11 / 17
第一章『星の奇跡編』
魔法使い ―3―
しおりを挟む
2人が出会った丘で、どこかですすり泣く声が聞こえる。薄暗く、空気が凍ってしまいそうなほど静かな自然の中で、星と月明かりがモニカを導く。きっと、この声は誰にも聞こえていないだろう。本来は誰に気づかれることも無く、彼女は泣きながら朝を迎えるのだろう。でも、今は違う。月が昇っていく。風そよぐ黄昏時は終わりを告げる。ここから先は、2人だけの時間だ。
「……ここにいるんでしょ」
沈黙が夜を泳ぐ。姿も声も聞こえない。黒によく映える彼女の白い毛色はどこにも見えない。それでも、モニカには分かる。今のモニカは、彼女と切っても切れないもので繋がれている。
脳が焼き切れるほど疲弊している。身体は悲鳴をあげて、今すぐにでも倒れてしまいたいほど苦痛を訴える。心が、言わば霊が叫ぶ。一歩間違えれば、死んでしまうかもしれない。視界が霞んでもうほとんど見えていない。それでも、そこにいると信じて、モニカは名前を呼ぶ。ずっと考えていた。「あなた」や「小狐」などと呼ぶ度、彼女は悲しそうな顔をする。モニカはそれと同じくらい、その顔を見るのが悲しかった。ずっと笑っていて欲しい。悲しみなんて見せないで欲しい。短い付き合いながらも、放っておくことができないほど、モニカは絆されていた。
「あなたに……どんな名前が相応しいかなんて、分かんなかったけど……私なりにちゃんと考えたから」
もう辺りはすっかり暗くなってしまい、無数の星が姿を見せる。
「ソラ。ソラ・エストレイラ……」
恐る恐る、小狐が茂みから顔を出す。涙で顔がぐちゃぐちゃになってしまっている。けれど、今も溢れて止まらないのは、涙だけではなかった。小狐から溢れ出る妖気が止めなく周囲に撒き散らされる。草木は枯れ、光を失わせる。いっそう身体が重くなる。まるでパーシーの魔法を受けたみたいに、ベッタリと地面にへたり込む。
「モニカ!」
「……やっと、出てきた……」
もう、モニカに小狐の姿はまるで見えていない。ただうっすらと白い影と声が聞こえるだけだった。
「モニカ! モニカ……ごめんなさい……私は」
「いいよ……大丈夫……なんの問題も……ないから」
「でも、もう……!」
手遅れだ。既にモニカの霊の9割以上は消滅し、もう残りカスしかない。砂時計が時を刻むように、ジリジリと死が近づいてくるのを感じる。呪いの刻印は次第に濃くなっていき、モニカの身体すら蝕んでいく。
これが、妖だ。そこに悪意の有無は関係なく、ただ触れるもの全てを災い、呪う。希望には絶望を、光には闇を、期待には失望を、救いあるものには死を。ただ、そう生きるしかないものだ。決して、この妖の運命を覆すことはできない。
モニカの身体から熱が失われていく。指先から、腕へ、やがて身体の芯まで凍てつくような、抗いようのない寒気がモニカを襲う。必死に手を握り声をかける小狐の足掻きも虚しく、モニカの意識は消滅しようとしていた。
「…………大丈夫…………魔法使いは…………奇跡を起こせるんだから…………」
「モニカ!」
満月と共に、星が煌めく。円を描きながら、流星が宇宙を駆ける。星は幾重にも広がり、ノーチェスの空を照らす。モニカの心臓の鼓動は、少しづつ小さくなっていく。パーシーとヨナ・アージェントが駆けつけるも、既に手の施しようがないほどだった。諦めかけていたその時、ノーチェスの宇宙に星が降る。誰もが空を、星を見た。輝き、色めく星々が、暗闇を晴らす。
「……星?」
奇跡が起こる。なんの意味もない、名を持つ小狐の祈りは、願いは、星に導かれる。
その祈りを乗せた星は
現実を突き破り
奇跡へと至った
「……ここにいるんでしょ」
沈黙が夜を泳ぐ。姿も声も聞こえない。黒によく映える彼女の白い毛色はどこにも見えない。それでも、モニカには分かる。今のモニカは、彼女と切っても切れないもので繋がれている。
脳が焼き切れるほど疲弊している。身体は悲鳴をあげて、今すぐにでも倒れてしまいたいほど苦痛を訴える。心が、言わば霊が叫ぶ。一歩間違えれば、死んでしまうかもしれない。視界が霞んでもうほとんど見えていない。それでも、そこにいると信じて、モニカは名前を呼ぶ。ずっと考えていた。「あなた」や「小狐」などと呼ぶ度、彼女は悲しそうな顔をする。モニカはそれと同じくらい、その顔を見るのが悲しかった。ずっと笑っていて欲しい。悲しみなんて見せないで欲しい。短い付き合いながらも、放っておくことができないほど、モニカは絆されていた。
「あなたに……どんな名前が相応しいかなんて、分かんなかったけど……私なりにちゃんと考えたから」
もう辺りはすっかり暗くなってしまい、無数の星が姿を見せる。
「ソラ。ソラ・エストレイラ……」
恐る恐る、小狐が茂みから顔を出す。涙で顔がぐちゃぐちゃになってしまっている。けれど、今も溢れて止まらないのは、涙だけではなかった。小狐から溢れ出る妖気が止めなく周囲に撒き散らされる。草木は枯れ、光を失わせる。いっそう身体が重くなる。まるでパーシーの魔法を受けたみたいに、ベッタリと地面にへたり込む。
「モニカ!」
「……やっと、出てきた……」
もう、モニカに小狐の姿はまるで見えていない。ただうっすらと白い影と声が聞こえるだけだった。
「モニカ! モニカ……ごめんなさい……私は」
「いいよ……大丈夫……なんの問題も……ないから」
「でも、もう……!」
手遅れだ。既にモニカの霊の9割以上は消滅し、もう残りカスしかない。砂時計が時を刻むように、ジリジリと死が近づいてくるのを感じる。呪いの刻印は次第に濃くなっていき、モニカの身体すら蝕んでいく。
これが、妖だ。そこに悪意の有無は関係なく、ただ触れるもの全てを災い、呪う。希望には絶望を、光には闇を、期待には失望を、救いあるものには死を。ただ、そう生きるしかないものだ。決して、この妖の運命を覆すことはできない。
モニカの身体から熱が失われていく。指先から、腕へ、やがて身体の芯まで凍てつくような、抗いようのない寒気がモニカを襲う。必死に手を握り声をかける小狐の足掻きも虚しく、モニカの意識は消滅しようとしていた。
「…………大丈夫…………魔法使いは…………奇跡を起こせるんだから…………」
「モニカ!」
満月と共に、星が煌めく。円を描きながら、流星が宇宙を駆ける。星は幾重にも広がり、ノーチェスの空を照らす。モニカの心臓の鼓動は、少しづつ小さくなっていく。パーシーとヨナ・アージェントが駆けつけるも、既に手の施しようがないほどだった。諦めかけていたその時、ノーチェスの宇宙に星が降る。誰もが空を、星を見た。輝き、色めく星々が、暗闇を晴らす。
「……星?」
奇跡が起こる。なんの意味もない、名を持つ小狐の祈りは、願いは、星に導かれる。
その祈りを乗せた星は
現実を突き破り
奇跡へと至った
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる