【R15】ネクロマンサー風太 ~異世界転生 死霊術師のチート~

ぺまぺ

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4章 帰国編

30話 死の監獄

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「実に素晴らしい戦果ではないか。
それに相応しい褒美を用意した、受け取ってくれ」

 都市攻略に失敗し、戦果を上げることなく退却したクークリフに対して、風太は敵の騎士団2隊を撃破したのである。
 一騎当千の強者と評価されている騎士団は一万人の兵と等しく扱われた。
 風太の案がなければ、挟撃され壊滅的な被害が予想されたのである。

 それは前日のことだ。
 クークリフは危機感に苦悩する。
 どうすれば、玉国の貴族フータを蹴落とすことが出来るのだろうかと。
 失態の連続、もはや王子に合わせる顔もなく、大将の座を追われようとしている。
 もし彼が次の大将となれば、貴族体制に逆戻りするかも知れない。
「彼を僻地へ飛ばせば、他の武将達は不信を抱き牙を向くかも知れない。
正当な理由が必要だというのに……」
 全くフータの情報が入ってこない、謎の人物である。
 解っているのは玉国の辺境貴族の息子の一人ということだけ。
 その貴族は老体で病に冒され寝たきりらしい、偽装ではないのかと疑いはある。
 しかし証明する証拠ない。

 そこに聖女ユークアがやって来る。
 彼女は物腰柔らかな淑女である。
 兵士達の心を癒やすために、ここ数日はほとんど寝ていないようで目の下にくまが出来ていた。
「悩まれているようですね。
私で良ければ話を聞きましょう」
 彼女の助言によって、被害を抑える結果となった。
 爆発の法術罠を予見し、突撃による大損害をせずに済んだ。
 彼女にも何かしらの恩賞を与えたい所だが、聖女と言う立場ゆえとのことで拒否された。
 まさに女神のようなお方である。
「愚かにも嫉妬し、恐怖している自分がいます。
貴族が支配する事が正しいのてしょうか?」
「それは私には解りかねます。
もしや戦果を気になされているのでしょうか?」
「はい」
「力で勝とうとすれば、貴族に一日の長があるでしょう。
ですが、それだけが人を惹きつけるとは思えません」
「貴族は専門の教師から学ぶ、エリートだと聞きます。
我々には学ぶ機会などほとんど与えられなかった」
 王国では貴族は家庭教師を付け教育するのが一般的だ。
 市民は親に教えてもらうぐらいで、学校のような教育機関は存在しない。
 
 例外はあるもので、聖職者は経典に記された内容を理解するために文字を教わる。
 また知識を分け与える役目を担っていた。
「魔素が薄まり、最南端の都市を復興するらしいです。
貴方の父は大工だったと聞いています」
「はい。
最初に陥落したあの都市、見る影もなくなっている。
それを復興させたと成れば確かに」
「方や、小規模な村ですら復興できない貴族。
どちらを選ぶのかは明らかでしょう?」
 もし単に彼に小さな領地を与えればと助言した所で彼は納得し無かっただろう。
 何故なら彼が恐れているたのは地位が奪われることだ。
 それさえ解決できると錯覚さえすれば実現出来るかなんて関係はない。
 結果は本人次第、所詮は使い捨ての駒に過ぎないのだから。

「ああ、聖女殿……、貴方は女神だ」
 クークリフは礼を告げると直ぐに行動に移る。
 部下を呼び命令を伝える。
「不要な領地……、ああ、そうだ。
金を持って復興をせがんできた元領主がいたな」
 賄賂で不正を働こうとしたとして牢獄に放り込み、金を没収したのである。
 実に愉快な出来事だったと思い出し笑う。
「確か、監獄内で病がはやり囚人の大半が死亡したと噂が。
恐らくですが既に無くなっているかと」
 看守による暴力、劣悪な環境、腐った食事……、そんな場所で健康的に居られるはずもない。
 いずれ病に冒され死に至る。
 些細な罪でも生きて出ることは無いとまで噂されるほどである。
「では、その家族は居ないか調べて連れてこい。
重大な話があるから丁重に迎えるのだぞ」
「御意」


