遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と誕生日

橋本 直

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第六章 『特殊な部隊』と機密

第19話 極秘搬入:特戦三号計画

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「ああ、例の件だな。噂は前からあったしな。でも今のタイミングか……第二小隊の機体の納入が遅れるのもこいつが原因かもしれねえな……おそらくは『ビッグブラザー』の目をごまかすために叔父貴が第二小隊の機体の納入を遅らせてこちらの納入を急がせたんだ。まったく面倒な話だぜ……こんな使い物になるかどうかわかんねえものの為にアタシ等の代わりが務まる機体の納入が遅れる。本末転倒じゃねえか」

 かなめは頭を掻きながら輸送予定表のページに目をやり苦笑いを浮かべた。 

「確かに隊長の考えそうな事ね。それを装備して同盟の威信を見せ付けて結束を印象づける。タイミング的にはばっちりだと思うけど。それに東和の平和を第一に考える『ビッグブラザー』ならその戦力が東和の為になると考えればこの状況を黙って見逃すと思うわよ。その方が東和の一国平和主義の為には有益だもの」 

 かなめ、アメリアの緊張した面持ちと言葉に誠は興味をひかれた。誠はそのファイルの内容が想像もできず、ただぼんやりの三人の顔を眺めていた。

「ああ、それじゃあ裏取ってみるか……」 

 サイボーグであるかなめが端末のコードを首のスロットへ寄せる。誠の背中を冷たい汗がつっと伝った。

「なんなんですか?何が搬入されてくるんですか?ヤバい奴ですか?第二小隊の機体が来ないことと関係があることなんですか?それに『ビッグブラザー』が絡んでるんですか?また面倒は御免ですよ!僕は一度『ビッグブラザー』に殺されかけているんですから!」 

 話題に置いて行かれた誠の言葉にかなめは手を止めて呆れたような表情を作った。カウラは額に手を当てて部下の態度に呆れていた。アメリアもまた呆然として誠をじっくりと眺めていた。

「あのさあ、神前。一応聞いとくけど、叔父貴の愛機と言えばなんだ?テメエ知ってるか?」 

 手を休めたかなめの一言。誠は何か考えがあるかなめを意識しながら考えてみた。

「あの人パイロットなんですか?知りませんでした。愛機なんて有るんですか……確かに遼南内戦で活躍したって話は聞いてるんですが、あの人の事だから暗殺とかそう言うことをしてたのかと思っていました」 

 その言葉にカウラは大きなため息をついた。明らかに自分を非難していることがわかるその態度にさすがの誠も頭に来るところがあった。

「お前がうちに居つかなければ05式乙型は隊長が乗るはずだったんだ。まあ『光のつるぎ』は出せないがそれなりの法術は使える。それにあの頃はまだ『ビッグブラザーの加護』があったからな。最初から近藤の旦那には初めから勝ち目はなかったんだ。いくら近藤の旦那がアタシ等を攻撃しても『ビッグブラザーの加護』で全機自爆して終了。あのおっさんもタイミングが悪いと言うかなんと言うか……」

 ため息交じりにかなめはそう漏らした。

「なんですか?新型でも出来るんですか?隊長は現在東和陸軍の07式の支援の目的で開発中の09式を『いいとこどりをしようとした結果生み出された中途半端な機体』ってぼろくそにけなしてたじゃないですか!能力のすべてを機動力に全振りした07式の配備がこの前の同盟厚生局の事件で僕の05式に一方的にボコボコにされにされたのが原因で中止されて、次期主力シュツルム・パンツァーの研究もほとんどの国で中止している時期にですよ?一体何が来るって言うんですか?それで僕達の出動の機会が減るんですか?仕事が楽になるんですか?」

 誠は驚きの声をあげるが女性陣は『そんなことは最初から知っている』と言う顔でまるで反応しない。誠はムキになって軍に入ってランに嫌と言うほど植え付けられた知識を総動員して話を続けた。

「機動性重視ならコスト面から考えてどこの国だってシュツルム・パンツァーなんてコストの高い兵器を作らずに飛行戦車の数を揃えて戦争した方がマシだって馬鹿でも分かりますよ。そんな時期に隊長の愛機が運ばれてくるって……しかもそれがアメリアさんが言うにはタイミングが良いって理解できないですよ!」 

 誠はシュツルム・パンツァー戦において05式の相手が務まらず、即日納入停止が決定した07式特戦のことを思い出してそう言った。

 07式は機動性を買われて東和陸軍制式に採用されたわけだが、シュツルム・パンツァー運用の本質が個別戦闘。いわゆる『タイマン勝負』にあると言うことが明白になった今、シュツルム・パンツァー開発は大きな転機を迎えていた。

 07式と05式のいいとこどりを狙った09式だったが、どうしても正式採用された07式の影響を受けて機動性に重点を置かれた設計がなされており、個別戦闘で05式に対応することは不可能であると言うことで、試作機2機が製造されたのみで開発計画は中断しているところだった。

