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第4章 低殺傷兵器(ローリーサルウェポン)
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「さてと……いいですか?」
明らかに太りすぎている技術将校ヨハン・シュペルター中尉はボードを前に誠達にレクチャーを始めようとしていた。
地球の殖民惑星遼州の政治経済共同機構である『遼州同盟』。その司法実力部隊『同盟司法局』には『法術』と切っても切れない関係にあるといわれ続けてきた。
司法局の存在が世に最大のインパクトを残した『近藤事件』と呼ばれる事件があった。同盟加盟国『胡州帝国』のクーデター阻止がその出動の内容だったが、そこで誠が使用した法術が一般に知られる法術の使用の最初の事例だったのは事実だった。
それから人々はこの遼州に住む人々の持つ法術に関心を持ち、それを以前から軍や研究者が知っていたという事実を知ることになった。
そんな軍の法術研究の部署はかつては存在しない力を扱う奇妙な集団として扱われるか、トップシークレットとして機密の中に閉じ込められるのが宿命だった。元々外惑星に存在し、地球からの移民が圧倒的に多く研究の遅れていたゲルパルト共和国の国防軍法術研究機関出身のヨハンはよく当時の自分の研究を無駄飯食いと評した友人のことを語ることが多かった。だがその巨体を見ると本当に無駄飯食いなんじゃないかと誠ですら思うことが多かった。
ヨハンの顔は晴れ晴れとしていてまさに晴れ舞台という雰囲気だった。だがその光景はあまりに間抜けだった。ほとんど多目的ホール扱いのこの部屋。来月に豊川市街で行なわれる予定の節分の行事のために用意された鎧兜が所狭しと並べられ、その合間には同じ日に上映される自主制作映画の為のコスチュームの入った箱などがてんでんばらばらに並べられている。
これまでに無い事件を検証するにはあまりに乱雑である意味シュールにさえ見える部屋。そこでヨハンは晴れやかな表情で周りが気になって仕方が無い誠達を見下ろしていた。
「あのなあ、ヨハン。ここで本当にいいのか?」
座っているパイプ椅子を傾けながらかなめがヨハンにしみじみとつぶやいた。ヨハンもとりあえず半笑いで周りを見渡す。彼がどんなに自分のこれからの言葉に自信を持っていようがずらりと並ぶ着ぐるみや鎧兜の葛篭が消えるわけも無い。
「しゃーねーだろ?他の部屋は雑兵衣装であふれかえっているんだからよー」
頭をペンで掻きながらランが答えた。現在、捜査の中心は法術特捜の嵯峨茜警視正だが、彼女と部下のカルビナ・ラーナはすでに5件もの違法法術発動事件を抱えて身動きが取れない状況だった。それを彼女の父親で司法局実働部隊隊長嵯峨惟基特務大佐が下請け仕事と銘打ってとってくるのはいつもの話だった。そしてそうなると本来は人型ロボットで切った張ったが商売のアサルト・モジュール部隊が暇人だと言うことで担当させられることになるのもいつものことだった。
アサルト・モジュール部隊隊長のランはしばらく自分の発表の場が余りにカオスナことにショックを受けているヨハンの隣から、なにかメモ書きを彼に手渡していた。その先には鼻と唇の間にペンを挟んで退屈そうにランを見つめている第一小隊二番機担当のナンバルゲニア・シャムラード中尉がいる。そしてその隣でネットの海に直結した電脳デバイスの世界に逃避しているのは三番機担当の吉田俊平少佐だった。その隣、一人だけノートを持ってペンで何かを書こうとする神前誠。その両隣は第二小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉と西園寺かなめ大尉が座っている。
「あのー説明始めていい?」
「ヨハン、こいつ等のこと気にかけるだけ無駄だぞ。てきとーに話して終わりにしよーや」
投げやりなランの言葉に説明をするということでヨハンの低いテンションはさらに低くなる。
「じゃあ、はじめます」
「はい!」
演操術について語ろうとした話の腰を見事に空気を読まないシャムが元気に手を上げてへし折った。
「なんだ?」
「たぶんアタシわかんないから寝ててもいい?」
