遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』の夏休み

橋本 直

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第十八話 『特殊な部隊』の革命

第53話 バレバレの尾行と壊れた会話劇

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 ふざけていたかなめの顔から、一瞬で笑みが消えた。目だけが鋭く光る。

「おい、カウラ……気づいてるな」 

 カウラの右手が、ほんの僅かにハンドルを締めた。
 
「わかっている。後ろのセダン。明らかにこの車を付けている。どこの馬鹿だ。こんなにあからさまな尾行なんて素人でもしないぞ」 

 信号につかまって、カウラの『スカイラインGTR』は止まった。誠が振り向けばその運転席と助手席にサングラスをした男の姿が映っていた。

「どこかしらね……噂の遼帝国だったりして。あそこは自動車の普及率がゼロに近いから車に慣れていないんでしょ?しかし、昼間来たと思ったら夜もまた来る……誠ちゃんは人気者ね」 

 アメリアは小突かれた頭をさすっている。

「捲くか?」 

 信号が変わろうとする瞬間カウラはそう言ってアクセルに足をかけた。

「いや、その必要はねえだろうな。どうせあちらさんもこっちの行き先はご存知だろうからな。アメリアはこれを使え」 

 そう言うとかなめは自分のバッグからコンパクトなサブマシンガンを取り出した。

「あきれた。海には似合わない重すぎる荷物を持ち歩いてると思ったら……こんなの持ち歩いてたわけ?」 

 アメリアは受け取ったサブマシンガンにマガジンを差込んで眺めている。

「PP91ケダールサブマシンガン。21世紀初頭にロシアの警察が使っていた特殊部隊専用のサブマシンガンだ。コンパクトだからとりあえず持ち歩くには結構便利なんだぜ」 

 銃を持ち歩くのが日常のかなめは笑顔でアメリアにそう言った。

「私はこう言うのは持ち歩かないの。街中で銃を振り回すのはかなめちゃんだけで十分。でもこれは警察用よね。でも可愛い顔して割と火力あるのよこれ、かなめちゃんも良い趣味してるじゃないの」 

 そう言いながらもアメリアはボルトを引いて初弾を装填する。

「神前、ダッシュボードを開けてくれ」 

 運転中のカウラの指示に従って、ダッシュボードに入っているカウラの愛用のM1911を取り出した。

「西園寺、どこで仕掛けるつもりだ」

 付けてくる後ろのセダンがふらついて運転しているところから見て、誠から見ても地の利はこちらにあるのは間違いなかった。カウラはかなめにそう言って付けてくる未確認勢力への反撃場所をかなめが指定するのを待った。 

「人気のない場所が良いな。よし、豊川北高の裏路地にしよう。次のコンビニのある交差点を左だ。ウィンカーは直前で出せよ。捲こうとする振りだけしとけ。こっちの思ったところまできっちりついてきてもらう」 

 かなめはそう言いながら、昼間弾を撃ちきった愛銃スプリングフィールドXDM40のマガジンに一発、また一発とS&W40ホローポイント弾を装填している。

 カウラは急にウィンカーを出し、すばやくハンドルを切る。後ろのセダンは振り切られまいと、タイヤで悲鳴を上げながらそれに続く。誠の胸が高鳴る。『スカイラインGTR』の速度は住宅地のそれとは思えない。視界の端に、振り返りきれず焦るセダンのライトがちらついた。

 細い建売住宅の並ぶ小道。カウラはこの道には似合わない速度で車を走らせる。後ろのセダンは振り切られまいと速度を上げるが、カウラはすばやくさらに細い小道に入り込む。

 一瞬、タイミングをずらされてセダンは行き過ぎた。その間にもカウラの『スカイラインGTR』はくねり始めた時に畑の匂いのする裏道を爆走する。

「確かに豊川北高校の裏は人気が無くて敵を待ち受けるには最適ですけど……出来れば穏便にしてくださいね」 

 自分がターゲットにされているかもしれないにもかかわらず誠は騒ぎを大きくしたくなかった。しかし、三人はそれぞれ手にした銃を眺めながら、まるでこれから起きることがわかっているかのように正面を見つめていた。

