レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第20章 楽しい連中

作柄

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「おい!遊んでんじゃねーぞ!」 

 そこに突然少女の声が響いた。振り返るギャラリー。そこには副部隊長のランが手に幼児のような彼女の体と比べると格段に大きい段ボール箱を抱えて歩いてきていた。

「姐御も撃ちますか?」 

 かなめが茶々を入れるがそれをまるで無視して、ランはそのまま射撃場のテーブルにダンボールを置いた。

「どうだい」 

 小柄と言うより幼く見えるランにこの射撃場は似合わないと誠は思っていた。時々課せられている射撃訓練のとき愛用の小型拳銃、PSMを射撃する姿は良く見かけるが、明らかに違和感のある姿だった。

「まあ見世物としては最適ですね。まあ実用性は……とてもとても?」 

 ほめるわけにもけなすわけにもいかず下士官の表情は複雑だった。それを見てうなづいた後、ランは段ボール箱を開く。誠達が中をのぞくとそこには旬の野菜が詰め込まれていた。

「今年はクワイがいまいちなんだよ。でもレンコンは猟友会の人で田んぼ持ってる人がいるからちゃんともらってきたよ。今年は雨は少ないから小さいけど凄くおいしいんだって!」

 サラがカウラから受け取った銃をホルスターに入れて元気良く答える。

「ごぼうは……」 

「ああ、ちょっと待ってね。あれは長いから箱には入らないんだ。だから部屋に置いてあるわよ」 

 サラは自信たっぷりに答える。かえでのコネのある猟友会で農家の人々とも交流がある彼女が選んだダンボールの中のみずみずしい野菜達がそこにあった。他にもにんじん、大根、白菜と売り物にも出来るような野菜達が箱の中に並んでいた。

「なるほどねえ、まったくもってこれじゃあ女ガンマンだな」 

 ランは呆れたようにサラをつま先から頭まで満遍なく見つめる。

「ひどい!ランちゃんだっていろんな格好するじゃないの……八幡様のお祭りとかで」 

「アタシはそう言う格好をするときは場所を考えるんだ。職場ではぜってーそんな格好はしねーよ」 

 苦笑いを浮かべつつ、ランもまたサラの腰の拳銃が気になっているようだった。

「なんなら中佐も撃ちます?」 

 そう言いながら銃器担当の下士官は弾薬の箱をもてあそんでいる。それを見てランは呆れたようにため息をつく。

「そんなの興味ねーよ。シングルアクションリボルバーで撃ち合いなんざ真っ平ごめんだ」 

 ランはそう言うと勤務服のベルトから愛用のPSMを取り出す。超小型拳銃だが、手の小さいランにはグリップを握れるぎりぎりの大きさだった。そのまま銃を構えるとランはターゲットに銃口を向ける。

 連射。機能に特化したロシア製の拳銃らしくきびきびとスライドが下がり薬莢が舞う。撃ち終わったターゲットを誠が見ると見事に胸の辺りにいくつもの小さな穴が見えた。

「こんぐらいのことが出来なきゃ問題外だろ?」 

 ランは得意げに笑って見せた。それを見てサラはダンボールの中を整理していた手を止める。そのままランの隣に立って標的を見つめる。

 すぐさまサラの右手が銃を手にする。腰で構えるとすぐ左手がハンマーを叩き発砲、それを六回繰り返す。そしてすぐ右手の銃を仕舞うと今度は左手、同じように六発の銃声。

「やるもんだねえ」 

 ランはそう言うと満足げにうなづいた。硝煙の煙が北風に流されターゲットが野次馬達の目に留まる。確かにランの射撃よりは弾は散らばっているがすべてがターゲットを捉えていた。

