遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と誕生日

橋本 直

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第四章 『特殊な部隊』の歩哨

第11話 蜜柑とゲートと家族ごっこ

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 引き戸の隙間から白い息が滑り込み、ストーブの灯油の匂いがこたつの天板に溜まる。外ではゲートのモーターがうなるように低く回っていた。

「さて、今回私達がここに集まったのにはわけがあるのよ。じゃ、知恵出し会議。……甘やかし無しで行くわよ?こういうきっちりとした計画性こそ私達に一番必要なもの!そこのところをちゃんと理解して、身を引き締めて意見を出すようにしましょう!」 

 アメリアは誇らしげにそう言うとみかんを一個口の中に放り込んだ。

「何無駄に気合入れてるんだ?どうせクリスマスだろ?言わなくても分かる。それに私の誕生日か。どちらにしてもあまり騒がれても迷惑なだけだ。それに貴様の計画が予定通り終わった前例、あるか?自分のこれまでを反省するということが出来る大人ならそれくらいの事は自覚できても良いはずだと思うぞ」 

 仕切ろうとした出鼻をカウラにくじかれてアメリアは怯んだ。だが、再びみかんを口に放り込んでゆっくりと噛みながら皮を剥いている誠とカウラを眺めてしばらく熟考すると再び口を開いた。

「それだけじゃないわ。ランちゃんに聞いたけど……東都警察の皆さんは年末年始の間も臨戦態勢を希望しているらしいわ。同盟厚生局の一件で自分達が無能だって世間に知られて相当頭に来ているみたいなの。そこで今年はうちには年末警戒の応援要請はごく少数しかしないらしいわ。あの人達にも面子めんつってもんが有るんでしょうね」 

 得意げにそう言うアメリアの糸目がさらに細くなる。そういう時は大概自分がひどい目に遭うことを経験上分かっているので誠は背筋に寒いものが走った。そんな目の前でアメリアは向いたみかんの皮を器用に拡げて花形の模様を作っていた。こういう時に意味不明の行動をとるのがアメリアの特徴なので、後で絶対にその模様を誠に自慢するために話しかけてくることは予想がついたが、誠はそれを無視することに決め込んだ。

「そうなのか……今年は応援要請は無しか。あれは良い手当てになってくれていたのだが。3回分くらいのパチンコ代にはなった。まあ、東都警察は東都の役所の中でも一番プライドだけは高いからな。遼州一治安の良い国東和共和国。それが連中の唯一無二の売り文句だ。仕方あるまい」 

 明らかに投げやりにカウラは返事をした。実際こういう時のアメリアに下手に口答えをするとうざったいだけなのは誠も知っていて、あいまいに首を縦に振りながら彼女の言葉を聞き流していた。

「それに年末の県警の警備活動の応援は特別手当が付くということで技術部の面々が数少ない定員をめぐって争っている状態だしねえ。私達のイベントもルカ達が仕切るから私達は完全にフリーなのよ!いいよねえ、フリー!自由!何をしても良いんだもの!せっかくの暇をただ寝て過ごすなんて馬鹿のする事だわ!」 

 嬉しそうに笑うアメリアに誠はただ嫌な予感だけを感じてその糸目がさらに細くなる様を眺めていた。

「ああそうだな。うち等は暇になるみてえだな。ゆっくりしようや、年に一度の年末だし。別にアメリアに馬鹿扱いされても馬鹿扱いはアメリアという究極の馬鹿と馬鹿なことで有名な副隊長のランの姐御の鳥頭のおかげで慣れてる。寝るのも才能だ。そう言えばしばらく千要駅前で路上ライブしてなかったから、これまで作ったオリジナル曲を披露する機会が無かったんだ。丁度良い機会だ。神前、オメエが聞け」 

 上の空でそう言うとかなめがみかんの袋を口に入れた。確かに同盟厚生局の事件の間は忙しくてかなめの好きな昭和歌謡を思わせるフォークギターでの路上ライブは開かれていなかった。誠もかなめのどこか懐かしくて切ない歌を聴く機会が無かったことを思い出して、興味はそちらの方に向っていた。

「かなめちゃんの曲は聞き飽きたわよ。毎年嫌でも正月三が日に聞くあの『春の海』?あの正月の全バラエティー番組や新春特番で流れる曲は全部15歳の時にかなめちゃんが弾いた曲なんでしょ?それだけで十分じゃないの。東和中の国民がかなめちゃんの曲を聞かずにその年の新年を過ごすためにはテレビとラジオを捨てるしかない状況なんだからこれ以上何が必要なのよ。それよりカウラちゃん、聞いてよ。さっきから上の空の返事ばかりでまともに聞いてくれてるとは思えないわよ」 

