冥き竜王と春乙女

氷室龍

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本編

地の底にて・・・

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やっと、金髪碧眼の優男登場です。そして、ヘパイストスの正体も明らかに…。

********************************************

ひんやりとした冷たい感覚でペルセポネは目を覚ました。

「ここは…。」

目を覚ましたそこは真っ暗でゴツゴツとしたむき出しの岩肌。太陽の光も届かない地下深くと察せられた。

「ク~~~~ン…。」
「ケルベロス?」
「ワンッ!」

ペルセポネにすり寄ってきたのは真っ黒なあの子犬だった。

「えっと…。状況を整理しないとね」

ペルセポネは記憶をたどり始める。

「確かお母様に連れられてオリンポスのパルテノン神殿に入ったんだよね」
「ワンッ!」
「えっと、それから…。突然、床が割れていっぱい蔦が現れたんだ。それで…」

そこまで思い出したところでハッとする。

「私、捕まったの?」

突如現れた蔦に絡めとられ、その蔦とともに現れた謎の人物に連れ去られたことを思い出したペルセポネ。

「そういえば、ハデス様はあの人のことを『ガイア』って呼んでたけど…」
「へぇ。やっぱりそうなんだ」
「きゃっ!」

突然、奥から声がして私は驚いてしまった。

(男の人の声?聞いたことのない声だわ)

「脅かしてしまったようだね」

その声の主はゆっくりとペルセポネの前に現れた。物腰の柔らかそうな金髪碧眼の男性だった。

「初めまして、僕はゼウス。君は?」
「えっ?」
「?」

ペルセポネは突然の出会いに驚きを隠せず固まってしまった。

(この人が私のお父さま?こんな物腰の柔らかい方が、お母様に酷い仕打ちをしたの?)

ペルセポネは混乱しつつも危険な香りを察知したかのように一歩後ずさった。ケルベロスもそんなペルセポネの感情を汲み取ったのか、威嚇の唸り声を上げる。

「おやおや、随分と嫌われたものだな」
「それは自業自得というものではありませんか?」
「それはどういう意味かな?」
「あなたがお母様にした仕打ちです」
「お母様?」
「私が誰だかわからないのですか?このようなことを言う人物は一人しかいないと思いますが…」
「そうか。では、君が?」
「そうです。あなたに無理矢理犯され、孕まされたデメテールの娘です」

ペルセポネはゼウスを睨み付けてそう答えた。

****************************************************************

一方、そのころ地上では―――――――

「ワンッワンッ!」
「シリウス、そっちか?」
「ワンッ!!」

シリウスに先導されてハデスたち三人は大地溝帯を進んでいた。

「ハデス様…。」
「分かっている。瘴気が強くなっているな」
「これ以上はオリオンには危険では?」
「いや、このくらいなら大丈夫だろう。中に入るのは無理だろうが…」

ハデスとヘパイストスは濃くなる瘴気を肌で感じ危機感を強めた。

「おっさん!!」

オリオンが大声で呼ぶ。

「どうした!」
「シリウスが泊まって動かない。ペルセポネの匂い、この辺りで途切れてるだと思う」
「ということは、この下か…」
「恐らくはそうでしょう」
「悪いけど、俺たちはここ迄みたいだ」
「そのようだな。お前はここで待機しててくれ」
「もしかしたら、さらに瘴気が濃くなる可能性もある。身の危険を感じたらこれを使うといい」

ヘパイストスが懐から銀の球を取り出し、それをオリオンに手渡した。

「これは?」
「俺が作った緊急避難用の戦車だ」
「へぇ。どうやって使うの?」
「念じるだけでいい。そいつは自走できるし、天も駆けることができる」
「それはすごい!」
「だから、無理にここに止まるな」
「わかった。やばいと感じたら遠慮なく使うよ」
「そうしてくれ。お前にもしものことがあったらアルテミスに申し訳が立たん」
「…………」

オリオンが真っ赤になって口籠る。ハデスとヘパイストスはその姿に苦笑しながら、次の瞬間には大地溝帯の奥深くへと目を向けていた。二人が飛び降りようとしたその時、オリオンが声をかけてきた。

