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『特殊な部隊』の『特殊』な宴会

第171話 艦長の自爆と犯人達

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「クラウゼ大尉。よろしいですか?」 

 いつもの二十歳に満たないような感じの技術部員が日本酒の瓶を持ってアメリアに話しかける。

「なあに?お姉さんに質問か何か?」 

 上機嫌でアメリアが答える。若手技術部員とかなめと島田がアイコンタクトをしている事実に気づいて、誠は何が企まれているか分かった。

「今回も見事な操艦ですね。背後を取られても全く動じない。司法局実働部隊の誇りですよ」 

「褒めたって何にもでないわよ。第一、ここに作戦目的を達成した本人がいるのに」 

 誠を指さしたアメリアは空いたコップを若手技術部員に突き出した。

 若手技術部員はランが選んだらしい高そうな日本酒を注ぐ。

「そんなに飲めないわよ!」 

 そうアメリアが言うのを聞きながらも、わざとらしくコップに8分ほど日本酒を注いだ。

「おい、何してんだ?」 

 わざとらしく島田が近づいてくる。上官である彼に若手技術部員が直立不動の姿勢で敬礼する。

「なるほど、上司にお酌とは気が利いてるじゃないか。じゃあ一本行きますか!総員注目!」

 島田が大声を上げる 彼の部下である技術部整備班員が大多数を占める宴会場が一気に盛り上がる。

「なんとここで、今回の功労者クラウゼ少佐殿が一気を披露したいと仰っておられる!手拍子にて、この場を盛り上げるべく見届けるのが隊の伝統である!では!」 

 アメリアが目を点にして島田を見つめる。してやったりと言うように島田が笑っている。さらにアメリアはサラ、パーラ、そしてかなめを見渡す。

『はめられた』 

 ここで初めてアメリアは自分の陥った窮地を理解したような表情を見せた。全員の視線がアメリアに注ぐ。引けないことに気づいたアメリアが自棄になって叫ぶ。

「運用部長!アメリア・クラウゼ!日本酒一気!行きます!」 

 どっと沸くギャラリー。島田の口三味線に合わせてアメリアは一気に日本酒を腹に流し込む。

「おい!今回はオメエがんばったよ。アタシからの礼だ。受け取れ」 

 そう言うと今度はかなめがアメリアの空けたばかりのコップに、若手技術部員から奪い取った日本酒を注いだ。もう流れに任せるしかない。そう観念したように注がれていくコップの中の日本酒をアメリアは呪いながら眺めていた。

「オメー等!クラウゼを殺す気か!」

  最初は和やかな雰囲気だと見過ごしていたランも、かなめ達のたくらみに気づいてそう叫んだ。

 島田、かなめ、サラ、パーラはさすがに身の危険を感じたのか人影にまぎれて逃げ出した。

「大丈夫ですか、アメリアさん」 

 180㎝を超える長身が売りのアメリアもさすがにふらついていたので、誠が声をかけた。

「だいじょうふ、だいじょうぶなのら!」 

「大丈夫って……そうは見えないんですけど」

 誠はついそうつぶやいていた。今度は本物の酔っ払いである。いつもなら白いはずの肌が真っ赤に染まっている。呂律の回らなさは、典型的な酔っ払いのそれと思えた。

「まことたん!まことたんね。あたしはね!」 

 アメリアはネクタイを緩めた。

「苦しいんですか?」 

「ちがうのら!ぬぐのら!」 

「いきなり脱ぐんですか!」

 驚きのあまり誠は叫んでいた。ネクタイを投げ飛ばしさらに襟のボタンまで取ろうとしているので、思わず誠は手を出して止めた。

「知らねえよ……俺は」

 各鍋を回って〆のうどんを肴に焼酎を飲んでいた嵯峨がこの光景を見てひとりごとを言った。

 そんな中、修羅の形相のランは人垣に隠れようとした島田を見つけて、周りの整備員に合図を送った。

 隊の尊敬を唯一集めている幼女の威光には勝てず、島田はあっという間に取り押さえられた。続いてサラ、パーラが捕まって引き出されてくる。三人を見て事態を悟った実行犯の若手技術部員だが、これも瞬時に捕まりランの前に突き出された。

 悪知恵の働きそうなかなめはすでに姿を消していたようで、技術部員や運航部の女子も彼女の捜索のためにハンガーを出て行った。

「西園寺の馬鹿は後で『処刑』すっか」 

 あっさりそう言うとランは引き立てられてきた四人を見下ろして、誠がこれまで見た事が無いような恐ろしい表情を浮かべていた。

「よっぱらったのら!」 

 アメリアが手足をばたばたさせて叫ぶ。ランはいつも手に持っている『日本刀』ではなく竹刀を技術部員から受け取って、アメリアのほうを向いた。

「オメーはしゃべんな。それ以上酔っぱらったら面倒だから」 

「そうれはかないのれす!わらしは酒のちかられ!」 

 そう言うとアメリアは誠に抱きついてきた。

「なにすんだこの馬鹿は!」 

 天井からかなめが降ってきて、アメリアを誠から振り解こうとする。しかし、運悪くそこにランの振り下ろした竹刀があった。

「痛てえ!姐御、酷いじゃねえか!」 

「主犯が何言ってんだ!隊長。こいつ等どうします?」 

 ランは冷酷にかなめに竹刀を突きつけて、後ろで騒動を眺めていた嵯峨に尋ねた。

「俺に聞くなよ。まあ一週間便所掃除でいいんじゃないの?」 

 うどんを食べつくした嵯峨はそう言うと何時ものようにタバコを吸い始めていた。

「じゃあそう言う訳で。誠はアメリアを送って……」 

「姐御!そんなことしたらアタシの『ペット』がどうなるか!」 

 かなめが叫んだのはアメリアが誠に抱きつくどころか手足を絡めて、そのまま押し倒そうとしていたのを見つけたからだ。

「サラ、パーラ。オメー等はクラウゼの監視を頼むわ。便所掃除は免除してやっから」 

 サラとパーラは技術部員から解放されてほっと一息ついていた。

 ランのめんどくさそうな叫びで宴は終わった。誠は二人の手でアメリアから引き剥がされてようやく一息ついた。

「大変だったねえ」 

 嵯峨がどこから持ってきたのかわからないサイダーを誠に渡してきた。

「まあ、そうですかね」 

 技術部員の痛い視線を浴びながら、誠は大きく肩で息をした。

「まあ、こんなもんだよ。うちは」 

 誠の肩を叩いた後、嵯峨は去っていく。

 誠はいかに自分が『特殊』な環境に根付いてしまったのかを考えながらサイダーを一気に飲み干そうとしてむせた。
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