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12歳 人喰い狼と、新たな薔薇
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「うーん……」
羊皮紙を眺めていたローザが、難しい顔をして声を上げた。
宙を仰いだり、腕を組んだり、椅子から立ち上がってうろうろと辺りを歩き回ったりとその行動には落ち着きがない。
一体どうしたというのだろう。
今は冬の長期休暇中だ。
出された宿題は初日に全て終わらせていたはずだし、予習や復習でわからないことがあるのならサラに尋ねるはずだが……。
「どうしよう……」
今日何度目かのため息を就いたローザに原因を尋ねようと口を開いた時、窓を叩く小さな音が耳に届いた。
目をやれば、真っ白な鳩が窓枠に止まってじっとこちらを見つめている。
それに気がついたローザが「あ!」と声を上げて椅子から立ち上がった。
「ヴァイス!」
駆け寄ったローザが窓を開けると、ヴァイスと呼ばれた鳩はすっかり慣れた様子で家の中に入ってきた。
その足には、銀で作られた小さな筒が取り付けられている。
テーブルの上に降り立った鳩にビスケットの欠片を与えて、ローザがそわそわとした様子で筒から手紙を取りだした。
「ありがとう、ヴァイス。お疲れ様。
今お返事書くから、ちょっと待っててね」
そう言って、ローザが早速手紙を読み始めた。
差出人は聞くまでもない。もちろん、キースだ。
一年前の言葉通り、キースは毎週のように手紙を送ってきていた。
それによると、留学生活は順調らしい。
フォレストランドの人々とも無事に打ち解けられ、忙しくも充実した毎日を送っているとのことだった。
ただ、時折雪の国の料理が食べたくなる……とは、いつかの手紙に書いてあったが。
「わあ。キース、すごい!」
手紙を読み進めていたローザが歓声を上げた。
私の頭の上に止まっていたサラが「どうしたの?」と尋ねる。
「あのね、キースが新しい魔法植物を見つけたんだって!」
「ほう、それはすごいな」
ローザから見せてもらった手紙によると、フィールドワークを行なっていた際にいくつかの幸運な出来事が重なって偶然新種らしき魔法植物を発見できたらしい。
現在はその植物が本当に新種なのか詳しく調べている最中だが、恐らく新種に間違いないと確認に来た植物学者達から言われたそうだ。
魔法植物を発見できたのは、きっとローザからもらった幸運のアミュレットのおかげだと手紙には書かれていた。
「スケッチもあるんだよ。バラみたいで、すごくきれいなの」
そう言ってローザが見せてくれたスケッチには、確かに蔓薔薇のような植物が描かれていた。
ただ、色は普通の薔薇ではまず発現しないはずの鮮やかな青色だ。
さらに、この薔薇は精霊が近づくと花びらの色を変えるらしい。
炎の精霊が近くにいれば燃えるような赤に、大地の精霊ならば黄金に、風の精霊ならば透明に、水の精霊ならば淡い水色に。
どの色もスケッチでは表現しきれないほど美しいので、もし雪の国に持ち帰る許可が出たらぜひローザに見せたいと書かれていた。
「キースのスケッチでも十分きれいなのに、それでも表現しきれないくらいってどんな花なんだろう。
はやく見たいなあ」
同封されていたスケッチを眺めながら、ローザが弾んだ声でそう言った。
その時、ビスケットを食べ終えた鳩が小さく鳴いて羽ばたいた。
それに気がついたローザが「あ、ごめんね」と鳩に謝る。
「すぐお返事書くから、もうちょっと待ってて」
スケッチを脇に置いたローザが、再び手紙に視線を落とした。
ローザの隣を漂っていたサラが「あら」と声を上げる。
「手紙の最後、新しく見つけた魔法植物にローザの名前を付けたいってあるわね」
「うん。なんだか恥ずかしいけど……」
頬を赤く染めてもう一度手紙を見返した後、ローザが早速返信用の便箋に羽ペンを滑らせた。
キースが新しい薔薇を見つけたことへの祝福と、この一週間にあった出来事の報告。それから薔薇の名前についての返答。
