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第十四章 『特殊な部隊』とプレゼント
第39話 メロン色のヒント
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「おい、アメリア」
「なあに?かなめちゃん?」
さすがに今の状態で誠はアメリアを弁護することはできなかった。彼女はすでに両手に袋を下げていた。そして中身はどうやら自分でなくカウラにプレゼントする目的で買ったらしいということも分かっていた。それにしてはその中身はあまりにアメリアの『趣味』に染まりすぎていてカウラが喜んで受け取るものでないことは彼女いない歴=年齢の誠でも十分想像がつくものだった。
右の袋の中には服が入っていた。アメリアはそれを選ぶときもカウラのサイズを事前に調べておいたらしく、徹底的に注文をつけた。生地にもこだわり、デザインも店員を泣かせるようなこだわりを見せた。それが普通の服なら完璧だった。サイズも生地も、店員が泣くほど詰めた。……ただし、中身がメイド服でなければ。さすがのカウラもメイド服がどういう種類のものでそれで寒さをしのいで街を出歩くことがどれほど異常なことなのかを理解しているに違いないと思った。
『自分でもらったらうれしいものをプレゼントする。これが大事なのよ♪』
誠の実家を出ていつになく張り切っているアメリアの言葉に、かなめも同意してうなずかなければならなかったが、ここに来てもうかなめは口を開くのをやめた。そもそもアメリア自身がメイド服を着て街を歩く気なのかと誠は訪ねてみたいような気分になっていた。ただし、全裸で街を歩くことを喜んでするかえでと言う変態が存在する以上、アメリアがメイド服を着て喜んで歩き回ることも十分あり得るだけに油断できない。フィギュアの箱のビニールが指に鳴く。印刷の緑髪は、どうしてもカウラの髪を思い出させた。
そしてそのままアメリアは呆れる誠とカウラを引き連れておもちゃ屋に直行した。この時点で誠にはアメリアの最初に放った言葉の意味がだんだん分からなくなってきていた。フィギュアを真剣な目で吟味してその中でも最近人気のファンタジーノベルのヒロインのそれを舐め回すように見た後、店員を呼んでプレゼント用に包んでもらった。もはやここまで行くとアメリアに対するカウラへの嫌がらせである。もし、カウラがその受け取りを拒否したら自分のコレクションに加える気満々と言うところが分かるだけにアメリアのそれはさらに悪質と言えた。
「誠ちゃんはどうして買わないの?好きでしょ?こういうの」
店を出るアメリアに誠は言葉が無かった。アメリアのプレゼントはただの嫌がらせである。いわゆる本人は善意のつもりで誠に一日20キロのランニングと3時間の筋トレを課して『オメーの為だ!』と大笑いしているランのパワハラと同じレベルのハラスメント以外の何物でもない。
「オメエなあ、あいつの趣味くらい分かれよ。伊達に二年も付き合いがあるわけじゃねえだろ?メイド服なんぞ自分の誕生日に自分の分として買え、そんなもの」
まったく今の心境としては誠はこのかなめの言葉に全面的に賛成するしかなかった。だが、誠は自分の方をアメリアがじっと見つめていることに気づいて動揺した。
「うるさいのは無視して……じゃあ、聞くけど。誠ちゃんは何を買うの?さっきから何も買ってないじゃない。好きでしょ?メイド服。あのお店チャイナドレスもビキニアーマーも置いてあったわよ……なんで買わなかったの?それとフィギュアのお店もまったくただ突っ立ってるだけで商品を見る客としての態度がまるで見られなかった……悲しいわ!オタクのお姉さんとして!」
泣き真似をして誠をにらみつけるアメリアを見て誠はただ頭を掻いていた。
「あのーアメリアさん。今の言葉、本気で言ってます?誕生日プレゼントにビキニアーマーを贈る馬鹿になったつもりは僕には無いですし、カウラさんにフィギュアやアニメグッズを送ったらその場でゴミ箱行きなのはアメリアさんよりはるかにカウラさんとの付き合いが短い僕にでも分かるんで」
誠のふてくされたような反論にアメリアは頬を膨らませて少女のように拗ねてみせる。これがランがやるのなら絵になるだろうが30歳の女子がやるにはあまりに幼い行動に誠には見えた。
