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『幕間:二年一組、猪瀬加奈子の場合(3)』
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『幕間:二年一組、猪瀬加奈子の場合(3)』
「失礼します……遅くなりました」
まずは春日井ちゃんが先生に軽く頭を下げながら教室に入ってきた。
カシャカシャと電子シャッター音がいくつか聞こえた。
あせってフライングしたのが数人いる様子。
ちなみに隣からも聞こえていた。琴美がチッと舌打ちしていた。
何も悪くないのに数人から理不尽な恨みを買った春日井ちゃんの後ろに続くのは今度こそ宮城君だった。
宮城君が教室に入ってきた瞬間、私は言葉を失った。
宮城君は輝いていた。
黒いカッターシャツの上に黒いベスト、下はスラックス。
黒ずくめだというのに、その神々しさゆえ正視していられない。
私の瞳孔は真昼の太陽を直視したかのように、そのまぶしさに視力を失ったのだ。
「スーツやんけー」
隣を見れば目をまんまるにしながら、呆けたように開いた口から琴美がそう漏らしていた。
いつもとは違う言葉遣いから動揺のほどがわかる。
その指はカメラの撮影ボタンを押しっぱなしなのか、動画を撮った方がいんじゃないかというくらい長時間のバースト撮影がされているが、気づいていない。
カメラモードで構えていた他の子たちも、同様に無意識バーストしているものや、ケータイを取り落とす者などが続出した。
「おはようございます、遅れました。私服で失礼します」
「ええ、おはよう宮城君。冬原先生から事情は聴いています。朝から災難でしたね」
この教室内で唯一正気であろう梅守先生が宮城君をいたわり、着席するようにうながした。
前のドアから入ってきた宮城君は、自分の最後列である席へ着くため教室の中央を歩いていく。
そう、選ばれし席に座る女子たちの席と席の間を帰還した王のごとく進んでいく。
海を割った聖者のようにその神々しい姿でもって、二年一組の教室を縦断したのだ。
宮城君が横を通り過ぎるという栄誉と祝福を浴びたクラスメートたちは、席からうっとりと見上げる者、深呼吸をして宮城君の香りを肺に詰め込むもの、つい触れようとした手を逆の手でおさえつけて震えるもの、それぞれ一様に幸せそうだった。
そうして宮城君が通り過ぎた後、全員がもだえるようにしてバタバタと机に突っ伏していく。
その幸福は私にも訪れ、すぐ横を宮城君が通り過ぎる瞬間、勇気を振り絞って声をかけた。
「お、おはよう、宮城君。その服、カッコいいね」
「おはよう、猪瀬さん。これ? 冬原先生が用意してくれたんだけど、ちょっと大人っぽすぎるかなって」
そう言ってまだ少し濡れている髪をかきあげながら照れる宮城君。
その仕草があまりにもエロすぎて私は心臓が張り裂けそうになる。
もうダメ。尊さで死にそう。
ふと宮城君のかきあげた前髪から水滴が私の机の上に落ちた。
「ぬ、濡れてるね」
「あ、うん。まだちょっとかわいてないんだ。水もしたたるいい男、なんてね? あはっ」
ペロっと舌を出す宮城君。
私は死んだ。
「あれ? 麻川さん撮ってるの? いえーい」
「あ、あっあっ、ありっ、ありがと!」
隣の席でこっそり写真をとっていた琴美も、それに気づかれた宮城君に笑顔のイケメンダブルピースというポージングをプレゼントされ、ほどなく息絶えた。
「……」
「……」
机に伏したまま、私は琴美と目を合わせる。
「加奈子。アンタの机のそこ、なめさせて」
「私の机は今この瞬間、聖域になったの。誰にも触れさせない」
宮城君の前髪から垂れた雫がしみ込んだこの机は、このクラスにおいて聖骸布もかくやという扱いとなるだろう。
結局、この一時間目はずっとクラスがざわついており授業にならなかった。
しかし学園のおばーちゃんと言われる梅森先生は、仕方ない、という顔をしながら誰も叱る事なく。
それどころか、とんでもない事をしてくれた。
「では宮城君。遅れてしまった分、取り戻しましょう。25ページ、3行目から読んでもらえるかしら?」
普段、生徒に朗読をさせる事のない梅守先生がそんな事を言った。
梅守先生グッジョブすぎる。
隣でも琴美が梅ばーちゃん最高、と呟いていた。
指名された宮城君はどうにも隣の夏木としゃべっていたようだが、慌てて立ち上がり教科書を開く。
そして全員の視線を受けながら、3ページにわたる長めの朗読が始まる。
顔もイケメン、声もイケボ。
至福の時間が教室に満たされる。
そうして朗読を終えた後、宮城君が着席。
「はい、よくできました……あら、そろそろ時間かしらね?」
梅守先生が時計を見ると同時にチャイムが鳴った。
「では今日はここまで。春日井さん」
春日井ちゃんに先生が号令をうながす。
本来は副委員長の仕事だが、ウチのクラスは副委員長がいないので春日井ちゃんの仕事になっている。
