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戦争法上のイレギュラーな存在

第149話 機械の体の警察女狙撃手(女スナイパー)の意地

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『姐御!『処刑対象』がセンサーの感度上げてきたぜ!どうすんよ』

 かなめからの音声通信が誠の機体にも届いた。

『西園寺!通信をしてくんじゃねー!貴様はスタンドアローンじゃなきゃ意味がねーんだ!そんなこともわからんから『女王様』なんだ!』

 いかにも『特殊な部隊』らしいカウラの『特殊』なツッコミが走る。

『まーしゃーねーや。どうせ死ぬのは西園寺だけだろ?いーんじゃねーの?無駄遣いばっかりの『おんな太閤』が死ねば、庶民の迷惑も半減するわけだ。甲武の闇も近藤のおっさんを潰せば軽減するからそのついでにこいつも死んだらちょうどいいじゃん』

 ランはあっさりとそう言った。

『ひでーぜ、姐御。見殺しかよ』

 相変わらず顔も見せず、レーダーにも引っかからないかなめの通信が続いていた。

『サラ!『那珂』と僚艦の動きは!』

 さすがに虐めすぎたと悟ったようにランは背後で起きた爆発の調査にあたっていた管制官のサラ・グリファン少尉に連絡を入れる。

『はっ、はい!現在、『那珂』と行動を共にしている『官派』決起派のアサルト・モジュールパイロットは近藤中佐には同調せずに出撃を拒否していたのですが……かなめちゃん『だけ』が相手になったとなると何機か出てくるんじゃないかって……隊長が言ってました』

 サラの言葉に誠は悟った。かなめは母国『甲武国』では『関白太政大臣』かもしれないが、あまり人望は無いということを。

『人たらしと言われた『豊臣秀吉』は、後半生では気まぐれで嫉妬深くて猜疑心の塊だったというからな。天下人となった後に家臣になった大名達の日記などを見ると当時は相当嫌われていたらっしいからな。偉く生まれた『だけ』の西園寺が嫌われない方がどうかしている。まあ秀吉みたいに完全な独裁体制を敷いて歴史的資料をすべて捏造する才能があれば別だが』

 カウラはあっさりそう言って、05式電子戦特化型の背中のランチャーからミサイルを射出する。

『カウラ、済まねえな、チャフを撒いてくれたか。これで近藤の旦那の兵隊の目からしばらく逃げられる』

 静かな口調のかなめの音声通信が誠にも聞こえてきた。

『アタシは結局『スナイパー』なんだよ。アタシは確実にそいつを『無力化』する。それが『スナイパー』。そしてそれがアタシ流の『女の闘い』』

 『那珂』の後方から6機の機体が誠達の待つ宙域へ進軍してきた。

『やべーな。今度出てきたのは旧式の火龍じゃねー。最新式のアサルト・モジュール『飛燕』だ』

 ランはそう言うと誠を置いて機体を進攻させた。カウラの機体もそれに続いた。

「カウラさん!その機体で最新式の『飛燕』とやりあうなんて無理ですよ!」

 誠はついそう叫んでいた。

『神前か?貴様のように普通に『人間』として生まれた男にはわからないだろうな……私は結局『ラスト・バタリオン』なんだ。かつてのナチスドイツの理想とした『戦闘の身のために作られた先兵』そのものだ。戦場以外では、私は単なる『依存症』患者。だから戦う。それでいい』

 カウラはそれまで手にしていた指向性ECMの放出装置を背中のラックに引っ掛けると、代わりにそこにあった340ミリロングレンジレールガンを構えた。

『要らねえよ、カウラの支援なんざ。おめえの狙撃は1ヒット1キルの戦いだろ?弾の無駄だ。アタシはサイボーグ。弾が届けば当たって当然。外れる生身の気が知れねえな。生身の射撃のお上手な連中とは格が違うんだよ』

 そう言った瞬間、レーダーの左端の『飛燕』のコックピットが吹き飛んだ。

 かなめは言葉を続ける。

『神前、いいこと教えてやんよ。アタシの体は『軍用義体』なんて呼ばれちゃいるが、本当に『軍』が戦争にこの手の体を持ち込むのは『違法』なんだ』

「違法?使っちゃダメなんですか?」

 誠は戦争法規についてはついていくのがやっとと言う知識しかなかった。

『そうだ。兵隊をサイボーグにしたら強い軍隊ができるが……人道的にどうか?って話だ。だから、対人地雷や毒ガスや核兵器なんかと同じで、どこの星系でも自分からサイボーグを戦線に投入することはしねえんだ。だが、それは『兵隊さん限定』のルールなんだ。アタシ等『警察官』には当てはまんねえんだな……これが』

 かなめがそう言うと先ほどのとなりの『飛燕』のコックピット付近が爆散した。

「警察官は戦争法規を無視してもいいんですか?」

 誠は軍の幹部候補生の教育は受けたが警察官の教育は受けていなかった。

『無知だな。本当におめえは。警察は治安出動で『催涙ガス』とか撒いてるだろ?あれを軍がやったら『毒ガス』認定されて大変なことになるんだよ!他にも軍は使っちゃだめだが警察ならOKな武器がいっぱいあるんだ……遊んでやるよ……『家畜ちゃん』』

 再びかなめの言葉に冷酷な響きが帯びているのを感じて誠は冷や汗をかいた。
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