「酷いんだ!それよりそれだけ私の悪口を言うんだったら当然買うものは決めてるんでしょうね!つまらないものだったらお姉さん許さないわよ!」
そんな一言に誠は正直虚を突かれた。カウラと言えば仕事が第一である。次がサークル活動の野球も趣味の一つと言えた。そして車には結構こだわるし、愛車の『スカイラインGTR』には休みとなれば早起きして丁寧にワックスがけをするきめ細かな気遣いもあった。さらにいつもの彼女の姿からは想像もできないパチンコと言うほとんど依存症の趣味がある。
まず仕事に役に立ちそうなものが思いつかなかった。万年筆などはありきたりと言う以前にカウラはあまり無用のものを持ち歩かない主義だ。そうなると文房具の類は没となる。グローブやスパイクなどの野球用品だが先週、誠と新しいグローブとスパイクを買いに行った以上、ただ邪魔になるだけとすぐに分かった。
車はとても手が出ない。それにワックスやエンジンオイルを誕生日にプレゼントするなどと言う話は聞いたことが無かった。車につけそうなアクセサリーなどカウラが喜ばないことは何度と無くサラが怪しげなお守りを土産に渡すもののすぐにゴミ箱に捨てるカウラの日頃の行動からも理解できた。
同じくカウラ唯一の趣味らしい趣味のパチンコなど、新台を自腹で購入している彼女にいまさら何を渡せばいいのか誠には分からなかった。
誠にはカウラに何をプレゼントすればいいのかさっぱり分からなかった。
「なんだよ、オメエ等に任せても何の役にも立たねえんだな。仕方ねえなあ。アタシが見本を見せてやるからついて来い!プレゼントの買い方の見本と言うものをオメエ等に教えてやる!」
そう力強く言うとかなめはいかにも自信があるというように目の前にある巨大な百貨店のビルへと歩き始めた。慣れた足取り、悠々と肩で風を切って歩く自信。確かに誠はかなめに期待をかけた。だが一点、周りの人々が奇異の目でかなめを見ていたのには理由があった。
寒空の中いつもの黒のタンクトップにジーンズ。彼女が極地での奇襲作戦にも対応可能な零下20℃の環境下でも戦闘行動に耐える軍用義体の持ち主であることを知らない通行人にはその姿は罰ゲームか何かのようにしか見えなかった。
「かなめちゃん。コート!いくらサイボーグで寒さを感じないからって、周りにいる私達が恥ずかしいじゃないの」
アメリアはそう言ってかなめの手に握られている先ほどおもちゃ屋の前で邪魔だと言って脱いだコートを指差した。それを見て気がついたかなめはバツが悪そうに誠を見るとすばやくそれを羽織った。
暖かそうなコートを羽織って本来のお姫様的な物腰を取り戻したかなめは、そのままデパートの回転扉を開いた。回転扉をくぐると暖気と香水の層、床はワックスで薄く滑る。誠もアメリアも高級感のある店内に少しばかり居心地の悪さを感じながら左右を見回した。アメリアはその中で奮発して買ったときに誠に見せに来た化粧品のブランドを見つけて、そちらの方に足を向けようとするが、かなめはまるで反対のほうに足を向けた。
そこは宝飾品売り場だった。しかもどれも地球ブランドの高級品ばかりが展示されているのがわかった。アメリアは値段を見て指折りで計算する。誠はまるで場違いで頭を掻きながらかなめの後に続いた。
「あの……お客様?」
誠と同い年くらいの多少派手に見える化粧の店員が、参考出品のティアラを眺めているかなめに声をかけるが、まったくそのタレ目は冷酷に値踏みするような表情を浮かべるだけだった。ガラスの上に白手袋がガラスを滑り、ライトがカット面で粒の雨になる。
「駄目だな。こんな安物じゃアタシの目は誤魔化せねえ」
そう言い残してかなめは立ち去ろうとした。その気まぐれな動きに店員も誠達も呆れていた。
「おい、どうした!行くぞ」
ティアラを見つけたときとまるで別人のようないつもの兵士の姿のかなめがそこにいた。
「どうしたのよ。もしかしてあんな高いの買おうとしたの?ティアラなんてそんな……」
心配そうに声をかけるアメリアにいつもの挑発するようなかなめのタレ目の視線が飛んだ。
