591 / 1,557
第24章 傍観者
傍観者
しおりを挟む
「隊長は悪人ですね……」
早朝、まだ部隊には人影は少ない。そんな中『ゴミ屋敷』の異名のある司法局実働部隊隊長室で通信端末の電源を切る嵯峨惟基の姿があった。それを横目で見ながら少し前までコンピュータ室にいたシステム担当部長である吉田俊平のにやけた顔がある。
「まあな。あいつ等も少しは成長してもらわにゃならねえよ。特に神前には期待してるんだけどね。アイツは意外と伸びるよ……まあ使い物になるのは五年先か……十年先か……」
「ずいぶんと気長ですね」
そう言いながら手元で器用に作っていたココアの中にお湯を注ぐ吉田。ミルク無しでは飲みたくないと言うように嵯峨は吉田が入れてあげたカップから目をそむけて立ち上がった。
「気長にもなるもんだぜ。俺の本音じゃまだまだアイツ等の成長は遅すぎるよ。これじゃあ百年経ってもおむつのまんまだ」
嵯峨が伸びをするのを見ながら吉田はぬる目のお湯でココアを溶いたものを口に含んだ。
「美味くないだろ?」
「ええ、まあ」
咳き込みながらつぶやく吉田をにんまりと笑いながら嵯峨は眺めていた。
「ですが本当にゲルパルトのネオナチや『ギルド』は動かないんですか?」
吉田の問いにしばらく考えた後嵯峨は椅子に腰掛けて目をつぶって腕組みをした。
「ナチの連中については現在数名の法術師を抱えてその調整にてんてこ舞いだと言う情報があってね。それを考えれば元々遼州人を信用しない連中のことだ。手を出す可能性は少ないな。それに対して『ギルド』は法術師集団だ。人に自分の力を使われるのは面白い話じゃないだろ?動くとしても自分の力を完全制御可能なクラスだ。そうは数を揃えられないさ」
そう言うと口寂しいのかそれまで無視していた吉田の入れたカップに手を伸ばした。すぐに顔を顰める嵯峨。その表情が面白くなってつい吉田は吹き出していた。
「っふ!っと……冗談はこれくらいにしてと。それにしてもずいぶん楽観的な話ですね。ネオナチの連中の場合は好き嫌いの問題でしょ?アイツ等だって情勢分析ぐらいしてるんじゃないですか?それこそ隊長のゲルパルト観がにじみ出てますよ。いつも情緒で政治を語るのは最悪の馬鹿野郎と言っている口から希望的な観測が聞けるとは……こりゃあ傑作だ」
そんな皮肉に嵯峨は苦笑いで答える。
「俺だって連中が介入しない確証は欲しいんだけど……それほどはっきりと動きを見せてくれるほど甘い連中じゃないしな。そして俺は地球勢力については何も言ってないぜ」
嵯峨はそう言いながらゆっくりと二杯目のココアを口に含む吉田を見つめていた。
「隊長、飲みたいんですか?」
吉田の問いに嵯峨は大きく頷いた。
「飲ませて」
「じゃあさっきまでみたいなひどい顔はしないでくださいよ」
吉田はそう言うと渋々嵯峨が差し出すカップを受け取った。
「地球勢力の動きは……あるんだか……ないんだか……」
カップに注がれるお湯を見ながらつぶやく嵯峨の表情。それはただ先ほどのココアの何かが欠けた味を反芻しているように歪んでいた。
「国内の主義主張のある連中の公然組織に動きがないのは確かですが……裏では相当動いているでしょうね」
「当然だろ?連中も慈善事業じゃ無いんだから」
嵯峨は吉田からカップを受け取ると静かにお湯をすする。そして再び顔を顰める。
「地元の利のあるアイツ等だって今回の犯人の目星がついちゃいないんだ。もし今回の犯人がいたずらをしようとする現場に出くわしでもしない限りクラウゼ達の方が先に犯人に巡り会うことになるさ」
そう言いながらさすがにしばらく休むというようにカップを遠くに置く嵯峨。目を何度もパチパチと動かし。ただ黙って吉田を見つめている。吉田はと言えばようやく口に慣れてきたココアをゆっくりと啜っていた。
