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第十四章 法術師と言う存在

法術師が変える世界

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「いい推理だな!それでこそ俺の姪っ子と言うものだ!正解!正解!大正解っと」 

 急に扉が開いた。そこにはいつものにやけた表情の嵯峨が手を叩いていた。

「隊長。一応この部屋禁煙なんですが……」 

 ヨハンは胸のポケットに手をやろうとした嵯峨に向けてそう言った。

「そうかい。で、オメエ達は俺がこの先、何をしようとしてるか知りたいわけだろ?」 

 別に誰に話しかけると言うわけでもなく中空に言葉を発しながら、嵯峨は手近な所にあった端末を操作している。

「まあねえ、俺もこんな派手なデモンストレーションはしたくなかったんだがな。臭いものには蓋をした上で縄で縛って海に沈めるのが俺の性分だが……これで隊長権限のパスワードを入力してっと」 

 全員の視線がモニターに注がれた。まず東和の現行の軍組織図と警察組織図が映し出される。

「叔父貴。何が言いてえんだ?」 

 かなめがわざわざそんな図面を引っ張ってきた嵯峨に噛み付いた。

「焦りなさんな、物事には順序ってのがあるんだぜ?これが現行の東和の実力執行部隊の組織図って事は、まあこの業界にいる人間には周知のことだ。それが今回の騒動が終わるとこうなる」 

 嵯峨がキーを弾くと図面が瞬時に入れ替わり軍の機動部隊が一挙に減り、警察部隊に飲み込まれた。そして同盟直属の遊撃部隊の欄が新たに書き加えられている。

「おい、叔父貴。なんだってこうなるって言えるんだ?」 

「俺は一応一国の皇帝やってたことがあるんだぜ?反対勢力の切り崩し方なんざ朝飯前だ。ちょっとした魔法を使えば簡単に……」 

「叔父貴。またあれか?スキャンダルでもつかんで脅しでもかけたのか?」 

「人聞きの悪いこと言うなよ。ちょっとした世間話をしたら分かってくれただけだ。まあ今回の件ではあっちこっちにかなり借りが多くなっちまったがな」 

 平然と政府関係者に脅しをかけたことを認める嵯峨の目が実に生き生きとしているので、誠は半分呆れながら話を聞いていた。

「まあこの組織図は全部俺がお偉いさんに出した仮の奴だからこうなるとは限らんがな。まあこの体制の実現に向けて一つ段階を踏まにゃあならん」 

「地球諸国に対しての法術の軍事使用の一方的停止宣言。そういうことですか?それ以前に司法局実働部隊の設立の本来の目的は、銀河唯一の法術運用実力部隊として地球諸国や反同盟諸国にその力を見せつけるためだった……」 

 黙っていたカウラがそう切り出した。それまでニヤついていた嵯峨の口元が一瞬で引き締まる。

「鋭いねえベルガー大尉殿は」

 薄ら笑いを返しながら、嵯峨はそう口にした。

「何やかや言いながら政治の世界じゃ力と金が全てだ。まあ俺はどちらも好きじゃねえがな」

 また胸のポケットに手をやろうとする嵯峨だが、ヨハンが見ているので手を出せずにそのまま手を引っ込めた。

「じゃあ次は……」

 嵯峨がキーボードを叩くと画面に縦書きの法律の条文のようなものが映し出される。

「近藤を締め上げた後に出す声明文の試案か?用意がいいねえ」

 かなめが皮肉たっぷりにそう言って笑う。

「俺はサービス精神の塊だからな。ついでに祝いの酒樽でも贈ろうか?って兄貴に言ったらどやされたよ」 

「当たり前だ!」 

 今度はかなめがポケットのタバコを手に取ろうとしてヨハンににらまれた。

「力があることを示しつつ、その力の行使の軍事的利用の放棄を宣言する。有利なうちに相手を交渉のテーブルに着かせる。外交での駆け引きの基本だ」 

「別にそりゃ外交だけじゃないだろ。一応、やり手と評判の叔父貴のことだ。ぶう垂れてくる連中の弱みを使ってゆすってるんだろ?いつか刺されるぜ」 

 かなめの皮肉も嵯峨が相手では通用しない。

「一応はな。今頃、ホットライン上での同盟最高会議が行われていて、俺の提出した案件に関して審議しているとこだが、まあ西モスレムがごねるだろうが通るだろうね。それでもまだぐずるようならこのカードを切る」 

 さらに端末を操作して英語で表記された文書を表示させた。

 明らかにアメリカの公文書であることが分かるようなその文書に全員の視線が釘付けになった。

「それってアメリカ陸軍の秘密文書じゃないですか?しかも最高機密クラスの」 

 誠でもそう分かる文書。かなめの視線は題字に引き付けられていた。

「第、423、実験、魔法大隊?」 

「名前聞くと、なんだかなあと言う気分になるねえ。お前等ほうきで空でも飛ぶんかいと突っ込んじゃったよ俺は」 

 ヨハンが眼を逸らした隙に素早くタバコに火をつけながら嵯峨はそう漏らした。

「アメちゃんの実験部隊か。所在地はネバダ州……砂漠ばかりで人の目をかいくぐるには最適なとこっと。そう言えば叔父貴が捕虜になってたのもネバタの砂漠かなんかだったろ?」 

 かなめは思い出したようにそう言った。

「今度は察しがわるいぜかなめ坊。まあ拡大して文章読んでみりゃすぐ分かるがこいつは俺のデータを基に作られた人工的法術師養成部隊だぜ。まあアメちゃん風に言うなら魔法学校か?」 

 薄ら笑いを浮かべながらそう口にする嵯峨の姿が、誠には少しばかり自虐的に見えた。

「つまり隊長はその部隊の実戦投入阻止の為に今回の事件をでっち上げたと言うわけですか?」 

 カウラは真剣だった。誠は身を寄せてくるカウラを背中に感じていた。

 誠は話題についていけず、カウラの平らな胸の様子が浮かんできて苦笑いを浮かべたが、すぐかなめが鋭い視線を投げてくるので無意味に口をパクパクさせてごまかす。

「だったら叔父貴よ。何でこの事件をぶつけたんだ?南部諸島や外惑星系にゃあもっと破裂寸前の爆弾が埋まってるだろ?デモンストレーションとしてはそちらの方が効果的なんじゃないのか?」 

 そんなかなめの問いに下卑た笑いを浮かべて嵯峨は答えた。

「天秤はな。計るものを置いた位置によってバランスが狂うもんだ。確かに他にも遼州星系には火種なんざ店を広げるくらいあるわな。だが、今回は火種そのものが問題じゃない。俺の顔が使えて、法術に関心がある列強が顔をそろえた舞台での作戦実行と言うことになると、失敗国家の尻ぬぐいや小惑星の小競り合いのお手伝いなんかじゃ誰も気にしちゃくれないぜ。その点、最近話題の近藤資金絡みの話が一番注目を集める事象だったと言うことだ」 

 この人はこんな笑いしか出来なかったのか?嵯峨の浮かべる笑顔が妙に誠の心に引っかかった。
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