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第7章 ハイソな暮らし

ようやっとの到着

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 続く緑の松の並木。瓦屋根の張り出すみやげ屋が続く海べりの道を抜けてバスは進む。誠は逆流する胃液を腹の中に押し戻した。

「だらしねえなあ!もうすぐ着くんだから大丈夫だよ」 

 かなめは青ざめた誠を見ながらジンの瓶をあおる。

 出発してすぐにリアナのリサイタルが始まると、彼女の電波演歌で頭をやられないように酒の瓶が車内に回された。冊子を作ってまで綱紀粛正につとめたアイシャもさすがに参ってビールを飲み始めると、バスの中はもはや無法地帯状態になっていた。

 昼飯時には、しらふなのは運転していた島田、ザルで知られるシャム、黙ってウーロン茶を飲みながらヘッドホンでラジオを聴いていたカウラ、そして給仕に明け暮れる家村親子だけだった。ドライブインで
電波演歌にすっかりやられていた島田に代わり午後はカウラが運転を続けている。

「もうすぐ着くから大丈夫よ」 

 脂汗を流している誠にアイシャがいたわりの声をかける。繁華街を抜けたところで街道を外れ、バスは山道に入り込んだ。

 ブロック作りの道のもたらす振動で、誠はまた胃袋がひっくり返るような感覚に包まれる。

「吐く時はこれにお願いね」 

 パーラがビニール袋を誠に手渡す。

「大丈夫ですよ。これくらい」 

 とりあえず強がっている誠だが、口の中は胃液の酸が充満し、舌が苦味で一杯になる。

「見えたぞ!」 

 よたよたと起き上がった島田が外を指差す。瀟洒(しょうしゃ)な建物が誠の目に入った。海岸沿いの断崖絶壁の上に、赤いレンガ調の建物は背後の海の青を背景として圧倒的な迫力で誠達の前に現れた。

「結構、凄いホテルですね」 

「まあな。親父がここのオーナーの知り合いで、結構無理が聞くからな」 

 起き上がって勇壮な姿のホテルを見上げる誠にかなめはポツリとつぶやいた。

「いつもかなめちゃんのおかげで宿の心配しなくて済むから感謝してるのよ」 

 言葉に重みが感じられない口調でそう言ったアイシャが立ち上がる。バスが静かに正面玄関に乗り入れた。

「ハイ! 到着」 

 そのアイシャの言葉で半分死にかけていた乗員は息を吹き返した。シャムと小夏が素早くバスの窓から飛び降りる。誠もようやく振動が収まった事もあって、ゆっくり立ち上がると通路を歩き始めた。

「肩貸そうか?」 

 かなめがそう言うが無理やり余裕の笑みを作った誠は首を横に振ってそのまま歩き続ける。

「お疲れ様です、カウラさん」 

「お前よりはましだ」 

 同情するような目で誠を眺めてカウラはそう言った。誠は彼女に見えているだろう青い顔を想像して一人で笑顔を浮かべていた。
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