レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
495 / 1,557
第2章 果てしない馬鹿達

コスプレ三昧

しおりを挟む
「あ!外道がサボってますよ」 

 劇場の中から甲高い声が響く。そこにはフリフリの魔法少女姿の小夏がかなめを指差して立っていた。

「おい、ちんちくりん!人を指差すなって習わなかったのか?」 

 そう言ってかなめは小夏にずんずんと近づいていく。小夏の周りには慣れている誠ですらどうにも近寄りがたいオーラをまとった男達と小夏の友達の中学生達が遠巻きに立っていた。

「とう!」 

 突然の叫び声と同時に、誠の目の前ではかなめの顔面に何かが思い切り飛び蹴りをしている姿が見えた。その右足はかなめの顔面を捉え、後ろへとよろめかせる。そして何者かが頭を振って体勢を立て直そうとするかなめに向かって叫んだ。

「やはり寝返ったな!キャプテンシルバー。このキラットシャムが成敗してあげるわ!」
 
 それはピンク色を基調としたドレスを着込んだシャムだった。手にステッキを持って頭を抱えているかなめに身構える。

「テメエ……テメエ等…… 」 

 かなめは膝をついてゆっくりと立ち上がる。サイボーグの彼女だから耐えられたものの、生身ならばいくら小柄のシャムの飛び蹴りといっても、あの角度で入れば頚椎骨折は免れないと思いつつ、誠はシャム達の様子をうかがった。

「さすが師匠!反撃ですよ」 

「違うわ!サマー。私はキラットシャム!魔法で世界に正義と愛を広める使者!行くわよ……グヘッ!」 

 シャムの顔面をわしづかみにして締め上げるかなめの顔には明らかに殺気が見て取れた。

「卑怯だよ!かなめちゃん。ちゃんとこういう時の主人公側のせりふが続いているときは……痛い!」 

「ほう、続いているときはどうなんだよ?良いんだぜ、アタシはこのままお前の顔面を握りつぶしても、なあ神前」 

 そう話を振ってくるかなめに観衆は一斉に眼を向ける。

 明らかに少女を痛めつけている軍服を着た女とその仲間。群集はかなめへの反撃を誠に要求していた。

「あのー、二人ともこれくらいにしないと……」

 何も知らない群集ではなく誠はかなめの怖さは十分認識していたのでできるだけ穏便にと静かに声をかける。 

「おお、そうか。神前もここでこいつの人生を終わらせるのが一番と言うことか。安心しろ、シャム。痛がることも無くすぐに前頭葉ごと握りつぶして…… 」 

 そこまでかなめが言ったところで今度は竹刀での一撃がかなめの後頭部を襲った。

「いい加減にしろよな!馬鹿共!とっとと引っ込んで持ち場に戻ってろ!」 

 再び幼女ランの登場である。しかし、彼女は黒をベースにしたゴスロリドレスと言った格好をしており、よく見ると恥ずかしいのか頬を赤らめている。かなめもさすがにシャムの顔面を握りつぶすつもりは無いと言うようにそのまま痛がるシャムから手を離すと、今度はランに目を向けた。

「これは中佐殿!すっかりかわいらしくなって……ぷふっ!」 

 途中まで言いかけてかなめは笑い始めた。こうなると止まらない。ひたすら先ほど指をさすなと言った本人がランを指差して大笑いしている。

「おい、聴いたか?あの子……中佐だってよ」 

「すげーかわいいよな。でも中佐?どこの軍だ?司法局は遼州全域から兵員集めてるからな……遼南?」 

「でもちょっと目つき悪くね?」 

「馬鹿だなそれが萌えなんだよ。わからねえかなあ……」 

 周りのカメラを持った大きなお友達に包囲されてランは写真を撮られている。そのこめかみに怒りの青筋が浮いているのが誠にも分かった。

「すいません!以上でアトラクションは終了ですので!」 

 そう言うと誠はランとかなめの手を引いてスタッフ控え室のある階下の通路へと二人を引きずっていった。シャムと小夏も誠の動きを察してその後ろをついていく。

 関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉を開いた。そのまま舞台の袖が見えるがそちらには向かわず舞台の裏側に向かう通路を一同は進んだ。そしてそのまま雑用係をしているらしい警備部員が雑談している前を抜けて楽屋の扉を開いた。

 そんな誠の前に立っていたのはこれまた派手な金や銀の鎧を着込み、そのくせへそを出したり太ももを露出させているコスチュームを着た第三小隊隊長、嵯峨かえで少佐だった。

「ああ、今着替えたところだが……これからどうすれば?」 

 かえでは何度か右目につけた眼帯を直しながら誠に聞いてくる。だが、その視線がシャムに手を引かれて入ってきたかなめに気がつくとすぐに頬を染めて壁の方に向かってしまう。

「お姉様が来てるって何で知らせないんだ!」 

 かえでは小声で誠にささやいた。

「そんなこと言われても……」 

「はいはーい。かなめちゃん!これ」 

 雑用に走り回る警備部の面々に鈴木リアナ中佐がジュースを配ってまわる。どう見ても軍の重巡洋艦級の運用艦『高雄』の艦長、しかも産休明けとは思えないような気の使い方である。

「リアナさんこっちもお願い!」 

 そう言って手を上げるのは、音響管理端末を吉田と一緒に動作確認をしているリアナの夫である菱川重工の技師鈴木健一だった。

「ったくめんどくせえなあ」 

 そう言いながらかなめはジュースのプルタブを開けた。そんな彼女を見て大変なものとであったとでも言うような表情でサラとパーラ、そしてレベッカが箱を抱えて近づいてきた。

「西園寺さん。これ」 

 おずおずとレベッカが箱を差し出すが、中身を知っているかなめは思い切りいやな顔をした。

 これから上映されるバトル魔法少女ストーリー『魔法戦隊マジカルシャム』のメインキャストでの一人、キャプテンシルバーの変身後のコスチューム。ぎらぎらのマント、わざとらしくつけられたメカっぽいアンダーウェア、そしてある意味、かなめにはぴったりな鞭。

「やっぱやるのか?終わったら」 

 約二時間の上映が終わったら開催される予定の撮影会。昨日もこのイベントが嫌だと寮で暴れていたかなめである。

「ここまできたらあきらめなさいよ」 

 そう言ったのは司法局実働部隊技術部部長、そして影の最高実力者とも言われる許明華《きょめいか》大佐だった。彼女もまた肩から飛び出すようなとげのがる鎧と機械を思わせるプリントのされたタイツを着ている。

「あのー、姐御?なんか怖いんですけど」 

 そう言ったのはかなめだった。

 確かに明華の顔には白を基調にしたおどろおどろしいメイクが施されている。役名『機械魔女メイリーン将軍』。本人は気乗りがしないと言うことがそのこめかみの震えからも見て取れた。

「皆さんおそろいで……」 

 奥の更衣室から出てきたのは両手に鞭のようなバラのツルをつけてほとんど妖怪のような格好をさせられた司法局実働部隊のたまり場『あまさき屋』の女将、家村春子だった。

「お母さん大丈夫?」 

 その姿に少し引いている娘の小夏が声をかける。

「なに言ってるの!これくらいなんてことはないわよ……ねえ!」 

 そう言って春子はジュースを配りに来たリアナに声をかける。

「そうよ!いっそのこと私がやりたかったくらいですもの」 

 リアナはすっかり彩り豊かな衣装に囲まれて興奮しているようで、顔が笑顔のままで固定されているようにも見えた。

「それと、これ神前君ね」 

 レベッカは誠に数少ない男性バトルキャラ『マジックプリンス』の衣装を手渡した。

「やっぱり僕も……」 

 誠もその箱を見て落ち込んだ。

「テメエのデザインじゃねえか!アイシャとシャムと一緒に考えたんだろ?それにしてもアイシャが何でこういう格好しねえんだよ!伊達眼鏡の一般教師なんて……誰でもできるだろうが!」 

 かなめは思わず衣装を投げつけんばかりに激高する。

「私がどうかしたの?」 

 そう言って控え室に入ってきた伊達眼鏡のアイシャがコスプレ中の面々を見て回る。明らかにいつも彼女が見せるいたずらに成功した子供のような視線がさらにかなめをいらだたせた。その後ろからは疲れ果てたと言う表情のカウラがしずしずと進んでくる。

「おい、大丈夫なのか?受付の方は」 

 心配そうにランがアイシャを見上げている。

「大丈夫よ。キム君とエダ、それに菰田君が仕切ってくれるそうだから……」 

 その視線はダンボールを手に更衣室に入ろうとするかなめに向けられた。

「早く着替えて見せてよ。久しぶりにキャプテンを見たい気が……」 

 アイシャがそこまで行ったところでかなめが髪をとかしていたブラシを投げつける。

「テメエ等!後で覚えてろよ!」 

 かなめは捨て台詞と共に更衣室に消える。アイシャは自分の額に当たったブラシを取り上げてとりあえずその紺色の長い髪をすく。

「あのー、僕はどこで着替えればいいんでしょう……」 

「ここね」 

「ここだな」 

「ここしかねーんじゃねーの?」 

 誠の言葉にアイシャ、かえで、ランが即座に答える。

「でも一応僕は男ですし……」 

 そう言う誠の肩にアイシャは手をやって親指を立ててみせる。

「だからよ!ガンバ!」 

 何の励みにもならない言葉をかける彼女に一瞬天井を見て諦めた誠はブレザーを脱ぎ始める。

「あのー……」 

『何?』 

 誠をじっと見ている集団。明華、ラン、リアナ、かえで、カウラ、アイシャ、シャム、小夏、春子。

「そんなに見ないでくださいよ!」 

「自意識過剰なんじゃねーの?」 

「そんなー……クバルカ中佐!」 

 一言で片付けようとする副部隊長に誠は泣きつこうとする。だが、健一もニヤニヤ笑うだけで助け舟を出す様子も無かった。

 ついに諦めた誠は仕方なくズボンのベルトに手をかけるのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ
ファンタジー
少年はひたすら逃げた。突如変わり果てた街で、死を振り撒く異形から。そして逃げた先に待っていたのは絶望では無く、一振りの希望――魔剣――だった。 逃げた先で出会った大男からその希望を託された時、特別ではなかった少年の運命は世界の命運を懸ける程に大きくなっていく。 なれば〝ヒト〟よ知れ、少年の掴む世界の運命を。 銘無き少年は今より、現想神話を紡ぐ英雄とならん。 時き継幻想(ときつげんそう)フララジカ―――世界は緩やかに混ざり合う。 【概要】 主人公・藤咲勇が少女・田中茶奈と出会い、更に多くの人々とも心を交わして成長し、世界を救うまでに至る現代ファンタジー群像劇です。 現代を舞台にしながらも出てくる新しい現象や文化を彼等の目を通してご覧ください。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

処理中です...