シャムの言葉にランは悲しげな表情で隣に座ってにやけている吉田に目を向けた。
「シャム……」
「冗談だって!ね、ランちゃん」
「冗談?テメエが寝るのはいつものことじゃねえか」
明るいシャムの言葉にかなめが突っ込みを入れた。呆れているラン。いつもの光景にヨハンは自分の不幸を笑うような力の無い笑みを浮かべた後、モニターに画像を転送した。
円グラフ。そこにはテレパス、空間干渉、意識把握などの法術の能力名が並んでいる。
「見ての通り法術師の発生確率は一万分の一以下とされている。ほとんどが遼州系の人物だが、確立は落ちるが純潔の地球系の住民にも法術師の発生が確認されている」
「先生!いいですか?」
「なんですか?西園寺大尉」
話の腰を折られて吐き捨てるようにつぶやくヨハンをいかにも楽しそうなかなめが眺めている。
「血筋云々の話は別としてアタシみたいなサイボーグに法術師の発生例はあるんですか?」
「そう言えば康子さんは空間干渉の達人だったな」
かなめのもっともな話にカウラがうなづく。かなめの実母、西園寺康子は『胡州の鬼姫』と呼ばれる薙刀の達人で、その空間制御能力によりほぼ無敵の戦闘能力を誇る人物だった。
「今のところサイボーグの法術師の発生例は無いんですがね。ただ西園寺大尉がその初めての例になってもおかしくないですね」
「と言うとなんだ?」
退屈そうなランの一言にヨハンは大きくうなづく。
「先ほど法術師の発生に純潔の地球系でもその例が紹介されていると言う話ですが、すべての発生例が遼州系の住民と接触する機会の多い人物に限られています。当然大尉は神前と接点が多いわけですから法術の才能が開花してもおかしなことはひとつもありません」
「ふうん」
満足したと言うようにかなめは椅子の上で伸びをした。
「それじゃあ私がその力を得ても良いわけだな?」
今度はカウラだった。説明するだけ面倒だと言うようにヨハンはニヤリと笑ってうなづく。ようやく話が軌道に乗ってきたので先ほどまでの憂鬱な表情はヨハンの顔からは消えていた。
「まあそれじゃーいくらでも法術師は増えるわけだな」
ランのまとめで次の話題に移る所だが、すぐにヨハンは首を振った。
「違いますね。そここそが一番今回現れた犯人の能力である『他能力制御』の肝ですから」
そう言うとヨハンはモニターの画面を切り替えた。そこには各能力とその能力がどのように発動するかの図が載せられていた。
「多くの法術は視床下部のこの部分の異常活性化を原因としていると言う説が現在定説ですが、この……」
「御託はいーんだよ。さっきの話の決着つけてくれ」
小さいランの一言に研究者としてのプライドを傷つけられたと言うように大きく深呼吸をするヨハンの姿は実に面白くて誠は噴出しそうになるのを必死にこらえた。それはすぐにヨハンに見つかり、冷ややかな視線が誠に集中した。
「手っ取り早く言うと法術師の法術発動の際の特殊な脳波は周りの人々の脳波にも影響を与えるんです」
「で?」
「逆に法術を常に待機状態にしている法術師に同じように脳波での刺激を与えれば法術は本人の意図と関係なく発現し……」
「その脳波を発した人物。演操術師の意のままに発現するってーわけか……こりゃー面倒な話だな」
ランの顔が引きつる。
「つまりあれか?ほとんどの能力の乗っ取りが可能なわけなんだな?」
かなめは珍しく真剣な表情を浮かべていた。その問いにヨハンは大きくうなづいた。
「再生能力なんかの接触変性系の法術以外は発動可能です」
「接触変性?」
シャムはそう言うと周りを見回す。しばらく頭を掻いた後でかなめがシャムの鼻を突付いた。
「お前や島田の再生能力のことだよ!再生や治療系の能力は直接触ってねえと駄目なの!」
「ああ、そうなの!」
分かっているのか分かっていないのか分からない調子で元気よくシャムが叫ぶのが部屋に響いた。
「どうでも良いけどよう。要するに能力を持ってる奴の能力を勝手に使うことができる能力の持ち主がいる……って結構やばいことなんじゃねえの?」
「そりゃーそうだろ。だが法術を意識して探査してそれを利用しようとする。法術を知らなきゃ使いこなせない能力だ。元々法術自体が表ざたにされていない状況ではそんな能力を持っている奴も一生法術とは無縁で暮らせたのがこれまでの世の中だ。半年前の神前の能力を見たおかげでそんな面倒な能力に目覚めちゃったってーわけなんだからな……。意外と本人も迷惑に思ってるんじゃねーか?」
ランのまとめにヨハンがうなづく。そしてどうしようも無い重い空気が会議室中に流れた。その空気の意味は誠にも十分分かった。最初に法術を公衆の面前で堂々と使って見せた最初の人間が自分である。それは誠自身が常に自覚し、時に自分を責めている事実だったから。ランもそれに気づいて咳払いをするとなんとか部屋の雰囲気を良くしようと部下達の顔を眺めてみた。
「皆さーん!元気して……無いわね」
沈鬱な雰囲気を破って現れたのはこういうときは必ず現れると言っていい運行部の騒音製造機と呼ばれているアイシャだった。
「なんだ?オメーがここに来る用があるのか?」
当然のように重い面持ちのランの言葉にアイシャは入り口で固まる。
「いやあ……キム少尉が制圧用兵器の試射をかなめちゃんに頼めないかって言われて……」
真剣なラン。しかも元々かなり目つきの悪い悪童という感じの視線ににらまれるとさすがのアイシャも回り道せずに用件だけを口にするしかなかった。だがそれまでの憂鬱な空気にうんざりしていたかなめはやる気十分で立ち上がっていた。
「ぐだぐだ考えるのはちっちゃい姐御とデブに任せるわ。アタシは自分のできることをするよ」
「ほー、言うじゃねーか。まあ一応気にかけといてくれってことだ。今回の事件は法術がらみだが初動捜査が東都警察が仕切っているからな。アタシ等の出る幕がねーほーがいいんだ」
そう言うとランは立ち上がる。ヨハンは自分の講義が中途半端に終わったことが不満なようで手にした小さなディスクを机の腕でくるくると回している。
「おい!オメエ等も来いよ!」
入り口で叫ぶかなめを見てカウラと誠は顔を見合わせた。
「アタシも行く!俊平は?」
「俺はちょっとヨハンの旦那に確認することがありそうだからパスだ」
そう言って胸のポケットからコードを取り出して首筋のジャックに刺す吉田。納得したようにシャムは立ち上がってかなめについて出て行く。
「オメー等も来い。こっちの実演の方がアタシ等には重要なんだから」
戸惑っていた誠とカウラにランが声をかけてきたので二人は渋々席を立った。
明らかに太りすぎている技術将校ヨハン・シュペルター中尉はボードを前に誠達にレクチャーを始めようとしていた。
地球の殖民惑星遼州の政治経済共同機構である『遼州同盟』。その司法実力部隊『同盟司法局』には『法術』と切っても切れない関係にあるといわれ続けてきた。
司法局の存在が世に最大のインパクトを残した『近藤事件』と呼ばれる事件があった。同盟加盟国『胡州帝国』のクーデター阻止がその出動の内容だったが、そこで誠が使用した法術が一般に知られる法術の使用の最初の事例だったのは事実だった。
それから人々はこの遼州に住む人々の持つ法術に関心を持ち、それを以前から軍や研究者が知っていたという事実を知ることになった。
そんな軍の法術研究の部署はかつては存在しない力を扱う奇妙な集団として扱われるか、トップシークレットとして機密の中に閉じ込められるのが宿命だった。元々外惑星に存在し、地球からの移民が圧倒的に多く研究の遅れていたゲルパルト共和国の国防軍法術研究機関出身のヨハンはよく当時の自分の研究を無駄飯食いと評した友人のことを語ることが多かった。だがその巨体を見ると本当に無駄飯食いなんじゃないかと誠ですら思うことが多かった。
ヨハンの顔は晴れ晴れとしていてまさに晴れ舞台という雰囲気だった。だがその光景はあまりに間抜けだった。ほとんど多目的ホール扱いのこの部屋。来月に豊川市街で行なわれる予定の節分の行事のために用意された鎧兜が所狭しと並べられ、その合間には同じ日に上映される自主制作映画の為のコスチュームの入った箱などがてんでんばらばらに並べられている。
これまでに無い事件を検証するにはあまりに乱雑である意味シュールにさえ見える部屋。そこでヨハンは晴れやかな表情で周りが気になって仕方が無い誠達を見下ろしていた。
「あのなあ、ヨハン。ここで本当にいいのか?」
座っているパイプ椅子を傾けながらかなめがヨハンにしみじみとつぶやいた。ヨハンもとりあえず半笑いで周りを見渡す。彼がどんなに自分のこれからの言葉に自信を持っていようがずらりと並ぶ着ぐるみや鎧兜の葛篭が消えるわけも無い。
「しゃーねーだろ?他の部屋は雑兵衣装であふれかえっているんだからよー」
頭をペンで掻きながらランが答えた。現在、捜査の中心は法術特捜の嵯峨茜警視正だが、彼女と部下のカルビナ・ラーナはすでに5件もの違法法術発動事件を抱えて身動きが取れない状況だった。それを彼女の父親で司法局実働部隊隊長嵯峨惟基特務大佐が下請け仕事と銘打ってとってくるのはいつもの話だった。そしてそうなると本来は人型ロボットで切った張ったが商売のアサルト・モジュール部隊が暇人だと言うことで担当させられることになるのもいつものことだった。
アサルト・モジュール部隊隊長のランはしばらく自分の発表の場が余りにカオスナことにショックを受けているヨハンの隣から、なにかメモ書きを彼に手渡していた。その先には鼻と唇の間にペンを挟んで退屈そうにランを見つめている第一小隊二番機担当のナンバルゲニア・シャムラード中尉がいる。そしてその隣でネットの海に直結した電脳デバイスの世界に逃避しているのは三番機担当の吉田俊平少佐だった。その隣、一人だけノートを持ってペンで何かを書こうとする神前誠。その両隣は第二小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉と西園寺かなめ大尉が座っている。
「あのー説明始めていい?」
「ヨハン、こいつ等のこと気にかけるだけ無駄だぞ。てきとーに話して終わりにしよーや」
投げやりなランの言葉に説明をするということでヨハンの低いテンションはさらに低くなる。
「じゃあ、はじめます」
「はい!」
演操術について語ろうとした話の腰を見事に空気を読まないシャムが元気に手を上げてへし折った。
「なんだ?」
「たぶんアタシわかんないから寝ててもいい?」
シャムの言葉にランは悲しげな表情で隣に座ってにやけている吉田に目を向けた。
「シャム……」
「冗談だって!ね、ランちゃん」
「冗談?テメエが寝るのはいつものことじゃねえか」
明るいシャムの言葉にかなめが突っ込みを入れた。呆れているラン。いつもの光景にヨハンは自分の不幸を笑うような力の無い笑みを浮かべた後、モニターに画像を転送した。
円グラフ。そこにはテレパス、空間干渉、意識把握などの法術の能力名が並んでいる。
「見ての通り法術師の発生確率は一万分の一以下とされている。ほとんどが遼州系の人物だが、確立は落ちるが純潔の地球系の住民にも法術師の発生が確認されている」
「先生!いいですか?」
「なんですか?西園寺大尉」
話の腰を折られて吐き捨てるようにつぶやくヨハンをいかにも楽しそうなかなめが眺めている。
「血筋云々の話は別としてアタシみたいなサイボーグに法術師の発生例はあるんですか?」
「そう言えば康子さんは空間干渉の達人だったな」
かなめのもっともな話にカウラがうなづく。かなめの実母、西園寺康子は『胡州の鬼姫』と呼ばれる薙刀の達人で、その空間制御能力によりほぼ無敵の戦闘能力を誇る人物だった。
「今のところサイボーグの法術師の発生例は無いんですがね。ただ西園寺大尉がその初めての例になってもおかしくないですね」
「と言うとなんだ?」
退屈そうなランの一言にヨハンは大きくうなづく。
「先ほど法術師の発生に純潔の地球系でもその例が紹介されていると言う話ですが、すべての発生例が遼州系の住民と接触する機会の多い人物に限られています。当然大尉は神前と接点が多いわけですから法術の才能が開花してもおかしなことはひとつもありません」
「ふうん」
満足したと言うようにかなめは椅子の上で伸びをした。
「それじゃあ私がその力を得ても良いわけだな?」
今度はカウラだった。説明するだけ面倒だと言うようにヨハンはニヤリと笑ってうなづく。ようやく話が軌道に乗ってきたので先ほどまでの憂鬱な表情はヨハンの顔からは消えていた。
「まあそれじゃーいくらでも法術師は増えるわけだな」
ランのまとめで次の話題に移る所だが、すぐにヨハンは首を振った。
「違いますね。そここそが一番今回現れた犯人の能力である『他能力制御』の肝ですから」
そう言うとヨハンはモニターの画面を切り替えた。そこには各能力とその能力がどのように発動するかの図が載せられていた。
「多くの法術は視床下部のこの部分の異常活性化を原因としていると言う説が現在定説ですが、この……」
「御託はいーんだよ。さっきの話の決着つけてくれ」
小さいランの一言に研究者としてのプライドを傷つけられたと言うように大きく深呼吸をするヨハンの姿は実に面白くて誠は噴出しそうになるのを必死にこらえた。それはすぐにヨハンに見つかり、冷ややかな視線が誠に集中した。
「手っ取り早く言うと法術師の法術発動の際の特殊な脳波は周りの人々の脳波にも影響を与えるんです」
「で?」
「逆に法術を常に待機状態にしている法術師に同じように脳波での刺激を与えれば法術は本人の意図と関係なく発現し……」
「その脳波を発した人物。演操術師の意のままに発現するってーわけか……こりゃー面倒な話だな」
ランの顔が引きつる。
「つまりあれか?ほとんどの能力の乗っ取りが可能なわけなんだな?」
かなめは珍しく真剣な表情を浮かべていた。その問いにヨハンは大きくうなづいた。
「再生能力なんかの接触変性系の法術以外は発動可能です」
「接触変性?」
シャムはそう言うと周りを見回す。しばらく頭を掻いた後でかなめがシャムの鼻を突付いた。
「お前や島田の再生能力のことだよ!再生や治療系の能力は直接触ってねえと駄目なの!」
「ああ、そうなの!」
分かっているのか分かっていないのか分からない調子で元気よくシャムが叫ぶのが部屋に響いた。
「どうでも良いけどよう。要するに能力を持ってる奴の能力を勝手に使うことができる能力の持ち主がいる……って結構やばいことなんじゃねえの?」
「そりゃーそうだろ。だが法術を意識して探査してそれを利用しようとする。法術を知らなきゃ使いこなせない能力だ。元々法術自体が表ざたにされていない状況ではそんな能力を持っている奴も一生法術とは無縁で暮らせたのがこれまでの世の中だ。半年前の神前の能力を見たおかげでそんな面倒な能力に目覚めちゃったってーわけなんだからな……。意外と本人も迷惑に思ってるんじゃねーか?」
ランのまとめにヨハンがうなづく。そしてどうしようも無い重い空気が会議室中に流れた。その空気の意味は誠にも十分分かった。最初に法術を公衆の面前で堂々と使って見せた最初の人間が自分である。それは誠自身が常に自覚し、時に自分を責めている事実だったから。ランもそれに気づいて咳払いをするとなんとか部屋の雰囲気を良くしようと部下達の顔を眺めてみた。
「皆さーん!元気して……無いわね」
沈鬱な雰囲気を破って現れたのはこういうときは必ず現れると言っていい運行部の騒音製造機と呼ばれているアイシャだった。
「なんだ?オメーがここに来る用があるのか?」
当然のように重い面持ちのランの言葉にアイシャは入り口で固まる。
「いやあ……キム少尉が制圧用兵器の試射をかなめちゃんに頼めないかって言われて……」
真剣なラン。しかも元々かなり目つきの悪い悪童という感じの視線ににらまれるとさすがのアイシャも回り道せずに用件だけを口にするしかなかった。だがそれまでの憂鬱な空気にうんざりしていたかなめはやる気十分で立ち上がっていた。
「ぐだぐだ考えるのはちっちゃい姐御とデブに任せるわ。アタシは自分のできることをするよ」
「ほー、言うじゃねーか。まあ一応気にかけといてくれってことだ。今回の事件は法術がらみだが初動捜査が東都警察が仕切っているからな。アタシ等の出る幕がねーほーがいいんだ」
そう言うとランは立ち上がる。ヨハンは自分の講義が中途半端に終わったことが不満なようで手にした小さなディスクを机の腕でくるくると回している。
「おい!オメエ等も来いよ!」
入り口で叫ぶかなめを見てカウラと誠は顔を見合わせた。
「アタシも行く!俊平は?」
「俺はちょっとヨハンの旦那に確認することがありそうだからパスだ」
そう言って胸のポケットからコードを取り出して首筋のジャックに刺す吉田。納得したようにシャムは立ち上がってかなめについて出て行く。
「オメー等も来い。こっちの実演の方がアタシ等には重要なんだから」
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