「甲武一の貴族であるアタシの上官をやってるんだ。どんな事情でお高く留まった連中の誘いを受けるかもしれねえだろ?その時の準備として恩を売っとこうと思っただけだが……あれじゃあねえ……アタシが夏の合宿の時に着けていたティアラの百分の一の値段だ。バーゲンセールに来たのかと驚いたぜ。使ってる石も一目で合成だってわかる代物……ここの店長の目は節穴だな。しかも合成石であのデザインであの値段?詐欺だな」
そう言ってかなめはデパートを出てしまった。
「あんなちんけなもんを飾っとくとは……東都の下町はしょせん庶民の街だ。今度、東都・銀座に行くからそん時に買おう」
誠はアメリアと顔を見あわせた。そんな誠の肩をかなめが叩いた。
「おい、神前。オメエはどうすんだ?あんなちんけな店でもオメエの給料にぴったりの安物を扱ってるぞ。指輪でも買うか?それとも……合成石の指輪ならオメエの貯金でもなんとかなる。決めちまえよ」
そう言ってかなめはにんまりと笑った。この界隈の最高級の万年筆を買ったとしてもインパクトでかなめにかなうわけが無かった。
「おい!もうすぐ昼だぞ。薫さんとカウラと東都金町駅前で待ち合わせじゃなかったか?」
そう言ってかなめは一人先に歩き出した。アメリアはそれを見ると誠の耳に口を寄せた。
「あの子、自分の買うものの値段のインパクトで誠ちゃんのプレゼントの印象を潰すつもりよ。贈り物のインパクトで押したって駄目!何かお金ではどうにかできない印象に残るようなアイディアを考えなきゃ」
アメリアの珍しく正確な助言に誠は頷くがいい考えが思いつかなかった。
「おい!早くしろよ!」
かなめは完全に仕切る気満々だった。だが誠はこのままかなめのペースに飲まれるのはまずいと思っていた。アメリアもかなめに仕切られるのは気分が悪いと言うのが明らかにわかる表情を浮かべていた。
「何急いでんのよ!まだ30分以上あるじゃないの!」
せっかちなかなめにアメリアは怒鳴り返した。彼女の持っていたおもちゃ屋の袋の萌え系美少女の絵が動いて見えた。緑色の長髪。仮想アイドルグループのマスコットの少女の人形である。そしてそのエメラルドグリーンのキャラクターの髪の色は必然的にカウラの髪の色を思い起こさせるものだった。緑色の長髪。……メロンソーダみたいな色。誠の脳裏に、カウラの髪が重なった。
「なあに?かなめちゃん?」
さすがに今の状態で誠はアメリアを弁護することはできなかった。彼女はすでに両手に袋を下げていた。そして中身はどうやら自分でなくカウラにプレゼントする目的で買ったらしいということも分かっていた。それにしてはその中身はあまりにアメリアの『趣味』に染まりすぎていてカウラが喜んで受け取るものでないことは彼女いない歴=年齢の誠でも十分想像がつくものだった。
右の袋の中には服が入っていた。アメリアはそれを選ぶときもカウラのサイズを事前に調べておいたらしく、徹底的に注文をつけた。生地にもこだわり、デザインも店員を泣かせるようなこだわりを見せた。それが普通の服なら完璧だった。サイズも生地も、店員が泣くほど詰めた。……ただし、中身がメイド服でなければ。さすがのカウラもメイド服がどういう種類のものでそれで寒さをしのいで街を出歩くことがどれほど異常なことなのかを理解しているに違いないと思った。
『自分でもらったらうれしいものをプレゼントする。これが大事なのよ♪』
誠の実家を出ていつになく張り切っているアメリアの言葉に、かなめも同意してうなずかなければならなかったが、ここに来てもうかなめは口を開くのをやめた。そもそもアメリア自身がメイド服を着て街を歩く気なのかと誠は訪ねてみたいような気分になっていた。ただし、全裸で街を歩くことを喜んでするかえでと言う変態が存在する以上、アメリアがメイド服を着て喜んで歩き回ることも十分あり得るだけに油断できない。フィギュアの箱のビニールが指に鳴く。印刷の緑髪は、どうしてもカウラの髪を思い出させた。
そしてそのままアメリアは呆れる誠とカウラを引き連れておもちゃ屋に直行した。この時点で誠にはアメリアの最初に放った言葉の意味がだんだん分からなくなってきていた。フィギュアを真剣な目で吟味してその中でも最近人気のファンタジーノベルのヒロインのそれを舐め回すように見た後、店員を呼んでプレゼント用に包んでもらった。もはやここまで行くとアメリアに対するカウラへの嫌がらせである。もし、カウラがその受け取りを拒否したら自分のコレクションに加える気満々と言うところが分かるだけにアメリアのそれはさらに悪質と言えた。
「誠ちゃんはどうして買わないの?好きでしょ?こういうの」
店を出るアメリアに誠は言葉が無かった。アメリアのプレゼントはただの嫌がらせである。いわゆる本人は善意のつもりで誠に一日20キロのランニングと3時間の筋トレを課して『オメーの為だ!』と大笑いしているランのパワハラと同じレベルのハラスメント以外の何物でもない。
「オメエなあ、あいつの趣味くらい分かれよ。伊達に二年も付き合いがあるわけじゃねえだろ?メイド服なんぞ自分の誕生日に自分の分として買え、そんなもの」
まったく今の心境としては誠はこのかなめの言葉に全面的に賛成するしかなかった。だが、誠は自分の方をアメリアがじっと見つめていることに気づいて動揺した。
「うるさいのは無視して……じゃあ、聞くけど。誠ちゃんは何を買うの?さっきから何も買ってないじゃない。好きでしょ?メイド服。あのお店チャイナドレスもビキニアーマーも置いてあったわよ……なんで買わなかったの?それとフィギュアのお店もまったくただ突っ立ってるだけで商品を見る客としての態度がまるで見られなかった……悲しいわ!オタクのお姉さんとして!」
泣き真似をして誠をにらみつけるアメリアを見て誠はただ頭を掻いていた。
「あのーアメリアさん。今の言葉、本気で言ってます?誕生日プレゼントにビキニアーマーを贈る馬鹿になったつもりは僕には無いですし、カウラさんにフィギュアやアニメグッズを送ったらその場でゴミ箱行きなのはアメリアさんよりはるかにカウラさんとの付き合いが短い僕にでも分かるんで」
誠のふてくされたような反論にアメリアは頬を膨らませて少女のように拗ねてみせる。これがランがやるのなら絵になるだろうが30歳の女子がやるにはあまりに幼い行動に誠には見えた。
「酷いんだ!それよりそれだけ私の悪口を言うんだったら当然買うものは決めてるんでしょうね!つまらないものだったらお姉さん許さないわよ!」
そんな一言に誠は正直虚を突かれた。カウラと言えば仕事が第一である。次がサークル活動の野球も趣味の一つと言えた。そして車には結構こだわるし、愛車の『スカイラインGTR』には休みとなれば早起きして丁寧にワックスがけをするきめ細かな気遣いもあった。さらにいつもの彼女の姿からは想像もできないパチンコと言うほとんど依存症の趣味がある。
まず仕事に役に立ちそうなものが思いつかなかった。万年筆などはありきたりと言う以前にカウラはあまり無用のものを持ち歩かない主義だ。そうなると文房具の類は没となる。グローブやスパイクなどの野球用品だが先週、誠と新しいグローブとスパイクを買いに行った以上、ただ邪魔になるだけとすぐに分かった。
車はとても手が出ない。それにワックスやエンジンオイルを誕生日にプレゼントするなどと言う話は聞いたことが無かった。車につけそうなアクセサリーなどカウラが喜ばないことは何度と無くサラが怪しげなお守りを土産に渡すもののすぐにゴミ箱に捨てるカウラの日頃の行動からも理解できた。
同じくカウラ唯一の趣味らしい趣味のパチンコなど、新台を自腹で購入している彼女にいまさら何を渡せばいいのか誠には分からなかった。
誠にはカウラに何をプレゼントすればいいのかさっぱり分からなかった。
「なんだよ、オメエ等に任せても何の役にも立たねえんだな。仕方ねえなあ。アタシが見本を見せてやるからついて来い!プレゼントの買い方の見本と言うものをオメエ等に教えてやる!」
そう力強く言うとかなめはいかにも自信があるというように目の前にある巨大な百貨店のビルへと歩き始めた。慣れた足取り、悠々と肩で風を切って歩く自信。確かに誠はかなめに期待をかけた。だが一点、周りの人々が奇異の目でかなめを見ていたのには理由があった。
寒空の中いつもの黒のタンクトップにジーンズ。彼女が極地での奇襲作戦にも対応可能な零下20℃の環境下でも戦闘行動に耐える軍用義体の持ち主であることを知らない通行人にはその姿は罰ゲームか何かのようにしか見えなかった。