最後に最近は寒くなってきたから身体に気をつけてほしいと加えて、羽ペンを置く。
「これでいいかな」
何度か見返して字の間違いや抜けがないことを確認したのだろう。
ローザが魔法でインクを乾かして、銀の筒に手紙を入れた。
机の上でおとなしく待っていた鳩の足に、筒を取り付ける。
「お願いね、ヴァイス」
もう一欠片ビスケットを食べさせてもらったあと、鳩は大きな声で鳴いて窓から飛び立っていった。
翌日には、キースの元に手紙が届くはずだ。
それを見送ったあと、先ほど眺めていた羊皮紙に目を落としたローザが深くため息を吐いた。
「どうした? ローザ」
尋ねると、ローザは羊皮紙を見下ろしたまま「うん……」と返事をした。
「進路、どうしようかなって思って」
「ああ、進路か……」
ローザが眺めていたのは、今年取る授業を記入する用紙だったらしい。
のぞき込めば、まだなにも記入されていない羊皮紙が目に入った。
そうか、もうそんな時期なのか。
授業選択用の羊皮紙は毎年記入しているものだが、今年のそれは普段とは重みが違う。
なにしろ、今年取った授業によって今後の進路が大体決まってしまうのだから。
ちょうど、去年のキースがそうだったように。
医師になりたいのなら薬草学と魔法薬学の授業は必須だし、魔法使いなら精霊学と魔法戦闘学は必須だ。
もちろん魔法使い志望の生徒が薬草学を取っても構わないが、就きたい職業に必須とされる授業だけは必ず取る必要がある。
それらを取っていないと、職に就くための試験自体受けられなくなってしまうのだ。
ローザはまだ、どの進路に進むか決まっていなかった。
これといってやりたいことが決まらないのだそうだ。
ローザの魔力と学力であれば、どのような道に進んでも問題無くやっていける。
サラや学校の教師も同じことを言っていたから、私の贔屓目ではない。
だからこそ、余計に迷うのだろう。
「キースはね、お父さんみたいにたくさんの植物を研究して、医学や魔法薬の発展に貢献したい。
そうすれば、たくさんの人を救うことが出来るから……って、言ってたの。
わたし、そんなにしっかりした夢とか考えとか、どうしても思いつかなくて」
ローザの悩みは出来る限り取り除きたいが、これは私があまり口を出してよいことではない。
彼女が大人となるには、自ら考え選ばなければならない悩みだからだ。
ただ、一つアドバイスをするのなら。
「ローザ。あまり為にはならないかもしれないが、動機なんて些細なことでいいのだ。
どんな理由でも、自分が一番進みたいと思った道を進めばいい」
「……たとえば、誰かの喜ぶ顔を見たいから、とかそんな理由でもいいの?」
「もちろん、いいとも」
私が野性に還らずマギアスの使い魔となったのは、ただ彼の傍にいたかったからだ。
決して「雪の国を守りたい」とか「多くの人々に名を知らしめたい」とか、そんな大層な理由ではない。
マギアスの為に活躍して、もっと褒めてもらいたかった。彼が喜ぶ姿をもっと見たかった。
結果的に雪の国は守られ、マギアスの片腕として私の名前は広く知られるようになったが、それはあくまで副産物だ。
どんな動機であれ、決めた目標に向けて一生懸命努力すれば結果はいずれついてくる。
そう言うと、ローザは少し悩んだ後ゆっくりと話し始めた。
「あのね……本当は、魔法使いがいいかなってちょっと思ってるの。
前にアミュレットを作ったときとか、初めて兎を仕留めたときとか、新しい魔法を使うときとか、すごくどきどきして楽しかったから。
それに、アミュレットや干し肉をプレゼントしたときにキースが喜んでくれたでしょう。
もっともっといろんな魔法を勉強したら、キースも……もちろん、キース以外の人も喜ばせることが出来るんじゃないかなって。
でも「新しいことをやってみたい」「人に喜んでもらいたい」なんて子どもみたいな理由で魔法使いを目指すのって、なんか変な気もして……」
「少しも変ではないと思うぞ」
