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『GW編・三日目:7時20分発、急に混みだした電車内で起きた奇跡(1)』
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『GW編・三日目:7時20分発、急に混みだした電車内で起きた奇跡(1)』
「はぁ……」
そこそこ混んでいる列車の中、慣れない息苦しさを感じて今にも吐きそうな気分だ。
「まったく、余計な手間を増やしおって」
社員が大ポカをやらかし、そのフォローのため朝早くから緊急会議を行うべく私は出社中だった。
いつもならまだ寝ている時間だというのに、何が悲しくて朝からこんな目にあわねばならないのか。
「……ひどい頭痛だ」
とは言え、この頭痛は社員のミスやら今後の対策などで憂鬱だからというものではない。
緊急会議の呼び出しは昨晩の電話だったが、その時私は飲んでいた。
ふらりと入った一見のホストクラブ。
入店と同時に壁に立つホストたちをざっと見まわし、今夜の推しを決め、その子を隣にはべらせていたのだ。
同じソファに横並びで腰かけ、広い肩を抱き寄せつつ万札をちらつかせる。
気に入ったホストを見つけた時にする、いつもの遊びだ。
開けたグラスの数だけ小遣いをくれてやるという、実に成金ババアくさい遊び。
普段なら女を見下し傲慢な態度をとる男どもが、この時ばかりは私に媚を売る。
その若いオス、いや、推しも青い顔になりながら小遣い目当てに必死に飲んでいる。
私はその必死な姿を見て微笑む。
もう少しで潰れるな、と。
明日は仕事を休みにしてこのまま持ち帰ってやろう、そう思っていた時に電話が鳴った。
「氷雨だ」
名乗ると同時に仕事へと意識を切り替える。
だが電話を受けた時の私はそうとうに機嫌の悪い声だったのだろう。
電話口の向こうで用件を伝えていた新人の秘書が途中で泣き出し、すぐにつきあいの長い副社長が説明を変わった。
よくある客とのトラブル、クレームというヤツだ。
やらかしたのはこの春で二年目になるまだケツの青い社員だったが、やらかした内容的に私が出ないとおさまらない話のようだ。
明日の朝一番での会議がその場で決まり、電話を終えた私は仕方なくその場をお開きにする事にした。
「坊や。残念だが、今夜はお開きだ……ん?」
隣を見ればもはや青色を通り越して土気色の顔になった今夜の推しが、無防備な姿をさらしてソファに寝転んでいる。
なかなかにそそる姿ではあるが、さすがにコレを担いでいく事はできない。
テイクアウトはできなかったがせめてもの慰みにと、彼のシャツのエリ首のボタンを外そうとする。
すぐに黒服の女がかけよってきたので、私は人差し指と中指で万札を挟みんだ二本の指を彼女の胸元に当てて制止させる。
黒服は私の顔と指の先の金を交互に見る。
「すぐに済む。彼に小遣いをやるだけだ。これは君へのチップだ」
黒服の女は私の指から金を受け取り一歩下がった。
ふむ、なかなか教育が行き届いている店じゃないか。
私だって別に痴女がしたいわけじゃない。
ただ少しだけ、人肌のなぐさみが欲しいだけだ。
私は転がる推しに向きなおり、シャツのボタンを上から三つほど外す。
あらわになった鎖骨と、わずかにのぞく胸筋。
サロンで焼いたのだろう小麦色の肌は下品だが、それゆえに煽情的でもある。
さらに下のボタンに指をかける。
「んんっ」
後ろで見ていた黒服の女が咳払いをする。
ま、こんなところだろうな。
私は何枚かの万札をそのシャツのすき間につめこみ、鎖骨と胸筋の感触を味わったあと帰宅した。
そんな欲求不満を抱えた翌日だ。
さらに二日酔いにもなっていた私は、これで事故でも起こしたら目も当てられんという事で久しぶりに公共交通機関を使っていた。
ホームに滑り込んできた列車内はそこそこに乗客の姿があった。
「ああ、こういうものだったな、朝の電車というものは」
世間様は大型連休というが、そうでない人間だってたくさんいる。
この場でスーツを着ている者たちは皆お仲間というわけだ。仲良く満員電車としゃれこもう。
「……あちらに乗り込んだら最悪、捕まるしな」
それに対して、先頭と後方車両にある男性専用列車の快適そうな事といったら。
法的には女が乗り込んでもそれだけでどうこうという事はないが、同乗する男たちに痴女だなんだと訴えられたらまず勝てない。
えん罪だとしてもそれを立証する手段がない。
これが例え一般車両であっても男が女の手をとって痴女だと言ってしまえば人生が詰む。
もっとも男が一般車両に乗り込む事などないし、あったとしても親子連れの子供か老夫婦くらいだろう。
私はなるべく人の少ない車両に乗り込んだ。
ここから会社まで十駅ほど立ったままか、などと今だに少し酒くさいため息が漏らしたが、乗り込んだ時にたまたま近くの席が空き、そこをうまく確保できたのは僥倖だった。
しかもドア近くの端の席だ。
縦の手すりが顔の横に来る絶好のボジション。これで仮眠がとれる。
私はハンドバックをひざの上に乗せ腕を組みつつ、体を手すり側にかたむけてそれを枕にする。
