特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第七部 「低殺傷兵器(ローリーサルウェポン)」

橋本 直

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目撃者

第60話 きっかけ

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「まだかよ」 

 定時まで30分。かなめは大きく伸びをした。誠は呆れてつい目をかなめに向ける。そのかなめが声をかけたカウラは警邏隊から送られてくるアストラルゲージの波だけが映る画面から目を放そうとしない。彼女も一応は小隊の隊長である。無駄かもしれなくても仕事の真似事くらいはかなめの前ではしなければならない。

「聞いてるのか?」

「まだ30分前だ」

 かなめのしつこさに耐えかねたというようにカウラが吐き捨てるようにつぶやく。 

「それじゃねえよ。ちゃんと水島を引っ張れる証拠は見つかったのかって言うことだよ」 

 そう言うと答えを期待していないというようにかなめは大きく身をそらして伸びをする。アメリアもラーナもいつものこのかなめの気まぐれな言動にため息を漏らした。

「かなめちゃん。そう簡単に証拠が挙がるなら誰も苦労はしないわよ」 

「そりゃあそうだけどさあ」 

 今度はかなめは左肩に手を当ててぐるぐると回す。要するに退屈なのだ。誠は思わず単純で分かりやすいかなめの行動を微笑みながら眺めることにした。

「サイボーグが準備運動か?」

 重量のある義体の重さに耐えかねてぎしぎし言う椅子の音が気になったカウラの一言。かなめもその音を無駄に出しているという自覚はあるらしく回していた腕を止めて机に突っ伏せる。 

「うるせえなあ……別にいいだろ」 

 しばらくそのままで時が流れる。だがかなめの退屈がどうにかなるわけではない。

「とりあえずタバコ吸ってくるわ」 

「はいはい!行ってらっしゃい!」 

 投げやりなアメリアの言葉にかなめはそのまま席を立とうとした。ここまではいつもの光景だった。

 だがその時突然ラーナが立ち上がった。

「取れたっす!取れたっすよ!」 

 誠よりも二つ年下の割にはいつも落ち着き払っているラーナの歓喜の声に一気に部屋の緊張が高まる。

「なんだ?何が取れたんだ?」 

 まるで子供のようにモニターを指差すラーナにかなめが驚いて声を掛ける。その表情が眠そうな気配を一気に消し飛ばしてシリアスなものに変わると部屋の空気が一変した。

「元旦の東宮神社の放火!目撃証言が取れたんすよ!確かにその時に水島は現場にいたそうっす!」

「一件だけか?偶然と言われたらおしまいだぞ」 

 待ちかねていた事実だがカウラはまだ冷静を装っていた。だがラーナの言葉は続く。

「それだけじゃ無いんす!豊川市での最初の自転車の転倒事件の現場、次の北川町でのぼや騒ぎ、そして駅前の殺傷事件の現場でも……」 

「それどこの証言よ?それだけ証拠が揃ってれば東都警察が動いてるでしょ?」 

 アメリアのたしなめる声もラーナの笑みを止めることはできない。

「同盟司法局法術特捜を舐めてもらっては困るっす!情報ソースは秘匿事項なので明かせませんが目撃者の身元は確かっす。裁判での証言の約束も取れるっす!」 

 ラーナは得意げに胸を張る。カウラとアメリアはただ呆然と新事実に目を見張るばかりだった。ただかなめだけは一人うなづいて納得が言ったような表情を浮かべていた。

「西園寺さん……?」 

「なあに、情報収集を行う必要のある機関はどこでも独自の情報ルートは持ってるものだ。まあ……茜が一から作ったにしては準備が良すぎるから叔父貴のコネクションからの情報だろうな。なら精度は確かだ」 

 かなめの一言がただ立ち尽くしていたカウラとアメリアの目に生気を戻した。二人は顔を見合わせてとりあえず椅子に座った。

「これで引っ張れるぞ……どうする?」 

「待ちなさいよかなめちゃん。情報が確かで起訴して勝てるのは分かっていても……逮捕令状は?裁判所の命令書は?」 

 必死に落ち着こうとしているアメリア。その声はいつもの余裕のある彼女らしくもなく上ずっていた。アメリアの珍しい鋭い目つきに刺激されるようにラーナのキーボードを叩く速度が加速する。

「地裁には嵯峨警視正の顔が利きますから……なんとかうちにも令状が……」 

「頼むぞ茜、希望の星だよ……これでこの退屈な蟄居部屋ともおさらばだ!」 

 満面の笑みで叫ぶかなめにさすがに不謹慎だと言うようにカウラが白い目を向けているのがおかしくて誠はつい噴出していた。

「そうだな……これで我々の勝ちだ」 

 これまでは黙っていたものの豊川署のやり方に我慢ならならなかった。そんな気持ちがありありと分かるような薄ら笑いを浮かべながらカウラはラーナの手つきを眺める。

 誠は自分には少しばかり女性恐怖症の気があるのではないか。その顔を見て背筋が寒くなる自分を感じながらそんなことを考えていた。
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