レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
82 / 1,557
第十四章 法術師と言う存在

動き出す時代の鼓動

しおりを挟む
「なんだ。決闘でも始めるつもりか?なんなら見届けてやってもいいぞ」 

 そう声をかけてきたのが、警備部部長マリア・シュバーキナ大尉だった。部下を連れて、隣のテーブルを占拠する。それを見たかなめはやる気をそがれたと言うようにマリアに目を向ける。

「分かったよマリアの姐さん。ここは引いとくがカウラ!今度の出撃の時は背中に気をつけることだな」
 
「餓鬼みたいなこと言っている状況か?それよりついに天誅組が出たそうだ」 

 マリアの言葉はかなめとカウラに水をかけるような効果があった。近藤一派、あるいはそのシンパのテロ。誠はそれが起きるのを予想していなかった自分の甘さに打ちのめされた。カウラもかなめもそれが当然と言うように驚くわけでもなくマリアを見上げる。

「狙われたのは親父か?」 

 真剣な調子でかなめが口を開いた。

「さすがにVIPを狙うほど官派の勢力は大きくない。まして西園寺首相の周りには、シークレットサービスだけじゃなく胡州警察が警備要員を相当数貼り付けているし、同盟公安局のエージェントが報道にまぎれて目を光らせている」 

「じゃああれか?陸軍省内部か?同士討ちとは……らしいと言えばらしいか……」 

「そう言うことだ。作戦部付の将校が出勤してきた小見(おみ)胡州陸軍諜報部長を拳銃で撃ったそうだ。撃った将校はすぐ捕らえられ現在取調べ中。完全黙秘を続けてるらしい」 

『彼らは追い詰められているのか?それともこちらを追い詰めているのか?』 

 誠は心の中でそう思った。

 戦闘艦の内惑星での長空間転移が禁止されている東都条約が有効である以上、その法規の管理者であるという側面もある司法局実働部隊には全速力で通常航行を続けるほかない。胡州の勢力圏へ到着するまでは悪化する状況をなすすべも無く見守る以外に手は無かった。そんな中、明らかに胡州の混乱は拡大しつつある。

 誠はただ今の状況に歯がゆさを感じつつ、テーブルに置かれたコップの底に残ったコーヒーを飲み下すだけだった。

「状況は全て嵯峨隊長の思惑通りと言うわけだ」 

 マリアは部下からカレーの皿を受け取りながらそう続けた。その表情が微笑んでいるように見えるのは彼女もまた戦場を駆けてきた猛者だと言う証なのかと、誠は背筋が寒くなるのを感じた。

「この状態が隊長の望んだことなのですか?」 

 おずおずと誠がそう尋ねた。それを見ながらマリアは言葉を続けた。

「私はあまり隠し事は上手くないほうだから言ってしまおう。隊長は以前から、それこそ遼南帝国皇帝の地位にあった時から、近藤資金に関する情報を手にしていたようだ。しかし、同盟の成立には胡州の安定が不可欠だった。また、遼州各国の政権の弱体化に繋がりかねないと言うことで情報収集以外の行動は取れなかった」 

「なるほどねえ。結果、遼南経由で主要国に『東都租界』を経由しての物資が金になるという情報がリークされ、そのルートの持つ利潤をめぐりシンジケートや各国の非正規活動団体による抗争『東都戦争』が発生した。そんなことはその熱い戦場の中にいたアタシもすぐ気がついたよ」 

 かなめはそう言いながら胸のポケットからいったん煙草を取り出すも、カウラの責めるような視線に手を離さなければならなくなった。

「近藤中佐は胡州海軍の現役の将校だ。さらに彼の非公然組織のネットワークの過激な排外思想は、陸軍の若手将校たちには大変受けがいい。『国家の秩序再建』と言う名目での軍部の政府からの独立、『旧領に関する強硬姿勢』と言う聞こえのいい拡大思考。どちらも国家主義的な嗜好を持つ軍や産業界、政界やマスコミなんかが喜びそうなスローガンだ」 

 マリアはそこまで言うと目の前に置かれた番茶を飲んだ。その話の大きさに戸惑っている誠を一瞥した後、彼女はさらに話を続けた。

「だがスローガンだけでは人は動かない。潤沢な資金はシンパを募る際には最大の武器になる。しかし逆に近藤中佐の資金の場合、非正規活動の結果生まれたあってはならない資金だ。それが表に出れば大スキャンダルに発展するというリスクを負うことにもなる。同盟に加入して以降経済に変化が見られないと言うことで西園寺内閣の支持を拒み始めた国民も、対抗勢力が金で汚れているとなればすぐに態度を変えるだろう」 

 マリアの言うとおり、誠もアステロイドベルトの領有権やベルルカンの内戦での弱腰姿勢を非難するデモが行われていると言う、胡州の首都帝都の映像は見慣れていた。

「同盟政治機構も黙っていたわけじゃない。内偵は進めているものの近藤中佐の周りの連中は誰も口だけは堅い連中だ。口を割れば既得権を持ってる政府の高官や軍の司令部から粛清されることになるからな」 

