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押し掛けメイドー1
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僕が彼女と出会ったのは、入学式の前日だった。
「お帰りなさいませ、優作様」
「……誰? というかどうして僕の名前を知ってるの?」
「私は優作様のメイドですから。お帰りをお待ちするのは当然です」
いきなり僕の前に表れて、アパートの扉の前に陣取る彼女。
メイド服に身を包み、紫色の腰まで届く妖艶な髪を揺らしながら、ニッコリと嬉し気に微笑んだ。
……僕としてはまるで嬉しくないのだけど。
「僕のメイドって……雇った覚えはないし、そもそも君の名前すら知らないのだけど」
「私の名前は柴庵と申します。以後、お見知りおきを」
「あぁそう……それじゃ、ここから立ち去ってくれないかな? 今なら警察にも通報しないから」
「どうしてです? メイドである私が優作様に危害を加えるとでも?」
「いや、実際、僕の前に立ってアパートに入るのを邪魔してるし」
「これは失礼しました。ではどうぞ、お荷物は私に預けて下さい」
鍵をかけて出掛けた筈の玄関を、彼女は当然の様に開けてしまう。
そして、僕が断るより先にポケットへと手を伸ばし、スマホと財布を取り上げた。
……何者なんだよ、お前。
明らかに怪しいし、今すぐにでも警察に通報したいけど……今、スマホは彼女の手にある。
無理にでも取り戻そうと思ったけど、奪い合ってる途中で壊されたら堪らない。
バイト二、三ヶ月の給料位、金が掛かってるし、今は穏便に済ませておく。
……後で絶対に取り戻してやるし、警察に通報して逮捕させてやるからな。
「……今は我慢してやるから、絶対に変な事するなよ」
「勿論です。優作様の意に沿わない事は絶対にしませんわ」
「なら、今すぐにここから出て行って欲しいのだけど……」
「どうしてです? 私は優作様のメイドですし、一人暮らしでは大変な事が多いですわ。明日から大学生として家で勉強していく必要があるのに、家事までこなすのは大変でしょう」
「……その、どうして僕の事を知ってるのか分からない所が、出て行かせたい理由なんだけどな」
「優作様の事を知らないと、適切なお世話は出来ませんから。では、失礼します」
メイドの柴庵に連れられて、僕は自分のアパートへと入る。
一人用の部屋に知らない人を入れると、どうにも圧迫感があって嫌になる。
それも自分の知らない、気味の悪い人だと尚更だ。
せめて、僕の邪魔をしない様にと思いながら、自室に入り椅子へ座った。
明日は大学の入学式、準備するべき事が色々あるのに気が散って仕方がない。
仕方なく、スマホと財布を取り上げてから彼女を隣の部屋に移させる。
あんな怪しい人を目の届かない場所に置いておくのは不安だけど、他に方法も無いしな。
……こんな事になるなら、二部屋のアパートなんて借りるんじゃなかったよ。
「では失礼します。何かあればいつでもお呼び下さい」
「……出来れば今すぐにでも出て行って欲しいけどね。今日は我慢してやるから、大人しくしてろよ」
「分かりました。……それと優作様、部屋が汚いので片付けても宜しいですか」
「……汚いは余計だ」
気にしてる事を言われ、少しムッとする。
台所と風呂、玄関しかない狭い部屋だから、どうしても物が溢れてしまう。
わざわざ言わなくていいのにと思いながら、隣の部屋に押し通した。
そのまま扉を閉め、明日の準備を再開する。
……まてよ? これは使えるぞ。
ふと、彼女を簡単に追い出せる方法を思いついた僕は、早速とばかりに試そうと扉を開けた。
「あら、もう用事ですか?」
「あぁ、そうだ。一つ頼みがあってな、今から言う事を何でも聞いてくれるか?」
「勿論です。優作様の頼みであれば、何でもお申し付けて構いませんわ」
「なら、今から部屋の片付けをしてくれ。台所の棚に入ってる物も含め全て、掃除までしてな」
「分かりました、優作様」
「それと、少しでも物音を立てたら、すぐにでも追い出すからな。十分で終わらせてくれよ」
それだけ言って、僕は扉を閉めた。
たった十分、しかも音を立てずに掃除を含めて片付けるなんて無理に決まってる。
もし後で無理だと言って部屋に留まろうとしても、こちらにはスマホがある。
面倒事にはなるけど、警察に通報すれば解決するだろう。
そう思いながらスマホを開き、タイマーを十分にセットする。
そして再び、明日の準備を再開した。
……やけに静かだな。
ふと、彼女がキチンと片付けをしてるのか気になって耳音を立てるも、何も聞こえてこない。
足音も、物を動かしたり置いたりする音も、何もかも。
寧ろ、窓の外から聞こえる蛙の音の方が煩い。
……彼女、何をやってるんだ?
