840 / 1,557
第40章 智謀の人
攻め手の将
しおりを挟む
「まだ応答は無いのか?」
そう叫んだ醍醐に参謀達はただ頷くほかは無かった。
醍醐の激に賛同する母星防衛任務の陸軍部隊は次々と集まっていた。すでに胡州防衛部隊の過半数は醍醐の近衛師団に同調する姿勢を見せ、帝都奪還作戦と同時に宇宙に上がるための南極基地制圧へと動き出していた。そんな醍醐が同じ嵯峨家の三家老として南極基地司令の池幸重少将と連絡を取ろうとしても完全に音信を途絶した防衛部隊は沈黙を守っていた。
「なんと言っても基地の施設を人質に取られているようなものですから……」
参謀の一人がそう言って頭を掻く。醍醐もそれは十分想定していた事態だった。清原和人という男が西園寺と大河内の恩顧の部隊の数が自分達の軍を数では勝っていることを計算に入れずに戦争を始めるほど愚かだとは思っていなかった。
先手を打って帝都周辺の基地を制圧。そして部隊を宇宙に上げたあとに基地を破壊。残った大規模軍港はすでに味方の勢力下。その状況で宇宙の戦いに勝って再び胡州に降下して数に勝る醍醐の部隊を圧倒する。そんなシナリオは定番過ぎるがそれゆえに有効だと醍醐も認めざるを得なかった。
「出方を見たいところだが……どうしたものかね」
そんな醍醐の言葉に天幕の下の参謀達は黙り込んでいた。薄い大気を圧縮するテントの中。蒸しあげようとでも言うような暖房の熱気で誰もが汗をかく。そんな状況下で誰もが黙り込んだままで醍醐を見つめている。
「失礼します!」
連絡将校が扉を開いて駆け込んできた。
その様子はまるでおぼれている人間に藁束を投げたような状態だった。全身の視線を浴びて手に書状を持った連絡将校は思わず引いていた。
「なんだ?会議中だぞ」
参謀の一人がそう言ったのを手で制して醍醐は連絡将校に目を向ける。
「書状か。池からか?」
「はい、そうですが……」
「こちらに持ってきてくれ」
醍醐の言葉にもただためらいながら連絡将校は上座の醍醐の所まで書状を運んできた。
古風な筆で書かれた書状を開いた醍醐はしばらく沈黙した。参謀達はその様子を静かに見つめている。沈黙が続いた後、いかにも意外だと言う表情で醍醐は書状をテーブルに置いた。
「降伏するから時間をくれ?」
醍醐の言葉に幕僚達はざわめく。明らかに誰もの予想を覆す書状の内容にそれぞれが顔を見合わせた。
「時間稼ぎじゃないですか?」
「だろうな」
眼鏡の参謀の言葉に醍醐は苦笑いを浮かべた。すでにいつ第三艦隊はかなりの船速で清原側の艦艇群に向かっているのは誰もが知っていた。そして時間が惜しいと言うことにかけては一番知り尽くしているはずの醍醐が苦笑いを浮かべているのが奇妙に覚える参謀達は黙ったまま彼を見つめていた。
「だが、現状で南極基地の施設の無血接収は今後の利益になるな……と言うよりも施設の破壊は後々の帝国の繁栄に関わる問題だ……」
醍醐のそんな言葉に参謀達はいきり立つ。
「池さんがそういう事を言っているのには理由があるはずです!それを見極めてから……」
「いや!即攻撃をかけるべきです!防御体勢の準備のための時間稼ぎですから」
「出撃命令を!」
下手の部隊指揮官達は逸ったように叫ぶ。だが醍醐はそれを見てもただ静かに座っているだけだった。
「どう思うかね、君達も若いのとおんなじ気持ちか?」
そう言う総指揮官の言葉に参謀達は沈黙した。攻撃を仕掛けて基地の施設が損壊すれば第三艦隊の支援にはとても間に合わない。またずるずる時間を引き延ばす池の策略に乗っても同じこと。
「無益な血を流さずに済む選択肢としてはいいことかもしれません」
手前に座っていた頬に傷のある大佐の言葉に満足げに醍醐は頷いた。
「私も書状を書こう。あいつとは付き合いが長いからな。どういう返事が来るか楽しみだ」
そう言って無理のある笑みを浮かべると醍醐は立ち上がって静かに背を向けた。それを見た参謀達は立ち上がり、それぞれの持ち場へと散っていった。
そう叫んだ醍醐に参謀達はただ頷くほかは無かった。
醍醐の激に賛同する母星防衛任務の陸軍部隊は次々と集まっていた。すでに胡州防衛部隊の過半数は醍醐の近衛師団に同調する姿勢を見せ、帝都奪還作戦と同時に宇宙に上がるための南極基地制圧へと動き出していた。そんな醍醐が同じ嵯峨家の三家老として南極基地司令の池幸重少将と連絡を取ろうとしても完全に音信を途絶した防衛部隊は沈黙を守っていた。