だが春日井ちゃんが立たない。
おや、と思った瞬間。
「きりーつ」
と、後ろから声がかかった。
「失礼します……遅くなりました」
まずは春日井ちゃんが先生に軽く頭を下げながら教室に入ってきた。
カシャカシャと電子シャッター音がいくつか聞こえた。
あせってフライングしたのが数人いる様子。
ちなみに隣からも聞こえていた。琴美がチッと舌打ちしていた。
何も悪くないのに数人から理不尽な恨みを買った春日井ちゃんの後ろに続くのは今度こそ宮城君だった。
宮城君が教室に入ってきた瞬間、私は言葉を失った。
宮城君は輝いていた。
黒いカッターシャツの上に黒いベスト、下はスラックス。
黒ずくめだというのに、その神々しさゆえ正視していられない。
私の瞳孔は真昼の太陽を直視したかのように、そのまぶしさに視力を失ったのだ。
「スーツやんけー」
隣を見れば目をまんまるにしながら、呆けたように開いた口から琴美がそう漏らしていた。
いつもとは違う言葉遣いから動揺のほどがわかる。
その指はカメラの撮影ボタンを押しっぱなしなのか、動画を撮った方がいんじゃないかというくらい長時間のバースト撮影がされているが、気づいていない。
カメラモードで構えていた他の子たちも、同様に無意識バーストしているものや、ケータイを取り落とす者などが続出した。
「おはようございます、遅れました。私服で失礼します」
「ええ、おはよう宮城君。冬原先生から事情は聴いています。朝から災難でしたね」
この教室内で唯一正気であろう梅守先生が宮城君をいたわり、着席するようにうながした。
前のドアから入ってきた宮城君は、自分の最後列である席へ着くため教室の中央を歩いていく。
そう、選ばれし席に座る女子たちの席と席の間を帰還した王のごとく進んでいく。
海を割った聖者のようにその神々しい姿でもって、二年一組の教室を縦断したのだ。
宮城君が横を通り過ぎるという栄誉と祝福を浴びたクラスメートたちは、席からうっとりと見上げる者、深呼吸をして宮城君の香りを肺に詰め込むもの、つい触れようとした手を逆の手でおさえつけて震えるもの、それぞれ一様に幸せそうだった。
そうして宮城君が通り過ぎた後、全員がもだえるようにしてバタバタと机に突っ伏していく。
その幸福は私にも訪れ、すぐ横を宮城君が通り過ぎる瞬間、勇気を振り絞って声をかけた。
「お、おはよう、宮城君。その服、カッコいいね」
「おはよう、猪瀬さん。これ? 冬原先生が用意してくれたんだけど、ちょっと大人っぽすぎるかなって」
そう言ってまだ少し濡れている髪をかきあげながら照れる宮城君。
その仕草があまりにもエロすぎて私は心臓が張り裂けそうになる。
もうダメ。尊さで死にそう。
ふと宮城君のかきあげた前髪から水滴が私の机の上に落ちた。
「ぬ、濡れてるね」
「あ、うん。まだちょっとかわいてないんだ。水もしたたるいい男、なんてね? あはっ」
ペロっと舌を出す宮城君。
私は死んだ。
「あれ? 麻川さん撮ってるの? いえーい」
「あ、あっあっ、ありっ、ありがと!」
隣の席でこっそり写真をとっていた琴美も、それに気づかれた宮城君に笑顔のイケメンダブルピースというポージングをプレゼントされ、ほどなく息絶えた。
「……」
「……」
机に伏したまま、私は琴美と目を合わせる。
「加奈子。アンタの机のそこ、なめさせて」
「私の机は今この瞬間、聖域になったの。誰にも触れさせない」
宮城君の前髪から垂れた雫がしみ込んだこの机は、このクラスにおいて聖骸布もかくやという扱いとなるだろう。
結局、この一時間目はずっとクラスがざわついており授業にならなかった。
しかし学園のおばーちゃんと言われる梅森先生は、仕方ない、という顔をしながら誰も叱る事なく。
それどころか、とんでもない事をしてくれた。
「では宮城君。遅れてしまった分、取り戻しましょう。25ページ、3行目から読んでもらえるかしら?」
普段、生徒に朗読をさせる事のない梅守先生がそんな事を言った。
梅守先生グッジョブすぎる。
隣でも琴美が梅ばーちゃん最高、と呟いていた。
指名された宮城君はどうにも隣の夏木としゃべっていたようだが、慌てて立ち上がり教科書を開く。
そして全員の視線を受けながら、3ページにわたる長めの朗読が始まる。
顔もイケメン、声もイケボ。
至福の時間が教室に満たされる。
そうして朗読を終えた後、宮城君が着席。
「はい、よくできました……あら、そろそろ時間かしらね?」
梅守先生が時計を見ると同時にチャイムが鳴った。
「では今日はここまで。春日井さん」
春日井ちゃんに先生が号令をうながす。
本来は副委員長の仕事だが、ウチのクラスは副委員長がいないので春日井ちゃんの仕事になっている。
だが春日井ちゃんが立たない。
おや、と思った瞬間。
「きりーつ」
と、後ろから声がかかった。
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