「ああ、それにだ」
嵯峨は気がついたように自分の金属粉で覆われた机の上に汚れるのもかまわず身を乗り出してきた。
「なにかあるんですか?」
「接触ができたところで法術師を山ほど抱えている『ギルド』と法術研究に一日の長のあるアメリカさん以外はそう簡単には手が出せないさ」
確信があるという嵯峨の目。吉田は首をかしげつつ、それまでになく目を輝かせている自分の情感を見つめた。
「何か理由でもあるんですか?」
「法術師の力を操る化け物が相手だ。相当の手練れが動くならそいつは自分の能力を組織で高く評価させるためにすぐには実力行使には出ない。もしその時返り討ちに遭えば自分の評価ががた落ちになるからな」
満足そうな嵯峨の顔を見て吉田は大きくため息をついた。
「じゃあそんなことを考えない馬鹿が動いたときは?」
「なんでそんな馬鹿の心配を俺がしなきゃならねえんだよ。そんな奴は返り討ちに遭うか、驚いた犯人が大暴れして嫌でも俺達の出番になるさ」
嵯峨の口元にはいつもの騒動を待ち望むときの悪い笑みが浮かんでいた。
「相変わらずやり方が汚いですね」
吉田のあきらめたような言葉に嵯峨はうっすら笑みを浮かべた。
「誉め言葉と受け取っとくよ。それが俺の売りでね」
そんな嵯峨の言葉に吉田は大きくため息をついた。
早朝、まだ部隊には人影は少ない。そんな中『ゴミ屋敷』の異名のある司法局実働部隊隊長室で通信端末の電源を切る嵯峨惟基の姿があった。それを横目で見ながら少し前までコンピュータ室にいたシステム担当部長である吉田俊平のにやけた顔がある。
「まあな。あいつ等も少しは成長してもらわにゃならねえよ。特に神前には期待してるんだけどね。アイツは意外と伸びるよ……まあ使い物になるのは五年先か……十年先か……」
「ずいぶんと気長ですね」
そう言いながら手元で器用に作っていたココアの中にお湯を注ぐ吉田。ミルク無しでは飲みたくないと言うように嵯峨は吉田が入れてあげたカップから目をそむけて立ち上がった。
「気長にもなるもんだぜ。俺の本音じゃまだまだアイツ等の成長は遅すぎるよ。これじゃあ百年経ってもおむつのまんまだ」
嵯峨が伸びをするのを見ながら吉田はぬる目のお湯でココアを溶いたものを口に含んだ。
「美味くないだろ?」
「ええ、まあ」
咳き込みながらつぶやく吉田をにんまりと笑いながら嵯峨は眺めていた。
「ですが本当にゲルパルトのネオナチや『ギルド』は動かないんですか?」
吉田の問いにしばらく考えた後嵯峨は椅子に腰掛けて目をつぶって腕組みをした。
「ナチの連中については現在数名の法術師を抱えてその調整にてんてこ舞いだと言う情報があってね。それを考えれば元々遼州人を信用しない連中のことだ。手を出す可能性は少ないな。それに対して『ギルド』は法術師集団だ。人に自分の力を使われるのは面白い話じゃないだろ?動くとしても自分の力を完全制御可能なクラスだ。そうは数を揃えられないさ」
そう言うと口寂しいのかそれまで無視していた吉田の入れたカップに手を伸ばした。すぐに顔を顰める嵯峨。その表情が面白くなってつい吉田は吹き出していた。
「っふ!っと……冗談はこれくらいにしてと。それにしてもずいぶん楽観的な話ですね。ネオナチの連中の場合は好き嫌いの問題でしょ?アイツ等だって情勢分析ぐらいしてるんじゃないですか?それこそ隊長のゲルパルト観がにじみ出てますよ。いつも情緒で政治を語るのは最悪の馬鹿野郎と言っている口から希望的な観測が聞けるとは……こりゃあ傑作だ」
そんな皮肉に嵯峨は苦笑いで答える。
「俺だって連中が介入しない確証は欲しいんだけど……それほどはっきりと動きを見せてくれるほど甘い連中じゃないしな。そして俺は地球勢力については何も言ってないぜ」
