生涯の伴侶が見つからない。転生令嬢の婚活

麦畑ムギ

文字の大きさ
7 / 15

7.ぼっち令嬢のお泊り計画(1)

しおりを挟む
 私は宮廷への出仕をあっさり諦めることはできず、それまでとは比べ物にならないくらい自分磨きに精を出した。今の私では上級侍女として宮廷に上がるのにふさわしくない。ということは、上級侍女にふさわしい人間になれば両親も反対せず推薦してくれるだろうと思ったのだ。

 私は教養を身につけようとこれまで以上にたくさんの本を読み、立ち居振る舞いに気をつけ、苦手なダンスも毎日一人でこっそり練習した。だが、挫けそうになったことは正直何度もあった。

 どれだけ頑張ったつもりでも、姉の圧倒的な記憶力の前では私が必死に蓄えた知識など雀の涙程度だったし、指が折れそうになるくらいピアノやバイオリンを練習してやっと私が弾けるようになった曲でもエレノアは初見でさらりと弾いてしまう。努力って何だろう?とか、私が頑張る意味ってあるのかな?とか、そんな風に思うことがたくさんあった。

 (もう十分やったんじゃないかな~)

 頑張るのに疲れて、何度そう思ったか分からない。いっそ全部やめて、結婚もせず一生この家で親の脛をかじって生きていくのも悪くないんじゃなかろうか。周りからの陰口や嘲笑には慣れてきてしまっていたし、開き直って堂々と好き勝手生きても良いんじゃなかろうか。

 そう思っては私はこっそり屋敷を抜け出し、あてもなくぶらぶら歩いた。そしてぐみの実やベリー、すももなんかをもいで食べたり、川につるつるした石を投げ入れたり、なだらかな斜面をころころ転がり落ちたりして遊んだ。非常に子どもっぽいが、そうやって思いっきり童心に帰って過ごすと私は少し元気になれた。この気晴らしはドレスを汚して嫌味を言われたり叱られたりするまでがセットだったが、それでもやめられなかった。

 だいたい半年に一度ほどだろうか、宮廷の侍女になりたいから推薦状を書いてくれと両親にせがんだものだ。そしてその度に断られてきた。十七歳で自分が転生者であると分かってからは、少しずつ戻ってきた前世の記憶を生かせないかと思って試みもした。しかし、これもやはり失敗であった。失敗しかしていないレベルである。こんな転生者はいかがなものだろうか。だが実際問題難しいのだ。この世界と前に私がいた世界は似ているところもあるとはいえ、文化も社会も暮らしている人々も違う。私が前で世得たものはどれも大したものではないし、それになかなか応用がきかないのだ。前世持ちというのは私の唯一の強みとなり得るステータスであるだけに、上手に生かせないのがとても歯痒かった。

 しかし私は何だかんだで励み続けた。教育環境については恵まれていた。父は家庭教師を住み込みで雇う他に、必要に応じて何人もの先生を呼んで子どもたちに必要な教育を受けさせた。母も娘たちには教養のあるレディに育ってほしいと思っており、一般科目やマナー、基礎的な芸術科目を修めた後には自分の学びたい専門的な勉強もさせてくれた。

 ただ私には姉のような一を聞いて十を知る明晰さも無ければ妹のような芸術的センスも無かったため、これ以上勉強を続けるのは無駄だろうと18歳になる直前に両親から言われた。要は教育の打ち切りを告げられたのだ。しかし私は頭を下げて頼み込み、19歳になるまでは勉強を続けさせてもらうことになった。今まで他にほとんどわがままを言ったことがないという実績が効いたのか、両親は少し苦い顔をしながらも承諾してくれた。何とかうまくいった、と私は胸を撫で下ろした。必死で頼まずにはいられなかったのは、私がまだ出仕を諦め切れていない何よりの証拠だった。

 (あと一年だけ、頑張ってみよう)

 私はそう心に決めた。

 その翌日はちょうどエルネストおじさまの訪問日だった。久しぶりにおじさまのひとり息子であるテオドールも一緒だったので、私は特に嬉しかった。この再従兄弟はとこが来てくれるだけで、斜面100転がり以上の気晴らしになるのだ。

 おじさまは到着早々仕事のことで父と話をしに行ったので、私はテオドールと釣りに出かけることにした。当然「伯爵家の令嬢が魚釣りに興じるなんてみっともない」と言われてはいるが、私は子どもの頃からおじさまやテオドールとしょっちゅう釣りに出掛けてきたので周囲は呆れながらも半分諦めている。

 今回、私には大いなる計画があった。明日、エルネストおじさまとテオドールが自分たちの屋敷に帰るときに同行し、泊まらせていただくつもりなのだ。おじさまの許可はすでに取ってあり、おじさまの口添えのおかげで両親を説得することにも何とか成功した。あとはテオドールに聞くだけだ。

 ここまで根回ししておいてなんだが、もし彼がほんのちょっとでも嫌そうな様子を見せたらこの計画はその時点で中止しようと私は決めていた。私にはぜひ達成させたい目的があるためこのお泊まり会を計画したのだが、それについてテオドールがどう思うかは全く予想がつかない。どうしようドキドキしてきた。しかし、やらねばならない。長いこと温めてきた渾身の計画を無駄にしないためにも、失敗は許されない。私は帽子を目深にかぶり、釣り竿を肩に担ぎながら気持ちを引き締めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない

櫻野くるみ
恋愛
伯爵家の長女、エミリアは前世の記憶を持つ転生者だった。  手のかからない赤ちゃんとして可愛がられたが、前世の記憶を活かし類稀なる才能を見せ、まわりを驚かせていた。 大人びた子供だと思われていた5歳の時、18歳の騎士ダニエルと出会う。 成り行きで、父の死を悔やんでいる彼を慰めてみたら、うっかり気に入られてしまったようで? 歳の差13歳、未来の騎士団長候補は執着と溺愛が凄かった! 出世するたびにアプローチを繰り返す一途なダニエルと、年齢差を理由に断り続けながらも離れられないエミリア。 騎士団副団長になり、団長までもう少しのところで訪れる愛の試練。乗り越えたダニエルは、いよいよエミリアと結ばれる? 5歳で出会ってからエミリアが年頃になり、逃げられないまま騎士団長のお嫁さんになるお話。 ハッピーエンドです。 完結しています。 小説家になろう様にも投稿していて、そちらでは少し修正しています。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった

木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。 今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。 せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。 床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。 その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。 他サイトでもアップしています。

女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です

くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」 身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。 期間は卒業まで。 彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

乙女ゲームの中の≪喫茶店の店長≫というモブに転生したら、推しが来店しました。

千見るくら
恋愛
社畜OL、乙女ゲームの世界に転生!? でも私が転生したのは――女主人公でも攻略対象でもなく、ただの喫茶店の店長(モブ)だった。 舞台は大人気乙女ゲーム『ときめき☆青春学園~キミの隣は空いてますか?~』。 放課後、女主人公と攻略キャラがデートにやってくるこの店は、いわば恋愛イベントスポット。 そんな場所で私は、「選択肢C.おまかせメニュー」を選んでくる女主人公のため、飲料メーカーで培った知識を駆使して「魂の一杯」を提供する。 すると――攻略キャラ(推し)の様子が、なんかおかしい。 見覚えのないメッセージウインドウが見えるのですが……いやいや、そんな、私モブですが!? 転生モブ女子×攻略キャラの恋愛フラグが立ちすぎる喫茶店、ここに開店! ※20260116執筆中の連載作品のショート版です。

処理中です...