 回想に笑むクークリフだった。
「さあ、南東の領地を与えよう」
 風太は書類を受け取る。
 地図と、契約内容が書かれた紙等が束ねてあった。
「まあもらえるなら……」

 近くで傍聴していた顔色が真っ青で表情の暗い女が近づき風太の手を握る。
 彼女は綺麗なドレスに身を包んでいる。
 首元が見えるベアトップで、スカートは短く長い靴下で足を隠している。
 服装は白で統一され、金髪の美女という印象を与えた。
「領主となることを受け入れたのですね。
私はナールルネ、前領主の娘で貴方の妻となります」
「なんでいきなり」
「その契約書に書かれていることです。
私を養うことが領主となる条件となっています」
「まだ判子も押して無い。
契約を結んだことにはならないだろう?」
「いいえ、褒美として受け取った時点で契約が結ばれた事になります。
よって、住民千人の保護も同時に行って頂きます」
「なんだそれは?」
「魔族の進行によって避難してきた住民の数です。
領地が戻ったのであれば帰えらなければなりません」
 厄介なことを押し付けられたことに気づき風太はクークリフを見る。
 彼は不敵な笑みを浮かべている。
 褒美と言いつつ、悪意に満ちた代物なのは明らかだ。
 他の者達には、それでも魅力的な褒美に見えていた。
 彼らには領地すら無く、王国の美女まで付いてくるなんて羨ましいと妬むぐらいだ。

 ナールルネは風太の腕を掴み、その場から逃げるように離れる。
「何焦っているんだ?
まだ終わってないのに勝手に出ていったら不味いだろう」
 戦果の検証を行い、報酬を決める会議の最中である。
 風太は、別働隊として動いていた為に本隊で何が起きいたかは解らない。
 居なくても問題はないのだが……、それでも身勝手な振る舞いは立場を悪くするだろう。
「このままだと来年の税を収めることが出来ずに私達は処刑されるわ。
少しも時間を無駄にすることは出来ない」
「どういう事だ?」
「土地の規模によって、収穫量が算定されています。
いくら農地が荒れ果てて使い物にならなくても、その基準で税を収めなければならない」
 本来は富を生む領地だが、今は負の遺産と成り果てているのだ。
 魔族の占領下にある間は魔獣が徘徊し手入れすら行われていない。
 そんな土地を再び、農地へと再生するにのどれだけの時間と労働力が必要か……。
 彼女は、それを考えるだけで目眩がして倒れそうだ。
「待って貰うことが出来ないのか?」
「魔族占領下の間に未払だった税の免除、
そのの間に民が避難していた諸々の経費は補助によって賄われる事になったわ」
「既に恩恵を受けているから、これ以上は無いって事か」
 姫の救出が終われば、帝国に逃げる予定だ。
 彼女も連れていけば、最悪死罪からは逃げられるだろう。
 しかし、残された住民が苦しむのは避けたい。
 と言っても残された時間は、2週間程度だ。
 
「財産も没収され、物価高に加え人手すら都市復興によって不足しています。
働き盛りの男は、出稼ぎによって残った民は女子、老人で、どうやって復興すれば良いの?」
「それは俺がなんとかしよう。
ただ君達は、俺が呼びに来るまでは待っていてくれ」
「貴方一人で何が出来るというのです」
「落ち着いて、美味しいケーキを用意しておいてくれ。
お祝いが必要だろう?」
 彼女は、ノー天気すぎる風太に失望し膝を崩す。
 首にかかった縄がググッと引っ張られて宙吊りにされる未来に頭を抱えて悶えた。
「無理、私は、父のように殺される。
ああ、どうして、こうなったの!」
「その話を少し終えてくれないか?
話せば幾らか気が楽なる」
 風太は彼女を近くの茶屋へ連れて行き、じっくりと話を聞いた。
 色々と脅され、10歳の弟を人質に取られているようだ。
 本来なら、領主の血筋で男が後を継ぐのである。
 弟の方が優先され、彼女を娶ったとしても風太には権利はない。
 しかし、女しかいない場合は例外的に婿を領主とすることがある。
 責任を負わせるためだけに、利用されたわけだ。