無理にでも追い出されたくない彼女が、手を動かさない訳はないし……
気になって準備も進まず、仕方ないから彼女の様子を見に行った。
「どうかされましたか? 一応、全て片付けましたが」
「……えっ? もう?」
「はい、言われた通りに全て片付け、掃除もし終えました。家具の配置が気に入らなければ、幾らでも変えますが」
「いや、いい。……本当に片付いてる」
「お帰りなさいませ、優作様」
「……誰? というかどうして僕の名前を知ってるの?」
「私は優作様のメイドですから。お帰りをお待ちするのは当然です」
いきなり僕の前に表れて、アパートの扉の前に陣取る彼女。
メイド服に身を包み、紫色の腰まで届く妖艶な髪を揺らしながら、ニッコリと嬉し気に微笑んだ。
……僕としてはまるで嬉しくないのだけど。
「僕のメイドって……雇った覚えはないし、そもそも君の名前すら知らないのだけど」
「私の名前は柴庵と申します。以後、お見知りおきを」
「あぁそう……それじゃ、ここから立ち去ってくれないかな? 今なら警察にも通報しないから」
「どうしてです? メイドである私が優作様に危害を加えるとでも?」
「いや、実際、僕の前に立ってアパートに入るのを邪魔してるし」
「これは失礼しました。ではどうぞ、お荷物は私に預けて下さい」
鍵をかけて出掛けた筈の玄関を、彼女は当然の様に開けてしまう。
そして、僕が断るより先にポケットへと手を伸ばし、スマホと財布を取り上げた。
……何者なんだよ、お前。
明らかに怪しいし、今すぐにでも警察に通報したいけど……今、スマホは彼女の手にある。
無理にでも取り戻そうと思ったけど、奪い合ってる途中で壊されたら堪らない。
バイト二、三ヶ月の給料位、金が掛かってるし、今は穏便に済ませておく。
……後で絶対に取り戻してやるし、警察に通報して逮捕させてやるからな。
「……今は我慢してやるから、絶対に変な事するなよ」
「勿論です。優作様の意に沿わない事は絶対にしませんわ」
「なら、今すぐにここから出て行って欲しいのだけど……」
「どうしてです? 私は優作様のメイドですし、一人暮らしでは大変な事が多いですわ。明日から大学生として家で勉強していく必要があるのに、家事までこなすのは大変でしょう」
「……その、どうして僕の事を知ってるのか分からない所が、出て行かせたい理由なんだけどな」
「優作様の事を知らないと、適切なお世話は出来ませんから。では、失礼します」
メイドの柴庵に連れられて、僕は自分のアパートへと入る。
一人用の部屋に知らない人を入れると、どうにも圧迫感があって嫌になる。
それも自分の知らない、気味の悪い人だと尚更だ。
せめて、僕の邪魔をしない様にと思いながら、自室に入り椅子へ座った。
明日は大学の入学式、準備するべき事が色々あるのに気が散って仕方がない。
仕方なく、スマホと財布を取り上げてから彼女を隣の部屋に移させる。
あんな怪しい人を目の届かない場所に置いておくのは不安だけど、他に方法も無いしな。
……こんな事になるなら、二部屋のアパートなんて借りるんじゃなかったよ。
「では失礼します。何かあればいつでもお呼び下さい」
「……出来れば今すぐにでも出て行って欲しいけどね。今日は我慢してやるから、大人しくしてろよ」
「分かりました。……それと優作様、部屋が汚いので片付けても宜しいですか」
「……汚いは余計だ」
気にしてる事を言われ、少しムッとする。
台所と風呂、玄関しかない狭い部屋だから、どうしても物が溢れてしまう。
わざわざ言わなくていいのにと思いながら、隣の部屋に押し通した。
そのまま扉を閉め、明日の準備を再開する。
……まてよ? これは使えるぞ。
ふと、彼女を簡単に追い出せる方法を思いついた僕は、早速とばかりに試そうと扉を開けた。
「あら、もう用事ですか?」
「あぁ、そうだ。一つ頼みがあってな、今から言う事を何でも聞いてくれるか?」
「勿論です。優作様の頼みであれば、何でもお申し付けて構いませんわ」
「なら、今から部屋の片付けをしてくれ。台所の棚に入ってる物も含め全て、掃除までしてな」
「分かりました、優作様」
「それと、少しでも物音を立てたら、すぐにでも追い出すからな。十分で終わらせてくれよ」
それだけ言って、僕は扉を閉めた。
たった十分、しかも音を立てずに掃除を含めて片付けるなんて無理に決まってる。
もし後で無理だと言って部屋に留まろうとしても、こちらにはスマホがある。
面倒事にはなるけど、警察に通報すれば解決するだろう。
そう思いながらスマホを開き、タイマーを十分にセットする。
そして再び、明日の準備を再開した。
……やけに静かだな。
ふと、彼女がキチンと片付けをしてるのか気になって耳音を立てるも、何も聞こえてこない。
足音も、物を動かしたり置いたりする音も、何もかも。
寧ろ、窓の外から聞こえる蛙の音の方が煩い。
……彼女、何をやってるんだ?
無理にでも追い出されたくない彼女が、手を動かさない訳はないし……
気になって準備も進まず、仕方ないから彼女の様子を見に行った。
「どうかされましたか? 一応、全て片付けましたが」
「……えっ? もう?」
「はい、言われた通りに全て片付け、掃除もし終えました。家具の配置が気に入らなければ、幾らでも変えますが」
「いや、いい。……本当に片付いてる」
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