「おっさん!」
「なんだ?」
「せめて、そのひげは剃った方がいいと思うっす」
「何故だ?」
「なんていうか…」
「囚われのお姫様を助けに行く英雄ヒーローは皆イイ男って相場が決まってるんだよ」
「そうなのか?」

ハデスは首を傾げつつヘパイストスに意見を求める。

「どうでしょう?俺にはよくわかりませんので…」
「う~~む。どうしたものか…」
「剃った方がいいっすって」
「いやにこだわるな」
「ほら、ペルセポネってああいう感じっすから。やっぱ、助けに来てくれたヒーローはカッコいい方がいいはずっすよ」
「ふむ、一理あるな」

ハデスはオリオンの言葉に従い、懐からナイフを取り出すと口から顎にかけて生やしていた髭を剃り落としたのだった。

「こんなものか?」
「お、いい感じっすね」

オリオンがニカッと笑ってみせる。ハデスはヘパイストスとともに苦笑せざるを得なかった。だが、次の瞬間には気を引き締め、地の底に視線を落とす。

「では、行くとするか」
「はい」

ハデスは剣を腰に携え、外套を外し、大地を蹴って飛び降りた。ヘパイストスもそれに続く。彼は普段はその瞳を隠すように垂らしている前髪を上げる。その双眸はルビーの如く真紅に輝いていた。左頬には縦に大きな刀傷があり『醜い』というよりは迫力のある精悍な感じであった。
だが、すぐにその姿は異形の物へと変化する。前身は黒く太い毛におおわれ、口には大きな牙が生え、四足となる。やがてその姿は真紅の瞳の黒獅子へと変わっていった。
実はヘパイストスにもハデスと同じく原初の神に近い存在なのだ。ハデスとの違いはその姿が現存する獣に近いこと。そして、ごく稀に制御が効かなくなること。だから、自ら『醜い』と吹聴して人を遠ざけていた。その力を制御するための道具を自ら作り上げたることに没頭しており、最近になってようやく完成したのだった。

「相変わらずだな」
「ですが、今はこの姿はありがたいです。」
「確かに、この崖を降りるには好都合か」
「ハデス様!お気を付けください」
「ああ。分かっている」

すると、下から太い木の根がまるで生き物のように縦横無尽に襲ってくる。ハデスは腰の剣を抜き薙ぎ払う。そして、ヘパイストスはその爪で引き裂き、それでも払えぬものは口から炎を吐き焼き払う。そうして辿り着いた地下は暗く冷たい場所だった。

****************************************************************

「そうか…。君がペルセポネ?」
「はい」

ペルセポネはまっすぐゼウスを見据えて返事をする。その瞳には非難の色が強く出ていた。ゼウスは困ったように肩を竦める。

「確かに嫌われて仕方ないのかもね」
「わかっているのなら…」
「後悔はしてないよ」
「どういうことですか?」
「つまらない嫉妬、かな?」
「え?」
「デメテールが唯一気兼ねなく話す異性がいた。それがハデスだ。僕がどんなに気を引こうとしても一向になびかないのにね。彼に対してだけは何の警戒心もなく話す。だから、僕はその姿に嫉妬したんだ。そして、体を繋げれば関係が変わると安易に考えた。今までの女性たちがそうだったからね」
「でも、お母様は違った」
「そうだね。どんなに睦言をささやいてもなびかずかわされてばかり」
「だから、無理矢理犯したのですか?」
「自分の自尊心を保つためにね」

ゼウスの表情が暗く沈む。そして、一つため息をつくと言葉を続けた。

「結果は知っての通りだよ。デメテールとは決定的に決別してしまった。そして、もう二度とそれを取り戻すことは叶わない」
「自業自得です!」
「君に言われるとかなりキツイな」
「仕方のないことだと思います」
「だよね。でも、君とは良い関係を築きたい、かな?」
「お断りします!!」
「そこ、即答なの?」
「お母様を苦しめた方と親ししたしくなんてなりたくありません!!」
「はははは…」

