特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第七部 「低殺傷兵器(ローリーサルウェポン)」

橋本 直

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動き出す状況

第64話 転移

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 飛び込んだ銀色の板の向こう側。埃のたまったコンクリートの上に頭を打ち付けて水島は困惑しながら周りを見渡した。

 暗い。すでに日没後だ。しかもあたりを見れば、そこは壁材が剥がれて裏のコンクリートが露出した壁で覆われた一室だった。元はマンションだったのか、事務所だったのか、それすら分からないほど何もない空虚な部屋。じっとここに座っているほど水島の肝は据わっていない。

 まず水島はとりあえずこの場から遠くに去ろうと比較的ましに見えたアルミ製の扉を開いてそこに飛び込む。

 人気はない。見渡せば廊下のような場所だった。遙かに続く薄暗がりの中、先ほど振り下ろされた日本刀がどこにも見えないことに気がついて安心した水島はその場にへたりこんだ。

『これまたずいぶんとおどろいちゃって……』

 まるで人ごとのような少年のつぶやきが頭の中に響く。 

「どこにいる!お前が呼んだのか!あの人殺しを……」 

 冗談の過ぎる少年の言葉に叫び声で答える。しかしどこにも人の気配はしない。そして水島はとりあえず廊下をそのまま歩き続けた。

 ドアに付けられたプレートやご丁寧な手すり。どうやらここは廃病院らしい。だがそれが分かったところでどうなるものでもない。

 しばらく歩いても人の気配は無かった。むしろあちこちの壁の傷み具合からみてそれなりの年月放置されてきた建物だと言うことは分かる。割れた窓ガラスが靴下だけの水島の足に突き刺さった。

「痛っ」 

 思わず後ずさる。調剤室のガラスが砕かれ、それを割るのに使ったらしい水道管の切れ端がカウンターの下に何本も転がっている。その有様を見て水島はここが誰の目からも離れた置き去りにされた場所だと言うことを確認した。

『僕がアイツ等を呼んだだって?おじさん……人聞きの悪いことは言わないでよ。僕だってあんな化け物が来るとは思ってなかったんだから……』 

 足の裏の痛みを指すって誤魔化す水島の頭の中ににやけた笑いを浮かべたクリタ少年が映る。忌々しげに手元に落ちていた水道管を手にとって水島はガラスの破片を迂回して進む。

「化け物?じゃあ知っているんだな、あの日本刀の男のこと」 

『一応、噂ではね。でも僕にも守秘義務があってさ……生きてそこを出られたら教えてあげるよ』 

「無責任なことを言うな」 

 怒りに駆られた水島は思わず目の前の壁を水道管で叩いた。火花が散るがただそれだけ。ぶつかった部分の塗料が剥げ、コンクリートの地肌が顔をだす。そうしているうちに水島は偶然かつては床を覆っていたらしい元の色すら分からないほど埃にまみれたタイルの下にスリッパの山があるのに気がついた。

 水道管を投げ捨て、スリッパに手を伸ばす。どれも湿気で黴を生やしているが何も履いていないより遙かにましだ。そう思いながら水島は左右のスリッパを見つけると足に履いて履き心地を確かめる。

『あのさあ、そんなに暴れていいの?さっきの化け物。恐らく僕がおじさんを飛ばした場所を見つけているころだよ……逃げるなら今のうち……』 

 少年の言葉が終わらないうちに水島は走り出した。目の前に階段がある。とりあえずそこを駆け下りる。

『おじさんストップ!』 

 頭の中でまたクリタ少年の声が響く。驚いて壁に張り付き息を整える。

『来たよ。ぴったりさっきおじさんがいた場所だ。逃げた分だけ遠くなったよね』 

「責任を取れよ……貴様らに協力するんだから……ちゃんと助けろよ……」

 運動不足の水島には恐怖と戦いながら廃墟を巡るのは酷な作業だった。百メートルも移動していないというのに心臓は激しく波打って息もかなり上がってきていた。

 少年の満足そうな笑みが頭の中に浮かぶ。 

『まあ、できるだけのことはするつもりだよ。もっともおじさんがなかなか決断してくれないからできることは限られているかもしれないけどね』 

 焼け石に水と言うような調子の言葉を最後に頭の中から少年の気配が消えた。水島はその時になって初めて自分が本当の意味で孤独であることに気づいた。
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