レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第40章 智謀の人

攻め手の将

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「まだ応答は無いのか?」 
 そう叫んだ醍醐に参謀達はただ頷くほかは無かった。

 醍醐の激に賛同する母星防衛任務の陸軍部隊は次々と集まっていた。すでに胡州防衛部隊の過半数は醍醐の近衛師団に同調する姿勢を見せ、帝都奪還作戦と同時に宇宙に上がるための南極基地制圧へと動き出していた。そんな醍醐が同じ嵯峨家の三家老として南極基地司令の池幸重少将と連絡を取ろうとしても完全に音信を途絶した防衛部隊は沈黙を守っていた。

「なんと言っても基地の施設を人質に取られているようなものですから……」 

 参謀の一人がそう言って頭を掻く。醍醐もそれは十分想定していた事態だった。清原和人という男が西園寺と大河内の恩顧の部隊の数が自分達の軍を数では勝っていることを計算に入れずに戦争を始めるほど愚かだとは思っていなかった。

 先手を打って帝都周辺の基地を制圧。そして部隊を宇宙に上げたあとに基地を破壊。残った大規模軍港はすでに味方の勢力下。その状況で宇宙の戦いに勝って再び胡州に降下して数に勝る醍醐の部隊を圧倒する。そんなシナリオは定番過ぎるがそれゆえに有効だと醍醐も認めざるを得なかった。

「出方を見たいところだが……どうしたものかね」 

 そんな醍醐の言葉に天幕の下の参謀達は黙り込んでいた。薄い大気を圧縮するテントの中。蒸しあげようとでも言うような暖房の熱気で誰もが汗をかく。そんな状況下で誰もが黙り込んだままで醍醐を見つめている。

「失礼します!」 

 連絡将校が扉を開いて駆け込んできた。

 その様子はまるでおぼれている人間に藁束を投げたような状態だった。全身の視線を浴びて手に書状を持った連絡将校は思わず引いていた。

「なんだ?会議中だぞ」 

 参謀の一人がそう言ったのを手で制して醍醐は連絡将校に目を向ける。

「書状か。池からか?」 

「はい、そうですが……」 

「こちらに持ってきてくれ」 

 醍醐の言葉にもただためらいながら連絡将校は上座の醍醐の所まで書状を運んできた。

 古風な筆で書かれた書状を開いた醍醐はしばらく沈黙した。参謀達はその様子を静かに見つめている。沈黙が続いた後、いかにも意外だと言う表情で醍醐は書状をテーブルに置いた。

「降伏するから時間をくれ?」 

 醍醐の言葉に幕僚達はざわめく。明らかに誰もの予想を覆す書状の内容にそれぞれが顔を見合わせた。

「時間稼ぎじゃないですか?」 

「だろうな」 

 眼鏡の参謀の言葉に醍醐は苦笑いを浮かべた。すでにいつ第三艦隊はかなりの船速で清原側の艦艇群に向かっているのは誰もが知っていた。そして時間が惜しいと言うことにかけては一番知り尽くしているはずの醍醐が苦笑いを浮かべているのが奇妙に覚える参謀達は黙ったまま彼を見つめていた。

「だが、現状で南極基地の施設の無血接収は今後の利益になるな……と言うよりも施設の破壊は後々の帝国の繁栄に関わる問題だ……」 

 醍醐のそんな言葉に参謀達はいきり立つ。

「池さんがそういう事を言っているのには理由があるはずです!それを見極めてから……」 

「いや!即攻撃をかけるべきです!防御体勢の準備のための時間稼ぎですから」 

「出撃命令を!」 

 下手の部隊指揮官達は逸ったように叫ぶ。だが醍醐はそれを見てもただ静かに座っているだけだった。

「どう思うかね、君達も若いのとおんなじ気持ちか?」 

 そう言う総指揮官の言葉に参謀達は沈黙した。攻撃を仕掛けて基地の施設が損壊すれば第三艦隊の支援にはとても間に合わない。またずるずる時間を引き延ばす池の策略に乗っても同じこと。

「無益な血を流さずに済む選択肢としてはいいことかもしれません」 

 手前に座っていた頬に傷のある大佐の言葉に満足げに醍醐は頷いた。

「私も書状を書こう。あいつとは付き合いが長いからな。どういう返事が来るか楽しみだ」 

 そう言って無理のある笑みを浮かべると醍醐は立ち上がって静かに背を向けた。それを見た参謀達は立ち上がり、それぞれの持ち場へと散っていった。
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