嵯峨はそう言いながらゆっくりと二杯目のココアを口に含む吉田を見つめていた。
「隊長、飲みたいんですか?」
吉田の問いに嵯峨は大きく頷いた。
「飲ませて」
「じゃあさっきまでみたいなひどい顔はしないでくださいよ」
吉田はそう言うと渋々嵯峨が差し出すカップを受け取った。
「地球勢力の動きは……あるんだか……ないんだか……」
カップに注がれるお湯を見ながらつぶやく嵯峨の表情。それはただ先ほどのココアの何かが欠けた味を反芻しているように歪んでいた。
「国内の主義主張のある連中の公然組織に動きがないのは確かですが……裏では相当動いているでしょうね」
「当然だろ?連中も慈善事業じゃ無いんだから」
嵯峨は吉田からカップを受け取ると静かにお湯をすする。そして再び顔を顰める。
「地元の利のあるアイツ等だって今回の犯人の目星がついちゃいないんだ。もし今回の犯人がいたずらをしようとする現場に出くわしでもしない限りクラウゼ達の方が先に犯人に巡り会うことになるさ」
そう言いながらさすがにしばらく休むというようにカップを遠くに置く嵯峨。目を何度もパチパチと動かし。ただ黙って吉田を見つめている。吉田はと言えばようやく口に慣れてきたココアをゆっくりと啜っていた。
「ああ、それにだ」
嵯峨は気がついたように自分の金属粉で覆われた机の上に汚れるのもかまわず身を乗り出してきた。
「なにかあるんですか?」
「接触ができたところで法術師を山ほど抱えている『ギルド』と法術研究に一日の長のあるアメリカさん以外はそう簡単には手が出せないさ」
確信があるという嵯峨の目。吉田は首をかしげつつ、それまでになく目を輝かせている自分の情感を見つめた。
「何か理由でもあるんですか?」
「法術師の力を操る化け物が相手だ。相当の手練れが動くならそいつは自分の能力を組織で高く評価させるためにすぐには実力行使には出ない。もしその時返り討ちに遭えば自分の評価ががた落ちになるからな」
満足そうな嵯峨の顔を見て吉田は大きくため息をついた。
「じゃあそんなことを考えない馬鹿が動いたときは?」
「なんでそんな馬鹿の心配を俺がしなきゃならねえんだよ。そんな奴は返り討ちに遭うか、驚いた犯人が大暴れして嫌でも俺達の出番になるさ」
嵯峨の口元にはいつもの騒動を待ち望むときの悪い笑みが浮かんでいた。
「相変わらずやり方が汚いですね」
吉田のあきらめたような言葉に嵯峨はうっすら笑みを浮かべた。
「誉め言葉と受け取っとくよ。それが俺の売りでね」
そんな嵯峨の言葉に吉田は大きくため息をついた。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
時き継幻想フララジカ
日奈 うさぎ
ファンタジー
少年はひたすら逃げた。突如変わり果てた街で、死を振り撒く異形から。そして逃げた先に待っていたのは絶望では無く、一振りの希望――魔剣――だった。 逃げた先で出会った大男からその希望を託された時、特別ではなかった少年の運命は世界の命運を懸ける程に大きくなっていく。
なれば〝ヒト〟よ知れ、少年の掴む世界の運命を。
銘無き少年は今より、現想神話を紡ぐ英雄とならん。
時き継幻想(ときつげんそう)フララジカ―――世界は緩やかに混ざり合う。
【概要】
主人公・藤咲勇が少女・田中茶奈と出会い、更に多くの人々とも心を交わして成長し、世界を救うまでに至る現代ファンタジー群像劇です。
現代を舞台にしながらも出てくる新しい現象や文化を彼等の目を通してご覧ください。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる