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夕暮れ
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夕暮れ、見知らぬ街に突然サイレンが鳴り響く。呆然と立ち尽くす私は、人の波にはじかれ突き飛ばされ転び、足を挫いてしまった。どうしてこんなことになったのだろう。藍色に染まりだした空を見上げながら私はぼんやりと思いを馳せる。死を積んだ戦闘機が飛んでゆく。不思議と恐怖はなかった。たった一つ心残りがあるとすれば、昼間喧嘩してしまった幼なじみに謝りたかった。
きっかけはもう思い出せないくらい些細なことだったのだ。くだらないことにムキになって食ってかかったのだ。最初は優しく宥めてくれた彼も意固地な私に愛想を尽かして去っていってしまった。愚かな私はその時になってようやく気がついたのだ。彼の存在がどれほど私の心の中を占めていたかということに。
途方もない寂しさと喪失感に襲われた私は、いつしかあてもなく歩きだし気がつくとこの見知らぬ街に辿り着いていた。私は目を閉じて遠くの街が消滅する音を聞いていた。
どれくらいの時間が過ぎただろう。長い長い時間だったかもしれないし、ほんの一瞬だったかもしれない。突然の肩を掴まれた。驚いて目を開いて初めて、自分が涙を流していたことに気がついた。目の焦点が合う。そこにいたのは喧嘩してしまった幼なじみだった。彼は泣いている私を見て少し驚いたようだったがそれも束の間、挫いた足を見ると手を差し出してくれた。躊躇いがちにその手を取ると私を立たせおぶった。私が驚く番だった。動揺して声を出せない私をよそに彼はそのまま歩き出した。私は言葉を口にするタイミングを失った。
しばらく無言で歩いていた。聞こえてくるのはだんだん近くなる死の音だけだった。意を決したように彼が口を開く。
「俺さ……
その時だった、すぐ近くでけたたましい音がして火の手が上がり木材が燃える匂いと鉄の溶ける匂いがする。彼が広い道で私を背から降ろす。気が付くと私は抱きすくめられた。
「俺さ、ずっと前から言いたかったことがあるんだ。お前のことが好きなんだよ。」
驚いて言葉が出ない私は彼を再び強く抱きしめた。またすぐ近くで死の音がする。私と彼は爆風で吹き飛ばされる。それでも彼は私を離さない。
私はそのことに満足し、そっと目を閉じて微笑んだ。
きっかけはもう思い出せないくらい些細なことだったのだ。くだらないことにムキになって食ってかかったのだ。最初は優しく宥めてくれた彼も意固地な私に愛想を尽かして去っていってしまった。愚かな私はその時になってようやく気がついたのだ。彼の存在がどれほど私の心の中を占めていたかということに。
途方もない寂しさと喪失感に襲われた私は、いつしかあてもなく歩きだし気がつくとこの見知らぬ街に辿り着いていた。私は目を閉じて遠くの街が消滅する音を聞いていた。
どれくらいの時間が過ぎただろう。長い長い時間だったかもしれないし、ほんの一瞬だったかもしれない。突然の肩を掴まれた。驚いて目を開いて初めて、自分が涙を流していたことに気がついた。目の焦点が合う。そこにいたのは喧嘩してしまった幼なじみだった。彼は泣いている私を見て少し驚いたようだったがそれも束の間、挫いた足を見ると手を差し出してくれた。躊躇いがちにその手を取ると私を立たせおぶった。私が驚く番だった。動揺して声を出せない私をよそに彼はそのまま歩き出した。私は言葉を口にするタイミングを失った。
しばらく無言で歩いていた。聞こえてくるのはだんだん近くなる死の音だけだった。意を決したように彼が口を開く。
「俺さ……
その時だった、すぐ近くでけたたましい音がして火の手が上がり木材が燃える匂いと鉄の溶ける匂いがする。彼が広い道で私を背から降ろす。気が付くと私は抱きすくめられた。
「俺さ、ずっと前から言いたかったことがあるんだ。お前のことが好きなんだよ。」
驚いて言葉が出ない私は彼を再び強く抱きしめた。またすぐ近くで死の音がする。私と彼は爆風で吹き飛ばされる。それでも彼は私を離さない。
私はそのことに満足し、そっと目を閉じて微笑んだ。
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