人喰い狼と、世界で最も美しい姫君

十五夜草

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人喰い狼と、業火の精霊

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 目を覚ますと、そこは一面の銀世界だった。

「……かあさん?」

 降り続く雪の中、辺りを見回したが魔狼特有の黒い毛皮はどこにも見当たらない。
 やがて私は、自分が捨てられたのだと理解した。

 本来魔狼とは、多くの魔物の中でも食物連鎖の上位に位置する種族だ。
 豊富な魔力によって強化された肉体は強靱で、まだ幼い竜であれば仕留めることが出来るほどの力を持つ。
 体内で魔力を錬成し、炎を吐くことも出来るのだ。

 私は、産まれたときから魔力が欠けていた。
 魔狼といえど、魔力がなければただ身体の大きな狼に過ぎない。

 母や群れの狼達は私をいないものとして扱った。
 群れ全体を守るために、弱い者や老いた者は切りすてる。
 それが魔狼の習性なのだ。

 魔力を持たずに生まれた時から、私が捨てられることは決まっていた。
 それが今日だっただけだ。

 狩りの仕方も、食べ物の見つけ方も知らなかった私は次第に衰弱していった。
 動く気力のない私の上に、雪が降り積もる。
 あのまま時が経てば、私はそのうち餓えか寒さによって死んでいただろう。

「あら? あんた、もしかして魔狼じゃないの?
 マギアス、マギアス! 魔狼の子供がいるわ!」

 鈴を鳴らしたような澄んだ声に目を開けると、視界の端に赤い光がちらついた。
 普段なら喜んでじゃれついただろうが、今はその気力さえ無い。

 ぼんやりと光を眺めていると、大きな何かが私の前に立った。
 強い魔力を纏い、後ろ足で立って歩く不思議な生き物だ。
 全身が真っ黒で、上だけが白い。その中に二つ並んで輝いている赤いものは、目だろうか。

 不思議な生き物は、私を見て何か言った。
 私の知らない言語で話しているせいで、何を言っているのかは分からない。
 ただ、困惑していることは伝わった。
 光が上下に揺れながら「違うと思うわ」と話す。

「だいぶ衰弱してるし、この魔狼からは魔力を感じないわ。
 きっと、捨てられたのよ」

 捨てられた、という言葉にちくりと胸が痛んだ。
 どんなに頭で理解していても、別の誰かにはっきりと言葉にされるのは辛い。
 小さく鳴くと、不思議な生き物が私に前足を伸ばした。
 地面に横たえていた身体が、そっと抱き上げられる。

 冷え切った身体に、生き物の温もりが伝わってくる。
 抵抗する気力も無く不思議な生き物の前足に抱かれる私に寄り添って、光が笑った。

「お人好しねえ、マギアスは」

 ―――結論から言ってしまえば、私を救ったのはマギアスという人間だった。
 夜の闇のように黒いローブを纏い、雪のように白い髪に炎のように赤い瞳を持つ優れた魔法使いだ。
 当時世界の半分を支配していた帝国の侵略をたった一人で何度も退けた、といえばその力がどれほど強大だったか分かるだろう。
 彼が仕える雪の国は、帝国がその力を失うまで独立を守り抜いた数少ない国だった。

 同時に、マギアスは弱っている動物や魔物に手を差し伸べずにいられない性格でもあった。
 赤い光、もとい炎の精霊サラはそんな彼について「痛い目も散々見たのに、よくやるわ」と嘆息していたが、そのお陰で私は救われた。

 マギアスの献身的な世話で元気を取りもどした後、私は彼の使い魔となった。
 魔狼は、一度忠誠を誓った相手には何があろうと付き従う。
 私が忠誠を誓う相手として命を救ってくれたマギアスを選ぶのも、当然の摂理だった。
 魔力を持たない私の忠誠が受けいれられるか不安だったが、マギアスは喜んで私を使い魔としてくれた。

 パステールという名を与えられた私は、彼やサラと共に雪の国を何度も守った。
 魔物から、同じ人間から、時には凶暴な火竜から。
 彼の指示とサラの援護のお陰で、私はいつしか「ビブリオ・マギアスの忠実な使い魔」として認められるようになっていた。

 ビブリオ、というのは魔法使いに与えられる最高位だ。
 私が使い魔となった翌年、三度目の侵略を仕掛けてきた帝国を退けたマギアスの栄誉を讃えて贈られた。
 大勢の人間の前で讃えられる彼を見た時は、誇らしい気持ちでいっぱいだった。
 私の主は、こんなにも素晴らしい人間なのだ。

「サラとパステールは、私にとって欠かせない存在だよ」

 いつだったかマギアスがそう言ってくれたときは、胸が熱くなるほど嬉しかった。
 サラには「当たり前のこと言われて、何照れてんのよ」と散々小突かれたが。

 けれど、どんなに強くとも人は人。その命には限りがある。
 普通の人間よりも長く生きたマギアスにも、とうとうその日がやってきた。

「パステール」

 私の方を向いた優しい瞳には、紛れもなく死期が浮かんでいた。
 きっと、共にいられるのもあと少しだ。
 小さく鳴いた私を見て、彼が微笑んだ。

「パステール。お前は長年、私の使い魔としてよく働いてくれた。
 だが、私も見ての通りもう歳だ。じきに迎えがやってくる。
 だから、パステール。お前を解放しよう」

 その言葉と共に、マギアスの骨張った指先が首輪に触れた。

 使い魔は、首輪がある限りそれを嵌めた者に従う義務がある。
 その首輪が外せるのは主のみ。例え主が死んだとしても、首輪の効果は継続される。
 だから彼は、自分の命が尽きる前に私の首輪を外して自由にしてやろうと考えたのだろう。

 そんなことは必要ない。
 例えマギアスが死んでも、私はマギアスの使い魔だ。

 そう言うと彼は微かに目を見開き、それから笑った。

「本当にいいのかい」

 その問いかけに、私は大きく頷いた。
 彼はもう、首輪を外そうとはしなかった。
 代わりに、皺だらけの手が私の艶やかな毛並みをゆっくりと撫でた。

「今までよく力を貸してくれたね。
 あとは、お前の好きなように生きなさい」

 毛皮を撫でる手が次第に遅くなり、やがて動かなくなる。
 彼は、眠るように死んだ。

 しばらくその姿を眺めた後、私はマギアスを喰らった。
 魔狼は、死んだ仲間の肉を喰うことで弔う。
 冷たい土に還すのではなく、自らの血肉とすることで仲間が生きた証を我が身に刻み込むのだ。
 マギアスを取り込んだ後は、彼が暮らしたこの家で静かに余生をすごそうと考えていた。

 けれど、それは人間の流儀には合わなかったらしい。
 人間達は私を「人喰い狼」と呼び、恐れ、討伐しようとした。

 最初の頃、私は何故人間達が突然刃を向けてきたのか分からなかった。
 マギアスの匂いが残るこの家から私を追い出そうとしているのだと勘違いして憤り、ただひたすらに襲ってくる人間を殺した。
 人間達が襲ってくる理由を教えてくれたのは、旅からもどってきたサラだった。

 彼の死後すぐ、サラは家を離れていた。
 「ここにいると、マギアスを思い出すから」と言って、旅に出ていたのだ。
 幾分か時が経って、心も癒えたのだろう。
 家に戻ってきたサラは、私が人喰い狼と呼ばれていることやそう呼ばれるようになった経緯を聞いて深くため息を吐いた。

「人間は、例えどんな理由があっても同族の肉を口にすることを厭う種族なのよ。
 家を離れる前に、あんたに人間式の弔いの仕方だけでも教えておけばよかったわね。
 まあ、今更吐き出せとも言えないし……いいわ。雪の国の王に話を通してあげる」

 サラから事情を聞いた雪の国の王は、すぐに私の討伐をやめさせた。
 もともとこの討伐は、人を喰らうようになった私が森の外へ出て民達に被害をおよぼすことの無いようにという理由で始められたものらしい。
 その恐れがなくなったから、兵達を引き上げたのだそうだ。

 しかし、どのような理由があれど人を喰らったことは事実。そんな私が森の外をうろついては、民を不安にさせる。
 王は私に、事件を知る人間が一人残らずいなくなるまでは、彼の家を取り囲むこの森から決して出ないことを求めた。
 その代わり、今後一切人間を森へ出入りさせないと。

 私はそれを受けいれた。
 もともと、彼と暮らしたこの場所で静かに余生を過ごすつもりだったのだ。
 求められずとも、命尽きる時までここを離れるつもりはなかった。

 数百年の時が過ぎるうちに、マギアスの家があるこの森は「魔の森」と呼ばれ、人喰い狼が出る森として恐れられるようになった。
 それを訂正するつもりはなかった。どのような理由があっても、私が人を喰らったことは事実だ。
 なにより、誰も訪れることのない静かな日常に私は満足していた。

 マギアスに拾われたときは幼子だった私も、もう歳だ。
 あと百年も過ごせば、私の命も尽きるだろう。
 そうすれば、彼の元へいける。

 マギアスの言葉通り好きなように生きた私を、彼は褒めてくれるだろうか。
 それとも、彼が守りたかった人間を害した私を叱るだろうか。
 どちらでもいい。彼に再び会えるのなら、どちらでも。





 その日も、雪が降っていた。

「……なんだ、これは?」

 いつものように森に異変が起きていないか見回っていると、入口で妙なものを見つけた。
 籠に入った、白い包みだ。こんなものは昨日まで無かったはずだが……。
 警戒しつつ、籠をのぞき込む。

「……赤ん坊?」

 籠の中にいたのは、人間の赤ん坊だった。
 雪のように白い肌をしている。形のよい頭に生える僅かな髪の毛は私の毛皮と同じ黒色だ。
 冬の寒さなどまるで感じないといった様子ですやすやと眠っている。
 それはいいのだが……何故こんな所に赤ん坊がいるのだろう。

