遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』の夏休み

橋本 直

文字の大きさ
51 / 76
第十八話 『特殊な部隊』の革命

第51話 かなめ、カウラ、アメリア、侵略す

しおりを挟む
「たぶん島田がまだいるだろうから挨拶して行くか?菰田は……たぶん白石さんに絞られてるからそれどころじゃないだろうな」 

 帰り支度をするとカウラはそう言って誠達をハンガーへ誘った。

「そうだな。一応、奴が寮長だからな。それにヤンキーは礼儀とかにうるせえんだ。アタシ等上官だぜ?でも、寮じゃアイツは寮長だ。顔を立てとかないと後で面倒だ」 

 心配する誠を置いてかなめ達は歩き出す。頭を抱えながら誠はその後に続いた。

 管理部ではまだパートリーダーの白石さんの菰田への説教が続いていた。飛び火を恐れて皆で静かに階段を降りてハンガーに向かった。

 話題の人、島田准尉は当番の整備員達を並ばせて説教をしているところだった。

「おう、島田。サラはどうしたんだ。どうせオメエのバイクでサラのアパートまで送るんだろ」 

 かなめの突然の声に島田は驚いたように振り向いた。

「やめてくださいよ、西園寺さん。俺は隊では『硬派』で売ってるんですよ。いきなりサラの話はしないでくださいよ。俺にも面子ってもんがあるんですから」 

 そう言って頭を掻く。整列されていた島田の部下達の顔にうっすらと笑みが浮かんでいるのが見える。島田は苦々しげに彼らに向き直った。もうすでに島田には威厳のかけらも無い。

「とりあえず報告は常に手短にな!それじゃあ解散!」 

 部隊で留守番をしていた整備員達は敬礼しながら、一階奥にある宿直室に走っていく。

「サラ達なら帰りましたよ、パーラさんの四駆に同乗して。もしかすると月島屋で飲んでるかも知れませんが……ああ、あそこは今日は休みでしたね。さすがの小夏もあんだけはしゃぎまわったら疲れるだろうし、お世話になった女将さんも早く寝かしてあげたいし」 

 そう言って足元の荷物を取ろうとした島田にアメリアが走り寄って手を握り締めた。

「島田君ね。良いニュースがあるのよ。きっと島田君が喜んでくれるような話」 

 アメリアの良いニュースが島田にとって良いニュースであったことは、誠が知る限りほとんど無い。いつものように面倒を押し付けられると思った島田が苦い顔をしながらアメリアを見つめている。

「ああ、アタシ等オメエのところに世話になることになったから」 

「よろしく頼む」 

 島田はまずかなめの顔を見た。何度と無くだまされたことがあるのだろう。島田は表情を変えない。次に島田はカウラの顔を見た。カウラは必要なことしか言わないことは島田も知っている。そこで表情が変わり、目を輝かせて島田を見ているアメリアを見た。

「それって寮に来るってことですか?」 

「そうに決まってるじゃない!他にどういう意味があると思ってるの?」 

 アメリアの叫びを聞くと島田はもう一度かなめを見る。その視線がきつくなっているのを感じてすぐにカウラに目を移す。

「よろしく……頼む」 

 照れながらカウラが頭を下げる。

「ちょっと、どういうことですか……」

 島田は一瞬で脈拍が跳ね上がるのを感じた。目の前にいるのは憧れと恐怖が半々の三人娘。頭では『冷静に対処せねば』と考えるが、口元がひくついているのを止められない。

「ま、まあ、寮長として歓迎しますよ。うん、歓迎だ……」

 島田はしばらく呆然と立ち尽くした後、そのままものすごい形相で誠に向って歩み寄った。

「おい、神前。説明しろ」 

「それは……その……なんと言うか……」

 とても考えが及ばない事態に喜べばいいのか悲しめばいいのかわからず慌てている島田に誠はどういう言葉をかけるべきか迷っていた。 

「あのね島田君。私達は今度、誠ちゃんと結婚することにしたの!それでその新居として私が誠ちゃんの部屋に住むことになったの。一つのハーレムね。まあ、誠ちゃんの生まれからしたらハーレムの一つや二つ持ってても……ってそれは言うなって隊長に言われてたんだっけ」 

 アメリアの軽口に島田はぽかんと口を開ける。

「ふざけんな!この爆弾女!」 

 かなめのチョップがアメリアを打つ。痛みに頭を抱えてアメリアはしゃがみこんだ。

「冗談に決まってるじゃないの……全くちょっとしたお茶目をすぐに暴力で解決しようとして……嫌われるわよ。でも、ちょっとは嬉しいのよ?誠ちゃんと同じ寮に入れるって。それを茶化さなきゃ、私、照れて死んじゃうもの」 