 県立豊川北高校が見える路地でカウラは車を止めた。そして誠はカウラのハンドサインで車を降りて、いかにも楽しそうなかなめ達に連れられて藪に身を潜めた。

「さあて。どんな馬鹿が顔を出すか……こりゃあ楽しみだ」

 銃を抜いた時のかなめの表情はいつもにも増して生き生きとしていた。

 誠はその銃が使用されないことを祈りながら藪の中に身を潜めた。

 遅れてたどり着いたサングラスの二人の男は車停めると素早く降りたった。彼等の追っていた『スカイラインGTR』には人の気配が無い。

「とりあえず確認だ。まだ遠くへは行っていないはずだ。すぐに見つけろ」 

 助手席から降りた男は、そう言うとそのまま車のシートを確認するべく駆け寄った。エンジンは切られてすぐらしく、熱気を帯びた風が頬を撫でる。二人は辺りを見渡す。明かりの消えた高校の裏門、ムッとするコンクリートの焼ける匂いが二人を包んでいた。

 とりあえず確認を終えた二人が車に戻ろうとした時だった。

「動くな」 

 カウラの声に振り向こうとする助手席の男の背中に硬いものが当たる。相棒はかなめに手を取られてもがいている。

「そのまま手を車につけろ」 

 指示されるままに男はスポーツカーに手をつく。

「おい、どこのお使いだ?車での尾行はあまり慣れてないってことは車のあまり普及してない国の軍だな。ベルルカンの失敗国家のどこかだろ?貴重な法術師をあんな『修羅の国』に放り出す訳にはいかねえんだ」 

 かなめに右腕をねじり上げられた運転手が悲鳴を上げる。

「かなめちゃんさあ。二、三発、腿にでも撃ち込んであげれば?そしたらきっとべらべらしゃべりだすんじゃないの?」
 
 サブマシンガンを肩に乗せたアメリアが、体格に似合わず気の弱そうな表情を浮かべる誠を連れてきた。

「それより神前。せっかく叔父貴からダンビラ受け取ったんだ。試し斬りってのもおつじゃないのか?」

 かなめが物騒なことを言い出すので、誠は抜こうとした『賊将のつるぎ』を後ろに隠した。

「嫌ですよそんなの。もうこの人達抵抗する意思ないみたいじゃないですか。いじめですよこんなの」

 戦いに向いていない。誠は自分でもそう思っていた。
 
「わかった、話す!」 

 スポーツカーに両手をついていた男がかなめの言葉に驚いたように、背中に銃を突きつける緑のポニーテールのカウラに言った。バキッという音がして、男の肩がずれたのが誠にも分かった。もう抵抗は無理だった。男はここに来てかなめのサイボーグの怪力でねじり上げの痛みから口を滑らせた。

「我々は甲武国海軍情報部のものだ!」

 サングラスの男はあっさりと自分の身元を話した。 

「嘘もいい加減にしろよ……なんで海軍なんだよ。アタシ絡みなら陸軍だろ?いい加減なこと言うと本当に射殺するぞ」

 かなめは残忍な笑みを浮かべてサングラスの男を締め上げた。

「本当です!藤太姫!陸軍は『官派』の勢力が強いので護衛の派遣に慎重なんです!それに司法局と直接連絡を取るわけにもいかなかったので……裏口を使いました!信じてください!」

 かなめのサイボーグの怪力のもたらす痛みに耐えながら男はそう口にした。

「甲武海軍ねえ、確かに甲武は自動車の普及率は東和と比べるとそれはもう恥ずかしくなる程度だから仕方ねえか。しかし、情報部に身を置くにしちゃあずいぶんまずい尾行だな。もう少しましな嘘をつけよ」 

 かなめはさらに男の右腕をさらに強くねじり上げる。男は左手でもれそうになる悲鳴を押さえ込んでいる。

「本当だ!何なら大使館に確認してもらってもかまわない。我々は敵ではない!護衛なんだ!」 

 両手をついている男が、相棒に視線を移す。

「それならなおのこともっと上手くやんな。護衛する相手に気づかれるようじゃ転職を考えた方がいいぜ」 

 そう言うとかなめは右腕をねじり上げていた男を突き放す。カウラは銃を収め、不服そうに眺めているアメリアを見た。

「上は親父か?」 

 かなめは父親の自分にちょっかいを出してくるところが嫌いだといつも公言していた。

「いえ、海軍大臣の指示です、藤太姫様。神前誠曹長の安全を確保せよとの指示をうけて……」 

 安心したようにかなめはタバコに火をともす。

「紛らわしいことすんじゃねえよ。そう言うことするならアタシに一声かけろっつうの!」 

「かなめちゃんなら怒鳴りつけて断るんじゃないの?」 

 アメリアはサブマシンガンのマガジンを抜いて、薬室の中の残弾を取り出す。

「そんなことねえよ……アタシだって不安になる時あるし」 

 小声でつぶやいたかなめの言葉にカウラとアメリアは思わず目を合わせた。

「まあこの程度の腕の護衛なら私だって断るわねえ」 

 アメリアは取り出したサブマシンガンの弾をマガジンに差し込む。

「それじゃあもうちょっと揉んでやろうか?」 

 こぶしを握り締めるかなめを見て、後ろに引く二人。

「それくらいにしておけ。しかし、この程度では確かに護衛にはならんな」 

「そうよねえ。第三艦隊第一教導連隊の連隊長くらい強くなくちゃあ……」 

 軽口を叩くアメリアをかなめがにらみつけた。

「つまり、かえでを連れて来いってことか?冗談が過ぎるぜ」 

 かなめはタバコに手を伸ばす。

「わかってるじゃない!いとしの妹君にお姫様だっこしてもらってー……」

 またアメリアの妄想が始まる。呆れ果てたようにかなめの目が死んでいる。 

「アメリア、灰皿がいるんだ。ちょっと手を貸せ!」 

 かなめはタバコに火をつけるとそのままアメリアの右手を引っ張って押し付けようとする。

「冗談だって!冗談!」 

 かなめの剣幕に笑いながらアメリアは逃げようとする。

「冗談になってないなそれは」 

「カウラ良いこと言うじゃねえか!そうだ、何だってあの……」 

 あきれている二人の男達に見守られながらカウラの顔を見るかなめだったが、そのまじめそうな表情に思わず肩を押さえていたアメリアに逃げられる。

「それにかえでさんのうちへの配属は時間の問題みたいだからね」 

 アメリアは笑っている。

「かえでの奴が……こっちに?……マジかよ……最悪だよ……」 

 アメリアの言葉にかなめはくわえていたタバコを落とした。誠は、妹という存在に強い感情を見せるかなめの横顔を盗み見た。

「うれしそうだな、オメエ。アタシが最悪の気分だって言うのに……そんな面と胸ばっかり自慢の変態女に会うのがそんなにうれしいか?」

 かなめは笑顔のアメリアに向けて威嚇するような視線を送りつつそう言った。 

「別に……、それじゃあ君達は帰ってもいいわよ。護衛の任務は私達が引き継ぐから」 

 かなめ達の会話にあきれていた海軍士官達は、アメリアの声を聞いてようやく解放されたとでも言うようにすごすごと車に乗り込むと路地から出て行った。

「それじゃあ行きましょう!」 

「ちゃんと話せ!ごまかすんじゃねえ!」 

 かなめの叫び声を無視してカウラとアメリアは車に乗り込む。仕方なくその後ろに誠は続いた。

『……撃ち合いにはならなくて本当に良かった』
 
 誠の安堵の吐息とともに、四人の『日常』が戻ってきた。


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