 彼女はロケットペンダントを外すと、チャームを開くと中から歯が出てくる。
「牢獄から送られて来ました。
それで父の死を知ったのです」
「どんな罪だったんだ?」
「息子や家族を思うのが罪なのでしょうか?
ただ領地の復興を急いで欲しいと願っただけのなのに……、こんなことになるなら止めておけば良かった」
 魔族によって領土を奪われた貴族は、粛清から見逃されていたかに見えた。
 だが実際は、優先順位の問題で脅威となる者から優先的に排除していただけだ。
 そうとも知らず迂闊な行動に出たのが運の尽きだった。
「君の悲しみを心に刻んでおく。
俺を信じて待っていてくれないか?」
「いいえ、私を捨てて逃げるつもりでしょう。
そうは行きません、どこまでも地獄の果まで追っていきます」
「そこまで言うなら覚悟を見せてもらおうか」

 風太は、悪名高い監獄を目指して移動した。
 馬車で半日、徒歩で1時間程の人里離れた場所にあった。
 囚人が逃げ出さないように、湖の孤島に建てられている。
 周囲は、魔獣が出る森に囲われた魔狩場ダンジョンになっている。
 霧が濃く薄暗い、苦しそうな人の顔をした草が覆い茂る、奇妙な獣の声が響く。
 そんな場所にいるだけで気が狂いそうになる。
 
 安全な道は日によって変化し、それを知るのは案内人だけだ。
 ナールルネは案内人に願う。
「父の遺品が残っていないか調べたいのです。
もう一度、交渉するために連れて行ってください」
「病死した者は焼却し骨すら残らない。
何度来ようと髪の毛一つ出てきはしない」
 風太が金貨を案内人の手に握らせた。
 すると態度が急変し、道案内を初めた。
 信念などなく、ただ欲望を満たすために立場を利用しているに過ぎない。
 
 そんな案内人がどうして猫背なのか、風太は乗っかっている死霊の重さで曲がったのではないのかと推測した。
 彼がどれだけの悪人かは、死霊の数を見れば解るというものだ。
 13……、随分と恨まれているな。
「到着です、帰りはベルを鳴らしてくれたら迎えに来ます。
ではこれで……」
「ありがとう。
地獄の船賃はそれで足りるのか心配だけど」
「何を不気味なことを。
あまり変なことを言いますと帰りの案内は無いと思ってくれ」
「霊が語りかけてくるんだ。
苦しい助けて欲しいと」
「狂気に触れたか。
もう知らん、迷い続けると良い」
 案内人は急いで去っていく。
「あの、どうするつもりですか?
彼を怒らせのは帰った後でも良かった筈です」
「ああ、ごめん。
彼は戻って来るから安心して良い」
 魂の悲劇バットエンドストーリー
 死霊術に少し要素を加え、悪霊を演者に見立てて人を操る魔法である。
 金貨を渡した時に掛けておいた。

 ナールルネは目眩で頭に手を抑える。
「そんな謎の自信はどこから来るのかしら。
金貨は魅力的だけど、それだけでは人は動かない」
 風太は床に魔法陣を設置し、彼女を支えるように腰に手を回す。
「目的は達したから帰ろうか」
「へっ?
何のために来たの、もう駄目……私は処刑されてしまう」
 彼女が倒れそうになるのを抱きしめた。
 痩せこけ身体が軽い、栄養が足りていないのか胸かペタンコだ。
「どこまでも俺についていくんだろう?
そんなことで諦めるな」
「何をしに来たのか教えてくれも良いでしょう?
私にも知る権利があります」
「運命って信じるか?
それを変化させる魔法がある」
「……魔法?
まさか貴方は異界人、でも玉国では転生の儀式は失われたはず……」
「察しが良いなら解るよな。
魔将を討ち取ったのは俺だ」
「アハハハ……、とんでもない。
貴方がペテン師だったなんて、もう終りね」
「どうでもいいけど、もう帰ろう」
「誰に聞かれるか解らないのに迂闊にも話す事ではないわ。
私はさっきのことは忘れます。
では行きましょうか」
 風太はパッチンと指を鳴らす。
 
