レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
906 / 1,557
第4章 戦線

状況説明

しおりを挟む
「すいませんねえ。ちょっと気分転換を 」 

 クリスの返そうとする言葉よりも早く、嵯峨はタバコに火をつけていた。

「さてと、九七式改では接近する前に叩かれる。となると北兼台地の基地から虎の子の米軍の供与品のM5を持ち出すか、それともアメちゃんに土下座して最新鋭のM7の出動をお願いするか……どうしますかねえ 」 

 嵯峨はタバコをふかしながら正面にあるだろう敵基地の方角に目を向けていた。

「北兼台地に向かった本隊の負担を軽くするための陽動ですか。しかし、そんなに簡単に引っかかりますか? 」 

 クリスは煙を避けながら皮肉をこめてそう言った。だが、振り返った嵯峨の口元には余裕のある笑みが浮かんでいる。

「共和国第五軍指揮官のバルガス・エスコバルという男。中々喰えない人物だと言う話ですがねえ。共和軍にしては使える人物らしいですがどうにもプライドが高いのが玉に瑕って話を聞きかじりまして。簡単にアメちゃんに頭を下げるなんて言う真似はしないでしょうね 」 

「なぜそう言いきれるんですか? 」 

 タバコを備え付けの灰皿で押し消した嵯峨クリスは自分の声が震えているのを押し隠そうとしながらそう尋ねた。

「だから言ったじゃないですか。プライドが高いのが玉に瑕だって。それに今の状況はアメリカ軍にも筒抜けでしょうからどう動いてくるか……さてエスコバル君。このまま俺がのんびりタバコ吸ってるのを見逃したらアメリカさんも動き出しちゃうよー! 」 

 ふざけたような嵯峨の言葉。だが確かに制圧下にある地域で堂々と破壊活動を展開する嵯峨の行動を見逃すほどどちらも心が広くは無いことはわかる。だが一度に襲い掛かられれば旧式の四式では対抗できるはずも無い。

「同時に出てきたら袋叩きじゃないですか! 」 

 状況を楽しんでいる嵯峨にクリスが悲鳴で答える。しかし、振り向いた嵯峨の顔には相変わらず状況を楽しんでいるかのような笑みが浮かんでいる。

「そうはならないでしょ。少なくとも俺が知っている範囲での俺についての情報。まあ色々とまああることあること書いてくれちゃって……。俺も数えていない撃墜数とか出撃回数とかご丁寧に……どこで調べたのかって聞きたいくらいですよ。エスコバルの旦那も俺の相手が務まるパイロットを見繕ってくれるとなると慎重になるでしょうね。アメちゃんも今年は中間選挙の年だ。無理をするつもりは無いでしょう 」 

 そう言うと嵯峨はそのまま機体を針葉樹の森に沈めた。

「あなたは何者なんですか? 一人のエースが戦況をひっくり返せる時代じゃないでしょ! 」 

 嵯峨の自信過剰ともいえる言葉に悲鳴を上げるクリス。振り返った嵯峨の笑みに狂気のようなものを感じて口をつぐむ自分を見つけて背筋が凍った。しかし、その狂気は気のせいかと思うほどに瞬時に消えた。そこにいるのは気の抜けたビールのような表情をした人民軍の青年士官だった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

【アラウコの叫び 】第2巻/16世紀の南米史

ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎日07:20投稿】 動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。 1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。 マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、 スペイン勢力内部での覇権争い、 そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。 ※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、 フィクションも混在しています。 HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。 公式HP:アラウコの叫び youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス insta:herohero_agency tiktok:herohero_agency

魔王の残影 ~信長の孫 織田秀信物語~

古道 庵
歴史・時代
「母を、自由を、そして名前すらも奪われた。それでも俺は――」 天正十年、第六天魔王・織田信長は本能寺と共に炎の中へと消えた―― 信長とその嫡男・信忠がこの世を去り、残されたのはまだ三歳の童、三法師。 清須会議の場で、豊臣秀吉によって織田家の後継とされ、後に名を「秀信」と改められる。 母と引き裂かれ、笑顔の裏に冷たい眼を光らせる秀吉に怯えながらも、少年は岐阜城主として時代の奔流に投げ込まれていく。 自身の存在に疑問を抱き、葛藤に苦悶する日々。 友と呼べる存在との出会い。 己だけが見える、祖父・信長の亡霊。 名すらも奪われた絶望。 そして太閤秀吉の死去。 日ノ本が二つに割れる戦国の世の終焉。天下分け目の関ヶ原。 織田秀信は二十一歳という若さで、歴史の節目の大舞台に立つ。 関ヶ原の戦いの前日譚とも言える「岐阜城の戦い」 福島正則、池田照政(輝政)、井伊直政、本田忠勝、細川忠興、山内一豊、藤堂高虎、京極高知、黒田長政……名だたる猛将・名将の大軍勢を前に、織田秀信はたったの一国一城のみで相対する。 「魔王」の血を受け継ぐ青年は何を望み、何を得るのか。 血に、時代に、翻弄され続けた織田秀信の、静かなる戦いの物語。 ※史実をベースにしておりますが、この物語は創作です。 ※時代考証については正確ではないので齟齬が生じている部分も含みます。また、口調についても現代に寄せておりますのでご了承ください。

讃美歌 ② 葛藤の章               「崩れゆく楼閣」~「膨れ上がる恐怖」

エフ=宝泉薫
青春
少女と少女、心と体、美と病。 通い合う想いと届かない祈りが織りなす終わりの見えない物語。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

処理中です...