好奇心も誰かに喜んでもらいたいという思いも、人間の原動力だ。
それらが他種族よりも強いからこそ、人間の文化は僅かな年月でめまぐるしく発展し、変化する。
アイスクリームやドレスのような嗜好品が多く生まれる……と、以前マギアスが言っていた。
私は魔狼だが、確かにその通りだと思う。
それに、ローザには魔法使いになるという希望を叶えるだけの力がある。
ローザの魔力なら、きっと腕のよい魔法使いになれる筈だ。
あとは、意欲次第だ。
「もし今ある魔法全てを習得できたとしたら、ローザはもうそれ以上勉強したくないか?」
「ううん。きっと「じゃあ、新しい魔法を作ろう」って思うよ。
それに、もし全部の魔法が使えるようになってもそれでおしまいじゃないもの。
もっともっと腕を磨いて、短い時間で魔法を発動させられるようにしたり威力を増幅させたりすると思う」
「それなら、きっと大丈夫だ」
既存のものを学び終えてもなお先を追い求めるだけの意欲があり、実力もあるのなら、途中で燃え尽きることはないだろう。
もちろん絶対ではないが、きっとローザに向いていると思う。
興味のないものにそこまで意欲が湧くはずはないのだから。
「それに、生きているうちならいくらでもやり直せる。
まずはやりたいことを一つ選んでみればいい。
なにがあっても、私とサラはローザの味方なのだから」
例え思い通りにならなくとも、途中で挫折しても、そこで得たものはローザの糧になる。
悩み、立ち止まることも時には必要かもしれないが、それだけではなにも得られない。
進もうと立ち止まろうと時間は平等に進むのだから、まずは自分が選んだ道を進むことが大切だと私は思う。
そう告げると、ローザは小さく頷いた。
「うん……そうだよね。
まずは、選ばなくちゃ。学校が始まるまで、あと一週間もないんだから」
そう言って、ローザが羊皮紙に今年選択する授業名を書込み始めた。
薔薇色の瞳には先ほどまで浮かんでいた悩みの色はなく、晴れ晴れとした色が宿っている。
あっという間に埋められた羊皮紙には、魔法使いになる為の必須科目の名前が書き連ねられていた。
羊皮紙を眺めていたローザが、難しい顔をして声を上げた。
宙を仰いだり、腕を組んだり、椅子から立ち上がってうろうろと辺りを歩き回ったりとその行動には落ち着きがない。
一体どうしたというのだろう。
今は冬の長期休暇中だ。
出された宿題は初日に全て終わらせていたはずだし、予習や復習でわからないことがあるのならサラに尋ねるはずだが……。
「どうしよう……」
今日何度目かのため息を就いたローザに原因を尋ねようと口を開いた時、窓を叩く小さな音が耳に届いた。
目をやれば、真っ白な鳩が窓枠に止まってじっとこちらを見つめている。
それに気がついたローザが「あ!」と声を上げて椅子から立ち上がった。
「ヴァイス!」
駆け寄ったローザが窓を開けると、ヴァイスと呼ばれた鳩はすっかり慣れた様子で家の中に入ってきた。
その足には、銀で作られた小さな筒が取り付けられている。
テーブルの上に降り立った鳩にビスケットの欠片を与えて、ローザがそわそわとした様子で筒から手紙を取りだした。
「ありがとう、ヴァイス。お疲れ様。
今お返事書くから、ちょっと待っててね」
そう言って、ローザが早速手紙を読み始めた。
差出人は聞くまでもない。もちろん、キースだ。
一年前の言葉通り、キースは毎週のように手紙を送ってきていた。
それによると、留学生活は順調らしい。
フォレストランドの人々とも無事に打ち解けられ、忙しくも充実した毎日を送っているとのことだった。
ただ、時折雪の国の料理が食べたくなる……とは、いつかの手紙に書いてあったが。
「わあ。キース、すごい!」
手紙を読み進めていたローザが歓声を上げた。
私の頭の上に止まっていたサラが「どうしたの?」と尋ねる。
「あのね、キースが新しい魔法植物を見つけたんだって!」
「ほう、それはすごいな」
ローザから見せてもらった手紙によると、フィールドワークを行なっていた際にいくつかの幸運な出来事が重なって偶然新種らしき魔法植物を発見できたらしい。
現在はその植物が本当に新種なのか詳しく調べている最中だが、恐らく新種に間違いないと確認に来た植物学者達から言われたそうだ。
魔法植物を発見できたのは、きっとローザからもらった幸運のアミュレットのおかげだと手紙には書かれていた。
「スケッチもあるんだよ。バラみたいで、すごくきれいなの」
そう言ってローザが見せてくれたスケッチには、確かに蔓薔薇のような植物が描かれていた。
ただ、色は普通の薔薇ではまず発現しないはずの鮮やかな青色だ。
さらに、この薔薇は精霊が近づくと花びらの色を変えるらしい。
炎の精霊が近くにいれば燃えるような赤に、大地の精霊ならば黄金に、風の精霊ならば透明に、水の精霊ならば淡い水色に。
どの色もスケッチでは表現しきれないほど美しいので、もし雪の国に持ち帰る許可が出たらぜひローザに見せたいと書かれていた。
「キースのスケッチでも十分きれいなのに、それでも表現しきれないくらいってどんな花なんだろう。
はやく見たいなあ」
同封されていたスケッチを眺めながら、ローザが弾んだ声でそう言った。
その時、ビスケットを食べ終えた鳩が小さく鳴いて羽ばたいた。
それに気がついたローザが「あ、ごめんね」と鳩に謝る。
「すぐお返事書くから、もうちょっと待ってて」
スケッチを脇に置いたローザが、再び手紙に視線を落とした。
ローザの隣を漂っていたサラが「あら」と声を上げる。
「手紙の最後、新しく見つけた魔法植物にローザの名前を付けたいってあるわね」
「うん。なんだか恥ずかしいけど……」
頬を赤く染めてもう一度手紙を見返した後、ローザが早速返信用の便箋に羽ペンを滑らせた。
キースが新しい薔薇を見つけたことへの祝福と、この一週間にあった出来事の報告。それから薔薇の名前についての返答。
最後に最近は寒くなってきたから身体に気をつけてほしいと加えて、羽ペンを置く。
「これでいいかな」
何度か見返して字の間違いや抜けがないことを確認したのだろう。
ローザが魔法でインクを乾かして、銀の筒に手紙を入れた。
机の上でおとなしく待っていた鳩の足に、筒を取り付ける。
「お願いね、ヴァイス」
もう一欠片ビスケットを食べさせてもらったあと、鳩は大きな声で鳴いて窓から飛び立っていった。
翌日には、キースの元に手紙が届くはずだ。
それを見送ったあと、先ほど眺めていた羊皮紙に目を落としたローザが深くため息を吐いた。
「どうした? ローザ」
尋ねると、ローザは羊皮紙を見下ろしたまま「うん……」と返事をした。
「進路、どうしようかなって思って」
「ああ、進路か……」
ローザが眺めていたのは、今年取る授業を記入する用紙だったらしい。
のぞき込めば、まだなにも記入されていない羊皮紙が目に入った。
そうか、もうそんな時期なのか。
授業選択用の羊皮紙は毎年記入しているものだが、今年のそれは普段とは重みが違う。
なにしろ、今年取った授業によって今後の進路が大体決まってしまうのだから。
ちょうど、去年のキースがそうだったように。
医師になりたいのなら薬草学と魔法薬学の授業は必須だし、魔法使いなら精霊学と魔法戦闘学は必須だ。
もちろん魔法使い志望の生徒が薬草学を取っても構わないが、就きたい職業に必須とされる授業だけは必ず取る必要がある。
それらを取っていないと、職に就くための試験自体受けられなくなってしまうのだ。
ローザはまだ、どの進路に進むか決まっていなかった。
これといってやりたいことが決まらないのだそうだ。
ローザの魔力と学力であれば、どのような道に進んでも問題無くやっていける。
サラや学校の教師も同じことを言っていたから、私の贔屓目ではない。
だからこそ、余計に迷うのだろう。
「キースはね、お父さんみたいにたくさんの植物を研究して、医学や魔法薬の発展に貢献したい。
そうすれば、たくさんの人を救うことが出来るから……って、言ってたの。
わたし、そんなにしっかりした夢とか考えとか、どうしても思いつかなくて」
ローザの悩みは出来る限り取り除きたいが、これは私があまり口を出してよいことではない。
彼女が大人となるには、自ら考え選ばなければならない悩みだからだ。
ただ、一つアドバイスをするのなら。
「ローザ。あまり為にはならないかもしれないが、動機なんて些細なことでいいのだ。
どんな理由でも、自分が一番進みたいと思った道を進めばいい」
「……たとえば、誰かの喜ぶ顔を見たいから、とかそんな理由でもいいの?」
「もちろん、いいとも」
私が野性に還らずマギアスの使い魔となったのは、ただ彼の傍にいたかったからだ。
決して「雪の国を守りたい」とか「多くの人々に名を知らしめたい」とか、そんな大層な理由ではない。
マギアスの為に活躍して、もっと褒めてもらいたかった。彼が喜ぶ姿をもっと見たかった。
結果的に雪の国は守られ、マギアスの片腕として私の名前は広く知られるようになったが、それはあくまで副産物だ。
どんな動機であれ、決めた目標に向けて一生懸命努力すれば結果はいずれついてくる。
そう言うと、ローザは少し悩んだ後ゆっくりと話し始めた。
「あのね……本当は、魔法使いがいいかなってちょっと思ってるの。
前にアミュレットを作ったときとか、初めて兎を仕留めたときとか、新しい魔法を使うときとか、すごくどきどきして楽しかったから。
それに、アミュレットや干し肉をプレゼントしたときにキースが喜んでくれたでしょう。
もっともっといろんな魔法を勉強したら、キースも……もちろん、キース以外の人も喜ばせることが出来るんじゃないかなって。
でも「新しいことをやってみたい」「人に喜んでもらいたい」なんて子どもみたいな理由で魔法使いを目指すのって、なんか変な気もして……」
「少しも変ではないと思うぞ」
好奇心も誰かに喜んでもらいたいという思いも、人間の原動力だ。
それらが他種族よりも強いからこそ、人間の文化は僅かな年月でめまぐるしく発展し、変化する。
アイスクリームやドレスのような嗜好品が多く生まれる……と、以前マギアスが言っていた。
私は魔狼だが、確かにその通りだと思う。
それに、ローザには魔法使いになるという希望を叶えるだけの力がある。
ローザの魔力なら、きっと腕のよい魔法使いになれる筈だ。
あとは、意欲次第だ。
「もし今ある魔法全てを習得できたとしたら、ローザはもうそれ以上勉強したくないか?」
「ううん。きっと「じゃあ、新しい魔法を作ろう」って思うよ。
それに、もし全部の魔法が使えるようになってもそれでおしまいじゃないもの。
もっともっと腕を磨いて、短い時間で魔法を発動させられるようにしたり威力を増幅させたりすると思う」
「それなら、きっと大丈夫だ」
既存のものを学び終えてもなお先を追い求めるだけの意欲があり、実力もあるのなら、途中で燃え尽きることはないだろう。
もちろん絶対ではないが、きっとローザに向いていると思う。
興味のないものにそこまで意欲が湧くはずはないのだから。
「それに、生きているうちならいくらでもやり直せる。
まずはやりたいことを一つ選んでみればいい。
なにがあっても、私とサラはローザの味方なのだから」
例え思い通りにならなくとも、途中で挫折しても、そこで得たものはローザの糧になる。
悩み、立ち止まることも時には必要かもしれないが、それだけではなにも得られない。
進もうと立ち止まろうと時間は平等に進むのだから、まずは自分が選んだ道を進むことが大切だと私は思う。
そう告げると、ローザは小さく頷いた。
「うん……そうだよね。
まずは、選ばなくちゃ。学校が始まるまで、あと一週間もないんだから」
そう言って、ローザが羊皮紙に今年選択する授業名を書込み始めた。
薔薇色の瞳には先ほどまで浮かんでいた悩みの色はなく、晴れ晴れとした色が宿っている。
あっという間に埋められた羊皮紙には、魔法使いになる為の必須科目の名前が書き連ねられていた。
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