「なんだよ、神前より当たってるじゃねえの」 

 かなめの歯に衣着せない言葉に誠は頭を掻く。そしてサラとランの名人芸に感心したように野次馬達が拍手を始める。

「まあサラは至近距離の戦いのためにショットガンを装備しているからな。拳銃の優先度は部隊でも一番低いんだ。あれだけ当たれば……」 

「ランちゃん、OK?OKなの?」 

 サラよりかなり小さいランの手を取りサラは満面の笑みを浮かべた。

「まあどうせ言っても聞かねーんだろ?好きにしろよ」 

 そう言うとランは射撃場から降りる。サラを見つめているグレゴリウス16世の頭を一撫でしたあとそのまま来た道を引き返す。

「やっぱりクリーニングは俺か?」 

 押し付けられた仕事に苦笑いを浮かべる下士官を残してサラが全速力で隊舎に向かって駆け出した。

 それを見送るとブリッジクルーは隊舎に、整備班員はハンガーに向かう。ただサラの銃を手にして何度も確認している銃器担当の下士官と誠達だけが取り残された。

「しかしよく集めたわねえ……ちゃんとメモどおりの野菜が揃ってるじゃないの」 

 一人ダンボールの中の野菜を調べていたアメリアが感心したようにため息をつく。誠はサラがやっていたようにドライバーで銃から空の薬莢を取り出している下士官を見ていた。

「大変ですね。でもこんな昔の銃の弾が安いんですか?」 

 誠の質問に一度顔を上げて不思議そうな顔をした後、銃器担当の下士官は今度は銃の分解を始めた。

「まあな。需要は結構あるんだよこいつは。英雄を気取りたいのは誰にでもある願望だから、アメリカさんの影響力の強い国で銃の規制がゆるい国なら銃砲店に行けばかならず置いてあるからな。それこそカウボーイ・シューティングマニアの羨望の的の銃だからな」 

 そう言うと下士官は慣れた調子でシリンダーを取り外し、そこに開いた大きな六つの穴を覗いている。そしてその頃には警備部の面々も射撃訓練を開始して、絶え間ない銃声が射撃場に響き始めた。

「まあ見世物としては面白かったけど、これで終わりとか言わねえよな。わざわざ東都から隊に戻ってきたんだ。それなりのイベントがねえとな」 

 かなめの言葉に銃器担当の下士官は一端、銃から目を離して彼女を見上げる。

「俺に聞かないでくださいよ。たぶん班長が何か知ってるんじゃないですか?グリファン中尉と時々なんか話していたみたいですから」 

 そう言うと彼はシリンダーを抜いた銃の銃身に掃除用の器具を突っ込んだ。サラのお祝いについて何も知らないような下士官を見つめた後、かなめはそのままアメリアが中身を確認し終えたダンボールの箱を持ち上げる。

「気が利くじゃないか、西園寺。これじゃあ明日は雪だな」 

「どういう意味だ?」 

 笑顔のカウラにかなめは突っ込みを入れる。その表情はいつもより柔らかい。 

 カウラはそう言うとそのままハンガーに向かって歩き出したアメリアに続く。誠もまたそれに続いて歩き始めた。

 ただ誠達は明らかに雰囲気が先ほど同じ道を来た時とは違っているのを感じていた。明らかにちらちらと誠達、特にカウラの様子を確認しているのはアメリアやかなめもわかっていた。普段は開いていない管理部の裏の窓が開いていてそこから双眼鏡が覘いていたりするのだから、誠にも何かサラ達が企んでいることは分かった。

「何考えてるんだか……」 

 カウラがポツリとつぶやく。その視線の先に赤い髪が動いたのは明らかにサラの後ろ髪だった。それを見てかなめが立ち止まる。

「なあ、少し待ってやろうよ」 

 かなめのうれしそうな顔に同調するようにアメリアも立ち止まる。二人が突然態度を変えたことでカウラの表情が曇る。

「くだらないな。とりあえずごぼうを受け取って隊長に挨拶したら帰るぞ」 

 カウラは振り返り、一言そう言うと歩き出す。

「奥さん、聞きました?帰るですって。すっかり奥方気取りね」 

「ええ、そうですわね。そのまま旦那と昼から……」 

「まあ!」  

「アメリアさん、西園寺さん……」 

 下品そうな笑いを浮かべてささやきあうアメリアとかなめに思わず誠は声をかけていた。カウラは二人の寸劇を気にする様子もなく歩き続けていた。
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