「だからよ。だからこれを出動待機状態に持ち込むのは効果的なのよ。いまだ個別戦闘で05式に勝てる量産ベースに乗れるほどのコストパフォーマンスの高い新型の機体を開発した国はどこもないわ。今のうちに司法局実働部隊にこれまで完全にコストというものを考えずに強さだけを追求した結果生まれた現存する最強のシュツルム・パンツァーを二機も揃えてしまえば同盟機構に逆らおうと考える国は出てこなくなる。同盟機構上層部もそう考えたのね」 

 そう言ってアメリアは端末を操作する。注視していた誠の前に見覚えのない人型兵器のシルエットが浮かび上がった。

「なんです?その機体ですか」 

 その印象的な外観には誠も見覚えがなかった。

 画面に浮かんだのは、平安武者の鍬形を思わせる額装。肩には多重展開式の小盾ユニットが数珠つなぎにぶら下がり、関節カバーは黒漆の鎧板のように重なっている。な骨なのに、どこか舞台装束的な気取りがあった。 
 
「これがついに導入されるのか……封印されたオリジナル・シュツルム・パンツァー……『武悪ぶあく』」 

 誠が唾を飲むのをカウラは緊張した面持ちで見つめていた。

「『特戦三号計画試作戦機24号』……コードネーム『武悪』ってのは狂言の下剋上の化身みてえな役どころだ。主君でも笑って食ってやる類い。叔父貴らしい皮肉だろ」

 かなめは薄笑いを浮かべ、指で鍬形の角度をまねた。

「『ブアク』?なんでそんな変な名前を付けたんですか?それにその趣味的なデザイン。どう考えても戦闘を第一に考えて作ったとは思えない格好に見えますよ」

 誠はすっとぼけた調子でそうつぶやいた。

「この機体の正式名称は『特戦三号計画試作戦機24号』と言うものでね、先の大戦で法術の可能性に気づいた甲武陸軍兵器工廠。列強。特に甲武は遼帝国との同盟締結以降、遼帝国が『祖国同盟』締結以前にゲルパルト第四帝国と衝突したアステロイドベルトの紛争で威力を発揮した先遼州文明の決戦兵器『シュツルム・パンツァー』の開発に着手したのよ」

 そう言うアメリアの顔はいつにもない『運航部部長』と言う風格があるように誠には見えた。

「だけど、遼帝国の武帝の肝いりでここ東和で開発した『方天画戟』……まあランちゃんが前乗ってた機体なんだけど、開発コストがシュツルム・パンツァーの量産配備を目指す軍部と政府が対立しちゃうくらいのハイエンド機体なのよ。誠ちゃんが指摘したように『兵器は数をそろえてなんぼ』。それが軍の常識……まあ、それをひっくり返しちゃうくらい強いチートの『方天画戟』とチートの法術師パイロットのランちゃんが乗るなんてことはどこの軍のお偉いさんも考えていなかったみたいだけど。そもそも一個艦隊を数分で全滅させられる組み合わせが存在すること自体が異常だもの」

 アメリアはそう言って苦笑いを浮かべた。

「まあ甲武の軍は『サムライ』だからな。『方天画戟』なんていう化け物みたいにコストのかかる機体なんて用意もできないし、そんなものを作る技術も甲武にはねえ。当然、ランの姐御に対抗できる法術師は……居たわ……お袋が。でもアイツは軍人じゃねえからな。だからとりあえず格闘戦が出来て地球圏が得意とする機関砲やミサイルを装備した大気圏内戦闘機や宇宙戦闘機を格闘戦で撃破するために人型にこだわって人型兵器である『九七きゅうなな式』を圧倒的ローコストで開発して装備することになったんだな、これが」

 かなめもまた呆れたような調子でそうつぶやいた。

「だが甲武陸海軍はコスト的な問題により『方天画戟』並みの戦闘能力を諦めて『九七式』を投入したわけだが、技術部門は『方天画戟』の圧倒的な戦闘能力を理解した上で法術師専用の本当の意味でのシュツルム・パンツァー開発自体を諦めることはなかったんだ。『特戦三号計画』と名づけられた新規シュツルム・パンツァー開発計画だが、これは戦争の拡大で予算を削られながらも終戦までその開発計画は継続された。結果開発されたのがこの『武悪』」

 カウラはタブレットに映し出される人型兵器を見つめながらそう言った。

「プラットフォームとしては開発中止された『九七式』の後継機候補の一つの『四式試戦』のフレームを使用して干渉空間展開領域利用式新式反応炉搭載による圧倒的な出力による機動性……確かに05式を愛機とする人間としては羨ましい限りだな」

 そう言いながらカウラは自分の05式の最大の欠陥である機動性の欠如を思い苦笑いを浮かべていた。

「さらに専用アクチュエーターの開発により実現可能な格闘戦能力を実現したということだ。小脳反応式誘導型空間把握式照準システムなんかもあるから機体のパイロットへの追随性もピカイチだったのよ。まあ、格闘戦に特化しすぎたこととあまりに短い航続距離が甲武軍上層部にはお気に召さなかったみたいだけどね」