「なんと言っても基地の施設を人質に取られているようなものですから……」
参謀の一人がそう言って頭を掻く。醍醐もそれは十分想定していた事態だった。清原和人という男が西園寺と大河内の恩顧の部隊の数が自分達の軍を数では勝っていることを計算に入れずに戦争を始めるほど愚かだとは思っていなかった。
先手を打って帝都周辺の基地を制圧。そして部隊を宇宙に上げたあとに基地を破壊。残った大規模軍港はすでに味方の勢力下。その状況で宇宙の戦いに勝って再び胡州に降下して数に勝る醍醐の部隊を圧倒する。そんなシナリオは定番過ぎるがそれゆえに有効だと醍醐も認めざるを得なかった。
「出方を見たいところだが……どうしたものかね」
そんな醍醐の言葉に天幕の下の参謀達は黙り込んでいた。薄い大気を圧縮するテントの中。蒸しあげようとでも言うような暖房の熱気で誰もが汗をかく。そんな状況下で誰もが黙り込んだままで醍醐を見つめている。
「失礼します!」
連絡将校が扉を開いて駆け込んできた。
その様子はまるでおぼれている人間に藁束を投げたような状態だった。全身の視線を浴びて手に書状を持った連絡将校は思わず引いていた。
「なんだ?会議中だぞ」
参謀の一人がそう言ったのを手で制して醍醐は連絡将校に目を向ける。
「書状か。池からか?」
「はい、そうですが……」
「こちらに持ってきてくれ」
醍醐の言葉にもただためらいながら連絡将校は上座の醍醐の所まで書状を運んできた。
古風な筆で書かれた書状を開いた醍醐はしばらく沈黙した。参謀達はその様子を静かに見つめている。沈黙が続いた後、いかにも意外だと言う表情で醍醐は書状をテーブルに置いた。
「降伏するから時間をくれ?」
醍醐の言葉に幕僚達はざわめく。明らかに誰もの予想を覆す書状の内容にそれぞれが顔を見合わせた。
「時間稼ぎじゃないですか?」
「だろうな」
眼鏡の参謀の言葉に醍醐は苦笑いを浮かべた。すでにいつ第三艦隊はかなりの船速で清原側の艦艇群に向かっているのは誰もが知っていた。そして時間が惜しいと言うことにかけては一番知り尽くしているはずの醍醐が苦笑いを浮かべているのが奇妙に覚える参謀達は黙ったまま彼を見つめていた。
「だが、現状で南極基地の施設の無血接収は今後の利益になるな……と言うよりも施設の破壊は後々の帝国の繁栄に関わる問題だ……」
醍醐のそんな言葉に参謀達はいきり立つ。
「池さんがそういう事を言っているのには理由があるはずです!それを見極めてから……」
「いや!即攻撃をかけるべきです!防御体勢の準備のための時間稼ぎですから」
「出撃命令を!」
下手の部隊指揮官達は逸ったように叫ぶ。だが醍醐はそれを見てもただ静かに座っているだけだった。
「どう思うかね、君達も若いのとおんなじ気持ちか?」
そう言う総指揮官の言葉に参謀達は沈黙した。攻撃を仕掛けて基地の施設が損壊すれば第三艦隊の支援にはとても間に合わない。またずるずる時間を引き延ばす池の策略に乗っても同じこと。
「無益な血を流さずに済む選択肢としてはいいことかもしれません」
手前に座っていた頬に傷のある大佐の言葉に満足げに醍醐は頷いた。
「私も書状を書こう。あいつとは付き合いが長いからな。どういう返事が来るか楽しみだ」
そう言って無理のある笑みを浮かべると醍醐は立ち上がって静かに背を向けた。それを見た参謀達は立ち上がり、それぞれの持ち場へと散っていった。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
時き継幻想フララジカ
日奈 うさぎ
ファンタジー
少年はひたすら逃げた。突如変わり果てた街で、死を振り撒く異形から。そして逃げた先に待っていたのは絶望では無く、一振りの希望――魔剣――だった。 逃げた先で出会った大男からその希望を託された時、特別ではなかった少年の運命は世界の命運を懸ける程に大きくなっていく。
なれば〝ヒト〟よ知れ、少年の掴む世界の運命を。
銘無き少年は今より、現想神話を紡ぐ英雄とならん。
時き継幻想(ときつげんそう)フララジカ―――世界は緩やかに混ざり合う。
【概要】
主人公・藤咲勇が少女・田中茶奈と出会い、更に多くの人々とも心を交わして成長し、世界を救うまでに至る現代ファンタジー群像劇です。
現代を舞台にしながらも出てくる新しい現象や文化を彼等の目を通してご覧ください。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる