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やりすぎた『手洗い歓迎』にあきれる『駄目人間』と『盗聴』

第40話 完落ちした『落ちこぼれ』

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「神前……こんだけいじめて……母ちゃんにでも連絡すりゃあすぐ逃げられるのに。そこは俺でも潰しようがないよ、なんで考え付かないのかな?……そのくらい大学の就職課で教えるだろ。いい大学なんだから、アイツの大学」

 そこまで言うと嵯峨はランを見据えてにんまりと勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

「しかし……『中佐殿』、よくやった。あれだけいじめて出ていかねえってことは、神前は落ちた。完堕ちだ。アイツには逃げるつもりはねえな。大したもんだ。さすが『あのお方』の息子だ。これで俺の勝ち。まず1勝」

 そう言って嵯峨は顔を上げる。この部屋の音声を聞いている者に、わざと聞かせているような回りくどい言葉だった。

 言い終わると、嵯峨は再び死んだような視線をランに目を向けて不敵に笑う。

「そう、これが俺流の戦い。『廃帝』との戦いに必要な手駒はこうしてそろえる。これ、俺の特許」

 嵯峨の前のモニターにランの率いる実働部隊・機動部隊の執務室の監視カメラの映像が映っていた。

 そこには取って付けた事務机に座っている誠の姿があった。すでに実働部隊の制服に着替えた『胃弱のスペシャリスト』と言う二つ名を獲得した青年は、黙って座っていた。

 机の上には内線の子機だけがあり、その隣でエメラルドグリーンのポニーテールのカウラが誠に内線の使い方を教えていた。

「これで……『回収・補給』向けのパイロットがそろったか。神前は『法術師』としての伸びしろがある、もしかしてアタシ等を超えるかな?」

 ランはそう言って笑顔を浮かべて嵯峨を見つめた。

「そうかもね」

 『駄目人間』はランの言葉にあいまいに返事をした。彼女の意向と関係なく勝手なことをする嵯峨を見て、ランはため息をついた。

 しかし、ランは急に『日本刀』のつかに右手を添えて、殺気を放った。

 いつでも『殺人機能付き文化財』を抜き放てる構えのランを見ながら、嵯峨は机の上の『エロ記事』が売りの週刊誌に視線を投げたままで黙り込んだ。

「さすが『中佐殿』……当たり……盗聴器だよ。当然、あるわな……普通の役所の建物だもん。ここは……」

 そう言うと嵯峨はランに視線を向ける。顔は満足げに笑っている。

「趣味がわりーぜ。『皇帝陛下』」

 ランは多少聞こえよがしにそう言った。嵯峨は静かにうなづく。

「興味あるなら聞けば?俺は全部、その『裏』をかく。こっちの考えは分かんねえだろ?あんた等。肝心の神前の『秘密』は俺以外、知らねえーよ。バーカ」

 『駄目人間』の『脳ピンク』が満足げに笑った。手には再びタバコがある。

「俺もそいつがどこまで重要な『秘密』かは知らねえんだ。でも、察しはつく、俺の頭には『脳味噌』が詰まってるから」

「その『秘密』を共有しているアタシはどうなんだ?」

 タバコをふかす嵯峨にランはそう言った。

「お前さんの頭にも『脳味噌』が詰まってるよ。『不殺不傷ふさつふしょう』の誓いは『脳味噌』のある人間にしか立てられねえから……」

 嵯峨はそう言ってにやりと笑って見せた。
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