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第十四章 『特殊な部隊』のデート
第30話 私たちの初デートがこれでいいのか問題
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「隊長は今ごろ、どこかで優雅に懐石料理でも楽しんでるのかしらね……」
国道沿いのハンバーガーショップで、アメリアはため息まじりにつぶやいた。
「それに比べて私たちは……これって、本当に『デート』って言えるのかしら?まあ、私もお見合いデートでこんな店に行くと言ったら相手にドン引きされたけど」
出発からすでに三時間。行き先も決めず、千要県北部の国道をただ行ったり来たりしていた。
二人はようやく車を止め、沼のほとりに建つファーストフード店で昼食を取っていた。
「しかし、私達だとどうしてこういう食事しかひらめかないのかしら。食通のランちゃんなら結構名店とか紹介してくれたかもしれないのに……これは失敗したかも。もう少し計画を練ってから出かけるんだったわ」
そう言ってアメリアはポテトをつまむ。
日ごろから給料をほとんど趣味のために使っている二人が、おいしいおしゃれな店を知っているわけも無い。それ以前に食事に金をかけるという習慣そのものが二人には無かった。
「でもこの辺りには遊ぶ場所が何もないわね。まあ『ふさ』を管理してる艦船管理部の『釣り部』の連中なら喜ぶんじゃないの?印藤沼があるからブラックバス釣りのメッカとして有名じゃない?でも、私は釣りには興味ないから。と言っても東和で汚染率トップテンに入る沼で豊かな海産物に惹かれてあのへき地で生活している連中が釣りをしたがるとは思えないけど」
この付近の観光名所と言えば湿地帯が広がる印藤沼くらいしか誠にも思いつかない。そもそも乗り物に弱い上に友達のほとんどいない誠に観光名所など初めから無縁な存在だった。
「あの、それじゃあ何のためのデートか分からないじゃないですか。でも僕も思いつくところは有りませんよ。それに今日は木曜だから映画は明日から新作が始まる日ですからどうせろくなのやってないでしょうし」
アメリアの言葉に呆れて言葉を返す誠だが、その中の『デート』と言う言葉にアメリアはにやりと笑った。
「デートなんだ、これ。誠ちゃんの初デートに相手になれて光栄だわ」
そう言ってアメリアは目の前のハンバーガーを手に持った。誠は耳が熱くなるのを感じながらうつむく。
「じゃあこれはさっき誠ちゃんが払ったハンバーガーの代金は誠ちゃんのおごりと言うことでよろしく」
食事を終えたアメリアはそう言うと笑顔で立ち上がった。
「あの、いや……その……あの……今月は僕も結構ピンチなんで……あの……その……」
誠は自分の口にした言葉に戸惑った。給料日までまだ一週間あった。その間にいくつかプラモデルとフィギュアの発売日があり、何点か予約も済ませてあるので予想外の出費は避けたいところだった。
「冗談よ。今日は私のおごり。だって私、部長なんだから。誠ちゃんの給与明細くらい把握してるわ」
アメリアは時々見せる『伝説の流し目』を誠に向けた。
「普通の子なら『男なんだから払ってよ』って言うんでしょうけど……そうしないのが、私の優しさってことにしておいて」
アメリアは涼しげな笑みを浮かべるともたもたしていた誠が手にしたハンバーガーを奪って自分の口に運んだ。
「良いんですか?確か今月出る落語の動画を揃えるって言ってたじゃないですか。レーザーディスクって結構するんですよ。僕もよく美少女アニメのレーザーディスクを買いますけど」
趣味人のアメリアも自分の趣味に相当な額を投資している。アメリアのその事実を知っているので誠も遠慮してそう言った。