 魔法陣から、魔骸骨ハイスケルトンがゆっくりと出て来るのだった。
 それには制約が一つ掛けられている。
 罪なきものに手を出してはならない、犯そうとすれば魂が砕け自壊する。
 
 何かに追われているかのように慌てて案内人が戻って来る。
「ひいぃぃぃっ、助けてください。
何でもしますから!」
「まあ、外に出てから話をしようか」
「ひぃー。
もう気が狂いそうだ、早くお助けを!!」
 黙って促すと、案内人は急ぎつつ案内を初めた。
 道中、後ろから男の絶叫が聞こえる。
 恐らく看守だろう。

 報われない怨念が魔骸骨へと姿を変えて報復をしているのだろう。
 死した看守もアンデットとなり、任務を遂行しようと監視を続ける。
 死しても動き付ける監獄となりつつあった。

 外に出ると案内人は懇願する。
「お願いだ、金は返す、いや上乗せして良い。
だから助けてくれ」
「俺に言ってもな。
彼らに、その金を渡せしてみたら?」
「おお、そうか」
 案内人は腰に下げていた袋を開き、ひっくり返した。
 霊の手はすり抜け、地面に硬貨が転がる。
 この時、悟ったのだ。
 もう渡すことは出来ない、取り返しがつかないのだと。
 案内人は、逃げようとするが足を捕まれ倒れる。
 身体がズルズルと引きずられて監獄へと向かっていく。
「助けてくれ! 俺はただ従っただけだ……。
うああぁぁぁぁ!」


 風太とナールルネは知らん顔をして馬車に乗り込む。
「街まで頼む。
あの案内人を見たか?」
 御者は苦笑いし訪ねた。
「あの小汚い男ですか?
貴方も放ったらかしにされたのですか、彼はまだ戻ってきてないです」
「そんな感じ。
困った奴だよな」
「あははは……、では出発します」
 既に死んでいる者の姿を見られるのは、限りられた者だけだ。
 戻ってきた時には、あの案内人は霊体となっていた。

 死んだことすら気づかず、生きていると思いながら怯えていたのだ。
「俺のことをどう思う?」
「よく解りません。
しかし、良くあの案内人が戻ってきましたね」
「これで良い食事をしてくれ」
 風太は金貨を彼女に渡す。
 それは案内人が最後に手放した硬貨である、風太が渡したあの金貨だ。
 巡り巡って戻ってくるなんて、良いじゃないか。

「無駄遣いをしている余裕は無いです」
「君の腹を満たすのが無駄だとは思えない」
「はぁ……、本当に大丈夫かしら。
このままだと私達は終わりなのに」
 馬車が離れていく。





 監獄の前に残した魔法陣から黒い電撃のようなビリビリが周囲を焼き破壊する。
 刻まれた文様が楔形文字のような刺々しく変化したのである。
 暴走したかのように、渦を巻くように魔素を吸い込み始めた。
 新たな生成が始まろうとしている。
 
 それはアンデッドでもなければ、魔獣でもない。
 魔族、そのものだった。
 おかっぱ頭に黒い猫耳を生やした四つ耳族の女に見えるが、彼女の耳は猫耳だけだ。
 そして、尻の上辺りから猫の尻尾が生えていた。
 褐色の裸体を白い布が覆い、金の腕輪、首飾りといった装飾も形成されていく。
 妖艶な瞳を持つ怪しげ雰囲気を放つ。
「私を召喚してくださった御主人様は何処に?」
 周囲は明らかに屍が這い回るだけの廃墟だ。
 透視の眼を使えばある程度は透けて見える。
 目が青く輝きレンズのような物が目の前に現れた。
 監獄のようで、牢屋が見える。

「私は、どうしてこのような場所に居るのか?
何を求められている」
 記憶を探っても思い当たるものはない。
 自分が何者かもよく解らず、名すら思い出せないでいた。
「……困った。
早く御主人様を見つけなくては」
 監獄を去ろうとする彼女を、天秤を持った魔骸骨が止める。
「そこの猫耳女、お前の罪を告げるのだ」
「私に罪など無い。
屍ごときが気安く……、いや、この感じは御主人様の下僕か?」
 天秤は傾くことなく、均等に保っている。
 罪の意識があれば傾き、断罪する武器へと変化する。
 犯した罪によって形状も材質、大きさが変わる。
 
