか、俺が魔法を? 何時? どうやって?」
 となれば、あの魔法は俺が発動したものになるが、自分がどうやってあの魔法を発動したのか全く分からない。もう一度、同じ魔法を発動してみろと言われても出来る気がしないし、むしろ魔法が発動したことに驚いているくらいだ。
 「発動したってことは、魔法は使えるってことだよな……」
 俺は、改めて魔法を発動する方法がどういうものなのか自分の記憶を探った。
 魔法を発動するには、二通りの方法がある。
 一つは「詠唱魔法」、決められた呪文を唱え魔法を発動する方法。もう一つは「無詠唱魔法」と言い、決められた呪文を省略し魔法を発動する方法。この世では、この二通りの方法で魔法を発動させるが、ほとんどが無詠唱魔法だ。一昔前までは、詠唱魔法が主流だったのだが、無詠唱魔法の研究が進み誰もが無詠唱で魔法を発動出来る様になったことで、今では詠唱で魔法を発動する者の方が珍しい。
 「魔法の基本はイメージ……」
 詠唱があっても無くても、魔法を発動させる基礎には変わりはない。
 俺は息を吐き、火のイメージを脳裏に浮かべる。すると、火がポッと目の前に現れ、それを目先にある木にぶつけるイメージをすると、火は勢い良く狙った木に飛んで行き、そのまま木に当たり消えた。
 「威力……強過ぎないか?」
 火が当たった木が、焼け焦げているのは勿論だが、何故か窪みも出来ている。
 恐らく、火が当たった勢いで窪んでしまったんだとは思うが、初心者が発動した魔物がこんなにも威力が強くて良いのか、俺は不安になる。
 「ほ、他の魔法も試してみるか!」
 俺は気を取り直して、他の魔法は使えるのか試す事にした。
 人が使える魔法は、多くて二つ。これ以上の魔法を扱える者はいないと俺の記憶には残っていた。となれば、俺は火以外の魔法をあと一つ使える可能性はあるが、火魔法しか使えない場合もあるから、あまり期待はしないでおこう。
 「火ときたら、水だよな……」
 記憶にある魔法を片っ端から試していく。
 水は、大砲の様に水を放出すると木は何故か折れ、土は、石を作り出し木にぶつけると木には穴が開き、光は、折れた木々を再生すると元よりも生き生きとした木々となり、闇は、影から獣を召喚し木に攻撃するように命じると、木は綺麗に何等分にも切り落とされた。
つまり、あらゆる魔法を試した結果、俺は「化け物」だった。それも、異常な威力を持った。
 「俺って何者……」
 自分の力に引いていると、腹が鳴った。
 腹の音でオークの事を思い出し、倒れているオークに近付き、再度、息をしていない事を確認する。
 倒したいオークから、肉が焼けた香ばしい匂いがして余計に腹が鳴る。見た目はアレだが、要は豚の丸焼きだ。そう考えただけで自然とヨダレが垂れてきてしまう。
 「ゴクッ……」
 唾を飲み込んだ俺は我慢が出来ず、一番、美味そうなオークの腹にかぶり付いた。
 「う……んーー! 美味いィィィ!!!」
 口に含んだ瞬間、ジュワッと溶け出す肉汁。食べ応えのある弾力。何より、臭みがない。 こう感じるのは空腹だからなのかも知れないが、とにかく美味い。
 それから俺は、満腹になるまで無我夢中でオークの肉にかぶり付いた。
 「食ったぁ~」
 苦しいと感じる程の満腹感を得た俺は、その場で横になる。
 「……もう、夕方か」
 気が付くと、空は夕焼けに染まっていた。
 魔物の活動は、昼夜問わずそこら辺を歩き回っているが、基本は夜行性。だから、日中よりも夜の方が活発だと言われている。そして、森の中は魔物の巣窟になっている可能性が高い。だから森にいる際は、早めに火をおこし灯りを確保した方が良いのだが、俺は満腹になったお陰で眠くなっていた。
 「ふあ~。少し寝るか……」
 森の中を歩き回ったし、オークと戦ったし、頭も使ったし、少し寝るくらい大丈夫だろうと俺は少しの間だけ寝ることにした。
 「スースー………はっ!」
 だが、目が覚めると朝だった。
 仮眠程度のつもりが、完全に爆睡していた。それだけ疲れていたって事なのだろうが、無防備に寝ていたのによく何もなったなと自分でも驚いている。
 「それにしても……これは朝から見たくない奴だな」
 起きて最初に目に付いたのが、俺が食い散らかしたオークの残骸だった。
 朝から見る様なモノじゃない程度には、酷い光景に顔が自然と引きつる。
 「自分でやっておいてアレだが……この死骸は、どうするべきか………」
 このまま放置しても良いものなのか、それとも埋めた方が良いのか。俺はオークの死骸を見つめ悩む。
 「確か、魔物の皮や牙は武器とかの素材になるんだったよな……いや、俺に解体は無理か」
 魔物の皮や牙等は主に武器や防具の素材になる為、魔物を「解体」し、素材を取り出すのは当たり前なのだが、「肉」だけは捨ててしまう傾向にある。それは「魔物の肉はクセがある」という理由で、好んで食べようとする者がいないからなのだが、俺が魔物の肉を食って「美味い」って言ったのは……気にしないでおこう。