ゼウスはガックリと肩を落としてしまった。自業自得なので慰めたりは絶対にしない、とペルセポネは強く決意するのだった。

「ところで、一つお伺いしてもよろしいですか?」
「うん?」
「何故、ゼウス様はここにいるのですか?」

****************************************************************

「どうやらこの先のようだな」
「そのようです。」
「……………………。」
「ハデス様?」
「この感じ…。ゼウス、か?」
「え?」

ハデスはゼウスの気配に気づいた。

「はぁ、あの馬鹿は何をやっているんだ・・・」
「ゼウス様は地上で自ら情報収集していたのでは?」
「女を口説きながら、な」
「あ…」

ヘパイストスもわかったようだった。

(あの馬鹿のことだ。女を口説いてるつもりが口説かれてホイホイと着いてきてしまったのだろう。全くもってあれが『神々の王』などとは…。頭が痛くなる。ヘラがあれほどまでに嫉妬深くなるのも無理もない)

「よくぞ、ここまでやってきたな!!!」
「!!!!」

突然、響き渡った女の声に我々は辺りを見回した。だが、その姿は見えない。

「そのまま奥へ進むがよい!!」

さっきとは違い男の声が響きく。その声にハデスは自身の仮定が確信へと変わった。

(やはり、今回の件はあの二人なのか…。)

ハデスは抜いていた剣を再び鞘に納め、言われるがままに奥へ進むことにする。

「ハデス様。」
「心配はいらぬ。向こうはこちらを傷付ける気はないようだ」
「ですが…」
「わかっている。気は抜くな」
「はい」

ヘパイストスはハデスの後ろをついてくる。と、突然いくつもの松明が奥へ奥へと灯り始めた。

「こっちへ来い。ということか…」
「そのようですね」

二人はその先へと歩を進めていった。そして、その先で見たのは…。

****************************************************************

ペルセポネがゼウスに問い詰めようとしたとき、突然大きな蔦に両手を絡めとられた。

「え?なに?どういうこと?」
「ペルセポネ!!」
「ワンッ! ワンッ!!」

ゼウスとケルベロスがペルセポネを助けようとするが他の蔦が邪魔をしてか叶わない。そうこうしているうちにペルセポネはあっという間に別の場所に連れていかれる。最早、ゼウスの叫びもケルベロスの咆哮も聞こえることはなかった。

「うぅ。うぅぅぅ…」

次にペルセポネが気づくとそこは広い空洞になっていた。そして周りを見渡せば自身が宙高く釣り上げられており、まさに罪人の貼り付けのような格好だ。ペルセポネはその高さに目が眩む。

(落ちたら、死ぬ、かも…)

ペルセポネは思わず唾を飲み込む。すると、下から自分を呼ぶ声がした。

「ペルセポネ!!」

それは漆黒の甲冑に身を包み、大きな黒獅子を従えたハデスだった。

「ハデス様?」
「今、助ける!!」

その顔に少しだけ違和感を覚える。

(あ…。お髭を剃ったんだ…。なんてことを思う私は不謹慎なのかな?でも、お髭を剃ったハデス様はさっき見たゼウス様なんか全然敵わないくらい素敵な殿方だわ。って、この状況で何考えてるんだろう…。)

そんなことを思うペルセポネ。

(きっと恋ってこんな風に突然始まっちゃうんだろうなぁ)

そんなことをペルセポネが思っているなど知らぬハデスは焦っていた。すると突然、目の前に黒い影が地中から盛り上がって現れた。

「よく、ここまで来た。さすがは原初の神の力を受け継ぐだけのことはある」
「ガイア…」
「フッ。まさか私の正体に気づいていたとはな」
「それもこれも原初の神の力のおかげだ」
「皮肉なものだな…。時に、返答を聞こうか」
「答えは変わらぬ!」
「ほう…。王になることを拒むか…」
「私には必要がない!!」
「何を言う。おぬしこそ真の王ではないか」
「違う!私はただの罪人つみびとだ!!決して王などではない!!!」
「愚かな…」
「何とでも言え!私はそんなものいらぬ!!」
「そうか…。では、ここで朽ち果て死ぬがよい!!」

ガイアは手足の如く、蔦を操り始めた。かくして、ペルセポネを救う最後の戦いの幕は切って落とされた。

************************************************
次回はガイアとの戦いです。
ハデスは勝つことができるのか?!
そして、ゼウスはなぜいたのか?
すべての謎が明らかになる!!
…はず、です。(汗)
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