「アタシも何度か近藤中佐立案の作戦に従事したが、明らかにお偉いさんの汚職の尻拭いと言うような仕事もあったからな。大物は近藤本人が捕まるまでだんまりを決め込むだろうし、捕まったらそれはそれで逃げ道を考えているだろうがな」 

 かなめはそう言うと誠の顔を見つめた。典型的縦社会の胡州を理解していない誠はただ呆然と二人の会話を聞くしかなかった。

「そしてその自称『高潔な愛国者』のネットワークが機能を始めると同時に、身辺がきな臭くなったというわけで、政治には無関心な本間司令を戴く第六艦隊に出向を希望したわけか。中央を離れてほとぼりが冷めるまでのんびり構えるつもりだったんだろうな」 

 そう言うとカウラはコップの水を飲み干す。

「だが本間司令が思いのほか石頭で、自分の非公然活動を知ると、すぐに呼びつけにかかるような人物だったとは……。それは完全に計算違いだったんじゃねえの?」

 そう言うとかなめはいつもの下品な笑いを浮かべる。

「加盟国の胡州領域への出兵は、胡州への内政干渉と捕らえられて、作戦が成功してもリスクが大きすぎる。その為の司法機関直下の機動部隊か。じゃあこいつの経歴の嘘情報を吉田の馬鹿がリークしたのはなぜだ?少なくとも近藤の旦那の懐が暖まるようなもんじゃないと思うが」 

 自分を指差して愚痴を垂れるかなめに誠はただそのタレ目を見つめるしかなかった。

「こいつが口が悪いのはいつものことだ。気にするな神前少尉。じゃあ西園寺。この状況下でなぜ地球の列強が直接行動に出ないと思う?胡州帝国主義の再来、彼らにとってはのっぴきならない脅威だと思うが?」 

 マリアは何かスイッチが入ったとでも言うように、冷たく整った面差しの中に鋭利な刃物のような笑みを浮かべてそう言った。

「軍を動かす口実が無いからだろ?遼南内戦でアメリカを中心とする多国籍軍が無駄に死人を出してから、どの国も遼州での戦闘行動には慎重になってるからな」 

「半分は正解だが、半分は不正解だな。口実や国内世論さえあれば叩けるというのなら、前の大戦で遼南はとうの昔に植民地になっているし、胡州も無事では済まなかったろう」 

 マリアは目の前に置かれたカレーを混ぜ始めた。

「地球勢力は直接的にこの星系に干渉することを恐れているように見えるな。まるで腫れ物に触れるのを恐れるように。地球外での唯一の原住知的生命体が居た星だ、判断が慎重になるのもわかるといえばわかる」 

 一口カレーを口に含むとマリアは少しばかり驚いたような顔をして、コップの水を一気に飲み干した。

 沈黙が周りを支配する。マリアもかなめもカウラも口を開くつもりは無いとでも言うようだった。

「いつも気になっていたんですが、その近藤中佐が正体を見せるきっかけになった僕の力ってなんですか?それが気になってしょうがないんですが……」 

 思わず何も考えずに誠が口にした言葉に、マリアは笑顔で答えた。

「法術。先遼州文明の遺産。分かりやすく言えば超能力みたいなものだ」 

 かなめの視線が鋭くマリアの表情を殺した目を刺した。カウラは何かを思い出したようにかなめと誠を見比べる。

「法術……ですか?魔法みたいなものですか?」 

 唐突にマリアが発した言葉に誠は面食らっていた。しかもその中心人物が自分だということに戸惑いを隠せなかった。

 その時不意にカウラが立ち上がった。かなめもそれに遅れて立ち上がってかなめの肩をつかむ。

「行くぞ」 

 かなめの口調には有無を言わせぬ勢いがあった。誠は食事のトレーを片付けようとするが、マリアがそのまま行けと言うようにうなづく。食堂を出て、そのままブリッジへ向かうエレベータに乗り込む。

「なんですか?どこに行くんですか?」 

 無理やりエレベータに押し込まれた誠が二人を見つめる。どちらも唇をかみ締めて真面目な表情で扉を見つめていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ
ファンタジー
少年はひたすら逃げた。突如変わり果てた街で、死を振り撒く異形から。そして逃げた先に待っていたのは絶望では無く、一振りの希望――魔剣――だった。 逃げた先で出会った大男からその希望を託された時、特別ではなかった少年の運命は世界の命運を懸ける程に大きくなっていく。 なれば〝ヒト〟よ知れ、少年の掴む世界の運命を。 銘無き少年は今より、現想神話を紡ぐ英雄とならん。 時き継幻想(ときつげんそう)フララジカ―――世界は緩やかに混ざり合う。 【概要】 主人公・藤咲勇が少女・田中茶奈と出会い、更に多くの人々とも心を交わして成長し、世界を救うまでに至る現代ファンタジー群像劇です。 現代を舞台にしながらも出てくる新しい現象や文化を彼等の目を通してご覧ください。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

処理中です...