「聞いてるって。ちゃんと聞いてる」 

 カウラはいかにも困ったような表情でアメリアを見つめた。

「あのーアメリアさん。西園寺さんの曲が放送局で流れてるってどういうことです?」

 何気なくアメリアが言った一言が気になって誠はそう尋ねた。アメリアはそれを聞くとうんざりした顔でかなめを見つめた。かなめはというと別に気にしないというようにみかんの皮をむく作業に集中している。

「東和共和国の正月番組の出だしに必ず琴の決まった曲が流れるでしょ?アレ。アレを弾いてるのが十五歳の時のかなめちゃん。去年の正月にそう言ってたわよね?忘れたとは言わせないわよ」

 アメリアは話題をみかんをむき終えてそれの白い筋を取る作業をしているかなめに向けた。

「ああ、そうだな。東和共和国は伝統文化に造詣が深い甲武国の和楽器を使った演奏には一目置いている。アタシはこう見えても弦楽器なら全部弾けるし、当然琴なんて西園寺家の家の芸の一つだ。親父の奴が15の時に甲武のレコーディングスタジオを借り切って取った演奏をなんだか知らねえけど東和の放送局が日本文化の国である甲武におもねって毎年流してるな……あんなの別にアタシが弾いたのを流さなくても良いのによう……東和と日本文化の本家の甲武に気を使って結果は妙なところでアタシに気を遣うんだ。ただその度に毎年アタシに小銭が入る。その金は叔父貴じゃねえがアタシが稼いだ家の権威とは無縁な金だ。良い酒が飲める酒代としては最適だな」

 かなめは筋を取り終えたみかんを口に運びながらそんなことを口にした。誠も正月番組で必ず流れる琴の曲は一曲しか知らないしその曲は毎年聞いていたのでその演奏者がどう見ても琴のような雅な楽器と縁遠いかなめだと知って唖然としていた。

 しかし、話題はそれだけでカウラもかなめもそれが当然のように驚く顔の誠を無視して話題を続けた。

「つまりあれだろ。アタシ等は年末年始が暇になるってこと。そうならそうと素直に言え。アタシ達を余計なことに巻き込むな。どうせ騒ぎたいのはテメエだけなんだからアメリア一人で騒いでろ」 

 かなめはアメリアの言葉を聞いていたようで、兵員を満載した警備部のトラックの為にゲートを開けながらそう叫んだ。

「なによ、かなめちゃん人を馬鹿みたいに言って。そこで私達がやるべきことが二つあるのよ」 

 高らかなアメリアの宣言にカウラは不思議そうな顔をする。

「二つ?クリスマスだけじゃないのか?もう一つはなんだ?どうせアメリアの考えることだからろくでもない事なんだろうがな」 

 カウラはアメリアの言葉がクリスマスの事しか言わないと思っていたので驚いたようにそう言った。

「馬鹿だなあカウラ。クリスマスと年末のコミケのイベントでのアメリアの荷物持ちがあるだろ?こいつの事だ、絶対アタシ等をこき使うつもりだぞ。アタシはあんなイベントは興味はねえ。まあ、神前が興味があるみたいだから神前になら付き合ってやる。ただ、その報酬として神前はアタシに童貞を差し出せ。それが正しい商取引というものだ」 

 みかんを一個食べ終えたかなめは次のみかんに手を伸ばしながらそう言った。

「ああそうか。私もアメリアの荷物持ちは沢山だ。神前が行きたいと言うのなら私も付き合おう。アメリアは別行動で頼む。貴様のボーナスの半分を使い切っての大量のいかがわしい買い物の結果生み出される大荷物は持ちたくない。それと西園寺がなんで神前の童貞を奪う権利をあれだけの行為で得ることができるんだ?だったら私にも当然の権利がある」 

 納得してカウラはみかんをまた一口食べた。だが、そこでアメリアはコタツから立ち上がった。アメリアのわがままに明らかに不機嫌そうなかなめとカウラの顔を見ると誠はこたつに入れない事よりも正座をしている膝の上に乗せた手が明らかに自分のいら立ちを表現しているように膝を叩いているのがノリノリのアメリアにバレないかと言うことだけが気になっていた。

「なんでアンタ等は誠ちゃんには付き合って私には手を貸さないのよ!あなた達も女性を少しはいたわりなさいよ!レディーファーストが世の中の流れよ!常識には従いなさいよ!それに問題はそんな事とはまったく違うわ!一番大事なこと!家族のぬくもりに恵まれない私、かなめちゃん、カウラちゃんの三人に必要なイベントがあるじゃないの!それは……家族ごっこをやるの!ツリー、ケーキ、プレゼント、写真。恋人がいない国の、恋人抜きのクリスマス。これが要点!」

 そう言うとアメリアは…高く右手を上げて天井を意味もなく指さすので誠はあきれ果てた。家族に全くいい思い出の無いかなめはあきれ果てたような目でアメリアを見つめている。

「かなめちゃんもそんな目で私を見ない!かなめちゃんには家族がいる?かえでちゃんを見ればわかるけどかなめちゃんの家族はどこか一般家庭のそれと違うのよ。かなめちゃんとかえでちゃんの姉妹関係はどう見てもかなめちゃんが従属を望む奴隷であるかえでちゃんを弄ぶのがメインじゃないの!まあ、かえでちゃんがそれを望んでいるのは事実だけど。そんな変態の家族関係なんかに私は興味が無いの!私がやりたいのはぬくもりのある温かい家庭でのクリスマス!鞭と蠟燭と縄で縛られて首輪をつけられて市中引き回されて喜ぶようなかえでちゃんご希望のクリスマスじゃないの!」

 アメリアはそこまで言うと満足げに一同を見回した。

「分かったかしら?」 

 その奇妙なまでに力みかえったアメリアの言葉に誠は明らかに嫌な予感を感じながらみかんを口に放り込んだ。

 そんなアメリアの雄たけび。誠の背筋を寒いものが走った。そしてその予感は的中した。

 アメリアの顔が作り笑顔に切り替わって誠に向かう。ゲートに一台の整備班の車が来ているのが目に入り、アメリアは誠にゲートを開けろと言いたいらしかった。

「僕がやるんですか?」 

 誠に同情するように一瞥してかなめはサイボーグの瞬発力を利用してこたつから飛び出すとそのあげた布団が落ちる前に指で軽くたたいて指先だけで操作を済ませた。カウラは係わり合いになるのを避けるように二つ目のみかんに取り掛かった。

「あのー皆さん?」

 突然背後から声をかけられてかなめは面倒くさそうに振り返った。

 そこにはトレーラーの後部の荷台から顔を出す島田の姿があった。

「ああ、島田君ね。誠ちゃんの05式の搬入作業頑張ってね。それにしても深夜に搬入なんて東和陸軍も面倒なことを言って来るのね……それじゃあ、かなめちゃんお願い」

 全くこたつを出る気のないアメリアは寒そうに手を擦り合わせる島田を見ながらやる気が無さそうにかなめに目をやった。

 かなめは剥きかけたみかんをこたつに置くと這い出してゲートのスイッチの方に四つん這いで進んだ。

「オメエ等も大変だな。島田は展示場で05式を立てるのか?なんなら神前を貸そうか?どうせこいつの機体だし」

 またもや無責任な発言をしながらかなめはゲートのスイッチを押した。そしてサイボーグらしく瞬時にゲートを開いてそのままコタツの布団が下りないうちに開いたコタツに滑り込んだ。

「ただ、トレーラーから降ろして展示位置まで歩かせるだけでしょ?そんなの俺にだってできますよ。西園寺さん、元パイロットを舐めないでくださいよ。機体を歩かせるくらい、寝不足でも踊れるぐらいだ。これまでの神前の機体の動作データ見ましたけどあれで本当にクバルカ中佐がこいつをパイロットと認めたんですか?あんなの普通にゲーセンでシュツルム・パンツァーのシミュレータで三回やればできるレベルだ。俺、あのゲームで東和ランカーに入ってるんで。サラもさすがは元パイロットと感心してたくらいですから」

 島田は得意げにそう言い放つと暖かそうなこたつに入っている後輩の誠の姿を見つけてにらみつけた。しかし、それも瞬時の事でこの三人の女上司、特にかなめとアメリアと深くかかわるとろくなことにならないと察している島田はトレーラーの予備タイヤに座ると、ついサイドウォールの刻印を読むふりをして警備室の面倒な女上司達から目を逸らした。

 誠はこの警備室に島田にとっては扱いづらい女上司三人をそろえていたという罪であとで島田の八つ当たりがあるだろうと覚悟をしながら身をすくめてそのまま俯くしかなかった。

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