 周囲を見回したが、赤ん坊以外に人間の気配は感じ取れなかった。
 曰く付きの森にわざわざ子供を置いて、遠くへ出かけるということは考えづらい。
 恐らく、この赤ん坊は捨てられたのだろう。
 穏やかに眠り続ける赤ん坊を見ると、あの時の私を思い出して放っておけなかった。

 赤ん坊が入った籠の持ち手を咥えてそっと持ち上げると、籠は思いのほか大きく揺れた。
 起こしてしまうだろうかと様子を伺ったが、その気配はない。
 よほど深く寝入っているのか、あるいは神経が図太いのか……どちらにしても、今の私にとっては都合がよかった。
 なるべく揺らさないよう、けれど時間を掛けすぎて凍え死にさせないよう、早足で来た道を戻る。

「サラ」
「はいはい、おかえりなさ……って、なに拾ってきたのよ!」

 玄関の前で籠を置いて名前を呼ぶと、家から出てきたサラが小さく声を上げた。
 光の球体が赤く輝き、ふわりと空中を飛び回る。

「森の入口に捨てられていた。放っておけば、獣の餌になりかねない」

 そう言うと、サラが呆れたというように身体を明滅させた。

「ほんと、お人好し……いえ、狼好しね。あんたは。
 マギアスとそっくり」
「それは光栄だな」
「皮肉ってるのよ!
 全く。ペットは飼い主に似るっていうけど、本当ね」
「それを言うなら、使い魔は主に似る、だろう。
 私はペットではないぞ」
「あんたのそういう妙に細かいところ、私大好きよ」
「それは光栄だ」
「だから、皮肉よ!」

 言葉遊びや遠回しないい方を好む彼女―――精霊に性別はないのだが、彼が「彼女」と呼んでいたので、私もそれに習っている。今のところ、サラ自身から咎められたことはない―――の言葉は、私にはどうも理解が難しい。
 おかげで、彼女には叱られてばかりだ。

 ただ、それが彼女なりの愛情表現である事は長い間を共に過ごしてきてよく知っている。
 そうでなければ、こうして一緒に暮らしてはくれないだろう。

 その時、赤ん坊が微かに身じろいだ。
 小さく声を上げたあと、その目がぱちりと開かれる。
 どうやら、目を覚ましてしまったようだ。

「ああ、もう……ともかく、中に入りましょ。
 外にいたら、風邪引いちゃうわ」

 サラに促されて再び赤ん坊が入った籠の持ち手を咥えると、ふと赤ん坊の手が私の顔に伸びた。
 あちこちをぺたぺたと触る手が、ヒゲに伸びる。
 嫌な予感に籠を降ろそうとするも、その時にはすでに赤ん坊の手は私のヒゲをしっかりと捉えていた。

「―――!」

 繊細な部分を遠慮無く引っ張られる痛みに悲鳴を上げそうになるが、ここで籠を落としたらまずい。
 なんとか堪えて籠を床の上に置き、赤ん坊から離れようとしたのだが……。

「は、離してくれ! いたたた……」
「無理ね。赤ん坊って、好奇心旺盛だもの」

 赤ん坊は、なかなかヒゲを離してくれなかった。
 それどころか、もう片方のヒゲもしっかりと捕まれて四方八方にこねくり回される。

「な、なんとかならないのか。サラ!」
「仕方ないわね」

 そう言ってサラが赤ん坊の前で飛び回ると、興味はそちらへと移ったらしい。
 赤ん坊の手は無事にヒゲから離れ、今度はサラを追いかけ回すようになった。
 またヒゲを捕まれないよう距離を置いて、未だにひりひりと痛む頬を撫でる。
 何本か抜けていないだろうか。

「それで、パステール。この子、一体どうするの?」

 赤ん坊に捕まらないように飛び回りながら、サラが問いかけた。
 それに対する答えは、もう決まっている。

「ここで育てる」
「正気?」
「マギアスがもし生きていたなら、きっとそうしただろう」

 敵と見なした相手には容赦無いが、傷ついた者にはとことん甘く優しい。彼はそういう人間だった。
 それは時として彼の欠点でもあったが、私はおかげで救われたのだ。
 今度は、私が彼の意志を継ぎたい。
 そう言うと、サラは呆れた様子で上下に揺れた。

「いくらマギアスでも、さすがに人間の子供は孤児院に預けてたわよ。
 まあ、孤児院に預けずにわざわざここへ捨てるって時点で何か訳ありそうだし……たまにはこういうのも、暇つぶしになっていいんじゃない。
 静かに暮らすのも、ちょっと飽きてきたしね」

 こうして、私とサラだけの静かな生活に人間が一人加わった。
 人の赤ん坊など育てたことはないが、一度保護すると決めたのだ。
 この子が成人するまで、大切に見守るとしよう。
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