完璧なポジショニングだ。
一気に眠気が襲ってきた。
うつらうつらとまどろむ。
列車の揺れが実に気持ちいい――。
「はぁ……」
そこそこ混んでいる列車の中、慣れない息苦しさを感じて今にも吐きそうな気分だ。
「まったく、余計な手間を増やしおって」
社員が大ポカをやらかし、そのフォローのため朝早くから緊急会議を行うべく私は出社中だった。
いつもならまだ寝ている時間だというのに、何が悲しくて朝からこんな目にあわねばならないのか。
「……ひどい頭痛だ」
とは言え、この頭痛は社員のミスやら今後の対策などで憂鬱だからというものではない。
緊急会議の呼び出しは昨晩の電話だったが、その時私は飲んでいた。
ふらりと入った一見のホストクラブ。
入店と同時に壁に立つホストたちをざっと見まわし、今夜の推しを決め、その子を隣にはべらせていたのだ。
同じソファに横並びで腰かけ、広い肩を抱き寄せつつ万札をちらつかせる。
気に入ったホストを見つけた時にする、いつもの遊びだ。
開けたグラスの数だけ小遣いをくれてやるという、実に成金ババアくさい遊び。
普段なら女を見下し傲慢な態度をとる男どもが、この時ばかりは私に媚を売る。
その若いオス、いや、推しも青い顔になりながら小遣い目当てに必死に飲んでいる。
私はその必死な姿を見て微笑む。
もう少しで潰れるな、と。
明日は仕事を休みにしてこのまま持ち帰ってやろう、そう思っていた時に電話が鳴った。
「氷雨だ」
名乗ると同時に仕事へと意識を切り替える。
だが電話を受けた時の私はそうとうに機嫌の悪い声だったのだろう。
電話口の向こうで用件を伝えていた新人の秘書が途中で泣き出し、すぐにつきあいの長い副社長が説明を変わった。
よくある客とのトラブル、クレームというヤツだ。
やらかしたのはこの春で二年目になるまだケツの青い社員だったが、やらかした内容的に私が出ないとおさまらない話のようだ。
明日の朝一番での会議がその場で決まり、電話を終えた私は仕方なくその場をお開きにする事にした。
「坊や。残念だが、今夜はお開きだ……ん?」
隣を見ればもはや青色を通り越して土気色の顔になった今夜の推しが、無防備な姿をさらしてソファに寝転んでいる。
なかなかにそそる姿ではあるが、さすがにコレを担いでいく事はできない。
テイクアウトはできなかったがせめてもの慰みにと、彼のシャツのエリ首のボタンを外そうとする。
すぐに黒服の女がかけよってきたので、私は人差し指と中指で万札を挟みんだ二本の指を彼女の胸元に当てて制止させる。
黒服は私の顔と指の先の金を交互に見る。
「すぐに済む。彼に小遣いをやるだけだ。これは君へのチップだ」
黒服の女は私の指から金を受け取り一歩下がった。
ふむ、なかなか教育が行き届いている店じゃないか。
私だって別に痴女がしたいわけじゃない。
ただ少しだけ、人肌のなぐさみが欲しいだけだ。
私は転がる推しに向きなおり、シャツのボタンを上から三つほど外す。
あらわになった鎖骨と、わずかにのぞく胸筋。
サロンで焼いたのだろう小麦色の肌は下品だが、それゆえに煽情的でもある。
さらに下のボタンに指をかける。
「んんっ」
後ろで見ていた黒服の女が咳払いをする。
ま、こんなところだろうな。
私は何枚かの万札をそのシャツのすき間につめこみ、鎖骨と胸筋の感触を味わったあと帰宅した。
そんな欲求不満を抱えた翌日だ。
さらに二日酔いにもなっていた私は、これで事故でも起こしたら目も当てられんという事で久しぶりに公共交通機関を使っていた。
ホームに滑り込んできた列車内はそこそこに乗客の姿があった。
「ああ、こういうものだったな、朝の電車というものは」
世間様は大型連休というが、そうでない人間だってたくさんいる。
この場でスーツを着ている者たちは皆お仲間というわけだ。仲良く満員電車としゃれこもう。
「……あちらに乗り込んだら最悪、捕まるしな」
それに対して、先頭と後方車両にある男性専用列車の快適そうな事といったら。
法的には女が乗り込んでもそれだけでどうこうという事はないが、同乗する男たちに痴女だなんだと訴えられたらまず勝てない。
えん罪だとしてもそれを立証する手段がない。
これが例え一般車両であっても男が女の手をとって痴女だと言ってしまえば人生が詰む。
もっとも男が一般車両に乗り込む事などないし、あったとしても親子連れの子供か老夫婦くらいだろう。
私はなるべく人の少ない車両に乗り込んだ。
ここから会社まで十駅ほど立ったままか、などと今だに少し酒くさいため息が漏らしたが、乗り込んだ時にたまたま近くの席が空き、そこをうまく確保できたのは僥倖だった。
しかもドア近くの端の席だ。
縦の手すりが顔の横に来る絶好のボジション。これで仮眠がとれる。
私はハンドバックをひざの上に乗せ腕を組みつつ、体を手すり側にかたむけてそれを枕にする。
完璧なポジショニングだ。
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うつらうつらとまどろむ。
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