「誠ちゃん。そこはね、嘘でも『僕が払いますから!』とか言って見せるのが男の甲斐性でしょ?まあ、その甲斐性が無いから彼女いない歴年齢なんでしょうけどね」
明らかに揶揄われている。誠はアメリアにそう言われてへこんだ。
「……でも、そういうとこが、かわいいのよね」
さりげなく小さな声でアメリアはそうささやいた。
「なんですか?今、何か言いました?」
アメリアのささやき声が良く聞こえなかった誠はそう聞き返した。
「別に何でもないわよ。行くわよ。こんなところでいつまでも時間を潰していてもつまらないだけだわ」
アメリアはそう言っていつもの糸目をさらに細めて満面の笑顔で誠を車へと誘った。
とりあえず店を出て二人はパーラが貸してくれた四輪駆動車に乗り込んだ。広い車内で二人はぼんやりとフロントガラスを見つめていた。
「それにしてもこれからどうするの?汚染度東和一の沼のほとりを散策とかは興味ないわよ、私」
つい出てしまった本音をごまかすようにアメリアはまくし立てる。
「やっぱり映画とか……つまらなくてもとりあえずデートの定番と言えば映画なので」
誠はそう言うが、二人の趣味に合うような映画はこの秋には公開されないことくらいは分かっていた。
「そうだ、ゲーセン行きましょうよ、ゲーセン」
どうせ良い案が誠から引き出せないことを知っているアメリアは車のエンジンをかけた。
「ゲーセンですか……そう言えば最近UFOキャッチャーしかやっていないような気が……僕は得意ですけど。僕はクレーンだけならすぐにでも港湾労働者が勤まるって東和宇宙軍の訓練課程で教官から言われてたくらいですから」
誠はクレーンが得意だった。それは大型クレーンの話であって、友達のいない誠にはクレーンゲームの経験はほとんどなかったが、ゲームも似たようなものだろうと高をくくっていた。
「じゃあ決まりね」
そう言うとアメリアは車を急発進させ、そのままただ広いだけの田舎のファーストフード店の駐車場を後にする。
「さあ急ぐわよ!終業までにパーラにこの車を届けなきゃいけないんだもの。それまで楽しまなきゃ」
そう言うとアメリアはアクセルを吹かした。四輪駆動車は勢いよく対向車も無い田舎道を加速していく。
「ちょっと寒いわね。冷房弱める?」
アメリアの言葉に誠も笑顔で頷いた。
「じゃあ、とりあえず豊川市街に戻りましょう!すべてはそれからよ!」
アメリアの運転で車は私鉄の走る新興住宅街に向かう県道進んだ。赤信号で停止すると、親子連れが目の前を横切っていく。歩道には大声で雑談を続けるジャージ姿で自転車をこぐ中学生達が群れていた。
「はい、左はOK!」
そんなアメリアはそう言ってアクセルを踏んで右折した。
平日である。周りには田園風景。道の両側には大根とにんじんの葉っぱが一面に広がっていた。豊川駅に向かう県道を走るのは産業廃棄物を積んだ大型トラックばかりだった。
「それで、ゲーセンって……どこに行くんです?駐車場付きのところって、限られてますよね」
誠はそう言うと隣のアメリアを見つめた。
「ちょうどいいところがあるのよ。私に任せなさい!」
アメリアは調子よくそう言うと再び制限速度を超えて車を加速させた。
豊川駅が近づくと渋滞することも多くなり、助手席で前を見つめていた誠は不意に運転席のアメリアの表情が見たくなった。
紺色の長い髪が透き通るように白いアメリアの細い顔を飾っている。切れ長の眼とその上にある細く整えられた眉。彼女がかなりずぼらであることは誠も知っていたが、もって生まれた美しい姿の彼女に誠は心が動いた。人の手で創られた存在である彼女は、そのつくり手に美しいものとして作られたのかもしれない。そんなことを考えていたら、急に誠は心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。