「かなめちゃん。コート!いくらサイボーグで寒さを感じないからって、周りにいる私達が恥ずかしいじゃないの」
アメリアはそう言ってかなめの手に握られている先ほどおもちゃ屋の前で邪魔だと言って脱いだコートを指差した。それを見て気がついたかなめはバツが悪そうに誠を見るとすばやくそれを羽織った。
暖かそうなコートを羽織って本来のお姫様的な物腰を取り戻したかなめは、そのままデパートの回転扉を開いた。回転扉をくぐると暖気と香水の層、床はワックスで薄く滑る。誠もアメリアも高級感のある店内に少しばかり居心地の悪さを感じながら左右を見回した。アメリアはその中で奮発して買ったときに誠に見せに来た化粧品のブランドを見つけて、そちらの方に足を向けようとするが、かなめはまるで反対のほうに足を向けた。
そこは宝飾品売り場だった。しかもどれも地球ブランドの高級品ばかりが展示されているのがわかった。アメリアは値段を見て指折りで計算する。誠はまるで場違いで頭を掻きながらかなめの後に続いた。
「あの……お客様?」
誠と同い年くらいの多少派手に見える化粧の店員が、参考出品のティアラを眺めているかなめに声をかけるが、まったくそのタレ目は冷酷に値踏みするような表情を浮かべるだけだった。ガラスの上に白手袋がガラスを滑り、ライトがカット面で粒の雨になる。
「駄目だな。こんな安物じゃアタシの目は誤魔化せねえ」
そう言い残してかなめは立ち去ろうとした。その気まぐれな動きに店員も誠達も呆れていた。
「おい、どうした!行くぞ」
ティアラを見つけたときとまるで別人のようないつもの兵士の姿のかなめがそこにいた。
「どうしたのよ。もしかしてあんな高いの買おうとしたの?ティアラなんてそんな……」
心配そうに声をかけるアメリアにいつもの挑発するようなかなめのタレ目の視線が飛んだ。
「甲武一の貴族であるアタシの上官をやってるんだ。どんな事情でお高く留まった連中の誘いを受けるかもしれねえだろ?その時の準備として恩を売っとこうと思っただけだが……あれじゃあねえ……アタシが夏の合宿の時に着けていたティアラの百分の一の値段だ。バーゲンセールに来たのかと驚いたぜ。使ってる石も一目で合成だってわかる代物……ここの店長の目は節穴だな。しかも合成石であのデザインであの値段?詐欺だな」
そう言ってかなめはデパートを出てしまった。
「あんなちんけなもんを飾っとくとは……東都の下町はしょせん庶民の街だ。今度、東都・銀座に行くからそん時に買おう」
誠はアメリアと顔を見あわせた。そんな誠の肩をかなめが叩いた。
「おい、神前。オメエはどうすんだ?あんなちんけな店でもオメエの給料にぴったりの安物を扱ってるぞ。指輪でも買うか?それとも……合成石の指輪ならオメエの貯金でもなんとかなる。決めちまえよ」
そう言ってかなめはにんまりと笑った。この界隈の最高級の万年筆を買ったとしてもインパクトでかなめにかなうわけが無かった。
「おい!もうすぐ昼だぞ。薫さんとカウラと東都金町駅前で待ち合わせじゃなかったか?」
そう言ってかなめは一人先に歩き出した。アメリアはそれを見ると誠の耳に口を寄せた。
「あの子、自分の買うものの値段のインパクトで誠ちゃんのプレゼントの印象を潰すつもりよ。贈り物のインパクトで押したって駄目!何かお金ではどうにかできない印象に残るようなアイディアを考えなきゃ」
アメリアの珍しく正確な助言に誠は頷くがいい考えが思いつかなかった。
「おい!早くしろよ!」
かなめは完全に仕切る気満々だった。だが誠はこのままかなめのペースに飲まれるのはまずいと思っていた。アメリアもかなめに仕切られるのは気分が悪いと言うのが明らかにわかる表情を浮かべていた。
「何急いでんのよ!まだ30分以上あるじゃないの!」
せっかちなかなめにアメリアは怒鳴り返した。彼女の持っていたおもちゃ屋の袋の萌え系美少女の絵が動いて見えた。緑色の長髪。仮想アイドルグループのマスコットの少女の人形である。そしてそのエメラルドグリーンのキャラクターの髪の色は必然的にカウラの髪の色を思い起こさせるものだった。緑色の長髪。……メロンソーダみたいな色。誠の脳裏に、カウラの髪が重なった。
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