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第3章

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 魔物の侵攻が激しくなったのは、セオドアたちが森へ入ってから一年経ったころだった。それまで森から出てきた魔物より力あるものが頻繁に混じるようにもなっているあたり、セオドアが睨んでいた通り今までは偵察の意味合いがあったのだろう。
 森の中で何かが起こっている。それがセオドアたち討伐隊の侵入によるものは明らかであるが、果たしてうまくいっているのかは外にいる俺たちには分からなかった。
 だから、信じるしかない。これは追い詰められた魔物たちの最後の抵抗なのだと。セオドアたちが無事だと信じて、帰ってくる場所を守るしかないのだ。

「っ! また、数の多い……!」

 朝も夜もなく襲ってくる魔物だが、それでもなんとか撃退できている。それというのも作戦前にセオドアと協会長が王都へ依頼を出してくれたらしく、かつてないほどに騎士と冒険者がこの近辺に滞在してくれているからだ。
 彼らが森の近くで強敵を食い止め、討ち漏らしを村で討伐という形であるのもありがたい。そのおかげで手に負えないほどに手強い魔物を相手どることはない、が、やはり数だけは脅威である。統率の取れていない特攻は最後の抵抗のようであり、その直感を支えに俺はとびかかってきた魔物を切り捨てた。
 そのまま歩を進めていけば、魔物と混戦している場所へとたどり着く。応援に来た戦力は村の守りにも手を貸してくれ、自警団のみんなと共にそこかしこで剣を振るっていた。
 その集団に混ざりながら、左右から駆けてくる魔物を体を捻って撃退する。そうして10体ほどを切り裂いていると、遠くで騎士の一人が苦戦しているのが見えた。
 他の固体よりも大きな魔物は、恐らく討ち漏らしに混じった手ごわい1体なのだろう。それを彼はただ一人で食い止めているのだが、流石に有効的な一撃は加えられていないように見える。しかし近くにはまだ魔物が多数おり、そちらへ助太刀する隙は無いようだった。
 だが、それでも俺は纏わりつく魔物を振り切って彼の元へと走った。加速した勢いのまま持っていた剣を突き出せば、離れた場所からこちらへと勢いよく飛び込んできた魔物へと刀身が突き刺さる。

「ぐ、大丈夫か?」
「あ……すまない、助かった」

 ザザザ、と地面を踏みしめ吹き飛ばされるのを耐え、魔物が息絶えているのを確認してから背後にいた赤毛の騎士へと声をかけた。彼の方もちょうど止めを刺したらしく、振り返るとすぐそばにいた俺と血まみれの魔物に驚いたように言葉を発する。
 見た目は普通の魔物、しかし特異的に脚部だけ発達した個体だったのだろう。不自然に動きを止め赤毛の彼の方を向いている魔物に、俺は咄嗟に体が動いたのだ。その判断は間違っておらず、少し遅れれば彼は背後から魔物に爪を突き立てられていたに違いない。
 動きを予測する。ずっと苦手としていたそれが、地道な努力によってちゃんとできるようになっていた。それも以前のように自らの体を犠牲にすることなく撃退できたことに、場違いながら俺の中には嬉しさが沸き上がっている。

「まだ魔物の数は多い。どこか怪我はしていないか?」
「平気だ。気遣い、感謝する」

 先ほどの一件によってこちらへも魔物が集まったため、赤毛の彼と背を合わせ周囲を警戒しつつ体調を窺う。俺よりも若いらしい彼は丁度セオドアと同い年くらいに見え、初対面だというのに守らなければという気持ちでいっぱいになった。
 緊張しているのか言葉も少なく、黙々と魔物を切り捨てる騎士。その動きを邪魔しないようにしながら俺も魔物を屠っていき、息が上がる前には周囲の魔物はあらかた片付いていた。

「そろそろ交代の時間か……あー、君は駐屯地へ戻るのか?」
「ああ」
「じゃあ、いったんはお別れだな。……ちょっと」
「?」

 どうしてかセオドアの気配を赤毛の彼から感じ取った俺は少し話してみたいと声をかけるが、滞在場所が村の宿屋ではなく駐屯地となればそう引き留めておくのも悪い。どこかでまた会えるだろうと考え直し俺も村へと戻ろうとしたとき、ふと見た彼の腕に傷がついているのを見つけた。

「っ!?」
「……よし、これで一応止まりはするだろう。ただ、駐屯地でしっかり治療してくれよ?」
「……すまない」
「気にしないでくれ」

 ドロドロと血を流し続けている傷にシャツを裂いて包帯代わりにした布を巻き付け、きつく縛る。手持ちがなく消毒もできなかったためちゃんと駐屯地で怪我を見てもらうよう言い含めると、目を泳がせながら騎士は小さく感謝を述べた。
 年齢的に、こうして魔物と対峙するのも始めてだろう。そう考えると討伐部隊の隊長としてセオドアが抜擢されているのは相当に特別だと思い、抑え込んでいる不安な気持ちが持ち上がりそうになる。

(だが、セオドアは帰ってきてくれるはずだ。俺だけは、何があってもそう信じなければ)

 何度も自分に言い聞かせた言葉を再度頭の中で呟き、家に帰り汚れを落とした後眠る前にいつものように祈りを捧げた。
 1年間見ていないというのに、セオドアの顔ははっきりと思い浮かべることができる。それほど俺の中で居場所を作り上げているのだから、早くそこへ収まって欲しい。
 そんな勝手なことを考えながら手を組み祈っていると、森の方で眩い光が立ち上った。
 闇を切り裂くように真っすぐ伸びる光の柱は昼間のように辺りを照らし、その光に当てられた魔物たちが次々と倒れ伏していくのが見える。

「……やった、のか? セオ……」

 徐々に細くなっていく光に、思わずポロリと声を溢す。
 真っ暗闇だというのに、聞こえてくるのは歓喜の声。まだ討伐部隊の無事は分からない。
 しかし、この瞬間魔王がどうにかされたのだけは、瞬く間に喜びと共に広がったのだった。
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