 魔物を解体するには、それなりの技術が必要で「解体職人」という者達がいる。そして、危険を顧みず素材となる魔物を狩るのが「冒険者」と呼ばれる者達。冒険者は魔物を狩るだけじゃなく薬草採取や町の清掃といった雑用もしていて、魔物を狩るにはそれなりの実力と信頼がなければ出来ないと記憶しているが、本当の所は俺には分からない。
 「そういえば、冒険者は魔物をアイテムボックスに入れて運ぶらしいが、それがあれば……って、これは何だ?」
 冒険者達は、アイテムボックスという「魔道具」を使い、自分よりも大きく重い魔物や武器等を楽に運ぶらしい。今それがあったら、オークをそれに入れてこんな悩みは直ぐに解決するのにと思っていると、首元に石の様に固い箱状のモノがぶら下がっているに気が付いた。恐らく目が覚めた時から提げていたモノだと思うが、俺は今の今まで気付かずにいた。
 「……これ、見覚えがある」
 俺の記憶に薄っすらと残っていた。
 これは、多機能を備え付けられたアイテムボックス。アイテムボックスには様々な種類があり、その性能によって値も違ってくる。俺が持っているこのアイテムボックスは、食材を傷めることなく保存が出来たり、生き物も入れられ、入れる物の制限がないといった機能が備わっている為、かなりの値がしたような気がする。
 「確か、こうすれば……」
 このアイテムボックスの使い方も、うろ覚え程度には覚えていた。
 俺がアイテムボックスに魔力を注ぎながら、入れたい物を想像すると、オークの残骸はまるでアイテムボックスに吸い込まれる様に消えた。試しに、ちゃんとアイテムボックスに入っているかオークを出してみる。アイテムボックスから物を取り出す時も同じで、出したいモノを想像しながら、アイテムボックスに魔力を注ぐ。
 「大丈夫みたいだな。それにしても、アイテムボックスを持っているってことは、俺は冒険者か何かだったのか?」
 目の前にオークの残骸が再び現れ、問題なくアイテムボックスを使えることを確認しながら、俺はそんな事を思っていたが、やはり何も思い出せない。アイテムボックスの事や他の知識の事は記憶に残っているのに、肝心な事は分からないまま。
 「まぁ、良いか。考えても思い出せない事だし、時間の無駄か……」
 思い出せないのは、仕方ない。
 こういう時は、前向きに考えた方が良い。記憶なんて何時か思い出すかもしれないし、今すぐ思い出さないといけない訳でもない。それに、生きて行く為の常識や知識は覚えていたんだから、それだけでも「運が良かった」と思った方が良い。
 「さて……行きますか」
 俺は、また歩き出す。
 ここが何処なのか、自分が誰なのか、分からない事だらけだが、立ち止まっていても状況は何も変わらない。結果が「何も分からない」としても、黙っているより何かしていた方が「俺は出来ることはやった」と達成感が得られると思う。
 (モヤモヤした気持ちで生きて行くより、スッキリした気持ちで生きて行きたいからな)
 そんな事を思いながら、森の中を歩いているとある欲が俺を襲う。
 「あ~、喉が乾いた……」
 生き物の体は、本当に面倒だ。
 腹は減るし、喉は乾く。眠くなったり、考え事をしたり、悩んだり……。何かが満たされたら全てが満たされれば良いのにと思うが、そういかないのが生きている者の定めであり、生きて行く為に必要な本能。これが無ければ生きていけないし、どれが欠けてはいけない必要な欲。だから、無視することも、我慢も出来ない。
 「この森、川はないのか?」
 ずっと歩いているが、川も湖も未だ見付からない。
 川が無ければ水は飲めないと思っていた時、脳裏に魔法の存在が過った。
 「そうだよ! 魔法で水を出せば良いんだ!」
 折角、化け物級に魔法が使えるんだから、こういう時こそ、魔法を頼るべきだ。
 早速、一口サイズの水の玉を魔法で作り、それを食べてみた。すると、水の玉は舌に触れると溶ける様に液状となり、そのまま喉を通る。
 「んー! 美味い!」
 冷たく美味しい水が、喉を刺激する。
 喉の渇きが感じなくなるまで、俺は同じ事を繰り返し、喉が潤った事で欲求が満たされ、心なしか体力も回復した様な気がする。
 「あれは……リンゴ!」
 それから頭も冴えた俺は、今まで見付けられなかった食材を次々に見付け、それをアイテムボックスに入れ、小腹が空いたらそれを取り出して食べ、喉が乾くと同じ方法で潤し、疲れたら休むを繰り返していると、気が付けば十日が経っていた。
 「何だよ、これ……」
 森の中を歩き続け、漸く出口らしき場所に辿り着いた。
 だが、開けたその先に広がっていたのは、思わず言葉が失う程の光景だった。
 「草木も、水脈もない、枯れた地……」
 広がっていた大地には、見渡す限り草木は無く、水辺らしき場所もない。その上、カラカラに乾いた地面から砂埃があちこちで舞っていた。
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