 風太は、そんな能力を付与していない。
 しかし、魔狩場の影響を受け魔法陣が変質した為の異変だった。
「よく見れば貴公は、魔族……。
いやしかし、我が主の気配を纏っている、どういうことだ?」
「私は御主人様の元へ向かう。
これ以上は邪魔をしてくれるな」
「……、我の役目は罪人に罰を与えること。
貴公が何処へ行こうと構わぬ」
 本来ならば、敵対関係にある。
 有無を言わず死闘を繰り広げても不思議ではない状況だった。
 
 もし彼女が敵意を剥き出しに暴れていたら、この辺りは消滅していただろう。
 魔将に匹敵する力を秘めていた。
 何故ならば、風太が討ち取った魔将の魂によって形成されたのだから。
 まさか前世に自分を殺した相手に絶対的な服従をすることになるとは夢にも思わないのだった。

 
 ぞろぞろと木の手錠を付けられた人達が兵士達によって連れられて来る。
 捕らえれた罪人が輸送されてきたのだ。
 その隊長格の兵士が彼女に近づく。
「四つ耳族の女が居るとは聞いてない。
貴様は何者だ?」
「私も名を知りたい。
一度だけチャンスを与えよう、その武器を収めて外まで案内してくれれば許す」
 彼女は戯けてみせたが、眼は憎悪で満ちている。
 どうして手を出さずに大人しくしているのか不思議なぐらいだ。
 
「へへへっ、よく見ると中々の美人だ。
四つ耳族なのは気になるが、身体は人間と変わらないらしい」
 直ぐ側で天秤が傾く音が聞こえる。
 骸骨が装飾された不気味な大鎌へと変化する。

 どれだけの罪を犯せば、あんな凶悪な武器となるのだろうか。
「これは凄まじい、どれだけの女が奴らに慰め物になり殺されたか。
悪党共にふさわしく、打首にてくれよう」
「待て、それは私に任せてくれ」
 彼女は大鎌を奪い取ると、兵士達に襲いかかる。
 一振りしただけのように見えた。
 ポロ、ポロと首が落ちる。

 首無しの兵士達が転がる。
 魂が永遠に捕らわれアンデットとして、彷徨い続けることになるだろう。
 囚われの人々は逃げることすら出来ずに、ただ見守るばかり。
「私達も彼らのように殺されるのか?」
「さあ、あの骸骨の判断次第。
まあ私は、ここから出られるように案内さえしてくれれば見逃しても良い」
「案内する、逃がしてくれ」
 魔骸骨は、彼女を止めた。
「その男は駄目だ。
2番目の青年に頼むと良い」
「あらら、そういう事だから」
 木の手錠を軽く壊し、青年を開放する。
 他の者達も開放を叫んだが、許されたものはいない。
 何故なら彼らは、好き勝手に暴れていた盗賊だからである。

 新たな魔骸骨が誕生し、兵士の顔を被る。
 成り代わり兵士として溶け込んでいく。
 そんな悍ましい事がひっそりと起きていた。

 
 


 瓦礫の山、穴だけの崩落した地面。
 かつて栄えていた町並みはなく、残解すらも風化によって失われつつある。
 風太は冷や汗を垂らし立っている。
 青楓ムラサキ、モエギ、ナールルネに囲まれて一触即発の状況だ。
 それを少し離れた所で、猫耳の少年テラスタンが怯えて見ている。

 モエギが口を開く。
「1日、この女と何をしていたのです。
青楓殿という、愛おしい妻がありながら……」
「君はなんで怒っているんだ?」
「にひひひ。
私は青楓殿に懐柔されてしまったのです」
「はぁ……、だから契約の都合で仕方なくだ。
何にもやましい事なんてしてない」
 青楓はにこにこしながら風太の頬を指先でつんつんしながら言う。
「騎士団の人達を妻にしたばかりなのに。
彼氏君の魅力が凄いのは解る。うちもとっても好き過ぎるぐらい。
もう抱きしめて離したくないって……恋い焦がれているのに」
「いや、ごめん……。
これも運命かと思って許して」
「許す。許すが、うちのことも、沢山愛して。
えへへへ……」
 白い目でナールルネは見ていた。
「なにこれ?
何人の妻がいるのかしら?」
「解らない……、数える余裕がなくて。
まあ彼女達は、保護が目的だから、多分時が来れば離れていくと思う」
 
 争いを予感したのだが、直ぐに彼女達は仲良くなり弁当を食べ初めた。
「うちの特製、おにぎり、えっへん」
 いやおにぎりなんて誰でも作れるだろう。
 その隣の芋の煮付けとか、飾り切りした林檎とのほうが自慢できそうなのに。
 モエギが用意した弁当箱が開かれる。
「噂に聞く、キャラ弁です」
 モエギの顔をもした感じで、ご飯にふりかけを掛けて描いているようだ。
「ちょっと待って、米があるのか?
今までパンしか無かったのに」
「異界人の為に、少量生産されています。
価格は小麦の10倍と高いので一般には出回らないようです」
「うちがお願いしたら、用意してくれた。
褒めて」
「ありがとう。
ご飯は懐かしいな、どれだけ食べてないんだろう」
「彼氏君よ、知っているかい。
米は小麦よりも面積当たりの収穫量が多いって、つまり豊富な食料源となるって事」
「そうなのか?
知らなかった」
「稲を植えまくって、飢餓から救う。
これがうちの考えた対策なんよ。良いでしょう?」
「良いね。
でも、こんな荒れ地で大丈夫なのか?」
「うちの祈祷力が試される。
雨乞いの儀式に豊作祈願と、巫女として何処まで出来るか、挑戦するぞ。おぉう!」
「おぉう!
って、ハハハハ……」

 テラスタンが風太の腕に抱きつく。
「あの、何か怖い気配が近づいています」
「ありがとう。
教えてくれて助かった」
 ゴゴゴゴ……。
 大地が激しく振動し、巨大地震かと錯覚するほどで立っていられない。

 大地を突き破り、姿を現す天に伸びる柱……いや巨大ミミズキャリオン・デスワームだ。
 そこら中に空いた穴は、あの魔物によって出来たものだった。
 怪獣に匹敵する巨大さに驚きを隠せない風太。
 他の皆んなは恐怖で動きが止まっている。
 もし襲われれば一瞬で死ぬ。

 風太は詠唱を初めていた。
 全力で最強の魔法を叩き込むしか無い。
「光すら届かぬ海の底、眠りし破壊の王者……」
 
 巨大ミミズの胴体が引きされ2つに割れる。
 猫耳の美女が笑みを浮かべて空から降りてくる。
「御主人様、ただいま戻りました」
 彼女は地面に寝転び腹を見せて服従の姿勢を取る。
 風太は、状況が解らずに混乱する。

 この女は何者なんだ?
 猫耳……、ゼラの知り合い、あるいは姉妹か。
 いや少年の?
 テラスタンは目が合うと首を横に振って否定する。
 ……。

 考えるのを止め、彼女に手を差し伸べる。
「起きて、話を聞こうか」
 彼女が手を握った時だ。
 ビリビリッと電撃が走るように二人共が激痛に襲われ手を離した。
「なんということ。
御主人様は力が封じられているのですね」
「知られてしまったか。
この封印を解ける方法を探しているが見つかっていない」
「私に命じて下されば、見つけ出してみせます」
 彼女は何故か、目がキラキラして喜びに満ちている。
 しかし、ご主人様と呼んでくる猫耳の女は知らない。
 忘れていると言うわけでもなさそうだし、良くわからない。
「所で、君をなんて呼べば良い?」
「お恥ずかしいことに、与えてくださった名を忘れています。
記憶があやふやで御主人様の名も一緒に教えて頂きたい」
「俺は風太だ。
君は……クロニャ」
 前世の幼き頃に飼っていた猫の名である。
 愛くるしく可愛かったが、何時の頃か居なくなった。
 どことなく、耳の形が似ている気がしたのだ。