「ああ、豊川駅南口のすずらん通りに大きいゲーセンあったわよね?」
アメリアがしばらく考え事をしていた結果がこれだった。それでこそアメリアだと思いながら誠は一人頷いた。パーラの四輪駆動車は緩やかに加速をしながら街の中心部に向かった。
「南口ってことはマルヨですか?」
「そう、マルヨの駐車場に停めてから行きましょう」
アメリアの言葉に誠は豊川市唯一の百貨店のマルヨの事を思い出した。
「まあ駐車場があるのはあそこくらいしかないか……コインパーキングはお金が取られるし」
窓から外を見れば周りには住宅が立ち並び、畑は姿を消していた。車も小型の乗用車が多いのは買い物に出かける主婦達の活動時間に入ったからなのだろう。
「かなめちゃん怒っているわよね。あの子ったら本当に嫉妬深くって……自分の下に見ているいつも便利に使える誠ちゃんが居ないと途端に不機嫌になるんだもの。自己中心的なのもあそこまで行くと困るわよ」
「確かに西園寺さんはそんな感じですね」
そう言いかけてアメリアは急に誠に向き直った。眉をひそめて切れ長の目をさらに細めて誠をにらみつけてくる。
「も?今、私達はデート中なの。他の女の話はしないでよね……って一度言ってみたかったの?有難う!誠ちゃん!」
自分で話を振っておきながらアメリアはそう言うと気が済んだというようににっこりと微笑む。その笑顔が珍しく作為を感じないものに見えて誠は素直に笑い返すことができた。
買い物に走る車達は中心部手前の郊外型の安売り店に吸い込まれていった。さらに駅に近づいていく誠達の車の周りを走るのはタクシーやバス、それに営業用の車と思われるものばかりになった。
そのままアメリアはハンドルを切ってマルヨの立体駐車場に車を入れる。
「結構空いてるわね」
アメリアがそうつぶやくのも当然で、いつもは一杯の一階の入り口近くの駐車スペースにも車はちらほらと停められているだけだった。
「今日は平日で時間が時間ですから」
誠がそう答えると、アメリアはそのまま空いている場所に車を頭から入れる。
「バックで入れた方がいいんじゃないですか?」
「いいのよ。めんどくさい。それにしても大きすぎる車も考えものね、駐車場、幅がギリギリ。ああ、後でパーラに文句言おう」
そう言いながらアメリアはシートベルトをはずして振り向く。
「でもここに来るの久しぶりじゃないの?」
「ああ、この前カウラさんと……」
そこまで言いかけて助手席から降りて車の天井越しに見つめてくる澄んだアメリアの鬼の表情に気づいて誠は言葉を飲み込んだ。
「ああ……じゃあ行きましょう!」
誠は苦し紛れにそう言うとマルヨの売り場に向かう通路を急いだ。アメリアは急に黙り込んで誠の後ろに続く。
「ねえ」
目の前の電化製品売り場に入るとアメリアが誠に声をかけた。恐る恐る誠は振り向いた。
「腕ぐらい組まないの?デートなんだし」
そんなアメリアの声にどこと無く甘えるような響きを聞いた誠だが、周りの店員達の視線が気になってただ呆然と立ち尽くしていた。
「もう!いいわよ!」
そう言うとアメリアは強引に誠の左手に絡み付いてきた。明らかにその様子に嫉妬を感じていると言うように店員が一斉に目をそらす。派手な服装ではないのに、人造人間らしく整いすぎた美貌は、地味な紺のコートすら目立たなくさせるほどの存在感を放っていた。
誠の左腕に絡みついたアメリアの手は、どこか冷たくて、だけど不思議と心地よかった。
『……アメリアさん、僕と同じくらいの背丈なのに、手は意外と小さいんだな』
誠はそんなことを思いながら、照れ隠しに前を向き直った。
その様子に気づいたアメリアは、ひと言も言わず、ただ少しだけ強く指を絡めた。
「ほら、行きましょうよ!」
そう言ってアメリアはエスカレーターへと誠を引っ張っていく。そのまま一階に降り、名の知れたクレープ店の前のテーブルを囲んで、つれてきた子供が走り回るのを放置して雑談に集中していた主婦達の攻撃的な視線を受けながら誠達はマルヨを後にした。
国道沿いのハンバーガーショップで、アメリアはため息まじりにつぶやいた。
「それに比べて私たちは……これって、本当に『デート』って言えるのかしら?まあ、私もお見合いデートでこんな店に行くと言ったら相手にドン引きされたけど」
出発からすでに三時間。行き先も決めず、千要県北部の国道をただ行ったり来たりしていた。
二人はようやく車を止め、沼のほとりに建つファーストフード店で昼食を取っていた。
「しかし、私達だとどうしてこういう食事しかひらめかないのかしら。食通のランちゃんなら結構名店とか紹介してくれたかもしれないのに……これは失敗したかも。もう少し計画を練ってから出かけるんだったわ」
そう言ってアメリアはポテトをつまむ。
日ごろから給料をほとんど趣味のために使っている二人が、おいしいおしゃれな店を知っているわけも無い。それ以前に食事に金をかけるという習慣そのものが二人には無かった。
「でもこの辺りには遊ぶ場所が何もないわね。まあ『ふさ』を管理してる艦船管理部の『釣り部』の連中なら喜ぶんじゃないの?印藤沼があるからブラックバス釣りのメッカとして有名じゃない?でも、私は釣りには興味ないから。と言っても東和で汚染率トップテンに入る沼で豊かな海産物に惹かれてあのへき地で生活している連中が釣りをしたがるとは思えないけど」
この付近の観光名所と言えば湿地帯が広がる印藤沼くらいしか誠にも思いつかない。そもそも乗り物に弱い上に友達のほとんどいない誠に観光名所など初めから無縁な存在だった。
「あの、それじゃあ何のためのデートか分からないじゃないですか。でも僕も思いつくところは有りませんよ。それに今日は木曜だから映画は明日から新作が始まる日ですからどうせろくなのやってないでしょうし」
アメリアの言葉に呆れて言葉を返す誠だが、その中の『デート』と言う言葉にアメリアはにやりと笑った。
「デートなんだ、これ。誠ちゃんの初デートに相手になれて光栄だわ」
そう言ってアメリアは目の前のハンバーガーを手に持った。誠は耳が熱くなるのを感じながらうつむく。
「じゃあこれはさっき誠ちゃんが払ったハンバーガーの代金は誠ちゃんのおごりと言うことでよろしく」
食事を終えたアメリアはそう言うと笑顔で立ち上がった。
「あの、いや……その……あの……今月は僕も結構ピンチなんで……あの……その……」
誠は自分の口にした言葉に戸惑った。給料日までまだ一週間あった。その間にいくつかプラモデルとフィギュアの発売日があり、何点か予約も済ませてあるので予想外の出費は避けたいところだった。
「冗談よ。今日は私のおごり。だって私、部長なんだから。誠ちゃんの給与明細くらい把握してるわ」
アメリアは時々見せる『伝説の流し目』を誠に向けた。
「普通の子なら『男なんだから払ってよ』って言うんでしょうけど……そうしないのが、私の優しさってことにしておいて」
アメリアは涼しげな笑みを浮かべるともたもたしていた誠が手にしたハンバーガーを奪って自分の口に運んだ。
「良いんですか?確か今月出る落語の動画を揃えるって言ってたじゃないですか。レーザーディスクって結構するんですよ。僕もよく美少女アニメのレーザーディスクを買いますけど」
趣味人のアメリアも自分の趣味に相当な額を投資している。アメリアのその事実を知っているので誠も遠慮してそう言った。
「誠ちゃん。そこはね、嘘でも『僕が払いますから!』とか言って見せるのが男の甲斐性でしょ?まあ、その甲斐性が無いから彼女いない歴年齢なんでしょうけどね」
明らかに揶揄われている。誠はアメリアにそう言われてへこんだ。
「……でも、そういうとこが、かわいいのよね」
さりげなく小さな声でアメリアはそうささやいた。
「なんですか?今、何か言いました?」
アメリアのささやき声が良く聞こえなかった誠はそう聞き返した。
「別に何でもないわよ。行くわよ。こんなところでいつまでも時間を潰していてもつまらないだけだわ」
アメリアはそう言っていつもの糸目をさらに細めて満面の笑顔で誠を車へと誘った。
とりあえず店を出て二人はパーラが貸してくれた四輪駆動車に乗り込んだ。広い車内で二人はぼんやりとフロントガラスを見つめていた。
「それにしてもこれからどうするの?汚染度東和一の沼のほとりを散策とかは興味ないわよ、私」
つい出てしまった本音をごまかすようにアメリアはまくし立てる。
「やっぱり映画とか……つまらなくてもとりあえずデートの定番と言えば映画なので」
誠はそう言うが、二人の趣味に合うような映画はこの秋には公開されないことくらいは分かっていた。
「そうだ、ゲーセン行きましょうよ、ゲーセン」
どうせ良い案が誠から引き出せないことを知っているアメリアは車のエンジンをかけた。
「ゲーセンですか……そう言えば最近UFOキャッチャーしかやっていないような気が……僕は得意ですけど。僕はクレーンだけならすぐにでも港湾労働者が勤まるって東和宇宙軍の訓練課程で教官から言われてたくらいですから」
誠はクレーンが得意だった。それは大型クレーンの話であって、友達のいない誠にはクレーンゲームの経験はほとんどなかったが、ゲームも似たようなものだろうと高をくくっていた。
「じゃあ決まりね」
そう言うとアメリアは車を急発進させ、そのままただ広いだけの田舎のファーストフード店の駐車場を後にする。
「さあ急ぐわよ!終業までにパーラにこの車を届けなきゃいけないんだもの。それまで楽しまなきゃ」
そう言うとアメリアはアクセルを吹かした。四輪駆動車は勢いよく対向車も無い田舎道を加速していく。
「ちょっと寒いわね。冷房弱める?」
アメリアの言葉に誠も笑顔で頷いた。
「じゃあ、とりあえず豊川市街に戻りましょう!すべてはそれからよ!」
アメリアの運転で車は私鉄の走る新興住宅街に向かう県道進んだ。赤信号で停止すると、親子連れが目の前を横切っていく。歩道には大声で雑談を続けるジャージ姿で自転車をこぐ中学生達が群れていた。
「はい、左はOK!」
そんなアメリアはそう言ってアクセルを踏んで右折した。
平日である。周りには田園風景。道の両側には大根とにんじんの葉っぱが一面に広がっていた。豊川駅に向かう県道を走るのは産業廃棄物を積んだ大型トラックばかりだった。
「それで、ゲーセンって……どこに行くんです?駐車場付きのところって、限られてますよね」
誠はそう言うと隣のアメリアを見つめた。
「ちょうどいいところがあるのよ。私に任せなさい!」
アメリアは調子よくそう言うと再び制限速度を超えて車を加速させた。
豊川駅が近づくと渋滞することも多くなり、助手席で前を見つめていた誠は不意に運転席のアメリアの表情が見たくなった。
紺色の長い髪が透き通るように白いアメリアの細い顔を飾っている。切れ長の眼とその上にある細く整えられた眉。彼女がかなりずぼらであることは誠も知っていたが、もって生まれた美しい姿の彼女に誠は心が動いた。人の手で創られた存在である彼女は、そのつくり手に美しいものとして作られたのかもしれない。そんなことを考えていたら、急に誠は心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。
「ああ、豊川駅南口のすずらん通りに大きいゲーセンあったわよね?」
アメリアがしばらく考え事をしていた結果がこれだった。それでこそアメリアだと思いながら誠は一人頷いた。パーラの四輪駆動車は緩やかに加速をしながら街の中心部に向かった。
「南口ってことはマルヨですか?」