 カウラは苦笑いを浮かべながらその20年前の大戦の傑作シュツルム・パンツァーで大戦末期には『死の棺桶』と評された機体の後継機をそう評した。

「『四式試戦』にはどれも先の大戦時の使用したシュツルム・パンツァーとは一線を画す画期的なシステムを導入する予定だったけど、物資の不足、技術の未熟、何よりも対応可能な法術師のパイロットがいなかったところから終戦と同時にその資料は闇ルートに売却され、結局表に出ることはなかったのよねえ……ああ、この機体は遼帝国で試験運用が行われて隊長も乗ったことがあるみたいだから聞いてみれば?詳しい機体の乗った感想とかを教えてくれるかもよ」

 アメリアの言葉で誠もその『武悪』と言う機体が相当な高性能高品質な機体だと分かった。

「隊長は終戦の三年後、アメリカ軍の法術師実験施設から逃走して甲武、東和を経て遼南北部の軍閥、北兼閥に身を投じたのよ。その時には隊長は独自ルートで『特戦三号計画』の資料を入手して自らの専用機として甲武国の自分の所領の泉州コロニーで開発を続けさせていたわけ。まあ、あの人もさっき言った『四式試戦』で遼南内戦を戦ったんだから、その戦闘データも法術師の戦闘データと言う貴重なデータとして甲武軍に提供されたわけ……あの人本当に食えないわね」

 呆れたようにそう言う誠はアメリアの笑顔を見ながらただうなずくだけだった。

「結果、『特戦三号計画』も試作機の24号機において要望されるスペックを持つ機体の開発に成功したというらしいわ。開発スタッフは隊長のお気に入りの能、狂言のキャラクターからこの呼称を『武悪』と命名したの。遼南内戦で隊長が愛機としていた『四式試戦』がベースだから、その時には何度かランちゃんの『方天画戟』とやりあってるけど、その時の『四式試戦』は法術増幅システムなんか積んでない普通の機体だから。まあ、法術師対応に大改良がなされた『武悪』とランちゃんの『方天画戟』とどっちが強いかって言うと直接戦ってないから何とも言えないけど」

 アメリアの言葉で誠は久しぶりに小遣い3万円の『駄目人間』である嵯峨が甲武国では貴族であることを思い出した。そして、嵯峨が遼南内戦で各地を転戦していたと語っていたことも誠は知っていた。

「隊長……パイロットだったんだ……しかも専用機を持つような『エース』だったんだ……」

 誠は少しばかりあの駄目人間の意外な一面を知って驚きの表情を浮かべた。

「まあ記録に残ってないから誠ちゃんが知らないのも当然だけど……諜報関係に働きかけて当時の記録を抹消するなんて隊長の十八番ですものね。実際、『武悪』のベースとなった『四式試戦』を撮影した動画はほとんど残っていないわ。フリーのジャーナリストが従軍記者として当時は副座式だった試験運用中の『四式試戦』に乗って戦闘している様子が残っているのが数少ない『四式試戦』が動いている動画ね。それも軍部の上層部が独占しているから司法局の部長職に過ぎない私でも見ることは出来ないのよ」

 続けざまにアメリアに言われて誠は混乱しながら話を聞いていた。

 高コストで高性能な機体の搬入作業の計画があるなどと言うことはそれなりのタイミングを計るだろうと誠も思っていたが、言われれば今がそう言う時期だということを思い出した。東和陸軍の暴走が白日の下に晒されて東和軍への国民の不信が表面化した今のタイミング。確かに司法執行機関であり、遼州星系の統一の象徴である司法局への強力な兵器の導入は今しかないとも思えた。

「誠ちゃん。これだけじゃないのよ」 

 アメリアはそう言うと端末の画面を切り替える。

「確かランちゃんの『方天画戟』も豊川の工場でオーバーホール中だったわよね……隣の……遼南内戦で大破した状態のまま『研究資料』の名目で隣の工場に運ばれてからずっと修復作業を続けてたらしいんだけど、ようやく完成したみたいよ」 

 アメリアはそう言うと菱川重工豊川工場の敷地の方に目を向いた。

「まあな。ランの姐御の05式先行試作型は東和軍からの借り物だからな。あの人の専用機も必要なんだろ?アメリア。そんな能書きはどうでもいいんだ。強いのか弱いのか。ケンカで勝てるかどうかがすべてだ。それが戦争……違うか?」
 
 かなめは結論だけを抜くと、みかんの皮を螺旋一枚で剥き切る。興奮は、もう指先の遊びに流れていた。 

 誠が周りを見渡すとカウラも興味なさそうに誠の顔を眺めていた。おそらくは二人ともその情報を知っていたのだろうと思うと少しばかり誠はがっかりした。

「まあ『方天画戟』の方は先月遼帝国の内戦博物館から新港にコンテナに乗せて運ばれてたって話だから。後はタイミングの問題だったんじゃないの?この隊に運び込むのは」 

 アメリアもつまらなそうにファイルをかなめから受け取るとそのまま棚に返した。

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