 クロニャの身体が一瞬輝く、この時彼女との契約が結ばれた。
 彼女は猫の姿に化けると風太の肩に乗る。
「にゃー」
 あの電撃が走ることもなく、触れることが出来た。
 謎だ。
『猫の姿に化けることで、私の魔力を抑えています。
ですからこれで一緒に入られますね』
 思考を読まれることに気づき風太は困惑する。
 死者の書にも読まれまくって付け込まれた。
 この猫女が悪しき存在なら致命的なことだ。
『御主人様の為なら、この命を捧げます。
思考を読まないようにしますから、信用してください』
「にゃーにゃー」
「解った」
 青楓が、猫を掴むと抱きしめる。
「うちも猫を可愛がりたい。
この子をくれる?」
「うん、君……、青楓は全部見ていたよね?
怖くないのか」
 不思議そうに青楓は首を傾げた。
「うちはもっと怖い式神を飼っていて、それが大きな狼君で。
狐狩りに訓練するのにも、大変で良く泣いたけど……。
この子はすごく素直でいい子」
「そうなのか」
 あの魔獣を一撃で倒していたのに。
 多分、この中で一番強い力を持っている。
『そう褒められると照れる。
御主人様が本気を出せば私は赤子同然です。
えへへへ……、封印が解けなければ私に守られる御主人様、そして愛が芽生えて』
 何か、余計な邪念が……。

 心を無にして何も考えない。
「さて、街の復興をしようか」
 魔法陣を……手を地面に向け意識を集中すると、手がねじ曲がるような痛みに襲われる。
 ギギギギ……。
「ゔあぁぁっ」
 集中が途切れて失敗に終わる。
 封印の力が増したのか?
 さっきの電撃みたいな衝撃が影響しているとしたら……。
『ある種の術式には進化しつづけ、機能を強化するものがあります。
封印にも、そのような機能が組み込まれているのでは?』
 だとしたら、死者の手を借りずにこの街を再生しなくてはならない。
 彼女達にどう説明すれば良いのだろうか。

 予定が狂ったので別の方法を考えます。
 待ってね。
 ……ナールルネは卒倒して、そのまま息絶えるかも知れない。
 
『宜しければ、私が子を生みましょうか?
そうすれば、沢山の子達が手助けしてくれます。
それって実に良い考えですよね。えへへへ……』
 思考を読まない約束はどうした?
『うぐっ。
では提案を。 私に一言命令を出して下されば、何でもやってみせましょう』
「青楓を守ってくれ。
君はいい子だから出来るよな」
「にゃー」
 都市攻略で生成した魔骸骨達は、革命派の勢力圏に阻まれて、ここに到達はできない。
 無理に通過させてもいいが、それだと誰かに目撃された時点で終る。
 
 かといって、あの都市の住人を連れてくることも難しい。
 何千人も移動していたら、下手すれば休戦が破棄され戦争に逆戻りだろう。
『御主人様、良いものを持っています。
取引をしませんか?』
 悪魔みたいな事を言う。
 その手の話はろくな事がない。
 願いを叶える代わりに、失う方が多かったり、歪曲した解釈で願いを叶えたりと。
『もう、私がそんな事をする訳ないです。
ずっと一緒にお側にいられるだけで満足。
それ以上の関係でも、えへへへ……』
「解った。
君に任せてみる」
 クロニャの頭を撫でる。
 すると彼女は口から、水晶の欠片を吐き出す。
「光の戦士にクラスチェンジ出来そうな綺麗なクリスタル。
にひひ、巫女の心を手に入れた!」
 青楓が良く解らない事を言い始めた。
 自分が知っていることは、皆んな知っていると思って平然と話し出す。
 どう反応して良いのか解らなくて困るんだよな。
「へぇー。
じゃあ俺は何かな?」
「それはきっと、魔狩場管理人ダンジョン・マスター
この子が言っている」
「あれって管理されていんだ。
魔獣とか、わんさかでてくるのに……」
「うちは、楽しければ良い。
彼氏君が作った迷宮を攻略してみたいな」
「はぁ……」
 クロニャの記憶が風太に流れてくる。
 あの監獄の魔狩場から出られず、支配する主まで討伐してやっと出られたのである。
 迷いに迷って、やっと出会えた奇跡で心が満たされていた。

「そうか、俺が残した魔法陣から出てきたのか」

 
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