「そう、マルヨの駐車場に停めてから行きましょう」
アメリアの言葉に誠は豊川市唯一の百貨店のマルヨの事を思い出した。
「まあ駐車場があるのはあそこくらいしかないか……コインパーキングはお金が取られるし」
窓から外を見れば周りには住宅が立ち並び、畑は姿を消していた。車も小型の乗用車が多いのは買い物に出かける主婦達の活動時間に入ったからなのだろう。
「かなめちゃん怒っているわよね。あの子ったら本当に嫉妬深くって……自分の下に見ているいつも便利に使える誠ちゃんが居ないと途端に不機嫌になるんだもの。自己中心的なのもあそこまで行くと困るわよ」
「確かに西園寺さんはそんな感じですね」
そう言いかけてアメリアは急に誠に向き直った。眉をひそめて切れ長の目をさらに細めて誠をにらみつけてくる。
「も?今、私達はデート中なの。他の女の話はしないでよね……って一度言ってみたかったの?有難う!誠ちゃん!」
自分で話を振っておきながらアメリアはそう言うと気が済んだというようににっこりと微笑む。その笑顔が珍しく作為を感じないものに見えて誠は素直に笑い返すことができた。
買い物に走る車達は中心部手前の郊外型の安売り店に吸い込まれていった。さらに駅に近づいていく誠達の車の周りを走るのはタクシーやバス、それに営業用の車と思われるものばかりになった。
そのままアメリアはハンドルを切ってマルヨの立体駐車場に車を入れる。
「結構空いてるわね」
アメリアがそうつぶやくのも当然で、いつもは一杯の一階の入り口近くの駐車スペースにも車はちらほらと停められているだけだった。
「今日は平日で時間が時間ですから」
誠がそう答えると、アメリアはそのまま空いている場所に車を頭から入れる。
「バックで入れた方がいいんじゃないですか?」
「いいのよ。めんどくさい。それにしても大きすぎる車も考えものね、駐車場、幅がギリギリ。ああ、後でパーラに文句言おう」
そう言いながらアメリアはシートベルトをはずして振り向く。
「でもここに来るの久しぶりじゃないの?」
「ああ、この前カウラさんと……」
そこまで言いかけて助手席から降りて車の天井越しに見つめてくる澄んだアメリアの鬼の表情に気づいて誠は言葉を飲み込んだ。
「ああ……じゃあ行きましょう!」
誠は苦し紛れにそう言うとマルヨの売り場に向かう通路を急いだ。アメリアは急に黙り込んで誠の後ろに続く。
「ねえ」
目の前の電化製品売り場に入るとアメリアが誠に声をかけた。恐る恐る誠は振り向いた。
「腕ぐらい組まないの?デートなんだし」
そんなアメリアの声にどこと無く甘えるような響きを聞いた誠だが、周りの店員達の視線が気になってただ呆然と立ち尽くしていた。
「もう!いいわよ!」
そう言うとアメリアは強引に誠の左手に絡み付いてきた。明らかにその様子に嫉妬を感じていると言うように店員が一斉に目をそらす。派手な服装ではないのに、人造人間らしく整いすぎた美貌は、地味な紺のコートすら目立たなくさせるほどの存在感を放っていた。
誠の左腕に絡みついたアメリアの手は、どこか冷たくて、だけど不思議と心地よかった。
『……アメリアさん、僕と同じくらいの背丈なのに、手は意外と小さいんだな』
誠はそんなことを思いながら、照れ隠しに前を向き直った。
その様子に気づいたアメリアは、ひと言も言わず、ただ少しだけ強く指を絡めた。
「ほら、行きましょうよ!」
そう言ってアメリアはエスカレーターへと誠を引っ張っていく。そのまま一階に降り、名の知れたクレープ店の前のテーブルを囲んで、つれてきた子供が走り回るのを放置して雑談に集中していた主婦達の攻撃的な視線を受けながら誠達はマルヨを後にした。
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