 頭をさすりながらアメリアはそう言った。かなめのチョップは本気に近かったのだろう、アメリアの目からは涙が流れていた。

「貴様ではだめだ。神前!説明しろ」 

 そう言うカウラの顔を見てアメリアは仕方なく引き下がった。 

「あのですね、島田先輩。三人は僕の護衛のために寮に引っ越してきてくれるんですよ……今日、僕が『廃帝』の手先に襲われたじゃないですか。そのせいで……」 

 島田は全員の顔を見た。そして首をひねる。もう一度全員の顔を見回した後、ようやく口を開いた。

「隊長の許可は?」 

「叔父貴はOKだと」 

 かなめの言葉を反芻するようにうなずいた島田がまた全員の顔を眺める。

「まだわからねえのか?」 

「つまり、三人が寮に入るってことですよね?」 

「さっきからそう言っているだろ!」 

 さすがに同じことを繰り返している島田にカウラが切れた。そこでようやく島田も状況を理解したようだった。

「でも、まとまって空いてるのは二階の西日が強い西側だけだったと思いますよ。良いんすか?」 

 携帯端末を取り出し、その画面を見つめながら島田が確認する。

「神前の安全のためだ、仕方ねえだろ?」 

 かなめがそう言ってうつむいた。

『こっちは護衛という名目で、だが……アイツの近くにいたいって、少しだけ思ってるのかもな……アタシみたいなのがアイツの傍に……何考えてんだ!アタシは!』

 かなめの脳裏にそんな言葉があふれていた。

「何よ、照れてるの?」 

 いつもと違う煮え切らない態度のかなめをアメリアが冷やかした。

「アメリア、グーでぶたれたいか?」 

 かなめは向き直ってアメリアにこぶしを見せる。

「キャー、怖い。助けて!誠ちゃん!」

 そう言うとアメリアは誠の陰に隠れた。

「本当に……前途多難すぎる」

 一人、冷静なカウラはそう言って急展開にいつもと違う反応をしている誠達に呆れたように静かにため息をついた。

 その有様を見つめながら島田は手にした通信端末でメールを打ち始める。

「明日は掃除で、次の日に荷物搬入ってな日程で良いですよね?」 

 決断力だけが島田の取柄だった。島田は次々と整備班のメンバーにメールを送り、明日の掃除の段取りの指示を始めた。

「別に引っ越す際の身の回りの荷物の少ない私は良いがアメリアが……」 

 カウラはそう言うとかなめにヘッドロックされているアメリアを見る。

「無理よ!荷物だって結構あるんだから」 

 本気でないかなめのヘッドロックに苦しいふりをしながら、アメリアはそう言った。誠も趣味人であるアメリアの部屋には相当のアニメグッズやお笑い関係の小道具が蓄えられていることを知っていたので、彼女の引っ越しが一日で終わるものでは無いことは容易に想像できた。

「あのなあ、お前のコレクション全部運べってわけじゃねえんだよ。とりあえず生活必需品だけ持ち込んで、後のコレクションはトランクルームでも借りてそこで管理しろ。言っとくけどそのトランクルームを借りる費用はオメエのポケットマネーから出せよ。オメエの趣味と任務は関係ねえ」 

 そう言って脇に挟んだアメリアの頭をかなめはねじり続ける。

「最後の送信っと。段取り済みましたよ。明日の掃除の手伝いの人員は確保できました」 

 島田は二人の様子を確認しながら携帯電話の画面を見つめていた。かなめは島田の手元を目で確認すると、ようやくアメリアを解放した。

「西園寺さん……アメリアさん……しかもカウラさんまで……これは、戦争いくさになるぞ……これは……戦争になるぞ……クバルカ中佐じゃないが三国志の始まりだ……誠、お前が蜀なら、あっちは魏と呉だ……」

 島田は携帯電話の画面から目を離してハンガーの天井を見上げた。

「じゃあ、アタシ等帰るわ」 

 かなめはそう言うと誠の手をつかんだ。誠は昨日はかなめに強引にカウラの運転する『スカイラインGTR』に乗せられてきたので、いつものように自分の原付で自力で帰ることができなかった。

「カウラ、車を回せ!もう遅いんだ、アタシは早く寝たい」 

 相変わらずかなめは自分の都合だけでカウラをこき使うつもりだった。

「全く我儘な奴だ。わかった、少し待ってろ」 

 カウラはかなめのそんな性格を知り尽くしているので、半分諦め気味にそう言うとそのまま駐車場に向けて歩き出した。

「じゃあ私はジュース買ってくるわ。私も今日は車置いてきてるし。私もカウラちゃんの車に便乗するわね」 

 アメリアも一応、中佐と言う階級にふさわしいような結構高い車を持っているのだが、運転するのがめんどくさいということで、大概はカウラに送り迎えをしてもらっていた。

「カウラはメロンソーダだぞ!」

 カウラはなぜか食べ物や飲み物に彼女の髪の色と同じエメラルドグリーンの色がついていると喜ぶ性質があった。 

「知ってるわよ!」 

 誠はこうなったら何を言っても無駄だとあきらめることをこの一月で学んでいた。誠は得意満面の笑顔で大股で歩くかなめの後ろを照れながら歩くことにした。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...